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色織  作者: 千坂尚美
四章
66/144

新三

おはなし4-10(66)  


 できてまだ新しそうなその教会。建物の前には「新三原教」と看板がかかっていた。ちなみに三原教とは、太古の昔、この国の光と海と大地を創ったとされる三人の神をあがめる宗教で、主に赤の国で普及しているのだが…。

「新?三原教…?」

「新ってなんやろ?」

僕らはおもむろに扉を開けて中に入ってみる。中には教壇に長椅子、ステンドグラスと教会らしい様相で、ステンドグラスからは眩い朝の日差しが差し込み、薄暗闇を斜めに明るく照らしている。僕ら以外誰もいないその空間は、とても神秘的に思えた。

ガタン。

奥の扉が開いて、黒い服に十字架のネックレスをした神父らしき老人が出てくる。

「おやおや、こんな朝早くから客人ですかな。」

「どうも、僕達マヨセンをしている旅の者です。」

僕があいさつする。

「神父さんですよね、素敵な教会ですね。」

花が言う。

「ほっほっほっ、そう思われるあなたの心の方が素敵でございます。」

「え、私の心素敵だって!」

褒められて喜ぶ花。

「どうぞ、ごゆるりとおかけになって下さい。お疲れのことでしょう。」

神父に長椅子を勧められる。実際それほどは疲れていないのだが、ここはこんなにも美しい、少し、休んでいくことにしよう。

 僕達三人は席につく。神父はそれを見て奥の部屋に帰っていこうとする。祈って池の一言も言わずにただ休めだなんて、親切な人だな。

「あの。」

僕は神父を呼び止める。

「あの…この教会、新三原教って、三原教とはまた違うのですか?」

その問いに神父はぴくっと眉を動かし、ゆっくりと話しやすい距離へと近づいてくる。

「マヨセン殿、名を何とおっしゃいましたか?」

「紡、式彩紡です。」

「では紡殿、良い質問ですぞ。」

神父は語り始める。

「三原教とは火と大地と水の祖先、三原神をあがめる宗教。それはご存知ですな。」

頷く僕達。

「して我ら新三原教の教えも元はといえばそれと同じ、三原神を崇めることにあるのです。しかし、それに加えて我々は三原神の生み出ししもの全てを尊ぶのです。生命は現在に至るまで無数の連鎖を紡いできました。その中で悪い者、良い者、弱い者、強い者、たくさんの者が現れました。その中でも特に秀でた才を持つ者に、栄光の意をたたえるのが我々のなすべきことなのです。」

―…あー、つまり…どういうことなんだろう。三原神の造った命は皆素晴らしい。そしてその中でも秀でたものはもっと素晴らしい。そういうことなのだろうか。なんか、思想が生命の神秘に触れていて、とても尊いものに思えてくる。

