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色織  作者: 千坂尚美
三章 蒼雨殿編
54/144

龍島

おはなし3-11(54)  



 龍の島は木々が多い茂り中央に向かって山々がより大きくなるようにそびえている。ツムグ達は午後の疲れをとるために移動中船の中で熟睡していた。島に着きイキたちがそれを起こす。

 イキ班のメンバーは、リーダーのイキの他に大柄な褐色肌の大男エツ、アイメイクの強い黒髪ロングの女性イカル、体が人間で頭が魚の変わった半魚人トクの四人組。エツはタンクトップの白シャツに淡い黄緑色のだのっとしたクォーターパンツをはいていてムキムキの体で顔もでかい。イカルも褐色肌でタンクトップの黒シャツに明細柄のパンツ、裾は折り曲げている。トクはぴたりとした長袖の黒いシャツに動きやすそうな緩めのベージュのパンツをはいている、ちなみに性別はオス。皆黒い戦闘用のブーツを履いておりイキだけ黒色のビーサンを履いている。

「皆着いたよ、起きるんだ。」

肩をゆすられう~んと眠そうに起きるツムグ達。イキたちは紺色の青の国の騎士の証であるマントを羽織る、南国用に他の国とは違いかなり薄手の生地だ。船はゆっくりと速度を落として島の海岸へ着く。七人は草の茂る陸へと上陸、島にはシダ系の植物や大きなヤシの木がたくさん生えている。

「はぁー、本で読んだ恐竜の島そのものだー。」

花が眼鏡をさわって感嘆の声を上げる。背の高い木々で遠くまで見えないが、遠くの方で珍獣の鳴き声が時折聞こえる。ツムグ達が島を見回している間に大男のエツが頭に新橋色を纏わせる。

モゴモゴモゴ

彼の額から脳ミソのようなものが肥大して漏れ出してくる。エツはそれを指でつまんでぷちゅっと小さくちぎる。

―うげ、何してるんだろ…気持ち悪い。

エツはその小さくちぎったウニウニをツムグ達に配り始めた。手に取るとぬるぬるして生温かかった。

―う″あ″あ″、、、

「な、何なんですかこれ?」

ツムグが問う。

「これは狂気を抑制する暗示のかかったお呪いだよ。懿が使っていた遠隔狂気感染源はこれの真逆の原理のはずだ。これを持っていれば少なくともすぐには狂気に感染しない。」

イキが答えてくれる。

「お守りってことですね。」

花が言う。

―んーん、もっとましな見た目のお守りがよかったな。

「でもあんた達、気を付けなよ。ここ、狂気で満ちている、いつこの島の珍獣が襲いかかってくるか分からない。」

「はい!」

イカルが助言をくれる。

「パクパク、パクパクパク、パッ、パクパパクパパ。」

トクが魚の口をパクパクさせて助言をくれる。

「……………!!」

何を言っているのか分からない。同じチームのイキに通訳を求めて目を向けるが、目が合った瞬間イキはさっと目を逸らす。

―………え!?

「よ、よし、じゃあ行こうか。」

そう言って先を急ごうとするイキ達。彼らがトクの言葉を理解できたのかは定かではあるがツムグ達も彼らについて中央にそびえる青崚山へ向けて歩き始めた。

 龍の島は竜の島である。絶滅したとされる恐竜が現代に世界で唯一存在するとされている。ゆえに島は天然記念物をはるかに超えた人の立ち入ってはならない聖域となっている。しかし、特別警備があるわけではない。実際今回の様に普通に入れたりするのだが、島には古くからある噂があり、その噂を恐れて人はこの島を訪れないのだという。噂の内容はこうだ…島には青い龍様がおり島に立ち入ったものを食っちまう…。実際、過去に竜や竜の卵の密売を目当てに島に立ち入った輩がいたらしいが、青龍の逆鱗に触れたのか誰も帰ってこなかったという実話まである。蒼雨殿では望遠鏡で幾度も空を舞う細い蛇を確認しており、青龍の存在は単なる噂ではないとほぼほぼ確信している。

