赤銀
おはなし2-7(33)
「あのじーさん、『また来いよー。』とか言ってたけど、オレは二度と御免だな。」
「うん、すさまじい孫コンプレックスだったね。」
オレ達はホテルに帰って二段ベッドに寝っ転がって話していた。オレが二段目でツムグが一段目だ。
「まぁでも、花にとっちゃあんなじいさんがいるのも嬉しいことなのかもな。」
「……うん、そうだね。」
マツボは床に敷いた布団でスヤスヤ眠っている。
「サト、最近調子はどう?」
「ああ、ココ(赤の国)に来てからは…何でか、落ち着いてるよ。」
「故郷の力かな?」
「さぁな、それよりツムグ、明日から特訓つきあってくれよ。」
「え。」
「大会、二回戦からもっとキツくなるからよ。…それにタミにも負けたくねーしブツブツ。」
「………うん、分かった。」
それから二回戦までの間、オレ達は町はずれの荒地での修業を開始した。幾日か後、
「うお、おおおおお!」
モヤモヤとオレの体から吹き出す白いモヤ。
「サト、もう少しでもう一擬態増やせそうだね。」
「ああ、そうだな。」
ぜぇぜぇ…今日も修業を終えてドサとヒザをつくオレであった。
二回戦を明後日に控え、オレはホテルの部屋の窓から空を眺める。空には薄気味悪いピンクの雲が漂っている。相変わらず赤の都はボロ布をはぎ合わせたように、鉄板を合わせた家が建ち並んでいる。遠くに見える紅灼城も金属製だがそのクオリティは天と地の差。城は重々しい黒金をつなぎ合わせた立派な建物で、ここからだと点の様だが大きな炎がいくつも灯っていて黒い城の壁面との対比がキレイだ。ところでオレ達は働きもしないでよく何泊もできてるなって?そりゃ、ここの宿、紅灼祭に勝ち残るとタダになるサービスがあるからだ。これは都のどこの宿でも同じだ。ま、オレはそれを知ってて泊まったんだけどな。
「で、サト、二回戦って何するの?」
メシを食べながらツムグが問う。
「ああ、分からん。」
「ええ!!」
「二回戦は毎年変わるんだよ。」
「へぇ、そうなんだ。で、三回戦は選手たちの総当たり戦だよね。」
「ああ。」
「ワイ、戦えんけどダイジョブなん?」
「ああ大丈夫だ。三回戦は3vs3だ。ま、オレらはもう三人決まっちまってるけど。」
「んーでもまずは明後日勝たないとね。」
「ああ、明日も修業だ!」
オレはガツガツとメシをかきこんだ。
大会当日。紅灼城内競技場に選手達20組、計80人が集められる。皆二回戦は何をするのやらとざわついている。競技場の客席は赤の国中からこれを見に集まった客でいっぱいだ。王様はそこのVIP席についている。VIP席の下には司会席があり、ナレーターがマイクを握っている。いよいよ発表か…?
「さ~て皆さん、天晴れて絶好の祭り日和となりましたが今日に限っては関係ありません!なぜなら……本日の種目は“二つの鍵の迷路”だからです!!!」
おおおおおおおおおおお!!
ざわつく会場。過去にもやったことがあるのか?しかし大会初参加の僕らは知らない。
「説明しましょう。“二つの鍵の迷路”とは、その名の通り二つの鍵を使った迷路のことです。舞台はこの地下、赤の都全域に広がる地下迷宮。そこで皆さんにはゴールを探してもらいたいのです。が、しかし!迷路の中には所々に扉が設けてあります。そこでその扉を開けるのが今回の鍵となるこの二つの鍵!(ナレーターは手に赤とシルバーの二色の鍵を持っている。大きなモニターにそれがアップで映される。)いやぁ鍵だけに?……はい。えっと、で、はい、赤い扉はこの赤い鍵で、鉄の扉はこの鉄の鍵で、それぞれ開けることができます。」
「………半分消える、か。」
「え?」
隣でサトがぽつりとつぶやく。ナレーターは続ける。
「さてさて、ここからが大事な所、聞き漏らしのないようお気を付けを。選手の皆さんには10組ずつの半分に分かれて二地点の場所からスタートしてもらいます。その際、片方の10組には赤い鍵を、もう片方の10組には鉄の鍵をお渡しします。しかし、ゴールたどり着くにはには赤い扉も鉄の扉も両方を開けなければならない仕組みになっております。つまり、赤と鉄、必ず二つの鍵が必要という訳なのです。……さぁ、もうお分かりですね。皆さんには自分の持っていない方の鍵をめぐって奪い合いをしてもらうことになります!尚、ルール上鍵を使わすに強引に扉や行き止まりを壊したバアイ即失格となりますのでお気を付け下さい。それでは始めに渡す鍵の色はくじ引きで決めます、代表者は前へ。」
僕は前へ歩いていく途中分かった、サトのつぶやいた意味が。“半分消える”そう、このゲームではどこかの組がゴールすればどこかの組はゴールできなくなる。つまり、選手の半数が確実に消えることとなるのだ。
僕たちは地下へと案内される。スタートの扉は茶色で固く閉ざされている。そこで一チームに一つ案内役から赤色をした鍵を手渡される。鍵を受取る僕。なんだか、とても緊張してきたぞ…!仲間の方をチラと見る。花は気合の入った強い目を、サトはいつものややしかめっ面、マツボは口を半分開けて……え、どういう表情なんだそれは?
