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色織  作者: 千坂尚美
三章 蒼雨殿編
46/144

傷跡

おはなし3-3(46)  



親父が、この村で戦闘を?

「その争いって、この村のどの辺で行われたか分かりますか?」

「ああ、西の方じゃったぞ。今も大きな傷跡が残っておる。町が記念碑代わりにそれを残しておるんじゃ。」

「分かった、ありがとう。行くぞ花。」

「え、でも。」

「いいから行くんだよ。」

ぐいっと彼女の腕を引っぱって強引に外へ出ていくサトであった。一人残された医者。

「……病人は良いのかのぅ?」



 サトと花は傷跡を探して西へ走った。探して回らなければいけないかと思っていたが、それはすぐに彼らの目の前に現れた。直径十メートル以上もある大きくえぐられた大地だった。

「!」

「で…でっか!」

痕跡の周りは立ち入り禁止になっていた。

「どう?サト、何か分かる?」

「……。」

サトは険しい顔をして傷跡を眺めている。

「俺の親父は…。」

傷を見つめたままで口を開く。

「翼竜のカラーの持ち主だった。この傷跡を…つけられても、おかしくない。」

「てことは…本当に。」

「いや、まだ分かんねーけど、もし、あのおっさんが言ったことが本当なら、親父は蒼の騎士との合同任務に臨んだってことになる。」

「蒼の騎士…かぁ。確か蒼の都は蒼雨殿だったっけ?」

「そうなのか、よく知らねーけど。」

「うん、確かそうよ。シンボルマークはハートと魚を合わせた形だったと思う。」

「魚系と念力使いのカラーが多いんだっけ?」

「うん、で、王様はすっごい超能力者なんだって。」

「超能力者ねぇ…本当にんなのいるのか?」

「さぁ?カラーなのかもよく分かんないし。」

「確かに、何に擬態したらエスパーになれるんだ?エイリアンとかか?」

「アハ、そうかもね。」

「じゃあ、あれかぁ…闇雲にこの国をさまよっててもらちがあかねーし、目的地はその蒼雨殿とかいうところにするか?」

「うん!そうしよう!」

サトはニヤリと笑う。

「?どしたの。」

「いや、なんかこれでまた親父に近づいたと思ってな。」

「……うん、そうだね。」

花もにこっと笑う。

ポつり、

ポつり、

そらから降って来た雨水が彼らの頬を濡らす。

サァァァァァァァァ

明るい日差しの中小雨が降り始める。

「また降ってきたねー。」

花は両手を広げてくるりくるりと回り出す。目をつむって天を見上げて気持ちよさそうだ。逆にサトは雨でおかっぱがくずれて嫌な顔になる。

「何はしゃいでんだよ、ガキじゃあるまいし。」

「あはは、あはははは。」

「はぁ。」

ついていけないとため息を漏らす。

「帰るぞメガネ。」

「うん!」

花はこちらに無垢な笑顔を見せた。



 帰り道

「なんかあれだよねー。」

「あ?」

サトは雨で崩れた髪型をかなりしきりに気にして直している。

「サトと二人だけなのにケンカしなかったね。」

「……。」

確かに。

「ま、そういう日もあんだろ。」

フフフ~と笑う花。

「これは同じマヨセンとして絆が深まった証拠ですなぁ~。」

「…調子乗んなよメガネ。」

笑う花にサトはもう一言付け加える。

「心配しなくても、またケンカしてよるよ。」



 宿に帰って来たサトと花。

「あー早く風呂入りてぇ。」

「うんー。…ってゆうかさぁ、何か忘れてるような気がするんだよね。」

「は?気のせいだろ。」

「かなぁ。」

二人は部屋の前まで歩いていきガラガラと戸を開ける。するとそこには、風邪で寝込むツムグとその横でじっと待機しているマツボの姿が。

『………、あ、医者!!』

同時に声を上げる二人。

「ツムグ、待ってろ、今医者連れてきてやるからな!」

ドタドタと今来た道を引き返すサトと花で…。



 チチチチッ

 朝の日差しが差し込み小鳥のさえずりが聞こえる。

