行先
おはなし4-8(64)
「う~ん。」
差し込んだ朝日に花は目を擦って目を覚ます。自身の寝相の悪さに布団は乱れに乱れている。
「う〰寒!」
急いで布団を整えて被る花。
「ふぃ~天国~。」
あったかい布団の中で癒される少女。しかし、そこであることに気付く。と、いうか、な(・)い(・)こと(・・)に気付いた。
「あ、マツボ!!」
そう、昨夜抱き枕代わりに抱いて寝たマツボの感触がどこにもないのだ。花は飛び起きてベッドの周りを見回す。すると、
「!」
ベッドの下のカーペットにうつ伏せで倒れている茶色い毛玉一つ。
―いつからこの体勢なのだろう…。
ぴくりとも動かないのその姿に「凍死」の二文字がよぎる。少女はさっと青ざめ、急いで毛玉を揺さぶり起こす。
「マツボ!マツボ!」
すると、
「ん〰〰、なんや~朝っぱらから。」
眠そうな声を上げてマツボは目を覚ます。
―ほt、生きてた。
「マツボ、大丈夫?寒かったでしょ?」
心配して聞く、しかし、
「えー何がや?全然寒ないで。だってわい、ダルマやし。」
「………。」
クマやし、の間違いでは?…しかし、そんなこと、口が裂けても言えない。
「ん、ならいいんだけど。それよりさぁ、ツムグ、どうなったかな~うふふ。」
「おおう!せやった、昨日はおとまりやってんな~。」
「よし!早速さやなさんの部屋に押し掛けるか!」
「待ってや。あんま朝早いとモザイクタイムの最中かもしれん。」
「おお、そっかそっかー、危ない危ない。……あ〰〰でもなぁ〰気になるぅ〰〰。ねぇ、真っ最中でもいいし押しかけちゃおうよ!」
「おおお、そういうと思ったでぇ~。ほな早速着替えて行こか!」
「うん、レッツゴー!」
トン…トン…トン…。
ぎこちない包丁の音がキッチンに響く。
「つむぐくん、もっと手を丸めないと危ないですよ。」
「あ、はい、こうですか?」
手を猫の手にするツムグ。
「そうそう、いい感じです。」
さやなはツムグの横に立って料理の手ほどき中。すると、
ピンポーン!
ベルが鳴る。
「さーやーなーさーん!」
外から花の声が聞こえる。
「はーい!…つむぐくん、後は私がやるので玄関開けてきて下さい。」
「はい。」
さっと手を水で流してエプロンで雑に拭いて玄関まで駆けていく。
ガチャ
扉を開ける。すると、
「おっすツムグはん!」
「おっ、おはよーツムグ。」
玄関口には花とマツボが。花はツムグのフリフリの付いたエプロン姿を見て「何そのかっこ?」真顔で言う。
「いや、今料理中で。」
「ふーん。そ、ん、な、こ、と、よ、り~。」
花はぐいっとツムグを外につまみ出して、
「で、で、昨日はどうだった!?」
興味津々で尋ねてくる。
「ええ!昨日?…昨日は…うーん、一晩中…。」
「一晩中してたの!!?」
「ええ!!?違う違う、てゆうか声が大きい!えっと、昨日は、一晩中、師匠の昔話を聞いてました。」
「ふんふんふん…なるほど、昔話をねー…って、え!!じゃあ何にもしてないのぉ!!?」
「し〰、だから声が大きいって。…うーん、そうだなぁ、まぁ…そうです。」
「え、じゃあ告白は?ビッグチャンスだったじゃん!」
「告白ぅ〰…も、してないです。」
「何それ、つまんねぇ〰〰。」
「いや、つまるとかつまらないとかいう話じゃなくて…。」
「てゆーか、何でツムグは思いを伝えないワケ!?」
「えー、だってさぁ、やっぱさぁ、それはさぁ…。」
「何なの?」
そこで花の制服の裾をくいくいと引っぱるマツボ。
「花はん花はん、まぁツムグはんもいろいろ思うところがあるんやで。そんな責めんといたってや。」
「はぁ~?何今更善人ぶっちゃってんのマツボ。もういい!お腹減った!さやなさんの作ったおいしいお料理食べる!!」
そう言って「おっじゃまっしまーす!」と中へ入っていく花であった。
「いや~、多めに作っておいて正解でした。」
お椀に味噌汁をついでいくさやな。今日の朝食は鮭、卵焼き、味噌汁、白米、THE 和食だ!マツボは「わ~い鮭や鮭や~。」と大はしゃぎ。みんなで『いただきまーす!』をして食事にありつく。
「うん~、さやなさんのお味噌汁、最強です~。」
ほっぺに手をあてる花。すると、
ふあ~あ
つむぐとさやなが同時にあくびをする。
「………。今の、何か、すごい良かったです!」
「?」
「何が?」
「うんう、何でもない、ふふふ。」
一人でほくそ笑む花。マツボはフーフーと汁を冷ましている。
「それよりあれですね~、つむぐくん、新しいカラーが使いこなせるようになるよう特訓しなきゃいけませんね~。」
「あ~…。」
そんな特訓あったのか。もっと早く言ってほしかった。
「社長はん社長はん。わいもキラキラシャキーン使えるようになりたいー!」
「え、じゃあマツボくんも特訓しますか?きついですよ~。」
「ならええわ。」
いいんかい!
