昨年
おはなし6
お仕事、ご苦労様でした。
今回の敵はなかなか特異な方だったみたいですが、見事、収めることに成功。師匠である私も嬉しいです。
さて、話は変わりますが、今度都では宮使え戦士選抜コンクールがあります。日々努力に励むツムグくんの実力なら王宮騎士として認められるかもしれませんね。というわけで、コンクールに参加してみてはどうでしょう?予選は二週間後の九月二十六日です。場所はもちろん緑森宮です。
ツムグくん、緑森宮に行ったことありましたっけ?もしなかった時のため地図をつけておきました。多分迷わず来れるはずです。
今日は仕事があるので、ゆっくりお話しできずにごめんなさい。でも、旅の道中、ツムグくんや新しお友達とお話しできて楽しかったですよ。
あなたの意志があれば、また後日、緑森宮で会えるのを楽しみにしています。
さやなより。
手紙にはそう記してあった。
「なんで手紙やねん。口で言えばええのに。」
ツムグが持っている手紙を覗き込んで見ていたマツボが言う。
「あの人、手紙好きなんだよ。」
「何や何や?ラブレターかいな?。」
!いつの間にか、店の前に眼鏡おかっぱの女の子、四つ葉がいた。
「ああ、ええと…。」
「四つ葉や。」
「おーう四つ葉はん!どないしたん!。」
久しぶりの再会にテンションの上がるマツボ。
「おーすまっちゃん。いやー自分ここに引っ越したて聞いて驚いて見に来たんよ。」
「せやねん、ワイ引っ越したねん。」
「それより、マヨセンさん。その手紙、さやなよりて、さやなって誰なん?彼女さん?。」
「せやでツムグはん!そろそろ二人の関係のヒミツ教えてくれてもええやん。」
「え!何々ヒミツって…うふ。」
「いや…。」
関西弁二人相手はつらい。二人は勝手に話を進める。
「いやなー、その彼女ごっつ美人やねん、ゴツカワ(ごっついかわいい)やねん。ツムグはんが惚れてんのはこれ確かなんや。」
「へぇー、それでそれで。」
「んでもってその美人は緑森宮の幹部ときた。そんな美人で偉い人がなんとツムグはんの師匠をしてんねん!ワイは何でそうなったかのいきさつが気になってしゃーないんやなー。」
「ああ、二人にはイケない秘密があるのね。」
「ないよ。」
勝手にふくらむ話に釘を打つツムグ。これ以上変なウワサを立てられては困る。ここは仕方なく自分と師匠の出会いの話をするしかないか…そう思う。話は一年前に遡る。ここからはツムグとさやなの二人の目線に立って話を進めよう。
一年前___緑森宮・王宮騎士幹部会議
緑森宮では、幹部たちによる会議が定期的に行われている。ずらりと並ぶ強者どもが縦長の円卓を囲い会議は進行する。今回の議題は「地方の守護強化」、要は、地方で平和を守っているマヨセンたちを斡旋しようという意味の議題である。議長の指示でそれぞれ担当する地区が決められる。中にはマヨセンのいない地区で新しくマヨセンを開くように命令された者もいた。
「さやな、お前はドングリ村へ向かえ。この村の周辺にはマヨセンがいない。誰か適任者を見つけ、弟子としてそいつを育て上げろ。」
「分かりました。」
議長の意向に異議はなし、さやなは言われた通りドングリ村へと向かった。
ドングリ村
ドングリ村では、最近出没するという怪物集団のウワサでもちきりだった。数名のグループが村の住人を襲っているらしく、最近ドングリ山のでは白骨死体が多数見つかっている。死体の見つかった場所から察するに、犯人たちはドングリ山に潜伏している可能性が高い。その噂は当時のツムグにも伝わっていた。
「怪物集団かぁ、怖いなぁ。」
学校の屋上で一人たそがれる少(青?)年。当時ツムグはドングリ高校の三年生。ドングリ高校とは、ドングリ村に建つふつうの高校でふつうの学力の生徒たちがふつうに集うふつうの高校である。そんなふつうの高校にマヨセンを志す者などツムグを除いては誰もいない。よって彼は勝手にマヨセン部という顧問不在部員一名の部活を生み出し、周りのみんなには「自称マヨセン部(帰宅部)」と言われていた。かっこきかくぶの所もちゃんと発音してもらいたい。よってみんなには「じしょうまよせんぶかっこきたくぶ」と言われているのだ。長い。勝手に部室とみなした屋上で放課後を過ごし案件を待っているのが彼の常、一人の時間に孤独を感じる日は多い。しかしたまに案件は舞い込んでくる。裏山で虫を一緒に探してほしいとか、ひそかに魔球を開発するためにキャッチボールの相手をしてほしいとか、家にできた蜂の巣をつぶしてほしいとか、イジメられてるので助けてほしいとか。ちなみに彼は上記の案件の内上二件は了承し下二つは却下した。なぜならハチには刺されたくないし、イジメ関係は大人も手を焼く仕事なので自分でどーにかなるとは思えないからだ。勝手な奴に聞こえるかもしれないが、自分の身は自分で守っているのだ。他にも、ケーキを焼くので手伝ってほしいとか、今日の犬の散歩代わってくれとか、今日の掃除当番代わってくれとか、下らない依頼で以外とみんなの人気者だったり…ただのパシリに思われていたりする。
