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色織  作者: 千坂尚美
四章
72/144

流星

おはなし4-16(72)  



「くそぅ、何てこった!」

バシィ!

帽子を思いっきり床に叩きつけるオウナさん。オウナさんのギャラリー、ギャラリー丸央まるおうにはたくさんのブドウ党の皆さんが集まっている。

「なぜ倍以上も差がつけられてるんだ!?皆、奴らの演説をこっそり聞きに行きぞ!」

『おおー!』



 ブドウ町の街頭では、新三原党の人達が演説を行っていた。演説が長いので内容をまとめるとこうだ。

 新三原党は新三原教が母体にあるにで、三原神が生んだ者、つまり全ての国民を大切にすると言うのが第一だ。そのために、年金、医療、介護の充実と、子育てに対する支援に力を入れるという。また、女性の政治家を増やすことで男女の声の平等をはかるという。さらに働く人を守るという面で、労働価値を同一にそろえるという法律の案も考えている。総じて国民の価値を平等に考えた公約だ。老若男女問わずの指示が今回の結果を生んだと思われる。

 それに対してオウナさん、

「ふん、何が平等だ。字面はいいがそれでどう経済を立て直すつもりだ!」

ぷんと怒って引き返してしまう。それについて行く僕達。

「あのさぁオッサン、三頭のヤギがどうとか、オッサンのはちょっと難しいんじゃないか?」

「うんう、二本のもりよ。」

「いや、四本のアリちごた?」

「あの、みんな…。」

僕が間違いを指摘しようとしてオウナさんがこっちを振り向く。

「三本の槍じゃ!!!」

『あー、そうそうそれそれ。』

あーとのんきにグーをパーにポンとおく花、サト、マツボ。

「あー、ワシらの政策は自分たちのマヨセンにすら覚えてもらえないなんて…そりゃダメだわなー。」



「で、落ち込んじゃったんだ、オウナさん。」

「うん、そうなの。」

ムシャムシャとサラダを頬張る花。皆で食卓を囲んで夕食中である。

「選挙まであと十日か…厳しいね。」

「ああ、また明後日から頑張るよ。」

「…あれ、明日お休みなの?」

「ああ、俺らはな。一応、週一で休みはもらってるんだ。」

「ふーん、そうなんだ。」

結愛ははむっとお米を頬張る。

「結愛はん、明日は?」

「そうだ、どっか遊びに行こうよ!」

花が身を乗り出す。

「もぐもぐもぐ…うーん、ごめんね。今、絵がいいところなの。こういう機会って滅多にないから…明日は絵、描かせて!」

「えー。」

「駄々こねんなクソメガネ。」

「ハ?今眼鏡に何つけた?てか、私の眼鏡、何もついてませんし、あなたの目は節穴ですか?節穴なんですかぁ!?」

「ウゼェ黙ってろ。」

「ウゼェのはてめーだろが!!!」

バン!机を叩く花。まあまあまぁと僕とマツボが仲介に入る。結愛さんはきょとんとした顔で二人を見ている。

「ごめん結愛さん、これで通常運転だから。」

「せやせや、ノーマルやでノーマル。」

「そ、そうなんだ。」

「まぁな。」

「まぁね。」

何故かサトと花も答える。結愛さんは苦笑する。

「まぁ、みんな、明日はゆっくり過ごしてね。」



 空、白いなぁ。

 ぼっと空を見ている。二階の窓から、僕は一人で。この町に来てからずっと天気は曇りだ。曇りの日は晴れの日の晴天よりも明度、つまり空の明るさが明るいらしい。いつか結愛さんが教えてくれた。

 別に雨や雪が降るわけでもないのに…。

 家の中はほのかに温かいが、外はきっととても寒いのだろう。

タン、タン、タン…。

階段を登ってくる足音が聞こえる。誰だろう…足音からして女だ。花かな、それとも…。

 階段を登り切って足音が止まる。

「ツムグくん、お茶、入ったよ。」

黒いポンチョに身を包んだ灰髪の女性。

「結愛さん…うん、ありがとう。」

僕はゆっくりと立ち上がって、彼女と一緒に階段を降りていく。

 下に降りると皆が居間のテーブルを囲んでいた。時計はお昼の三時を指している。今日は珍しくお昼まで寝てしまっていた。朝食を兼ねたお昼ご飯を食べてから、ずっと二階でぼーっとしていた。皆はトランプで遊んでいたのか、カードが机の端に雑にかたまっている。

