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色織  作者: 千坂尚美
四章
62/144

魔王

おはなし4-6(62)  



 私には親友がいる。彼女は黒の国で死神と呼ばれる暗殺鬼。彼女に狙われたものは必ず死ぬという、絵にかいたような殺しの達人。彼女に殺せない命はなかった。…なかった、そう、過去形。彼女にはどうしても殺せなかった人物がいた。その殺せない人物というのが、他でもない、私だった。

 彼女の任務をただ一人阻止してみせた私に彼女は執着し、それ以来幾度も私の命を狙いに来たが、それは、叶うことはなかった。

 私たちの力はスピード、パワー、戦術と、どれをとっても互角で、どちらが勝ることなく幾度も引き分けた。けれど、甲乙付かない戦いに悔しがったのは彼女だけではない。もちろん私も悔しかったが、同時に、彼女の実力に感動を覚えていた。

―同じ年の子で、こんなに芸術的に戦える人間がいたなんて。

そしてどうやら向こうも同じようで…。

 幾度とない戦いの後、私達の顔は悔しさから笑顔に変わっていた。

―この子は倒せない。だけど、この子となら…。

たくさんの人間を幼いころから殺し続け、闇に染まった彼女の心。けれど、その奥にある純粋な黒色を見出した私はたくさんの文通を通して、少しずつ、彼女の心を紐解いていった。



「で、彩菜、今日は誰を殺すの?」

過去に浸っているとどこからか声がする。タッと自分の真横に白い髪の女の子が舞い降りる。相変わらず気配がない。私はう~んと伸びをする。

「う~ん、今日殺すのは~…。」

「悪魔の王様♪。」

全身黒に身を包んだ彼女は嬉しそうに笑う。

「そう、シオちゃん準備いい?」

「もちろん、彩菜は?」

「私はまぁまぁかな。」

栞緒しおは綺麗なグレーの瞳で彩菜を見つめる。

「場所は分かってるの?」

「もちろん。」

二人は手にはめた指輪から白いモヤを出して、その上に飛び乗る。

「行こっか。」

頷く栞緒。二人は闇の中を高速で飛び始めた。



「彩菜、タイミングは分かっているの?」

「詳しくは分からない。でも、早すぎたら私達二人で殺るだけ。」

「そうね。」

栞緒は冷たく言う。

「とにかく先を急ごう。」



 遠くの方、赤く燃えたぎっている。いくつもの爆発音が聞こえる。もう戦いが始まっているのだ。さらに飛ばしてラストスパートをかける栞緒と彩菜。



 戦場は地獄の様だった。

 いたる所が赤く燃えていて、おびただしい数の死体と血の海が広がっている。私の足元に二つの頭が転がっていた。

―………ああ、私、大切なものを失ってしまった。

 赤松師匠、本当の父親のように愛していたのに…。

 空木先輩、もうあの場所で会えないなんて…。

悲しい気持ちが体中を駆け抜けて、熱い滴が両目に溢れてくる。

「彩菜…。」

栞緒に呼ばれてゆっくりと頭を上げる。炎に照らされ、逆光でドス黒くなった物体に殺意の視線を向ける。

「………殺す。」

グギュパァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!

黒い物体は腹部についた大きな口を広げる。カマキリの腹をより膨らませ、何百倍も大きくさせたような胴体に邪悪な六本の虫足が生えている。大きな口を持つ腹の上には、黒い曲線と直線の入り混じる装飾と形態の鎧を身にまとった、悪魔の本体と思しき人型の上半身がくっついている。

 悪魔は腹部の口を大きく開け、空気中からドス黒いカビのような物質が集まり、大きな球体を生み出す。

ドッ!

放たれる黒球。二人は雲をに乗り黒球をかわす。

ズッバァアアアアアアアアアア!!!

数百メートル先まで大地がえぐられ遥か後ろの山で爆発を起こす。彩菜は指を切り、飛んだ血球を球根に変え特大の樹木を敵に放つ。悪魔は左足三本を使いいとも簡単に植物を相殺してしまう。砕け散る桜の木、その中から濡羽色の綺麗な黒い翼を生やした栞緒が飛び出す。手に持った大きな鎌を振りかざし、翼を刃にまとわせる。

スパン!

目にもとまらぬ速度の一太刀で、敵本体の胴を斜め真っ二つに切り裂く。が、ボコボコと分かれた体は黒い液体で繋がれ再生していく。

「オゴッオゲッオグオッ!」

おぞましい声を上げて悶える悪魔。彩菜の球根は八方から藤の木を出して敵の虫足を拘束する。

「栞緒ちゃんどいて!」

彩菜の合図でタッと後ろに飛び退く栞緒。直後、真上に来ていた彩菜の両腕から無数の樹木の槍が飛び出し、すさまじい轟音を立てて敵の体を直撃した。

「まだ浅い!」

バッ!

