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色織  作者: 千坂尚美
四章
73/144

個展

おはなし4-17(73)  


 翌日、僕らはいつにもまして大きな声でブドウ党の宣伝をして回った。道行く人々に握手を求められる僕達。

―おっ、いい感じじゃ____!

眼前を見ると、僕らの倍以上の民衆に群がられる紫マントの一味が。その中央にいるのはツヤッツヤのオールバックのうっとおしいスマイル…ガツだ。奴はこっちをチラッと見てキラン☆っとウインクを送ってくる。

―く、くそぅ~!!!

また別の日、宣伝の途中。ご老人が財布を落とされたのに気付き、僕がそれを拾う。

「おばあさん、落としましたよ。」

「アラありがとう。」

よし、これでブドウ党の好感度UP___…!

眼前には腰にぶら下げていたさびた斧を落とされる老人が。すると、

「やぁおじいさま、おのを落とされましたよ。」

どこからともなく現れたガツは、どこからともなく銀の斧を取り出す。老人は困った様子で、

「アレ…こんなんじゃったかな?」

「おや、違われましたか。では、こちらの斧ですか?」

すっと銀の斧を下げ、またどこからともなく金の斧を取り出して差し出す。

―おい、さすがに気付くだろ、じいさん。

また老人は困った様子で、

「アレ…こんなんじゃったかの?」

「おや、違われましたか。」

するとガツはさらに新たな斧を差し出す。

「ではこの超合金チタニウム加工三百六十度刃回転式特許斧ではありませんか?」

―な…に…。

そして、

「おお、これじゃったわい、ありがとうの。」

「いえ、新三原党をよろしくお願いします。」

「ホッホッホッ。」

―……。



「ったぁーダメだ、完敗だよぅ。」

机の上につっぷする僕。ギャラリー丸央まるおうで今日の反省会中だ。

「あのムカつくウインクヤロー調子乗りやがって。」

「まぁ向こうはこの町では人気のマヨセンみたいだし、仕方ないっちゃ仕方ないけど。」

「ゆーかワイらもチームの名前決めへん?シューティングマツボズとかどうやろ?」

「てゆーか、向こうはいろいろキャッチ―なのよ。オウナさんの政策だってよく聞けばいい政策なのに。特に、戦争反対なのはすごく素敵だと思うわ!」

「そう言っていただけるとありがたい。」

オウナさんは灰色の髭をモシャモシャしながら言う。

「奴ら、新三原党は国民が皆輝けるようにという名目で、この国の大切な誓いをいじろうとしとるんじゃ。詳しくは分からんが、それが示すのは間違いなく戦争国家。ましてや宗教の党じゃ、思想の違いでこれから多くの血が流れるやもしれん。それだけは絶対避けねば。」

「じゃあ戦争反対をうったえればみんな分かってくれるんじゃ…。」

「それをやっとるんじゃが…奴らは口達者に言い逃れて、民衆を丸め込んでしまう。」

「うーん…どっちにしろ、こっちの声が上手く皆に届いてないのね。」

「たぁー、どうすりゃいいんだ!!」

結局その日の反省会ではいい案が出ずに解散になった。



それから何の進展もないまま二日が過ぎた。

「あと5日かぁ~。」

結愛さん家の食卓でため息をつく僕達。しかし結愛さんは意外と笑顔で、

「ねぇ皆、皆が困ってるのに言うのちょっとアレだけど…五日後も一緒にいてくれるんだよね?」

「ああ、当たり前だろ。」

サトが答える。部屋の二月のカレンダーには五日後の日付に丸印が書かれている。

「良かった。…じ、実は、五日後…。」

「ん、選挙だろ?」

「うんう、そうなんだけど…私、誕生日なの!」

「え。」

……。

『ええ!!』

皆声をそろえて驚く。

「ええーそうだったのー!おめでとう結愛さーん!!」

「あはは、花ちゃんまだ早いよー。」

「へー、そうなのか、選挙と同じ日か…奇遇なもんだな。」

「うん、私、大勢の人に祝ってもらったことが無くて…で、皆、良かったら一緒に…。」

もじもじと言う結愛さん。

「うん、パーティーしようよ!」

「せや、誕生パーティーや。」

「おおいいな。」

「うん、いいね。」

満場一致だ。結愛さんはほっとして笑顔になる。

「ありがとう、皆。」

にこにこ笑顔だ。

「それとね、もう一個嬉しいことがあるの。言っていい?」

「何?」

「なんと、ずっと描いていた30号、完成しましたー!」

『ええ!』

また声をそろえて驚く僕達。

「まじで!」

「まじか!」

「おお!」

僕らはアトリエへ駆け入って電気をつける。イーゼルの上で光に照らされた画面を見てはっと息を飲む。

 絵画は踊るような複雑なタッチで色が塗りこめられていて、優しい色から冴えた色までのハーモニーがまるで交響曲を聴いているような錯覚を起こさせる。結愛さんの今までの絵のような鮮烈で優しい雰囲気は残しつつ、今回の絵はより動きのあるタッチとさらに冴えた色彩が印象的だ。

