鍵狩
おはなし2-8(34)
ドン、ズガッア、ドシャァアアアアアアアアアア!!!
「ハハハハハハハ…くらえおい!」
タミは腕をぶんと振り複数の赤羽弾を敵へ放つ。
「ぐぁあ!!」
それをモロに食らいふきとぶ敵。倒れている敵の元まで歩いていきすごむ少年。
「さて、鍵よこせ。」
じょわぁああああ
敵は股間から生温かいものを漏らして…
「チ、…クショ――――!」
「フンフフンフフン〰〰♪楽勝だったな。」
タミはくるくると鍵を指にひっかけ回している。
「タミ、ご機嫌だな。」
「まぁな、……と、これ…。」
タミたち一行は赤と銀のツートンの二つのカギ穴のある扉へとたどり着く。タミはそれに二色の鍵をそれぞれ差し込む。そして、ガチャリ、ガチャリ…。扉が開く。
『おめでとうございます!皆さんは一位通過です!!』
パンパァン!
いくつものクラッカーが鳴る。
「なんだよそれ……ちょーサイコーじゃん♪」
ニンマリと笑うタミで…。
ピンポンパンポーン!
「!?」
迷路内にアナウンスが木霊する。
「たった今、一組目のゴール者が出ました。残りの皆さんも引き続きがんばって下さい!」
ピンポンパンポーン⤵
アナウンス終了。
「まじか、早ぇなぁ。」
「そうね…。」
「ワイらは…。」
「迷ってばっかだねー。」
行き止まりにぶつかり立ち止まるツムグ達四人。本日何度目の行き止まりだろうか。
迷路内、ツムグ達とは違うどこか。
「ぐぁ、ぎぃゃぁっぁぁあああああああああああああああああ!!!」
迷路内に悲鳴が木霊する。
チャリン
「フフフフ、これでまた一つ増えたぞ。」
ゴツゴツした爬虫類の手にはいくつもの赤と銀の鍵が握られており…。
「なんということでしょう!またやられました。№28組の被害者はこれで5組目です!!彼らは二つの鍵を集めた後も尚もまた鍵を集めています。いわばキーハンター!すさまじい強さですっっ!!」
ざわざわざわ
「キーハンター?」
「いやぁねぇ。」
「何個ゲットできるかなぁ?」
「いい趣味してるね。」
ざわつく会場。
そのころ、ツムグ達はのんきに(?)迷路内を未ださまよっていた。
「んもー、いつになったら出られるの――!!」
叫ぶ花。最後の「の――!!」が鉄の壁を反射して木霊していく。
「おいバカ女、でけぇ声出すんじゃねぇよ。敵に場所知られんだろが。」
「え~だって~、こ~んなに変わり映えのない景色をずーっと彷徨ってたら叫びたくもなるわよ!!」
「まぁまぁ花、おちつい……!」
遠い向こう、折れた道を曲がって来た四人組がツムグ達の目に飛び込んでくる。
「みんな!」
「おう!」
「うん!」
こちらに気付いた向こうのヤツらはダッシュでこっちに近づいてくる。それを迎えうつ様にして身構えるツムグ達(マツボは三人の後ろに隠れている)。敵は大将と思われる大きなオレンジと黒のブツブツのトカゲ人間、その後ろに緑と黒、ピンクと黒、黄色と黒のブツブツ柄の小さなトカゲ人間がくっついている。
「フン、貴様ら、持っているキーはいくつだ?」
大トカゲが聞いてくる。それに対してサトは、
「ハッ、バカが、誰がおめおめ持ってる数を教え___。」
「2コや!2コやで2コ!すごいやろ~?」
目をランランと輝かせて前に出てくるマツボ。手には赤銀二つの鍵を持って敵に見せびらかしている。
――おい、マツボおま……。
三人は小さなクマを睨みつける。
「フフ、そうか、そいつぁラッキーだぞ。一度に2コもキーをゲットできるとは。」
――くそぉ、バレてしまっちゃしょうがない。戦って勝つしか…て、ん?
「ん、二個ゲットってどっちか片方だけでいいんじゃない?」
「いやツムグ、きっとあいつら一度負けて鍵が0個なのよ。」
花がフォローする。あ、そうかとツムグ、しかし、
「ゼロ個ォ!?なめてもらっちゃ困るぜぇい!見ろこれを!!」
ジャラと大トカゲは手に持ったたくさんの鍵かかかった輪っかをツムグ達に見せびらかす。
『!!?』
「何あれ!!」
驚くツムグ達。
「そうか、あいつら、ゴールすることよりもたくさん獲物を狩ることを目的とした変態ヤローってわけだ。」
「その通り!!」
――変態でいいんだ。
「貴様らの鍵もちょちょいと奪って俺様のコレクションにしてやる、グフフフ。」
大トカゲは気持ち悪い笑いと共に手に持った鍵束をポイッと下っ端に放り、一人前に出てくる。
――?一人で戦うつもりか?
下っ端三体は後ずさっていく。大蜥蜴は自身の上半身にとくすんだオレンジ系の色彩を生み出して纏っていく。色彩の中かからは先ほどまでのサバンナオオトカゲの体とは打って変わって、ゴツゴツとしたトゲの様な鱗の生えた余計に厳つい小竜となる。これは読者らの世界で言うメキシコ南部、太平洋岸に生息するイグアナ科のジャイアントホーンリザード、別名コリーマオオトカゲという種類の蜥蜴だ。顔面に二つの角のように見えるトゲがあり、背中に走る二列の大型の棘状の鱗も特徴的。さらに背面と腹面の境界にも並んだ棘が生えているぞ。
「同属異種の半身擬態か。」
禍々(まがまが)しい大きな口を開け、戦慄の雄叫びを上げる。ツムグ達三人は体にビリビリ来るものを感じながらそれぞれ左手、右手、左足に群青、朱赤、山吹の色彩を纏わせる。
竜人は雄叫びを上げたままギシギシと鎧を鳴らして襲ってくる!ツムグとサトは擬態させた犬の手と山鳥の翼で敵に切りかかる。
キィン!
