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色織  作者: 千坂尚美
二章 紅灼城編
38/144

赤翡

おはなし2-12(38)  


「ブルモォォォォ!!」

強力な蹴りの一撃にズゥンと倒れる大猪。銀杏の木は山吹の光の粉となり彼女の足から剝がれていく。花はすぐに距離を詰め再び敵の巨体に樹木化した足の蹴りを突き刺す。

「ブルボボエエエエエエエ!!」

どっと飛び出す獣の血。二発技を決め、よしっと笑う花。しかし、イノシシはブルンブルンと鼻息を吐いて立ち上がる。

「へぇ、結構タフじゃん。」

ふふっと余裕をかます花。

「ほらほら来なよ。」

ちょいちょいと人差し指で敵を挑発する。


「おいおいあのメガネ随分調子乗ってんな。」

腕組して眉をしかめるサト。

「花~、気抜かないように!」

叫ぶツムグ。


「はいはい分かってるって。」

ツムグの声に手を腰に当てる花。

「ブルモオオオオオ!!」

いのししは雄叫びを上げて再び突進を開始する。花はさっきまでの要領で横に退いて直線的な攻撃をかわそうとする、その時…

「!!?」

花の手前で大きくジャンプする。そして強靭な牛の前足で思いっきり地面を踏みつける。

ドゴオオオオオ!!!

激しく揺れるフィールド。横に退こうとした花は不意をつかれて大きく体のバランスを崩す。

「ブムォオオオオ!」

猪はすかさず方向転換しよろけた少女に突進する。花はとっさに左目に中黄を灯し、銀杏の木でそれをガードする。

ゴゴゴギギョオオオ!!

幹が砕けるひどい音がし金茶や紅葉色の扇の葉が舞う。花はすさまじい衝撃に悲鳴を上げて大きく後ろへ弾き飛ばされる。ゴロゴロと地面を転がり砂埃が立つ。

「おっとー、銀杏選手強力な突進を浴びてしまう!大丈夫か!?」

ナレーションの声に、いいぞー!という母国愛の声援と、負けるなー!という少女愛の反国家の声援が飛ぶ。ツムグ達も花の名を叫ぶ。

「うう……んんん。」

花は額から血を垂らし、腹を押さえて右手をついて立ち上がる。猪は攻撃をきめ、ブルホホホ!と喜んでいる。

「チッ、やってくれたな。」

いのししを黄色く輝く左目で睨みつける花。ダッと敵へ向けてダッシュする。それに応えていのししも「ブルオ!」と突進を開始する。


「な、あいつ何向かって行ってんだ!?」

花の突進に驚くサト。

「せやで!さっきの攻撃で向こうの方がパワー上ってわかったはずやのに!」

「花…。」

攻撃を食らい頭に血が上ったのか?花、そういうとこあるからなぁ…。彼女の性格にあちゃ~とでこに手を当てるツムグ。


突っ込んでくる敵に突撃する花の左足には不言いわぬい色、櫨染はじぞめ色、ゆかりの色、淡黄色が色彩のコントラストを作っている。

「食らえ!!」

バキバキバキ

一気に樹木化する左足で蹴りを繰り出す。木は勢いよく敵へ向けて伸びていく、わずかに軌道を下に、敵の足元へ向けて…

バキメキャアアア!!

幹の砕けるひどい音と共に足元への攻撃で敵は大きくつまづくき、脱線した列車のようにして腹を地面に滑らせる。

ズザザアアア

さきほどの花が転げた時とは比べ物にならない大量の土煙が上がる。少女は樹皮の散った左足に再び色彩を纏わせる。女郎花おみなえし、柳色、藤黄、椋実むくのみ色、柘黄しゃおう色が散り凹凸の激しい灰茶色の大樹が伸びる。大樹は立ち上がろうと前足を着いた巨体へと深々と突き刺さる。

「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

ブシャアアアアアアアアアアアアア

激しく朱殷しゅあんの血液が飛び散る。大猪は今まで以上の大きな叫び声をあげその場へ沈み込んだ。しばしの沈黙、そして…

「エン選手、ノックアウト―!勝ったのは緑の国のオシャレヘアー、銀杏選手だー!!」

わああああああああああああああああああ!!!

