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色織  作者: 千坂尚美
四章
64/144

行先

おはなし4-8(64)  


「う~ん。」

差し込んだ朝日に花は目を擦って目を覚ます。自身の寝相の悪さに布団は乱れに乱れている。

「う〰寒!」

急いで布団を整えて被る花。

「ふぃ~天国~。」

あったかい布団の中で癒される少女。しかし、そこであることに気付く。と、いうか、な(・)い(・)こと(・・)に気付いた。

「あ、マツボ!!」

そう、昨夜抱き枕代わりに抱いて寝たマツボの感触がどこにもないのだ。花は飛び起きてベッドの周りを見回す。すると、

「!」

ベッドの下のカーペットにうつ伏せで倒れている茶色い毛玉一つ。

―いつからこの体勢なのだろう…。

ぴくりとも動かないのその姿に「凍死」の二文字がよぎる。少女はさっと青ざめ、急いで毛玉を揺さぶり起こす。

「マツボ!マツボ!」

すると、

「ん〰〰、なんや~朝っぱらから。」

眠そうな声を上げてマツボは目を覚ます。

―ほt、生きてた。

「マツボ、大丈夫?寒かったでしょ?」

心配して聞く、しかし、

「えー何がや?全然寒ないで。だってわい、ダルマやし。」

「………。」

クマやし、の間違いでは?…しかし、そんなこと、口が裂けても言えない。

「ん、ならいいんだけど。それよりさぁ、ツムグ、どうなったかな~うふふ。」

「おおう!せやった、昨日はおとまりやってんな~。」

「よし!早速さやなさんの部屋に押し掛けるか!」

「待ってや。あんま朝早いとモザイクタイムの最中かもしれん。」

「おお、そっかそっかー、危ない危ない。……あ〰〰でもなぁ〰気になるぅ〰〰。ねぇ、真っ最中でもいいし押しかけちゃおうよ!」

「おおお、そういうと思ったでぇ~。ほな早速着替えて行こか!」

「うん、レッツゴー!」



トン…トン…トン…。

ぎこちない包丁の音がキッチンに響く。

「つむぐくん、もっと手を丸めないと危ないですよ。」

「あ、はい、こうですか?」

手を猫の手にするツムグ。

「そうそう、いい感じです。」

さやなはツムグの横に立って料理の手ほどき中。すると、

ピンポーン!

ベルが鳴る。

「さーやーなーさーん!」

外から花の声が聞こえる。

「はーい!…つむぐくん、後は私がやるので玄関開けてきて下さい。」

「はい。」

さっと手を水で流してエプロンで雑に拭いて玄関まで駆けていく。

ガチャ

扉を開ける。すると、

「おっすツムグはん!」

「おっ、おはよーツムグ。」

玄関口には花とマツボが。花はツムグのフリフリの付いたエプロン姿を見て「何そのかっこ?」真顔で言う。

「いや、今料理中で。」

「ふーん。そ、ん、な、こ、と、よ、り~。」

花はぐいっとツムグを外につまみ出して、

「で、で、昨日はどうだった!?」

興味津々で尋ねてくる。

「ええ!昨日?…昨日は…うーん、一晩中…。」

「一晩中してたの!!?」

「ええ!!?違う違う、てゆうか声が大きい!えっと、昨日は、一晩中、師匠の昔話を聞いてました。」

「ふんふんふん…なるほど、昔話をねー…って、え!!じゃあ何にもしてないのぉ!!?」

「し〰、だから声が大きいって。…うーん、そうだなぁ、まぁ…そうです。」

「え、じゃあ告白は?ビッグチャンスだったじゃん!」

「告白ぅ〰…も、してないです。」

「何それ、つまんねぇ〰〰。」

「いや、つまるとかつまらないとかいう話じゃなくて…。」

「てゆーか、何でツムグは思いを伝えないワケ!?」

「えー、だってさぁ、やっぱさぁ、それはさぁ…。」

「何なの?」

そこで花の制服のすそをくいくいと引っぱるマツボ。

「花はん花はん、まぁツムグはんもいろいろ思うところがあるんやで。そんな責めんといたってや。」

「はぁ~?何今更善人ぶっちゃってんのマツボ。もういい!お腹減った!さやなさんの作ったおいしいお料理食べる!!」

そう言って「おっじゃまっしまーす!」と中へ入っていく花であった。



「いや~、多めに作っておいて正解でした。」

わんに味噌汁をついでいくさやな。今日の朝食は鮭、卵焼き、味噌汁、白米、THE 和食だ!マツボは「わ~い鮭や鮭や~。」と大はしゃぎ。みんなで『いただきまーす!』をして食事にありつく。