『!!』
二人は鱗の余りの固さに驚く。敵の拳をとっさに退いてかわす二人、そこへ花の銀杏の木の蹴りが伸びてくる!
ドォン!
炸裂する樹木、が、竜は鱗のついた片腕でガード、樹枝は斜め後ろにはじかれてしまう。ブワっと黄色い粉になり蒸発する銀杏の木。
「…チッ、無傷…。」
舌打ちする花。
「ツムグ、メガネ、奴の鱗は固い。擬態していない下半身を狙え!」
「うん。」
「分かってる!」
花は再び蹴りを放つ。しかし、伸びた樹木をジャンプしてかわす竜人。跳んだ勢いのままツムグに襲いかかる。ツムグは横に飛び退いてかわし竜の重い拳が地面をえぐる。そこへサトがとびかかる。振り回した敵の拳をかわしカウンターの要領で切りつける。ダンっと跳んでかわす竜人、そして…
コオオオオオ
一瞬にして赤灰色のカラーが敵の尾っぽを包む。尾っぽは大きな棘の生えたジャイアントホーンリザードの尾っぽへと変わる。
「!!」
ブン!!
すさまじい速度で振り回される竜の尾。ガードするひまもなく強力な一撃を左半身にモロニ受けたサトは、血しぶきとともに10数メートル後ろへと殴り飛ばされてしまう。
「サト!…っ!」
ゴギャアアアア!!
よそ見したすきにとんで来た敵の尾から花の木が守ってくれる。気化する植物の中敵の爪と白い犬の爪で切りあうツムグ。何発か受け流しているすきに花が死角から攻めようとするが、振り回される強力な尾っぽに死角などない。
ゴッ!
敵の重い拳を左手でガードしきれずツムグの体が宙を舞う。そこへ振り下ろされる長い尾の鞭!
パァン!!!
ツムグの体からは血液がはじけ飛びサト同様10数メートル後ろへとふきとばされ動かなくなる。
「ツムグ…!!」
ドゴォオオオ!!
とんで来た尾っぽを間一髪でかわす花。
「チィイイ!」
ビュンビュンとしなる尻尾をすんででかわしていき彼女の黒い毛先が数本舞う。いつの間にか距離を詰められていてすぐそこまで来ていた拳を後ろへ跳んでかわす。
――んー、このまま避けててもすぐにやられる…どうにか奴にダメージを…。
ぐっと緑のマントを握る花。
ビュン!
一直線にとんで来た鞭をかわしそれを足場に一気に敵と距離を詰め、奴の頭上へとジャンプする。花の動きを目で追おうとする竜人、しかし、その視界が一瞬にして闇になる。
「!」
ブワリ
花は着ていたマントで敵の視界を覆いつくす。焦って振り回す爪をタッと敵の頭を蹴ってかわし、がら空きになった敵の下半身へ左足、銀杏の木を放つ!
ゾギャアアアア!!!
炸裂する樹木。
――よし、決まった。
技をかましニッとする花。が、
「!!!」
クワッと目を見開く花。敵はおそらく来るであろう攻撃に備え寸でのところで両足を腕の鱗でブロック、花の攻撃はギリギリ防がれていた。
「チッ。」
乱暴にはらわれる緑森宮のマント。敵の拳が花をしとめる。
ゴッ!
鈍い音がして地面に叩きつけられる。あまりの威力に一瞬とぶ意識、ぼやけた視界のまま起き上がろうとする彼女の頭上には、するどい棘の尾が構えられており…。
――あ、やば…。
バチン!
鋭い音に戦いを見ていたマツボはバッ目を塞ぐ。そっと目を開けると花もツムグ達と同じところまでとばされ動かなくなっていた。恐怖でガタガタと震えるマツボに鈍い鱗の擦れる音が近づいてくる。
「フフ、残るは…。」
「……ひぃ…。」
敵の姿を目の前に怯える小熊を拳の一撃で気絶させ、その手から二つの鍵を奪い取る。
「フフフ、これでまた二つ増えた。これで8個目だ。」
大トカゲは擬態を解き下っ端トカゲにキーを放る。下っ端はたくさん鍵のかかった丸い輪っかに新たに二つ、赤と銀の鍵を入れる。
「…ぅ…ん……。」
冷たい土の床に倒れながらその光景を見つめるしかないツムグ達。四匹のトカゲはケラケラと笑いながらツムグ達の方へ歩いてくる。そして、
『!!!』
あまりの激痛に絶句する。下っ端三匹達は倒れている彼らの傷口を執拗に踏みつける。何度も何度も傷口をいたぶられ、血が床にドクドクと吹き出す。悲鳴を上げるツムグ達を見て大トカゲは満足そうにニンマリと笑みを浮かべている。そしてさんざん蹴りたおした後、ようやく大トカゲが行くぞと言う。
『あいやいさー!』
マヌケな掛け声とともに最後までツムグ達を踏みつけて奴らは去って行ってしまった。取り残された三人と一匹。
「あい……つら、ぜったいぶっころす。」
充血した眼で傷口をおさえながらサトがつぶやく。花は目に涙をためて悔しがっている。僕らは傷口が痛みすぎて起き上がれずに這いつくばったまま…。
「鍵…取り戻さないと。」
僕の声は、虚しく響いた。




