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色織  作者: 千坂尚美
二章 紅灼城編
30/144

開祭

おはなし2-4(30)  


~。」

サト宅で傷口の手当てをするツムグ。マツボと花が包帯巻くのを手伝ってくれている。傷を負わせた当の本人はというと、友達と遊ぶと言って家を出て行ってしまった。もう夜になるというのに、とんだ不良少年だ。彼はこの町の高校に通っている17才、花と同級生だ。

「ごめんなさいね、うちの子が乱暴して。」

サトママが料理を持ってテーブルに運んでくる。

「いえ、このくらい平気です。」

…………………………いや、めっちゃ痛いです。でも、そうは言えない。ツムグはハハハ~と作り笑いをする。

「おびと言ってはなんだけれど、私の手料理たