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色織  作者: 千坂尚美
一章 緑森宮編
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赤羽

おはなし5  


「うおらあああああああああああああ!!!。」

すさまじい剣幕で殴り掛かる男。

「ひっ。」

「マツボ、下がって!。」

すかさず木刀を引き抜くツムグ。

ボコッ。

リーチの差でツムグの木刀が振り上げた右腕の付け根を直撃する。男は手の形をグーではなく、まるで相手を引き裂かんとするような形にしているのに気付く。

「ッ()エ!。」

打たれたヶ所をかばい飛びのく男。

「イッテェ、テメエ!。」

カッ

男の右肩から赤色の色彩が吹き出す。血ではない、それは自ら光を放っていて、赤、朱、橙、同系色のコントラストがチラつき美しい。

「!、カラー。」

色彩は徐々に上へ向かい一枚の翼が現れた。翼は月明かりに照らされ赤褐色をしているのが分かる。タカなど猛禽類の鳥の様に鱗のように生えそろった羽をしている。鱗には、目を彷彿とさせる黒い模様がそれぞれ二点ついている。男は現れた片翼で体を斜めにして飛んできて、思い切りツムグへ翼を叩きつける!

ゴシャァァァァァァ!

とっさにかわすツムグ。しかしツムグのいた所にあった灌木が、あまりの威力にヘシ折られてしまう。次々と羽を振り回し襲ってくる男。マツボは草陰に身を隠し、標的はツムグ一人となる。ツムグは冷や汗タラタラにそれらをかわしていく。おそらく打たれれば、巨大な棍棒で殴られたのと同等のダメージ…悪ければ死ぬ…かも…だろう。

「く…そ…colorにはcolorだ。」

ツムグの左腕が青い色彩に包まれる。

ゴキィィ!

白色化した犬の手で翼を受け止めた。歯を食いしばる二人、近距離で対峙する。

「おい…小豆村の住人たちが、きみの悲鳴に怯えている……どうにかならないのか?。」

「アアア?いきなり出てきて偉そうに、クソガキがぁ!。」

腕と翼の押し合いは続く。

__なんとか、会話はできるか…。

バキィィィ。

両者、腕と翼を振り下ろし、反動で後ろへ後退する。

「なんで僕を襲う?。」

「?、んなのカンタンだ。ニンゲンだからだよ。」

翼の羽と羽の隙間から赤いマグマのような光が点いては消え、点いては消え、彼の呼吸と共に点滅する。

「きみも、ニンゲン…。」

「てめぇに…オレの苦しみが分かるか?ニンゲンはどいつもこいつもキモチワルイ。吐き気がするんだよぉ。」

男はおかっぱの黒髪、年はかなり若い、自分と同じ二十歳前後か…。黒いタンクトップに裾の擦り切れた赤みの短パンをはいている。足は裸足だ。

「だからオレはゴーセーチョウに入った。ニンゲンから離れて暮らすためになぁ。」

?ゴーセーチョ…何だって?

「オレは何度も何度もココで人を殺した。だけど、何度殺してもイメージが襲ってくる。人が、たくさんいる、イメージが、何度も何度もオレはそのイメージを消したくて、殺したんだ。頭の中で、何度も、だけど、イメージは消えてくれない。苦しい、嫌だ、なんなんだよ、苦しい苦しいキモチワリィ……。」

__極度の対人恐怖症?それとも…。

「オレの使命はこの森に来た人間を始末すること…だからテメエを、フルボッコだあ!。」

再び赤色の色彩が男の右肩付近から吹き出る。ボコボコと音がし、男の右腕がもう一枚の翼に変わる。合計二枚の翼が右の腕の付け根と肩甲骨あたりから生えている。これにはツムグも隠れて見ているマツボも、ワオ(マツボ)と驚きだ。バサァと音を立てて飛び立つ男、二枚の翼が右半身にありバランスが悪く体を縦に倒した姿勢で迫り来る。しかも、

「速い___。」

メキィイ

()…。」

受け止めた左腕に激痛が走る。ツムグは爪で翼を振り払い、右手に木刀、左手に爪、両刀で対抗する。対する男は腕から生える翼を身を守るように閉じて使い、肩甲骨から生える翼を尖らせて突き攻撃で攻めてくる。振り回す木刀をガードした羽ではじかれ、手をすっぽ抜けて飛んでいってしまう。

__ガードが固い、なら、一点突破。

生えそろった四本の爪を尖らせ、渾身の突きを打ち込む!