 今、ツムグ達の目の前では草食竜たちが互いに共食いをしている。

「ウゲ、グロいな。」

普段は草しか食べない温厚な竜達は、どちらも互いの首に嚙みつき合い肌の所々がえぐれて骨が見えている。それでも竜たちは痛みなど感じないかのように充血した目をひん剥いて共食いを続けている。

「先を急ごう。」

山道を再び歩き始める。

「でも、本当に恐竜がいるなんてびっくりしました。」

「やっぱりあれって、狂気に感染してましたよね。」

「うん、おそらくね。」

険しい山道は土の大地から大きな岩場へと変わりさらに険しくなっていく。途中、狂いに狂った草、肉食竜達が襲ってきたリ、空から翼竜の死体が落ちてきたりとかなりハラハラする山登りだが、イキ達が全て冷静に対処してくれたおかげで何とか無事に登れている。そんなドキドキ登山を二時間ほど続け、かなり標高が高くなりようやく頂上へ近づいてきた。標高は一千メートルあまりといったところか、勘なので詳しくはわからない。そうして登っていると突然、

ヒュォォォォォォォォォォ!!!

遠く上の方でなんとももの悲しいうなり声が聞こえる。

『!!!』

僕達は駆け足になり頂上を目指す。すると、

ズゥン!!!

突然地鳴りがして大地が揺れる。

「皆、急いで!何かマズい予感がする!!」

上へ向けて猛ダッシュの一同、目の前はお生い茂った木々の途切れ目がありそれを超えて視界が開けた場所へと出る。そこで見た光景は…、

「……間に合わなかったか。」

目の前には大きな泉がありそこから吹き出す水蒸気でかなり視界が悪い。が、前方に確かに何か大きなものが横たわっている。大きなそれは太くて鱗の様な肌をした紺色の物体、数十メートルの長い生き物が霧の向こうから下の森へ向けて体を横たえている。太さは直径二メートルほどで体長はおそらく今見えているのでもほんのごく一部なのだろう。

「イカル!」

「ああ!」

イカルさんは右手から白いモヤを出してそれが霧の世界にまぎれる。そしてそこから の綺麗な色のコントラストをつくる。右手は白と茶のまだら模様になり、側腕からは黒が基調でそこに雪を降らしたような白が特徴的な大きな羽のようなヒレが生える。彼女の擬態はトクビレという魚、その大きなヒレを扇の様にして霧を吹きとばす。ヒレの一扇ぎで辺りに突風が吹き荒れ僕たちの髪もぐしゃぐしゃに乱れる。霧は一瞬にして晴れ、湖の真ん中に背の小さな男が一人立っていた。黒いマントを羽織って黒い包帯で肌の見える所をぐるぐる巻きにして片目がぎょろりと見えている。身構える僕達。

「フ、フフフ…レンの手先共、ようやく来たか。」

不気味に笑うしゃがれ声は数時間前、例の船の中で聞いたのと同じ声で…。

「一足遅かったな。と、言いたいところだが、実はまだ例の物を見つけられていない。しかして!ワシが探しとる間に貴様らみーんな死ね!死ね死ね死ね!!!」

パチン!

包帯の男は指を鳴らす。すると空からすさまじい速度で何かが降ってきて大きく水しぶきを上げて湖の中央に着地する。皆しぶきを防いで見る。現れたのは翼竜の翼を持っており、

「…親父。」

サトが顔をしかめる。

翼竜の男は片翼を広げてゆっくりとこちらを振り向く。黒いマントに全身黒服に身を包んでいる彼はこの前とはだいぶ様子が違う。顔の半分が、返り血なのか本人の血なのかで真っ赤に染まっており、立派な翼は右翼が折れてダランとしている。

「青龍と戦って無事って訳じゃなかったようだな。みんな、やるよ。」

構える一同。しかしサトは、

「おいオヤジ!俺だ、サトだ、分かるだろ!」

クニはすっと身をかがめ

ドバンッ!