「すごい、いいです。」

一言、そう出る。花達も皆口々に高評価を述べていく。

「きれい…それでいて、儚いというか、でもハッピーな色彩だし、何とも言えない感じが…いいです!」

「ええ、これめちゃええやん。」

「……すげぇな。」

「ありがとう。本当はもう少し簡潔にするつもりだったんだけど、楽しくなっちゃって、結構複雑なタッチになっちゃった。」

確かに、タッチは複雑だ。けれど、空間はよく整理されていて画面は見やすく、そのギャップがまたいい。

「色も、結愛さんのいいとこ、すごい出てる気がします。」

「ありがとう。いつもより彩度が高くなったのは…みんながいてくれて楽しかったからかな。」

絵は人を表すというが、結愛さんの心の変化が絵に染み出ていてとてもおもしろい。

「これ、またギャラリーに展示してもらうの?」

「うん、でも、選挙が終わってからになるけど。」

「そっかー、でもみんな、楽しみにしてると思うなー。結愛さんの絵、この町の人にすごい人気だってオウナさん言ってたし。」

「じゃあ皆楽しみだな。」

「ほんまや、この絵見たら選挙なんてどーでもよーなってきたわー。」

「うんうん……ん?」

―あれ、結愛さんの絵ってこの町の皆に人気なんだよね…。

 「こっち側の声がうまく皆に届いていないのね。」

花のセリフがよみがえる。

―あれ、あれあれ…今、僕、いいこと考えちゃった!?

「パーティーだよ!!」

『!?』

いきなり声を上げた僕に驚く皆。

「ああ、誕生パーティーするってさっきから言ってるだろ?」

何言ってんだとサトが言う。

「違うよ、結愛さんの個展を、開こう、明日の夜!」

『?』

「それで皆に聞いてもらうんだよ、オウナさんの話を!」

「あーなるほど、個展の開催初日パーティーってわけか。」

「…なんなんそれ?」

「いい!それ、いいじゃん!!」

花がテンションを上げて同意する。

「きっとたくさん人集まるよ!そこで演説聴いてもらえれば。」

「え、でも…私なんかで人、集まるかな…。」

「大丈夫、自信もって!」

「ああ、やってみる価値ありだな。」

「なぁそのパーティーってなんなん?」

「よしじゃあ早速、オウナさんに話してチラシたくさん刷ってもらおう!」

『おおう!!』

僕らはさっそく斜め向かいの央做さん家に行き事情を説明し、オウナさんもナイスアイデア!という反応ですぐにチラシ作りを開始した。その日はほぼ徹夜で印刷を行い、明け方、ようやく全ての町民分の山のようなチラシがどっさりと刷り上がった。



 僕らは結愛さんと一緒に街頭にて、早速チラシ配りを開始した。ブドウ党の皆さんも一丸となって町を回り、チラシを配って回る。

「結愛さんの新作発表でーす!」

「今夜限りのパーティーでーす。ぜひ来てくださーい!」

チラシは次々と受け取ってもらいどんどん減っていく。

「結愛さんの新さ__!」

僕の配ったチラシを指二本ではさむ男が。オールバックの紫マント…ガツだ。

「やぁ君達、何を始めたかと思えばこんなことか。ふっこんなことで人が集まると思うのかぃ?」

「ふん、けがれた心のアンタじゃ結愛さんの絵の良さは分かんないのよ!」

「おっと心外だな。誤解を解いておくが私はMs.朝顔のファンだよ。作家としても、一人の女性としてもね☆」

結愛さんに向けてウインクするガツ

―…うん、気持ち悪い。

「では、今夜楽しみにしておくよ、ハハハハッ。」

そう言って去っていく紫マント。

「なんだよ、結局アイツも来るのかよ。」

「うん、今夜は楽しみだね。」

その後も次々とチラシは売れて…。


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