叫言
おはなし4
いろんな意味で不安を覚えながらもツムグ一行は旗をかかえてチラシに書いてある小豆村を目指す。ちなみに一行とはツムグ、さやな、マツボの三人のことだ。
「師匠はこの若さで緑森宮の幹部をしてらっしゃる。」
道中、さやなの紹介は続く。
「フェ!ホンマかいな!ホンマに緑森宮の…!。」
「はい、まぁ一応。」
当たり前のように言う美人。
「そんなスゴイ人がなんでツムグはん…は!さては自分ヒモかいな。」
「は…余計な詮索はヤメロ。」
いつになくいらつきトーンのツムグ。
「一応ちゃんと働いてる…それに、師匠は師匠だ。」
「ふーん。」
解せない様子のミニグマ。
「ヒモちごたらどーゆーかんけーやねん。」
「だから…。」
「あ、着きましたよ。」
ツムグ一行は目的地、小豆村へと到着した。小豆村には小豆がいる。大豆ではなく小豆だ。全長50cmほどの一頭身の豆、目と鼻と口と手足がついた豆がぞろぞろと出迎えに出てくる。
「どーぞよくいらした、マヨセンの方々。」
さやなは目でツムグを促し、ツムグは一頭身の豆の元へ歩み寄る。
「豆さん。」
「小豆です。」
「小豆さん、詳しく話を聞かせて下さい。」
「どうぞどうぞ、ささ、狭い家ですがワシの家にお上がり下さい。」
勧められて高さ1mほどの小さな家の中に入っていった。
身を縮めて家の中に入ると、高さこそないが広さはなかなかのもので、六畳ほどの部屋(一つ一つはさほど大きくはない)がいくつかあるようで、廊下や障子がついていた。村に着いた頃に日は西に傾き、暗くなった部屋の囲炉裏に火を焚き、豆は灯を灯してくれた。ツムグたちはその灯を囲うようにして置いてある座布団に座る。
「それがですね、一週間ほど前から村の北にある森から奇怪な悲鳴が聞こえるようになったのです。」
小豆の顔は炉の火で赤く照らされている。
「夜になると悲鳴が続き、不気味で不気味でワシらは寝るに寝れなくなったのです。」
そういう小豆の顔は確かに痩せこけて見える。
「なるほど、それで私達に悲鳴の正体をあばき止めさせたいということですね。」
「そうなんです。」
「悲鳴といっても、それがどんな感じか、教えてもらえますか?。」
ツムグが問う。
「はい……それはそれはケダモノの様に奇怪なうなり…いや叫び…なんといいますかぁ…とにかく大きな奇声なのです。」
「大きな奇声…奇声…ケダモノ…そうか、パクリじゃないな。」
「そっちやったんか~。」
「パクリじゃありませんね。」
「?どうされました?。」
パクリではない、そもそも作者は某作品を読んだことも見たこともない。
「いえ、こっちの話です。」
「で、いかがされます?。」
「どーするん?。」
小豆とマツボに問われる。
「うーん、そうですね。今晩、夜通し森を捜索してみます。今日も悲鳴、いや奇声、あるかもしれないですし。」
「おお、それはありがたい。」
「……仕事なので。」
「そうだ、一つ言い忘れていたことが、三日前、村の仲間が森へ捜索に行ったきり、まだ帰っとらんのです。」
火に照らされ、青ざめた表情でうったえる。
「三日前…。」
「もしかしたら声の主の正体は、とんでもない化け物なのかもしれません!。」
一同静まりかえる。
「任せておいて下さい。」
炎の灯火の中、ツムグは一つ呟いた。
日も暮れてツムグの捜索は開始する。ツムグはマツボと共に村の北にある森へと踏み込み、小豆に借りたランプの光を頼りに草道を踏みしめる。
「せやけどなーツムグはん。」
「うん。」
「こんな暗い道歩いとってもなー。」
「うん。」
「怖いだけやん。」
「うん。」
「………声がするまで待たへん?。」
「……………そうだね。」
マツボとツムグは草むらに腰を降ろし、森林に縁どられた夜空を見上げた。夜空にはいくつかの星々がいている。空の色は透明色のブルーブラック。森には奇妙な音など一つもなく、ただただ秋らしい虫の羽音やそよ風に揺れる葉っぱの音がするだけだ。気温は日中の暑さがウソのように冷えて、肌寒く感じる。総じて爽やかな夜だ。不気味な生物なんて出てくる気配もない。
「平和やな~。」
リンリンリンと聞こえるのは鈴虫達だ。