盛り上がる会場。

「42組が二試合を制しましたので、トーナメント二回戦進出決定でーす!!」

パチパチパチパチ

ぐっと唇の血をぬぐう少女に大きな拍手が送られた。



 試合終わり、会場ではすでに次の試合が行われていた。控室を後にしたツムグ達は、試合を観戦しに客席へと向かっていた。

「いやぁ、花はんようがんばったでぇ。」

ボロボロになったメガネっ娘にねぎらいの言葉をかけるマツボ。

「いや~、やっぱでかいだけあってすごい威力の突進だったよ~。」

痛たと打撲傷を押さえる花。

「調子乗ってるからヘマすんだよクソメガネ。」

「え、何か言った?」

運良く?聞き逃した花にサトは「いや別に。」と答える。

「でも足場を狙ったのは良かったですね。大きな体の敵はバランスが弱いですから。」

さやなにほめられてえへへ~と照れる花。

「バランス崩されて一撃決められたんで、こっちもやり返してやったんですよ!」

シッシッと拳を振るポーズをして痛たと傷を押さえる。そんな花を見てツムグは、やられたらやり返すか…花らしいな、そう思って笑う。

 客席へと向かう廊下を歩いていると、シルバーの鉄板を組んで作った自販機の前で飲み物を買う見覚えのあるおかっぱ少年に出会った。(ちなみに緑の国には自販機というものはない。ツムグはここへきて初めてそれを見た。はじめてその存在を知ったときは、え、この鉄の檻からどうやってジュースを取り出すんだ?と、サトに教えてもらうまでかなり悩んだ。)ジュースを鉄の箱から取り出した少年はツムグ達に気付く。

「お、兄貴。」

タミはサトを見て言う。随分すかした言い方だ。

「おお。」

サトもそっけなく返す。タミは五人組の中のひときわは美人を見て少し驚く。

「んだよ、随分な美人と一緒だな。」

「え、私?」

自分を指差す花をぺシンとハリセンでしばくサト。彼女のメガネがずれる。

「次はオレらとだな。明日、楽しみにしてるぜ。」

「…ああ。」

またそっけなく返すサト。タミは花のずれたメガネをちらっと見て何も言わずに去っていってしまった。

「弟君ですか?」

「ああ、まあな。」

サトは弟の背中を見ながらさやなに答える。

「なぁ、社長さん。」

「?はい。」

首をかしげるさやな。

「このあとちょっとつきあってくれねえか?」

「…いいですよ。」

そんな二人の会話を口を半開きにして聞いているマツボ。

「え、何なん、告白?」

『違うだろ!』

ぺシン!

花とサトのハリセンが小グマに炸裂する。そして少し動揺するツムグであった。



 翌日。

 ツムグ達の二回戦のカードは、一番手ツムグ、二番手が花、最後がサトと初戦と同じ並びだ。ツムグはさっそく闘技場へと上がっていく。

「さて、四十二組から現れたのは、緑の国の葵い色彩、式彩選手!」

パチパチパチ

「そして六組サイドから現れるのは―――…!」

ナレーションの声に会場が息をのむ。フィールドの向こうから現れる少年の姿にツムグは驚く。整ったおかっぱにやや小柄な身長、ツムグが二回戦で当たったのはサトの弟タミだった。いつもは学生服だが、今日はハイネックの黒いぴったりとしたタンクトップに動きやすそうな七分の茶味のパンツをはいている。彼の戦闘服だ。

「紅選手、登場です!!」

わあああああああああああああああああああああああああああ!!!

パチパチパチパチパチパチパチパチ

すさまじい歓声とツムグへのものとは比べ物にならない拍手。期待の若手相手にアウェー感がすごい。

「六組の紅選手は一回戦のレースと二回戦の迷路、共に活躍を見せた今大会の注目選手です!」

――…僕は違うのかなぁ。

そう思うツムグ。タミはツムグを見下すような視線で見る。

「なんだ、兄貴じゃねぇのか。お前が相手なら楽勝だな。」

ひどくなめられ、さすがのツムグもカチンとくる。

「そ、それはどうかな。」

少し強がる。けれどタミにフッと鼻で笑われる。

「………(^^;)」

「それでは、決勝トーナメント三回戦、第一試合スタートです!」

おおおおおおおおお!!!