案内役は腕時計を見てもう一度ルールを読み上げる。そして、自分の持っている茶色い鍵でスタート地点を閉ざしている扉のカギを開ける。
「それでは皆さん、がんばって鉄のカギを奪い取って下さいね。では…。」
「では、一斉にスタートです!!」
おおおおおおおおおおおおおおおお!!
ナレーションの声に歓声が沸く。それと同時にモニターに映し出された選手達は一斉にスタートを開始した。
十分後、
僕たち四人は誰とも出会うことなくうす暗い広い迷路道を歩いていた。迷路の幅は7,8メートル、上には5,6メートルはど。迷路はぶ厚い鋼鉄で出来ていて、これを壊すのは無理そうだ。所々、天井に換気扇が回っていて空気はそんなに悪くない。そうしていると、一つ目の扉が現れる。
「赤色だ。」
花が言う。扉は迷路内のライトに照らされて、赤色をしているのが分かる。僕はさっそく手に持った鍵で扉を開ける。
ガチャリ
カギを回すと重い扉は簡単に開いた。すると…。
「おいあいつら、赤を開けたぞ!」
「!?」
後ろから声がして振り返る僕ら。3,40メートル離れたそこには四人組がこちらを指差していて、
「さっそく敵か。」
「眼ぇいいなぁ。」
四人組はこちらに走って距離を詰める。10メートルくらい距離をおいて立ち止まる。敵は左から細身のヤモリ、赤茶毛の犬人間、太身のヤモリ、1メートルくらいのネズミ。動物チームらしい。全員二足歩行で服を着用…なんかキモイ。僕らも一列に並んで対峙する。自分から見て左からマツボ、花、僕、サトだ。
「マツボ、鍵、頼んだよ!」
僕は左目を青くしながらポイとマツボにキーを放る。マツボはそれを危うそうにキャッチ。
「いくぞ!」
サトは右腕を赤い翼に変えてバサァと広げる。細ヤモリと犬人間は鉄の槍を、太身のヤモリは大きな金槌、ネズミは灰味のカラーを尻尾にちらつかせて大きな牙の生えたミミズにそれを変え、そいつを伸ばして襲ってくる。とんで来たミミズの尾をスパンと切り裂くサト。そして太っちょヤモリに襲いかかる。
「オレが二人ヤる!」
「分かった!」
僕は白い腕で鉄の槍を使う犬に応戦する。花は細身のヤモリに中距離から木化した足の蹴りを入れる。細い武器では伸びてくるそれを防ぎきれずよろける細ヤモリ。花は一気に距離を詰めて回し蹴り、と同時に左足が黄色いカラーを放ち、再び銀杏の木となり敵を固い壁へと叩きつける!これで一体ノックアウト。
「花、サトの応援して!」
「うん。」
が、
「いらねぇ!」
サトの翼が大ヤモリの腹部を直撃、「グエッ。」と口から汚いものを吐くヤモリ。そしてバク宙をしてネズミの尾っぽをかわし、体を斜めにして飛んでネズ公にキツイ一撃を浴びせる。「ヂュエ!」といってふきとぶ大ネズミ。
「さて、あとは…。」
僕が戦っている犬人間だけ。すると、敵は戦意喪失してか戦いの手を止め後ずさる。
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!」
後ろを向いて走り出す。が、
ダン!
ツムグは数メートルジャンプをし、上からの一撃で逃げているワン公をノックアウトさせる。
「よし、楽勝だな。鍵を持っているのは…。」
「うん、見つけたよ。」
倒れている犬人間のポケットから銀色の鉄の鍵を発見するツムグ。
「よっしゃーこれで2コそろったでぇ――!」
ガッツポーズのマツボ。
「うん、あとは。」
「鍵を取られなきゃいいって話ね。」
「ああ、そうだな。」
僕達はゴールを目指して赤い扉の先、暗闇へと歩み始めた。