「お師匠さんは、暗いん怖いんかな~。」
マツボはさやながついてこなかったことを言っている。
「あの人に怖いものなんてないよ…ただ…。」
「ただ?。」
「夜は、九時に寝るそうなんだ。」
「早!。」
それで夜勤はNGらしい。
「あの人、緑森宮の仕事でも、夜は引き受けないって言ってた。」
「そんなんありなん!?というか、緑森宮の夜の仕事って何やねん、スパイかいな?。」
「さぁ、夜警とか?。」
「夜景?。」
するととっさにマツボがビクッと体を反射させ、後ろを振り向く。
「どーした…!。」
ガサリガサリと背後から何かが迫る音がする。音は灌木をかき分け、だんだんとこちらに近づいてくる。身構える二人、そして、
ガサァ。
現れる黒い塊。とっさに灯を近づける。明るみになる影の正体…それは、
「お…お助けぇ…。」
『!!。』
そこにいたのはガリガリに(?)痩せた豆…いや小豆!しかも複数体!。三日前から帰っていないと言っていた連中は彼らのことだったのか……もしれない。変わり果てた豆の姿。
「おい、何があっ___。」
「キィエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!。」
突然の奇声に森中がざわめき出す!驚いて顔を見合わせるマツボとツムグ。
「あっちだ!行ってみよう。」
「お、おおおおう!。」
タッと声がする方へ駆け出した。
「オオオオオオオエエエエエエエエエギイイイイイイギィィィィイイギギギイイイ?イイイイイイイイイイイイ。」
森の中、その叫びの声の主は頭を抱えた状態で暗闇の中、一人悶えていた。
「キィィィィィモォチィィィィワリ”ガゴォエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!。」
「!、人間…。」
ツムグたちは悶え苦しむ人間を発見し、距離を置いたまま立ち止まる。
「ギイイイエエエエエエケケケケケケケケケケケケケケケケッ…ケケケケッ………。」
静かになり立ち尽くす人影…こっちを見ている?。どうやら、こちらの気配に気づいたようだ。
「……おい。」
「ツムグはん!?。」
驚き震えるマツボを片手で遮る。
「…………ん…よ……。」
「?。」
何かしゃべった様な気がする。もう一度声をかけてみるツムグ。
「おい、お前、何者だ?。」
すると
「うぱあああああああああイドだあ、キメエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!。」
『!。』
「またゴロザなぐじゃ、ゴロロロザーナーグーヂャーグーチャグチャグチャグッチャグチャにしてミソシルつくるんだー、ぐばばびぶべべべひぇへぇへぇまーたあたまんなかいっぱいだあ。キメェでいっぱい!何度も何度も何度も何度も!お前ら、何回コロせば死んでくれる!オレの目の前に出てくるんじゃねぇ汚物!うごくんじゃねぇゴキブリ…ウジムシ!生きてる?それだけでキモイわ、アーダコーダアーダコーンコンコンコンバンワッ!ははは…じゃねーだろがよぉ…あああ…あったまいてぇ…ぃゃ…ぃてぇのは…ココだ……いつも、胸を苦しくさせるんだ。お前ら。だいすきだぜぇ、いやキモチ悪いけど、そこがいい、いや、ダカラダメだんだよおコロスコロスコロスコロスうごくなコロすキメェコロスコロスコロスウルララララコロスクチブエコロスアパパパコロスコロスコロス、道ばたを歩いているのはオレなんだ、なんなんだよおめぇら、まったくよぉ…死ね……ほうら死んだ…テメも、テメも、テメェも、死ね死ね死ね死ねコロスコロスコロさなきゃいけないんだよお!オレが、この手で…なのに、どうして!!何で…何回コロせばいいんだ…オレのなかのハラハラ…だれかとめて、お願い、助けて、いやだふざけんな助けろ!オレをこれ以上かきみだすんじゃねぇ汚物汚物人間ブタサルカッパァ、イノシシーーーーーーー。
はぁはぁはぁ……はぁはぁはぁ…なぁ…分かった?何回も殺したんだ、おれは、だからあああああああ!!!っぱぱぱらぱあああああああああああああああああああああ!!!。」