盛り上がる会場。

「ファイト―ツムグはーん!」

「○っちゃえツムグ―!」

「つむぐくんがんばって!」

マツボ達の歓声が飛ぶ。師匠にもエールをもらい負けるわけにはいかないぞ!と自信を奮い立たせる。ツムグとタミは互いに見合って、ツムグは左目を葵に、タミは右目を朱く染める。

ふわふわり…

葵い目の左腕を、朱い目の右腕を、何色にも染まらない白いモヤが漂う。そしてぶわっと、左腕に様々な葵い色彩が、右腕に色とりどりの朱い色彩が溢れ出す。ツムグの左肩には狛犬の顔面が現れ、腕は月白色の毛並みにおおわれる。タミの右腕は赤味の黄の羽毛に覆われ、腕の側面から五枚の赤翡翠あかしょうびんの翼が生える。彼の翼は実際の赤翡翠のそれより遥かに大きく一メートルほどもある。形は少し丸みを帯びていて全体にほの赤く、羽先は細くて長い蛇腹織のような深紅色の羽が連なっている。タミは朱い腕を振り上げ、勢いよく振り下ろすことで、鋭く長い剣刃の様な羽の矢をいくつも飛ばす。ツムグはたっと横へ跳んでそれをかわし、ツムグがいた後ろに深紅の矢が激しくつき刺さる。さらに羽を振り回し矢を飛ばすタミ。広範囲の攻撃にツムグは体制を低くし左腕でそれをガードする。犬の手に数本の紅い矢が突き刺さり、綺麗な白い毛並みを彼の血で赤く染めてしまう。刺さった矢は苺色、蘇芳すおう吾亦紅われもこうの色彩の粒になり消えゆく。ツムグは痛みを耐えて飛んでくる矢を爪でなぎ払う。すると、たっとジャンプしたタミの右腕のチョップがツムグに襲いかかる。

ドシィイイ!

犬の手で受け止め、衝撃で膝まづく。

――ぐ、重い!しかも、さっきまでフィールドの反対にいたのにいつの間にこんなに近くに…。

「おいおい、何驚いてんだよ。羽飛ばしながら走ることくらい楽勝だろ。」

そういうタミは右腕でツムグにたたみかける。ツムグは何とか態勢を立て直しながら爪で応戦する。ツムグは左肩から白いモヤを出して、さらにもう一本の犬の手を生やし何とか敵を押し返していく。わずかに後退しながらのタミは、

「二対一は卑怯だろ。」

ツムグの爪をかわしドンッと彼の体を蹴り飛ばす。ツムグが転げている隙に黒かった左目を朱く染めていく。と、同時に彼の左腕にも右腕同様の赤翡翠の羽が生えそろった。互いに切りかかる二人、羽とツメを幾度かぶつけ合い、両者後ろへはじきあう。タミはすかさず両翼でバッテンをつくり、バッと振り下ろしてクロス型にそろった深紅の弾丸を放つ。

ツムグは二本の手の爪を使い弾丸を弾き飛ばす。

「チッ、遠距離じゃイマイチか。」

そういって両翼を広げて飛んでくるタミ。すさまじい速度の突進をなんとか受け流し、空中転換しクロスチョップを放つ敵を二本の腕で受け止める。

ズジィィイイイ!!

さらに威力を増した重い一撃に、ツムグはひざをついて衝撃で大地がひずむ。十字の羽を受け流し、攻めに転じるツムグ。タミの方もツムグを切り刻まんと攻撃を仕掛ける。激しい攻防の中、再びタミのカウンター蹴りがツムグをしとめる。蹴った直後に羽の矢を飛ばすタミ。蹴り飛ばされたツムグは、左手で倒れる体を支えると同時に素早くバク転して直感的に技をかわしていく。

「ほう、やるな。」

少し驚くタミ。着地したツムグはわずかに息を切らすが、体は徐々に激しい戦闘に順応してきている。そんなツムグに対してタミは、

「さすがに前よりは動けるか。それに、まあまあいいセンスしてるな。」

低めの姿勢で構えたままのツムグ。

「しゃーない、そろそろ本気出すか。」


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