そう、彼は皆のヒーローでも町を守る孤独な戦士でもなんでもない、彼だって暇をもてあますごくふつうの高校生なのだ。いくら「じしょうまよせんぶかっこきたくぶぶちょうかっこひとりしかいない」と皆に言われていようが、怪物の話なんてのはただただ怖い。そんな彼の元にやってくる依頼者が一人、放課後、一人で屋上に寝っ転がっていると、屋上へ上がる扉が開いて一人の女子生徒がやってきた。
「あのう…じしょうまよせんぶかっこきた…じゃなくて、マヨセン部の式彩君ってあなたですよね?。」
女の子はゆっくりとツムグの方へ寄っていく。ツムグはこれまたゆっくりと起き上がって返事をする。
「はい、マヨセン部の式彩紡です。なにかご用件ですか?。」
女の子は人違いでないと気付いて、ほっとした様子で話し始める。
「あの、私、二年生の木下というんですけど、あの、ドングリ山、あの、私の家、ドングリ山のなかにあって、それで、あの、最近、あの、怖い人たちが出るって、それで、あの…。」
あのが多いので彼女の依頼をまとめるとこうだ。ドングリ山の中の家に帰るのに例の怪物集団に襲われないか心配で心配でたまらないという。そこでツムグに帰路をつきそってもらいたいという。女の子はショートヘアーの可愛らしい印象で、可愛い娘と一緒に帰れるなんてラッキー?え、これってラッキー?。そう思い怖いのを忘れて一瞬にしてOKを出す。あわや吊り橋効果で恋に落ちたりするのかなぁ……甘い妄想をふくらますツムグであった。
帰り道、「式彩センパイって強いんですか?」「怖くないですか?」「怪物とか倒したことあるんですか?」「さぁ(どうかな?)。」「どうだろう(やっぱ怖い)。」「どうかなぁ(いいえ)。」……彼女は以外にピンポイントでツムグの弱点を攻めてくる女の子だった。そんな会話をしていると、どんどん不安になってくるではないか。せめて「手をつないでもいいですか?」とか「キスしてもいいですか?」とか、気の利いた質問をしてほしいものだ。
頼むからもう聞かないでくれ、頼むから怪物とか出ないでくれ、そう願うツムグであった。しかし嫌なことって避ければ避けるほど出くわすもので、歩いている途中、薄暗い不気味な山道でいかつい男四人組に出くわした。
「ひぃ。」
といってツムグを盾に後ろに隠れる木下さん。おいおい1対4か、かんべんしてくれ。
「ひっひっひっ、ウマそうな若い肉だ。」
「特に女の肉はウマそうだ。」
「そうか?オレは男の方が身が締まっててウマイと思うが。」
うわーなんかエグイトークはじめたなぁ…。
ちなみに4人は人が通るのをまちぶせしていたのか、道の前と後ろから二人ずつでてきてツムグたちを囲った。ゆえに逃げ道などない。横はそりたつカベと急な坂になっている。
よし、坂を下ろう。
木下の手を引いて坂の方へ走ろうとする。が、
「ヴガアアアアアアアアアアア!!。」
男の一人が超ジャンプをして、坂の下に舞い下りる。驚くほどのジャンプ力、男は体から白いモヤを吹き出し、それが赤、灰、茶、青とチラつき徐々に姿を変え、大きな大人一人分もある化け猫に変わった。
「シャアアアアアアア!。」
猫の威嚇に急ブレーキで坂下りを止める。すると、あとの3人もみるみるうちに姿が変わって2足歩行の化け猫になる。
「……全身擬態が使えるのか…。」
鋭い爪と鋭い牙で人を八つ裂きにするのだろう…。のん気に考察するツムグは丸腰。だって木刀なんて持っていったらイジメられるし…。しかし彼には武器がある。彼の左手から白いモヤが出始める。
「っセンパイ…・」
か細い木下の声に
「大丈夫。」
そう返す。
白いモヤは青、シアン、透明ブルー、紺、黄、紅色…青を基調に色彩の幅を広げていく。青いカラーに包まれて、彼の左手の手首から下は大きな白髪の犬の手へと変化した。
「僕にはこの爪がある。自分で鍛えたカラーが。」
シャアアアととびかかってくる化け猫、それを左手ではじき返す。すると、次の猫が後ろからとんでくる。敵の爪を爪でガードするも敵の振り回した拳がモロに命中し、横の坂の上にふっとばされる。
「ぐはっ。」
あまりのショックに息がつまる。内臓が直接痛むようだ。4匹はツムグをおいて木下を囲む。そして、今まさに怯える少女にとびかからんとした、直後
しゅるるる
巨大な根っこが大地から現れて4匹の化け猫を一斉に縛り上げた。気付けば、倒れている自分の横に女の人が座っていて…。
「あなたは?。」
女のひとは見たこともないような肌の白い美人で、ふっと笑って右手を前につき出す。その手をぎゅっと握りしめる。せつな、
『グギィヤアアアアアアアアアアアアアアア!!!。』
飛び散る鮮血。
猫達を捕らえていた根っこから無数の巨大な棘が出現し、4匹の猫を串刺しにしていた。息絶えたのか絶句するネコたち。
全て一瞬だった。