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色織  作者: 千坂尚美
一章 緑森宮編
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栗鼠

おはなし7  


「あの人は化け物なんだよ。」

ツムグは過去を思い出す。

「そうかー?確かに大きかったけど…化けも…化け物?…。」

「……。」

「マツボ、何の話をしている?。」

「何の話って、「胸。」の話じゃねーよ。」

胸の話ではない。


 全て一瞬だった。唖然とするツムグ、助かりほっとする女学生。ツムグの横では両足をツムグ側に折りたたんで座る女、片手をグーにしたままのばしている。女はにこっと笑ってゆっくりと腕を下ろす。

「大丈夫ですか?。」

首をかしげる姿に激しく心臓が鳴る。けっして痛みのせいではない。

「あ、あの、助けていただき、ありがとうございました!。」

礼を言う木下。女は彼女に、

「いえ、もう大丈夫。あなたはもう帰っていいですよ。」

そう言った。女学生は思いっきり深くお辞儀をして帰路を駆けていく。

「ころしたのか?。」

「ええ。」

なんの間もない「ええ。」。

「あなたには殺す覚悟がなかった?。」

「…いや。」

「そんなこと考えるヒマが無かった。」

その通りだ。

「でも、じゃあなんであの子についていったのですか?。」

「守りたかったから、僕は…マヨセンを目指しているんです。」

「へぇ。」

彼女はおもしろそうに笑った。

「見つかった。」

「え?。」

「うんう、こっちの話。ねぇ、あなた、カラーの使い方、教えてあげましょうか?。」


「緑森宮の命で彼女は弟子を探していたんだ。」

「ふーん、なるほどなぁ。」

ツムグの話は一談落。

「それで師匠さんの助けもあってここで起業したんやな。」

納得する四つ葉。

「で、どうすんねん。」

「?何が。」

「せやから、緑森宮に来るよう誘われたんやろ?いくん?いかへんの?。」

四つ葉の問いにマツボもツムグの顔を覗き込む。ツムグは少し間をおいて答える。

「行く。」

おおーという二人の反応。

「一流のマヨセンになるのが僕のユメなんだ。」

ユメという言葉を口にして、ふっと自然と笑みがこぼれた。

「私のユメは一流パン職人になることかなぁ。」

「ワイのユメはー腹いっぱい銀鮭たべることやなぁ。」

いつの間にかユメの言い合い合戦になっている。

「マツボ、それはやっぱりク…………………………………………………………マだから?。」

「え、なんて?。」

「いやなんでも。」

隣の四つ葉の視線が恐い。

「さぁて、そろそろ旅の支度始めるかぁ。」

「ほか、んな私今日休み(パン屋)やし手伝っちゃる。」

「ワイもワイもー。」

三人で旅支度に取りかかった。


 少し大きめの風呂敷に着替えの下着と歯ブラシをつっこみ、準備万端でそれを肩からかけて胸の前で結ぶ。マツボも何が入っているのか腰に巾着袋を下げている。昨日の晩にばっちり準備を整えて、四つ葉からも「ホナいってら~。」と激励のあいさつをもらった。最後に、店の看板代わりのマヨセンの旗を持って旅に出発だ。今日は日差しが良く気温もそこそこ、旅に出るにはうってつけの陽気だ。

 さやなにもらった地図によると、最初に向かうのは若草を南に下った所にある舞茸村だ。舞茸村は、おいしい舞茸がたくさん実るおいしい村だ。昔この村に行ったツムグの記憶では、確か住んでいるのはキノコではなく人間だったはずだ。町の賑わいを抜けると、夏の日差しを一杯に浴びて色づいた深緑の葉の木々の道がずっと向こうの方まで続いている。

その道をマツボと一緒にゆっくりと歩き始める。

「ええ天気できもちええなぁ~。」

「うん、そうだね。」

東の空に太陽がサンサンと輝いている。太陽の輝きに、朝のけだるさは徐々に奪われ、体に元気が湧いてくる。でもちょっぴり暑いかも。木々の道に入ると、葉っぱが影をつくってくれていて涼しい。ぽつぽつと降り注ぐ木漏れ日が、温度の対比をつくって気持ちがいい。

「ツムグはん、ツムグはん、しりとりしよおで。」

「ん、うん。」

すっかり遠足気分のマツボ。遠足といえばしりとりだ。

「さんぽ。」

「ぽんかん。」

「んついた!ワイの勝ちやー!。ばなな。」

「ナン。」

「んついた!ワイの勝ちやー!。」

「あきかん。」

「んついた!ワイの勝ちやー!。」

「ラオコーン。」

「んついた!ワイの勝ちやー!。」

「みかん。」

「んついた!ワイの勝ち__。」

「パン。」

「んついた!ワイの__。」

「キリン。」

「んついた!ワ__。」

「メロン。」

「んつい__。」

「麺。」

「んつ__。」

「ビン。」

「ん__。」

「餡、印、運、円、恩、缶、金、剣、紺、酸、芯、線、丹、朕、点、班、分、辺、本、万。」

「ま、まった!。」

「?。」

「はぁ、はぁ…わ、分かった。ワイの負けや。」

「よし。」

勝たずして勝ちを手にするツムグであった。

 それからしばらく歩くと妙な生物に出くわした。ぱっと見はリス。しかし頭に二本のカールした触覚に四枚の翅、お腹に自分の体の半分ほどを占める500円玉をしっかりと握っている。道に落ちている石の上に座って何かをつぶやいている。ツムグたちは立ち止まって耳を澄ましてみる。

「ポォーウ、人間どもめ、今に見ていろ、我が滅ぼしてくれるわ、ポォーウ、まずはこの先にある舞茸村からだポゥ。」

すごい独り言を聞いてしまった。ちなみに言っておくが、このリスとツムグ達は1mと距離をあけずにいて、ツムグ達はリスを見、リスは横を向いて座っている。そしてこのリス、背が50cmくらいある。文字通り腰かけて石に座っている。500円玉は2~30cmはあり、太ももと二本の手で支えている。手はあごの下の高さだ。一応話しかけてみよう。

「おいリス、思いっきりきこえているぞ。」

すると、

「ポォーーウ!お前らいたポゥか!いつの間にぃ!。」

首だけこっちに向けてやたら驚くリス。

「さっきからおったで。」

「何!?さては先ほどの独り言、聞かれていたか!!。」

首を横に振る二人。

「ポゥ、よかったポウ。」

信じるのか。というかさっき、聞こえているって言ったのに…。かなりのピュアハート。

「リスよ、実は全て聞こえていたんだ。」

「何ィ!!だましたポゥかぁ!?許せん!許せんぞお主ら!。」

すごく怒り出した。ウソついてゴメン。

「それに我はリスではない。我が名はリッスン!先ほどの話、聞かれてしまっては仕方がない。お主ら、せいばいしてくれる。」

「ごめんなさい。」

「え、謝るポゥか?じゃ許すポゥ。」

どっちだ!

「あ、でもダメポゥ、我らの計画を聞かれてしまってはいけないんだポゥ。」

ポウポゥうるさいな。

「ということでごめんポゥ。死んでくれポゥ。」

『ポォウ!!?。』

特大500円を振りかざすリス、もといリッスン。ツムグとマツボに襲いかかる!

ツムグはとっさに木刀を引き抜き、引き抜いた勢いでリッスンの胴を思いっきりしとめた。居合切りだ。

「ポ~ウ。」

力なく鳴きドサと倒れるリッスン。そんな彼を見てツムグは思った。

このリス、弱い。そして…ちょっとかわいい。



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