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色織  作者: 千坂尚美
三章 蒼雨殿編
48/144

淺島

おはなし3-5(48)  



 ああ思い出した。洽村で出会った骨食い女、彼女もああなる前に淺島に旅行に行っていたのだった。朝起きると、僕は自然とそのことを思い出せたのであった。

「ツムグ、昨日は悪かった。」

サトは先に起きていて僕に謝る。アヒトルたちが狂気じみていたのと、サトの暴走、何か関係があるのかもしれない。今日は病院に運ばれていったアヒトル達を訪ねてみよう。

 僕らは朝食をふるまってもらった後、お礼を言って渙村の病院を訪れた。面会届を出して早速アヒトル達に会うことに。

「それがよく覚えてないんだよ。」

会ってすぐに彼らが言ったのは、その一言だった。どうして踊り狂うようになったのかも分からず、狂っていた時の記憶も曖昧、いろんな聞き方で情報を聞き出そうとしたが、分かったのは淺島に行くまでの記憶ははっきりとしているということだけだった。

――やはりその島で何かが起こったのか…。

「どうする?これから。」

病院を出てサトが尋ねる。

「?どうするって?」

「つまり、蒼の都に寄る前に淺島に行ってみねぇかってことだけど?」

「うん、そうだね。」

「ふふ~なんか面白そうね。」

「バカ、面白いから行くんじゃねーよ。何か事件の臭いがする=金儲けのチャンスだろうが。」

「おうなるほど、確かにせやね!」

意外とお金に聡いサトである。

「よし、じゃあまずは淺島を目的地に…。」

『出ぱ―――つ!!!』



ザアアアアアアアアア

渙村より南の沿岸部、港町までやって来たツムグ達。しかしその日はひどい大雨で海は大しけ。船乗り場までやって来たはいいが、

「ダメダメ、今日は危険だから船は出せないよ!」

船乗り場のおじさんに追い返されてしまう。

「ふー、とりあえずどこか泊めてくれる家を探そう。」

仕事もなく寄生虫の様に各地の民家を転々としタダ飯を食らってきたツムグ達。この村でもどうせ誰かが泊めてくれるだろうと軽い気持ちで民家を回ったが、現実はそう甘くない。この村ではどこも宿がとれずに結局野宿することになった。ひどい雨なのでとりあえず雨宿りできるところを探す。しばらく探しているとおんぼろで傾いた空き家があったので、そこにお邪魔することに。(今日本では空き家に勝手に入るのは不法侵入なので皆は止めましょう・住居侵入罪、刑法130条参照)空き家の中は長い間誰も住んでいなかったのか埃や砂が大量にたまっていてくしゃみが出そうで、大量のクモの巣に所々に小さな虫がいて今や虫さんの家になっている様だ。ツムグは虫たちにお邪魔しますを言う。乱雑に置かれた食器類は傷みカビが生え、傾いた柱も所々腐敗しており耐震強度はかなり低そう。それでも雨をしのげる空間と風化した薄暗がりの静けさがなんだか心を落ち着けてくれる。ツムグ達は特にやる事もなく暇なのでマツボをボールにしてバレーボールに興じた。※いじめではありません。最初はわいわいと楽しげに盛り上がっていたが、花の打ったスパイクが腐った柱に直撃し、柱が半分折れそうになったことをきっかけに彼らはその遊びを中断した。

「痛ったいわ~、花はんてかげんしてや~」

打った腰をさするマツボ。花はごめんごめんと笑って謝る。マツボは「んもー。」と不満の声を出すが次何やる~?とまだまだ乗り気のようだ。次は何して遊ぼうかと話していると、一羽の鳩が吹きすさびの穴から入って来た。見ると、鳩は緑色の足輪をしており緑森宮の伝書鳩と分かる。鳩はツムグの肩にとまって足に握っていた手紙をわたす。