「な、にィィィィイイイ!!。」

ガードした翼はもげ、羽は飛び散り、男の左半身を切り裂いた。思い切り吹き出るヘドロ液体。ドロドロと切り裂かれた体から流れ出る。

「う…ぐぐ…何だこれ、体がダリィ…頭…ガンガンして…。」

赤い翼は散り、右手は人間の手に戻り傷口をかかえる男。

「この爪は狂気を狩れるんだ。」

「お…おお…テメエ…。」

「せっかくキレイな色彩(カラー)を持っているのに、もったいない。」

「チッ…ゴミ人間が…。」

「……ゴミ…。」

「ああ、テメエらみんなゴミだ。」

「……かもね。」

「は?。」

「かもね。」

「………チッ。」

男はふらつきながらも後ろを向いて去っていく。ただただ呆然とそれを見送るツムグ。男は森の闇の中へ消えて行ってしまう。それを完全に見送りマツボが茂みの中から出てくる。

ガサガサー

「プはぁ、やったなツムグはん!。」

「うん、爪も入ったし、多分当分大丈夫(叫びが)だと思う。あとは_。」

「あとは?。」

「うん、迷子の小豆たちをどうにかしなきゃ。」

「おおせやった。忘れてもーてたわ。」


 小豆達の元へと戻るツムグたち。月明かりの下、そんな二人を眺める影が一つ、高い樹木の上に…。

「ふ~ん、ツムグくん、ちゃんと仕事やってるじゃない。」

フフフと笑って、影は姿を消した。


 翌朝。

「いやぁ、助かりました。おかげで昨日はぐっすり快眠。」

ツムグたちに礼を言う小豆達。そう、昨日はツムグが奇声を上げる青年を撃退した後は叫びの一つもしなかったのだ。ツムグたちは敵を退治した後、迷子になった小豆達と合流し、無事村まで届けた。小豆達は叫びの青年にやられたものと思っていたが、実はただ単に三日間森で遭難し、文字通り迷子になっていたという。

「仲間も無事見つけていただき。」

「迷ったということは普段あの森へは皆さんあまり行かないのですか?。」

「と、いうよりもですなぁ、思い出したのですが、何せ我が一族総じてかなりの方向音痴なものでして。」

「ああ。」

もう少し早く思い出せれば犠牲を出さなくて済んだろうに。(死んではいない。)ツムグたちはしっかりと報酬金をもらい、そして小豆達に手を振って三人は小豆村を後にした。


「すごいじゃないツムグくん、ちゃんと仕事できてるし、私も見に来てよかった。」

「いえ…。」

__師匠、寝てましたよね…。

事実はどうであれ、褒められたのは素直に嬉しい。ツムグの口角が微妙に上がる。昨日の森での出来事を彼女に話しながら、若草へと続く道をふらりふらりと歩く一行であった。 

さやなは「ふーん。」とか「すごい変な人だったのね。」とか適当に相槌を打ってくれる。道は木で囲まれた林を抜け、田んぼが広がる道へと続く。遠くに広がる山々を見ながらの散歩はキモチいい。今日は昨日のような暑さはなく、爽やかな晴れの日だ。もっとも、爽やかに感じるのは自分たちの横にいる女性のせいかもしれない。

 3.40分程度の散歩を終えると、いつもの町、若草へと着いていた。住めば都、自宅のある町は、帰るとほっと気持ちが安らぐ。それから町のにぎわいを少し歩き、ツムグの借り家へと着いた。

「ふぃ~、なんか旅行気分やったなぁ~。」

「そうですね~。私も久しぶりに羽が伸ばせました。」

「羽生えとるん?。」

「ひゆですよ比喩。」

「火湯?。」

のんきに話す二人だが、仕事をしに行ったツムグの疲労は大きい。

「ふぅ。」

思わずため息が出る。

「じゃ、私、そろそろ帰りますね。ツムグくん、この調子でがんばって!。」

「え。」

もう帰っちゃうんですか。

「はいコレ、私が帰ってから読んでね。」

一枚の手紙を袖から取り出しツムグに手渡すさやな。そして指先から白いもやを出したかと思うと、一瞬にして大きな雲になり、よっと飛び乗ってふわりと浮かぶ。

「わあ。」

驚くマツボ。

「それじゃあねぇー。」

彼女は手を振って空高く飛び立ち、都のある南へと行ってしまった。

「はぁ、いっちゃったか。」

またため息をついて彼女にもらった紙切れを見つめる。いったい何が書かれているのか…いや、それよりも気になることが、

昨日森で苦痛に叫ぶ青年を思い出す。

「人が怖い…か。」

「え?。」

「いや、なんでもない。」

マツボの問いに生返事を返す。結局小豆達に危害を加えなかった青年、自分の頭の中で殺戮を繰り返す青年…。

あの青年(あいつ)、元気でやってるかな。

はぁ。またため息のでるツムグであった。


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