すさまじい水しぶきを上げる。同時に僕らの目の前にカラーを纏って進み出たエツさんが後ろへ弾き飛ばされる。

「!!」

一瞬にして僕らの目の前まで距離を詰めたサトの父の一撃でエツさんの擬態した貝の盾は砕け散る。

―何だ今の…速すぎる!エツさんがガードしてなければ今ので三人は死んでた。

ゴクリとつばを飲む。イキさんたちはすぐに刃を生やしてクニにかかっていく。クニは大きな翼を赤いちりに変え素早い体さばきでイキ班の三人の攻撃をかわしていく。クニの身体能力も異常だがイキ達の動きもすばらしく入っていけるスキがない。

「ツムグ、見て。」

「!?」

花がクニを指差す。よく見れば彼はほとんど左足が動いておらず、ダランとした右腕からは動くたびにポツポツと血がこぼれ落ちている。クニは右胸部から茜色の色彩が溢れて人間の手の数倍はある大きなT-REXの三本爪を生やす。それを武器にしてクニの反撃が始まる。

「敵の一撃は重い!受け流せ!」

「左足と右腕が動いていない、集中的にそこを攻めろ!」

大きな爪と魚のヒレが激しくぶつかり合う。起き上がったエツも再びカラーを纏いクニにかかっていく。

「おい、止めろよ。」

サトが震えた声を出す。

「止めろ、俺の親父なんだぞ。止めろ、止めろぉおおおおおおお!!」

赤い色彩を散らして羽を生やす。

「!サト!」

僕は花と二人で必死にイキ達の元へ突っ込もうとするサトを食い止める。

「放せ!はなぁせえええええ!!!」

「落ち着いて!きっと殺したりしないわ!」

「そうだよ!それに、お父さん倒さなきゃ僕達皆死んでしまう!」

羽交い絞めにした僕らを振り払おうと暴れまくるサト。

「そ…んなの分かってる!でも!!あークッソどーすりゃいいんだよぉ!!!」

サトの力が抜けて水面に膝をつき、赤い羽で思いっきり水面を殴る。そんな彼の様子を見つめた後、再度戦況へと顔を向ける花。彼女の目にはクニたちの奥で悠々とお宝探しをする黒い包帯の男が映り。

「サト、あれ見て!」

「!?」

「あの包帯ヤローをぶっ倒せばお父さん正気に戻るはずよ!」

小男を指差して言う。

「そうか!っし、アイツ今すぐぶっ殺__。」

ドン!

『!!』

いきなり人間が吹っ飛んできて僕らの横で盛大な水しぶきを上げる。驚いて見ると水面には気絶したトクさんが口から泡を吐いてくたばっていた。とっさに戦況を向き直る、するといつの間にかクニの左手にはトリケラトプスの頭が盾のようになり擬態していた。続けざまに今度は女性の甲高い悲鳴が響く。イカルさんがクニの左翼に吹き飛ばされてしまったのだ。残ったのはイキさんとエツさんの二人、イキさんの班はあっという間に戦力を半分に削られてしまった。

「まずい、はやくあの包帯を仕留めよう!」

「ああ!」

僕らはそれぞれ体に動植物を擬態させ、サトと花はトビズムカデと銀杏の木の遠距離攻撃を標的へと飛ばす。男はすぐさま身の危険にビクリとし、ピュウィと指笛を鳴らす。するとイキさんたちと戦っているクニが大きな左翼を勢いよく広げサトと花の攻撃を弾いてしまう。

「くそオヤジ、何やってんだよ!ああもう!」

一人突っ込んでいくサト。僕らもそれを追って突っ込んでいく。クニはすさまじい速さで僕らの前へとスライドし、翼の一扇ぎの突風で僕ら三人を後ろに押し戻してしまう。僕らは水面に盛大に尻もちをつく。イキさんたちは雄叫びを上げて昆布の髪と大きな貝の手裏剣を飛ばす、が、それらもクニの片翼の一振りでいなされてしまう。

――…つ…よすぎる!