「師匠からだ。」

手紙を広げて言うツムグ。鳩は彼の肩から飛び立ち、飛び立ちざまに白い半固体をぴゅっと漏らす。ツムグの肩に乗ったそれを見て顔をしかめるサト。ツムグは手紙に夢中で気付いていない。

「何て書いたるん?」

花とマツボはわざわざ糞のついていない方に回って手紙を覗く。手紙にはこう書いてあった。

~前略

 ツムグくん達、順調にいけば港辺りに来ているころですね。そこで一つミッションです。

 一週間ほど前から、淺島という島に行った人々が続々と狂人化する事件が多発しています。そこで、島へ行って原因を探ってきてほしいのです。近隣のマヨセンたちも気にかけているようですが、なかなか狂人を目の当たりに島へと踏み込めていないようです。次期、殿の方も動くでしょうが緑森宮こちらとしても早めに情報が欲しいところです。報酬はこちらから支払いますので、お願いできますか?


追伸 

今回サト君はお留守番でお願いします。



「…って、何で俺は留守番なんだよ!!」

いつの間にかサトまで手紙を覗き込んでいた。…やはり糞の付いている反対側へ回って。

「そりゃぁまぁ、前科があるしねぇ~。」

花は腰に手をあてて言う。

「くぅ〰〰。」

反論できないサト。

「まぁまぁサトはん、寂しいんならワイがおってやるさかい。」

「マツボ、島行くの怖いんでしょ。」

「ギクッ!」

ギクッを声に出して言うマツボ。図星の様だ。

「まぁいいわよ、今回は私とツムグの二人で行くから。」

ね、と目配せする花。ツムグは何で三人とも片側に寄っているのか不思議に思いながらうんと頷く。

「お主ら、あの島へ行かれるつもりか?」

バンっと床が開いて急に浮浪者らしき男が現れる。

「なんだ、いたのかよ!」

突然の住人に驚く一同。

「すみませんお邪魔してます。」

ツムグはいたって冷静に詫びを入れる。

「いやよいよい、わしもお主らの仲間じゃ。」

仲間にはしてほしくなかった。

「で、ホームレスのおじさん、何か淺島について知っているんですか?」

花がわざわざ丁寧な名称で彼を呼ぶ。おじさんはガリガリと頭を搔いて大量のフケを落とす。

「知ってるも何も、昨日島へ行った船の乗組員、全員気がおかしくなって病院へ運ばれたのはこの村じゃビッグニュースですぞ。」

ツムグと花は眉をひそめて互いに顔を見合わせる。おじさんは鼻くそをほじりだし、ゲッとげっぷを吐いた。



 翌日、嵐は去り、空は晴天になる。

 船乗り場へ行くと、船乗りたちは皆島を怖がり行くのを拒んだので、仕方なくツムグ達は手で漕ぐタイプの小さな船を一艘そう借りて、それで島へ向かうことに。

ちゃぷん、ちゃぷん

ちゃぷちゃぷ音を立ててツムグはボートを漕いでいく。最初はまっすぐ進まなかったが、しばらく漕いでいるうちにだんだん慣れてきて、格好もそれなりになる。が、舟を漕ぐのは見た目以上に難しく、筋力と体力をかなり使いツムグはすぐにへとへとになってしまう。

