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色織  作者: 千坂尚美
四章
74/144

感謝

おはなし4-18(74)  



 その日の夜。ギャラリー丸央にどれだけの人が集まったかというと…。

「うっわー、すっごい人ね。」

結愛さん家の二階から眺めると、ギャラリーからゆうにあふれた人たちが何百人と集まっていた。ギャラリーの中からオウナさんのスピーカー音がひびく。

「えー、お集まりいただいた皆さん、ギャラリー丸央のオーナー兼ブドウ党立候補者として、えー我々ブドウ党の公約を今一度、演説させていただきます。」

すると、

「何だそれー!」

「絵見に来たんだぞー!」

「結愛ちゃん出せー!」

ブーブーとブーイングが飛び交う。

「やっば、僕達も行こう。」

「うん。」

急いで下へ降りていく。

「みなさーん、そう言わずに聞いて言って下さーい!」

帰ろうとする人々を僕らが必死になって止める。

「お、お願いしまーす、帰らないでー。」

結愛さんもお願いする。すると、

「おい、あれ作者さんじゃねーか。」

ざわざわと結愛さんに気付き始める町民。今がチャンスとたたみかける。

「オウナさんの演説の後には結愛さんのあいさつもありますのでー!」

「おうまじか。」

「おお、いいじゃん。」

「それは聞きたい!」

帰る足を止める民衆。横から結愛さんが僕のことを引っぱる。

「ちょ、ツムグくん、私あいさつなんて…。」

「大丈夫、適当でいいから。」

「でも…。」

すると、

「結愛さん握手してください!」

「俺も!」

「私も!」

「えっ、えっ、えっ!?」

結愛さんに群がってくる人々。なんだ、本当に人気者なんだ、結愛さん。結愛さんの握手会と並行してオウナさんの熱い熱い平和へのトークがなされた。皆最初はどうでも良さそうに聞いていたが、オウナさんの熱意にだんだんと真剣に聞いてくれる人が出て来て、演説が終わると皆からの大きな拍手が送られその反響にオウナさんはぽかんとして面食らった顔だ。さてさて演説の後には結愛さんの番だ。ギャラリー内の彼女の新作の横に立つ結愛さん。皆は彼女を半円状に取り囲む。マイクを持って緊張気味の灰髪美女。

「えと、この作品は、この町の風景を描いたタブローの26作目で…最近、私に、とてもおもしろい友達が出来ました。その友達と過ごした時間、そういう楽しい気持ちをモチーフに込めて描きました。この作品がこういうカタチで完成できたのも、今日のこのパーティーを開いてくれたのも、その友達たちのおかげです。…この場をお借りして言わせてもらいます。みんな、本当にありがとう!!」

深々とお辞儀をする黒いポンチョ姿の結愛さん。パチパチパチと町民たちみんなから大きな拍手が送られる。

まさか、このあいさつでそんなことを言われるなんて。予想もしていなかった僕らは、頭の後ろを掻いたりして照れの仕草。その後、僕らは皆をゆっくりと誘導して、皆さんに順番に彼女の絵を見てもらった。

「いやー、結愛ちゃんよかったわ。また見に来るからね。」

おばちゃんたちに囲まれる結愛さん。

「あ、ありがとうございます。」

帰っていく人々は皆、「よかったねー。」「うん。」「感動したわー。」「なかなかよかった。」等と高評価を述べている。

時間は夜の十一時近く。最後のお客さんが数人残っているだけとなった。

「結愛さん、人気者でびっくりした。」

僕は彼女の元へ歩いていく。

「うんう、こんなの初めてで…自分でも自分じゃないみたい。」

「いいなー。僕もあんな人気なマヨセンになりたいなー。」

ぼやくと結愛さんはふふっと笑って、それから少し眉をよせる。

「ん?」

「うんう、ツムグくんは今のままで十分…。」

「え、」

「泊まるところが無くて、私の家に居候してるツムグくんが好きかな。」

「え、何それ。」

またふふッと笑って酒を飲んでいるオウナさんの方へ行ってしまう。

………、あれ?いま彼女、好きって言った?…今さっき好きって言ったよね!!?