「で、みんな、次は何処を目指すんですか?」
「う~ん、まだ決めてないですねぇ~。」
「う~ん、黄の国とか行ってみたいけど、今物騒だしな~。」
「社長はんのオススメは?」
「そう…ですね~。あ、昨日話した栞緒ちゃんに会いに行ってはどうですか?黒霊王ですよ、美人でクールでかっこいいですよ。それでちょっと可愛いところがなんとも言えません。」
「おお、クールビューティーかいな。ええやんええやん、会いに行こ!」
「ちょっと待って!黒の国でしょ!そっちの方が物騒なんじゃ…。」
黒の国にはいろんな黒い噂が絶えない。
「二年前まではね。でも、栞緒ちゃんが王になってからは随分よくなったわ。それに、緑の国とは唯一の友好国ですし。」
「へぇー、そうなんですねー。て、さやなさん、黒霊王とも知り合いだったんですね。」
「知り合いというか、いわゆるマブダチってやつです。」
「へぇー!そうなんだー。超リスペクトです!前からでしたが、もっとリスペクトです!」
「リスペクトするなら栞緒ちゃんの方ですよ。彼女は、本当に立派なんです。」
「へぇ~、さやなさんがそんなに言う人、会ってみたいな~。ね、ツムグ。」
「ん、うん。よし、じゃあ、とりあえず次は黒の国にいこっか。」
「おう!」
「賛成!」
「うん、じゃ、決まりですね。栞緒ちゃんには私の方から手紙を出しておきます。」
「ありがとうございます。…あのさ、マツボ、花。」
「何や?」
「何?」
ツムグを見る二人。
「一回、僕の実家に寄ってもいいかな?家族に顔見せときたいのと、皆も紹介したいし。」
「ええで。」
「いいよ。ツムグの家、どこだっけ?」
「ドングリ村。ワカクサの隣だよ。」
「ドングリ村か~、行ったことないや。」
「ま、わいもワカクサで四つ葉はんに会っときたいし、ちょーどええわ。」
「う~んそうですね~。」
頬杖をつくさやな。
「じゃ、つむぐくん、私も行きます!」
「え、師匠も!?」
驚くツムグ。
「はい、一応、社長としてご両親に顔を見せておかないとですし。」
「分かりました。きっと両親も喜ぶと思います。」
そう話していると、開いている窓から一羽の鳩が飛んでくる。鳩はバサバサと部屋を飛び回ってツムグの肩に落ち着いた。足には紙切れが結んであった。
「何でしょう?」
「多分サトからです。」
手紙をほどいて開くツムグ。
「…サト、家出て緑の国に向かったって。師匠、手紙、ありますか?」
「もちろんです。」
さやなは書斎の引き出しから紙とペンを取り出し持ってくる。
「ありがとうございます。…えっと、僕らは、ドングリ村に向かいます…と。」
そう記して鳩の足にくくり付ける。そっと手を放すと、鳩は明るい朝日が差し込む窓の外へと勢いよく飛び立っていった。