舟を漕ぐかい―オールともいう―は一本しかなく、花はきらきらと太陽を反射する水面をうっとりと優雅に眺めている。

「キレイね~。」

ちゃぷん、ちゃぷん

「花、かわってよ。」

「やだ。」

―即答か。

ちゃぷん、ちゃぷん

「なんかボートで二人きりなんてデートみたいだよね。デートで彼女に船漕がす彼氏はいないでしょ。ま、そういうことよ。」

カチャリと眼鏡を触ってどや顔の花。

――…なにがそういうことよだ。

「これはデートじゃないし、第一こんな海のど真ん中で彷徨ってたら……漂流じゃん。」

ツムグははぁとため息をついて言う。

「ふん、ま、どの道その木の棒はか弱い乙女の持つものじゃないわ。頑張りたまえ青年。」

ツムグは不服そうな顔をするも結局最後まで漕ぐことにした。



―淺島

 島の船着き場に大分苦労して船を泊め、砂浜へ上陸する二人。

―あー、明日絶対筋肉痛になるな。

そう思いながら浜の先の石段を上るツムグ。段を昇るとすぐに町並みが見てとれる。そこで二人はすぐに変なものを見た。

「キヘヘヘヘヘヘヘ!!」

大の大人が奇妙な爆笑をしながら町を走り回っている。しかも一人や二人ではない、たくさんいる。

「アガ、アガガガ、ガァ――――!」

すぐ横の海の家から小さな子供が飛び出してくる。子供はガブリとツムグの腕にかぶりついた。

「いっ!」

「アガ、アガガガ。」

ギリギリと歯を立てて肉を引きちぎろうとする子供。ツムグは苦痛にうなりながら必死に引きはがそうとする。が、子供はすごい力でかぶりついており離れない。その目は充血していて視点は定まらず正気の沙汰ではない。

「ごめん!」

子どもの首筋を真剣チョップして気絶させる。がぽっと口を離してどさりと倒れ込む子供。ほっとしたのも束の間、近くの民家から先ほど同様奇声を上げてもう一人の子供が飛び出してくる。花は襲いかかってきた子供を蹴りの一撃で蹴り飛ばす。

「あぎゃぱぁ!」

吹っ飛んだ子供はピクピクと痙攣けいれんする。

「なんか、イカれた連中ばっかね。ゾンビの島みたい………は!ツムグ、さっき噛まれたよね!!」

「うん、痛かった。」

「はぁぁ…これは後々ゾンビになるパターンのやつよ。」

「?そうなの?僕あまりそういう本は読まなかったから。…ていうかこの子たちゾンビじゃないでしょ。」

見た目は普通の子供と同じで、一度死んで甦ったようには見えない。

「ま、ツムグがゾンビになっても私が殺ししてあげるわ。」

「……あ、うん。」

大人たちはイッケケケケケと笑いながら相変わらず町を走り回っている。あんなに走り回ったら疲れるだろうに。…よく見ると街角には、コンビニの前で髪の毛を頭の上で一つ結びにしてジャージに健康サンダルですっぴんのお姉ちゃんが座っているのと同じ体勢で休んでいる人もちらほらいる。

「花、鈴のカラーを。」

「うん、もう出してる。」

フワフワと白いモヤが揺らめき、花の腕には中黄、黄緑、薄卵の色彩が。彼女の左腕はポコポコと銀色の金属塊となる。

「イッケケケケケケケ!!」

一人の大人がこちらへ猛ダッシュしてくる。花は突進する変人に左手のエルボーを食らわす。

「ぐべらっ!」

じゅううううう~

大人は拳を食らった箇所からジュウジュウ音と煙を上げてヘドロ液を垂らす。

「うーん、鈴のカラーが効くってことはやっぱ何かのウイルスなのかな?」

「ウイルスって、本当にゾンビ小説みたいね。」

花は嬉しそうに言って倒れる島人の上を跳び越えていく。一方のツムグは幽霊とかゾンビとか最近こりごり続きである。奥へと進む花の後を追っていく

 僕らは襲ってくる人たちを狛犬の手と鈴の腕で浄化しながら島を奥へと進む。不思議なことに、襲ってくる人と襲ってこずにケラケラ笑ってこっちを見ているだけの人、こっちには見向きもせずに自分の行動に夢中になっている人など、みんなまちまちだった。いずれにせよ不気味なのには変わりないが。

「ツムグ!あれ見て!」

「?」

花が斜め前を指差す。その先を見ると、村の目立つところにかつ色、砥茶とのちゃ色、青鈍色、青墨色の黒いカラーがきらめくヌメヌメとした物体が落ちていた。

「あれは…!」

ドッ

直後、僕の体は幾つもの樹枝に串刺しにされた。


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