「結愛さん、どう、絵は?」

「うん、いい感じ、ちょっと一服したらまた描くよ。」

外からは選挙の演説が聞こえている。聞こえてくるのは新三原教の演説だ。

「うーん、向こうも向こうで頑張ってんだよな。」

「そうねぇ、どうしよっか?」

「うーん……分からん!」

「だよね。」

そんなユルイトークをして時間をつぶしている最中、ヤツはやって来た…。

ピンポーン!

結愛さんちのベルが鳴る。

「私出るね。」

そう言って立ち上がり、玄関まで行って戸を開ける結愛さん。すると、

「緑の国から来たマヨセンはいるか!?」

でかい声が家に響く。…僕ら、何か悪いことしたかな?そう思いながら玄関へと出ていく。

「はい、僕らですけど。」

突然やって来た彼らは二十代半ばぐらいの四人組の男女で、一番手前にいる男は紫のマントに髪をワックスでツヤッツヤのオールバックにした堀の深い顔の人物だ。

「ほうほう、君達か。いや、実に若いな。」

結愛さんは僕らが話しやすいように端の方へよける。

「えと、僕ら、何かしましたか?」

身に覚えはないが、とりあえず尋ねてみる。

「ハッハッハッいいや、何にもしてないさ、そう、何にもね☆」

ハッハッハッと陽気に笑った男は最後にウインクをつける。

なんだコイツ、ウゼェ。

なにコイツ、ウザ。

なんやコイツ…ウザ。

なんなんだろうこの人、ウザい。

「あの、誰ですか?」

そう問う僕。

「ハハハッ、申し遅れたな。私の名前はガツ、この町のマヨセンのリーダーさ。後ろの三人も同じチームの一員さ☆」

最期にまたウインクをつける。

「我々は〝シューティングスターズ″というかっこいい(・・・・・)名前で活動している。どぞお見知りおきを。」

シューティング…何だって?少なくともかっこよくはない。というか…イタイ。

「で、そのシューティングスターズさんが僕らに何の用でしょう?」

「いやなに、Mr.オウナから君たちは今日フリーときいて、ここにいるという情報を得たもので。して、君が君らのリーダーかな。」

ガツは背を低くしてマツボに問いかける。

「え、ちゃうで。」

「おや、そうなのか?」

何故そう思った。判断基準が分からん。

「リーダーは僕です。式彩紡っていいます。」

とりあえず名前も一緒に名乗っておく。というか、一番前に出てしゃべってるの僕だから、何となく分かるだろ。

「ほう、君か!式彩君、よろしく頼むよ。」

わざとらしく驚き、握手の手を差し出してくる。僕は「はぁ。」と言って手を伸ばす。ガツは思いっきり僕の手を握ってぶんぶんと縦に振る。…で、何しに来たんだ?

「我々が何しに来たと?」

!心が読めるのか!?

「今日ここに来たのは他でもない、宣戦布告だよ!我々は周知のようにシンさん厳冬についている。つまり君達とは敵同士!君らもなかなか頑張っているようだが、残念ながら昨日の中間アンケートでは…ぷぷ…あのありさま(・・・・)!まぁ、気を落とさずせいぜい頑張ってくれたまえ…それが伝えたくてね…うぷぷ。」

ガツは笑いをこらえながら(こらえられていないが)セリフをはく。後ろのやつらも同じようにこらえ笑いをする。

カチーン。

僕らは全員頭に血が上る。

「それでは我々は失礼するよ。仕事があるのでね、アディオース☆」

ビッと二本指を立ててウインクと共にバッと後ろを向いて去って行ってしまった。残された僕達、わなわなと震える体。

「おいツムグ、あのシューティングスターズとかいう変態共、ぶっつぶすぞ!!」

決意を新たにするツムグ達であった。


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