「は~あ、良く寝た。」

うーんと伸びをするツムグ。でこに手をのせる。

―うん、熱は下がってる。

隣でマツボがスヤスヤ眠っている。その横でサトが目を覚ます。

「お、ツムグ、熱退いたか?」

「うん、お陰で。昨日お医者さんにもらった薬が効いたみたい。」

「そうか、そりゃよかった。」

それから宿の朝食をとった。アジの塩焼きだった。

パク

モグモグ

うん、程よく塩が効いていておいしい。脂の乗り加減も丁度よい。サトと花は昨日のことを僕とマツボに話してくれた。

「てわけで、次の目的地は蒼雨殿だ。」

「蒼の国の都、か…うん、分かった。あ、それより三人とも、風邪うつしてないよね?」

「ああ。」

「うん。」

「大丈夫やで!」

そうか、それは

「良かった。」

ほっとする僕。パクリとほかほかのごはんを口に入れた。



 僕たちは南の海に浮かぶ街、蒼の都を目指してさらに南下した。一つ、二つと町を経由して旅を続ける度にある問題に直面する。

「あのさぁ。」

ツムグが口を開く。

「何や?」

「?」

「どした?」

「…………金欠、なんだ。ごめん!次の宿は泊まれない!」

謝るツムグ。しかし、

「何だ、そんなことか。」

「じゃあ次の町は民家に泊めてもらおうよ。」

「せやな、そうしょうか。」

そういうことになった。

 僕らは峠を超えて、あき村という村に着いた。南の町にいくにつれてだんだん民家のタイルは減り、窓は大きくなっていく。この村は屋根や床下のわずかなタイルの装飾に大きな窓のある民家が多い。町につくと、丁度そのタイミングで雨が降って来た。僕らは民家の軒下に入り雨宿りをする。蒼の国の内陸部は海からの湿った空気が上がってきて、良く雨が降りいつでも湿度が高い。気温もかなり蒸し暑くなってきている。

 雨宿りをしていると、その家の窓の簾が上がる。僕らは後ろを振り向く。

「あらあらマヨセンさん?旅の方かしら。」

中からおばちゃんが僕の持っている旗を見て言う。

「あ、はいそうです。」

すると、花がチャンスと目配せする。僕は頷いていう。

「あの、僕ら、宿に泊まるお金がなくて、よければ一泊させていただけませんか?」

「あらそうなの?いいわ、外は寒いでしょう、上がってちょうだい。」

『ありがとうございます!』

僕らは親切なおばちゃんにお礼を言って中に入れてもらった。

 夜になって、おばちゃんの旦那さんが仕事から帰って来た。彼女らには二人の子供がおり、二人とも成人して都の方へ働きに出ているのだという。夕食も振る舞ってもらい、僕らはお礼に旅の話をおもしろおかしく?してあげた。

「いや~久しぶりに賑やかで楽しいわ。」

「そう言っていただけるとうれしいです。」

おばさんもおじさんも楽しんでくれたようだ。それから、お風呂に入れてもらい眠りについた。………………………………が、眠れなかった。何故かって?それは隣の家がドンチャン騒ぎをしてうるさいからだ。

「川島さん家、こんな夜中に何してるのかしら?」

「僕、ちょっと見てきます。」

「あ、私も、クレームつけてやるわ!」

「ああヤベ、めっちゃイライラする。めっちゃイライラする。」

うるさい音が苦手なサトは頭を抱えて貧乏ゆすりが止まらない。

「オレも行くっ!」

「あ、わいも!」

「私も行くわ。あなた、留守番よろしくね。」

「ああ、わかったよ。」

おばちゃんは旦那さんに留守番を頼んで、僕らは五人で隣の家を見に行くことに。すると不思議なことに、隣の家は電気がついていなかった。僕らは首をかしげて戸を叩いて中を呼ぶ。が、ドンチャン騒ぎはおさまらずにより大きな声で呼んでも一向に出てくる気配はない。仕方がないので戸を引くと、鍵がかかっておらず簡単に開いた。

『!?』

中を見て一斉に驚く一同。そこで見た光景は、かなり奇妙なものだった。


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