「我らに興味がおありですかな。」

「うーん、いやべつ_。」

いや別にと言いかけた花を止めて僕は言う。

「興味はありますが、僕達にはすべきことがありますので。」

それを聞いて神父はにこやかに笑う。

「でしょうな。若者たちよ、今は自分の信じた道を行きなされ。」

頷く僕。神父はそれだけ言って奥の部屋へと消えていってしまった。

 ステンドグラスからの優しいカラフルな光がまるで心を浄化してくれている様だ。僕らはしばらくそこに座ったままでいた。



「ふぃ~綺麗だったね、教会。」

雪の山道をつたつたと歩く僕達。

「神父さんも紳士的だったし、どっかの飲んだくれの神父とは大違いね。」

―ああ、そんな奴もいたなぁ※おはなし2-2参照。

僕たちは白い息を吐きながら、ワカクサを目指して雪の道を進む。



 ワカクサ村。 

 緑の国の教会を出てから数日して、僕らはようやくワカクサ村へとたどり着いた。

「おお~、帰ってきたでワカクサ~!」

ワカクサ村にも白い雪が舞い、すっかり雪化粧されている。

「な、な、早速四つ葉はんに会いに行ってもええ?」

「うん、もちろん。」

僕らは早速四つ葉の働くパン屋へと向かった。



「いらっしゃいませー。」

店に入ると芳ばしい焼き立てのパンの香りに包まれた。店員さんはかっぷくのいいおばちゃん一人しか見えない。

「あれ、四つ葉はんは?」

カウンターでマツボがおばちゃんに尋ねる。

「ああ、四つ葉ちゃんなら今日は休_。」

カランコロン♪

勢いよく店の扉が開く。

「え?え?まっちゃんやん!!」

うしろを振り向く僕達。そこにいたのは黒いボブヘアーにほんのり雪を積もらせた大きな丸眼鏡の女の子、四つ葉だ。マツボは驚いて彼女の元へと駆けていく。

「おお~っす四つ葉はん、久しぶりや!」

イエーイとかがんでコグマとハイタッチする四つ葉。

「へぇ、帰ってきてたんや。えっと、確かそっちがツムグで…えーと、シンパシー感じるその子は…。」

「花でーす。」

ビッと指二本をそろえておでこにあてる花。

「そうそう花ちゃんや。」

やっぱり髪の毛の色と関西弁を除けば、二人は似ている…と思う。

「で、いつからいてたん?」

「今さっきついたとこやで。」

「そなんや。ま、こんな所で立ち話もなんやし、パン買って奥で話そか。」

みんなそれぞれパンを購入し、奥のテーブル席につく。マツボはアンドーナツ、花はメロンパン、僕はクロワッサン、四つ葉はサンドウィッチだ。もぐもぐとパンにかぶりつく。

「四つ葉さん、今日は仕事、お休みなんですね。」

「モグモグモグ、うん、せやで~。というか、敬語止めて言うてるやん。」

「あ、うん、ごめん。」

「で、皆はどこ旅行ってきたん?というか前四人やなかった?へっ、もしかして一人死にはったん!?」

目を真ん丸にする四つ葉。

「いや、サトは今別行動で……うん、旅はひとまず、国二つ巡ったな。」

「赤と青の国やで!」

「へぇーすっごいなぁー。二つとも大国やんか。ええな~、私も行きたかったな~。」

「面白かったですよ!赤の国では大きな祭りに参加してですねぇ~。」

話し始める花。四つ葉も「ふんふん。」と他国に興味津々で、目を輝かせて聞いてくれる。僕らは長い時間をかけて旅の話をし、話が終わるころには日が沈みかけていた。

「いや~、おもしろかったわ~、あるがとさんや~。」

うーんと伸びをする四つ葉。そんな彼女の手提げ袋には一冊の太い本が入っていて、僕は旅の話をしながら、実はずっとそれが気になっていた。

「ねぇ、四つ葉さん、何の本読んでるの?」

「ん、ああコレ?最近買ったねん、おっもしろいでぇ~。」

そう言って手提げから本を取り出す。

「本マはパンとコーヒー片手に読も思てたんやけど。」

本には〝十二人の戦士”と題名が書いてあった。

「十二人の戦士?…十二人も主人公いるの?」

「いや、主人公はその中の一人なんやけどな…これ、この世界の昔話やねん。」

「あ、私その話知ってるかも!十二人って、それ千年前の革命戦争のお話じゃないですか?」

花が言う。

「そうそう、よう知ってるやん!」

―千年前?たしか大きな戦争があったのは歴史の授業で習ったけど、詳しくは知らないなぁ。

「ワイ知らへんわ。どんなお話なん、教えてや。」

マツボが空になったコーヒーカップをぷらぷらさせて言う。

「ええでー、というか聞かれんでも言うとこやったわ。…千年前な、ゴッツイカリスマ青年が現れるんや。青年は貧しい農民の家でごく普通の少年として育つんやけど、二十歳の誕生日の日、自らの使命を悟ってな、すさまじい才能を開花させるんや。突如として知能や力を得た彼は当時バラバラやった国を一つにまとめようとしてな、彼の言動やカリスマ性に多くの人が共感し、すさまじい速度で国はまとまっていった。そしてわずか四年にして、ついに国々は一つになりました。めでたしめでたし………じゃないんや!」

気持ちの高ぶりにバンと机を叩く四つ葉。

「そもそも何で急にそんな頭良くなったり強なったと思う?実は彼の中には悪魔が眠っとったんや。そ、文字通り、彼は人間と悪魔のハーフやってん。覚醒した悪魔の血はしだいに暴走し、まとめ上げた一つの国を自らの欲望のままに独裁化していってしまうねん。彼は自らの莫大な力をもって歯向かうものを片っ端から粛清していってしまうんやな。……そこでや、立ち上がるんがこのお話のヒーロー達、十二人の戦士。まぁこっからはまだ読んでへんのやけど、今の六大国って、それぞれ二つの要素から成り立っとるやん?例えば緑の国なら風と緑、赤の国は鋼と炎、青の国はハートと水。せやから、十二人の子孫の内二人ずつが手ぇ組んで今の国の体制になったんちゃうか、そう思うんやな~。」

四つ葉は長いセリフを一気に吐き出し、自らの見解にうんうんと頷く。

―悪魔と人間のハーフ…そんなの本当にいたんだろうか。歴史に少なからず何らかの脚色が加えられたとして、実際にそいいうカリスマはいたんだろうけど…。

四つ葉は本を大事そうにカバンにしまう。

―さて、そろそろ宿を掃除しに行かないと。二、三ヵ月留守にしてたんだ、相当汚くなってるんだろうな。


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