「うん~、さやなさんのお味噌汁、最強です~。」

ほっぺに手をあてる花。すると、

ふあ~あ

つむぐとさやなが同時にあくびをする。

「………。今の、何か、すごい良かったです!」

「?」

「何が?」

「うんう、何でもない、ふふふ。」

一人でほくそ笑む花。マツボはフーフーと汁を冷ましている。

「それよりあれですね~、つむぐくん、新しいカラーが使いこなせるようになるよう特訓しなきゃいけませんね~。」

「あ~…。」

そんな特訓あったのか。もっと早く言ってほしかった。

「社長はん社長はん。わいもキラキラシャキーン使えるようになりたいー!」

「え、じゃあマツボくんも特訓しますか?きついですよ~。」

「ならええわ。」

いいんかい!

「で、みんな、次は何処を目指すんですか?」

「う~ん、まだ決めてないですねぇ~。」

「う~ん、黄の国とか行ってみたいけど、今物騒だしな~。」

「社長はんのオススメは?」

「そう…ですね~。あ、昨日話した栞緒ちゃんに会いに行ってはどうですか?黒霊王こくれいおうですよ、美人でクールでかっこいいですよ。それでちょっと可愛いところがなんとも言えません。」

「おお、クールビューティーかいな。ええやんええやん、会いに行こ!」

「ちょっと待って!黒の国でしょ!そっちの方が物騒なんじゃ…。」

黒の国にはいろんな黒い噂が絶えない。

「二年前まではね。でも、栞緒ちゃんが王になってからは随分よくなったわ。それに、緑の国とは唯一の友好国ですし。」

「へぇー、そうなんですねー。て、さやなさん、黒霊王とも知り合いだったんですね。」

「知り合いというか、いわゆるマブダチってやつです。」

「へぇー!そうなんだー。超リスペクトです!前からでしたが、もっとリスペクトです!」

「リスペクトするなら栞緒ちゃんの方ですよ。彼女は、本当に立派なんです。」

「へぇ~、さやなさんがそんなに言う人、会ってみたいな~。ね、ツムグ。」

「ん、うん。よし、じゃあ、とりあえず次は黒の国にいこっか。」

「おう!」

「賛成!」

「うん、じゃ、決まりですね。栞緒ちゃんには私の方から手紙を出しておきます。」

「ありがとうございます。…あのさ、マツボ、花。」

「何や?」

「何?」

ツムグを見る二人。

「一回、僕の実家に寄ってもいいかな?家族に顔見せときたいのと、皆も紹介したいし。」

「ええで。」

「いいよ。ツムグの家、どこだっけ?」

「ドングリ村。ワカクサの隣だよ。」

「ドングリ村か~、行ったことないや。」

「ま、わいもワカクサで四つ葉はんに会っときたいし、ちょーどええわ。」

「う~んそうですね~。」

頬杖をつくさやな。

「じゃ、つむぐくん、私も行きます!」

「え、師匠も!?」

驚くツムグ。

「はい、一応、社長としてご両親に顔を見せておかないとですし。」

「分かりました。きっと両親も喜ぶと思います。」

そう話していると、開いている窓から一羽の鳩が飛んでくる。鳩はバサバサと部屋を飛び回ってツムグの肩に落ち着いた。足には紙切れが結んであった。

「何でしょう?」

「多分サトからです。」

手紙をほどいて開くツムグ。

「…サト、家出て緑の国に向かったって。師匠、手紙、ありますか?」

「もちろんです。」

さやなは書斎の引き出しから紙とペンを取り出し持ってくる。

「ありがとうございます。…えっと、僕らは、ドングリ村に向かいます…と。」

そう記して鳩の足にくくり付ける。そっと手を放すと、鳩は明るい朝日が差し込む窓の外へと勢いよく飛び立っていった。


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