烏の翼を数十メートル伸ばす栞緒。それをV字型に振り下ろし、敵の体を切り裂かんとしたその時、敵は二本の足を前に出し二枚の翼を握りつぶした。

「!あれを素手で!?」

「ウゴ、ゲガ、コウカ…?」

モゾモゾと敵の日本の前足が伸びる。すると、まるで先ほどの彩菜の攻撃のように前足から無数の虫足が生えてきて、二人に降り注ぐ!彩菜は既に、散っていた球根を自身の周りに集めており、植物の丸い防御壁を造る。

ドドドドドドドドドォ!!!

敵のすさまじい攻撃が炸裂し、防御した木は木っ端みじんになり大地は広く深く削られる。

スンッ!

栞緒はいつの間にか敵の背後に回り込んでおり敵本体に鎌を振り下ろす。が、敵は前を向いたまま腕についたアーマーでその一撃を食い止めとしまう。

「彩菜!!」

ボコォォオ!!

敵うしろの大地から地面を引き裂いて大きな植物が現れる。その植物からにょきりと体をそれらに擬態させた彩菜が出てくる。彩菜は、敵の攻撃を食らう直前、植物に全身擬態し地面に潜り、敵の攻撃を避けていたのだ。右腕を鋭く尖った大樹に変え、敵の本体へ向けて放つ!栞緒は木がとんでくる直前に飛び退き、気は一直線に本体の体を貫通した!彩菜は左手をパーに開く。と同時に貫いている木から複数の枝が勢いよく生え敵本体の体を穴だらけにする。今度は左手をグーにする。すると右腕の植物が渦を巻いて穴ボコになった敵の体を覆いつくしてしまう。そしてグーをさらに強く握ると、パン!本体の体は植物の怪力に圧縮され黒い液体となって破裂してしまった。そして栞緒のダメ押しの一切りで植物ごと上から真っ二つに割ってしまう。崩れ落ちる植物を黒い液体。

 栞緒は大ききとんで彩菜の元へと着地する。

「…まだみたいね。」

「うん。」

モゾモゾと再生を始める敵の本体。黒い液体はグニグニトとのたうち絡まり合い、そしてついには全くの無傷になるまで再生してしまう。

「ふぅ、さて、どう料理するか…。」

「!」

敵の姿が消える。

ズバァァァァァァァ!!!

とっさに飛び退いた彼女らがいた所を悪魔の足がえぐり取る。彩菜はすかさず球根から植物を生やし足場を作り、悪魔は六本の足を使って彩菜をメチャクチャに潰そうと攻めてくる。彩菜は木々を操り飛び移り、すさまじい速度の敵の攻撃をかわしていく。最後の一撃が左腕をかすり、いとも簡単に腕が取れてしまう。

 敵の下腹部が赤く光り、大きく開けた腹の口に三つの黒球がたまる。

ドドドン!

繰り出された三つの大砲をそれぞれ散ってかわす二人。

ズンッ!

栞緒の後ろに回り込む悪魔。腹を赤く光らせ黒球を放つ。死角を取られてとっさに烏の翼でガード、斜め後ろへ黒砲を受け流すが反動にはじかれてゴロゴロと吹き飛ばされる。彩菜は千切れた左腕の付け根から植物を生やし、それが元通り人間の腕に戻る。タッと栞緒の元に飛び降りる。

「栞緒ちゃん。」

「うん、見逃さなかった。」

「いける?」

「うん。」

立ち上がる栞緒。再び高速で移動してきた相手に二方向に飛び退き足の爪をかわす。彩菜は球根から植物を生やし、フィールドに大きな幹の柵を張り巡らせる。しかし悪魔はいとも簡単に植物の檻を砕きながら疾走する。

「く、この強度でまるで速度が落ちない…。」

敵の高速の突進を自らの植物で自分の体をはじきとばしかわす彩菜。浮いた敵を仕留めんと上空へ向けて黒球をためる怪物。

「栞緒ちゃん!」

栞緒は暴れる敵の後ろ脚をかいくぐり、黒球をため赤く光っている敵の下腹部へと達する。

「死ね。」

シュルシュルと黒い翼を鎌にまとわせ、敵のエネルギー源と見られる光る下腹部を思いっきり引き裂いた!

「ガグオ!!!」

身もだえる怪物。飛び退く栞緒。そこへ彩菜の放った樹木の槍が四方八方から敵の腹を貫いた!!直後、すさまじい光を放ち悪魔はコッパ微塵みじんに爆発する。


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