果たしてそれがlikeなのかloveなのか、結局その日は聞けなかった。



 緑森宮。

 一羽の鳩が幹部塔へと入っていく。部屋へ入った鳩は、手紙の届け先の元へと飛んでいきとまる。

 彼女は鳩の足についている手紙をほどいて広げる。手紙には紫の国で結愛という女性の元にお世話になっていること、紫の国の選挙に参加して苦戦していることが書かれていた。

 さやなは机から新しい紙を取り出す。

「ふんふんふふ~ん…ん~、何を書こっかな~。」



 選挙当日まであと三日。街頭では選挙前最後のアンケート結果が出ていた。

 さぁ、中間からどう変わったのか…結果はこうだ。


 新三原党48%

 ブドウ党41%

 他11%


 当然ギャラリー丸央では大喜びのブドウ党。

『うおっしゃ――!みたか新三――!!!』

皆フォー!フォー!と声高々に喜ぶ。オウナがマイクをとる。

「よーしみんな、ツムグ達のアイデアで我々は大きく躍進した。が、まだ勝った訳ではない。気を抜かずに最後まで戦うぞー!」

『おお――!!!』



「てことで、週一ルールで明日は休みだったんだが、自主的に働くことにした。」

食卓を囲む僕達。サトがつけものをつまみながら言う。

「そうよ、こんないいところで休んでられない!はむっもぐもぐ。」

チャーハンをほおばる花。

「よーし、じゃあ私も新作できたし、一緒に宣伝まわろっかな。」

「え、いいの!?」

「うん。」

結愛さんがついてきてくれるのなら、ファンも多いことだし願ったりかなったりだ。

「うん、ありがとう!」

「フーフーフー、パクあつ!…ウ、ウマあつ!あっつ!」

マツボは口の中のチャーハンをはふはふと必死に冷ましている。

「よし、じゃあ明日に備えて今日はゆっくり休もう。」

「そうね。」

「ああ。」

「うん。」

「はふはふ…お、おう!」

僕らは食事の後にお風呂に入り、それぞれ別のの部屋に入って眠りについた。



 ブドウ町、端部。

「あの女がいるのはこの町で間違いないな。」

黒い影が言う。

「はい。」

「ターゲットを見つけ次第捕獲する。」

『おおー。』

夜空はぶ厚い雲に覆われてて…。



 僕らは僕と花と結愛さん、マツボとサトの二手に分かれて宣伝を開始する。ぶらぶらと路地を歩いてオウナさんを売り込む。途中、公園のベンチで持ってきたお弁当を…といってもおにぎりだが、ひろげて食べる。すると、路地の方で動物の毛皮を着た男二人組がじっとこちらを見つめてくる。

―気持ち悪いな。

そう思っていると、

「見つけた!あいつだ!」

男の一人が叫び二人はこちらへ猛ダッシュ。ただならぬ勢いに身の危険を感じ僕らはとっさにカラーを体にまとわせる。突っ込んできた二人を白手と銀杏の木で吹っ飛ばしノックダウンさせる。すっかりのびてしまった二人。

「何だったんだ、こいつら。」

「分かんない。でも、とりあえずシューティングスターズ(この町のマヨセン)…(照)に報告しに行く?」

「うん、そうだね。」

結愛さんは僕らのカラーを久しぶりに見て「はぁー。」と口を開けたままだ。…いや、でも確かに僕らの使ってるこれって、一般の人から見たらかなり激しいよね(汗)。

「結愛さん、シューティングスターズ(笑)のとこに案内してよ。」

「う、うん分かった。」

僕らはこの町のマヨセンの本部へと向かった。



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