クニ強さに体は戦慄を覚える。

「フハハハ、雑魚共が!ざまぁねぇ。さてと、ワシは探し物の続きをするかの。」

自身の身の危険が去ったことを見届けて再びポチャンと浅い水面に潜っていく包帯男。イキさんたちがバシャバシャとこちらへ走ってくる。

「皆大丈夫か!?」

そういうイキさんたちも体にいくつも浅い傷を負っている。頷く僕ら。

「よし、それより今の救いは懿が操れるのは彼一人ってことと、彼が手負いだってことだ。アレでフルの力なら間違いなく今頃全員あの世行きだ。」

「それともう一つ。」

「?」

サトが口を開く。

「親父の最大のカラーは右腕のT-REXの顔面だった…それが今は腕がつぶれて使えないってことだ。」

「………よし、僕らはなるべく君のお父さんを引き付ける。そのすきにサト、君は懿を倒す、いいな?」

「ああ。」

頷くサト。圧倒的な敵に死の恐怖を覚えながらも僕らもまた頷く。イキさんも頷き再び敵を向き直る。

「行くよツムグ、花!」

『はい!』

イキさんとトクさんに続いて僕らも勇気を出して敵へと駆けていく。バシャバシャと走りづらい浅い湖を駆け水しぶきが立つ。サトはクニに邪魔されないように湖の周りを大きく弧を描いて飛び懿に接近。

『おおおおおおお!!』

僕らは四人同時にクニに攻めかかる。

バッ

サトを仕留めようと宙に浮くクニ。そこをイキさんの昆布が捕らえ昆布を振り回して水面に叩きつける。

バシャァアアン

「今だサト!」

「おお!」

サトが懿に急接近。が、サトの右翼を突如伸びてきた槍の様な鞭が貫通する!

『!!』

「ぐ…、お″おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

苦痛に叫ぶサト。クニは爪で昆布を切り、水の中から立ち上がる。その腰のあたりからはヒュンヒュンと長い竜の尾が伸びていた。

―遠距離技もあるのか…!

懿はすいすいと泳いで苦しむサトから距離をとる。イキは昆布を伸ばすがクニの尻尾に阻まれる。

「チッ。」

「くはは、分かったか!ワシを狙うなんざ愚かなことは止めておとなしく人形に殺されるがよい!くへ、ひ~へっへっへ。」

「あのヤロ…ぶっ殺す!」

サトは穴の開いた羽を広げて飛ぼうとするが、うまく風に乗れずバシャンと水の中に落ちてしまう。僕らはクニとの戦いを始める。

「クッソ!」

サトは立ち上がってどんどん深くなる水の中を重そうに走っていく。サトの邪魔はさせまいと必死に戦っていた僕らだが、エツさんがクニの一撃に吹っ飛ばされ、同時に抜けだされて走るサトの前にクニは飛び翼の一撃を放つ。とっさに穴の開いた翼でガードするサト、が、あまりの威力に水面に叩きつけられる。大きく水しぶきが立つ。

「ゴボ、ゴホッ、…おい親父!邪魔すんな!てゆーか目ぇ覚ま___。」

ドン!

蹴りの一撃がサトを大きく後ろへ吹っ飛ばす。水を切って転がるサトを僕と花でキャッチする。

「ぜぇ…ヒュー……ぐっぞ…お、やじ…。」

「サト大丈夫!?」

「ぜぇ……おれのこえ…きこえてないのかよ。」

痛む体に力を入れヨロヨロと立ち上がる。

「なら…目、覚まさせてやる……俺が、この手で。ツムグ!花!イキさん!」

青年の瞳があけ色に燃える。

「俺は、親父を倒す。」


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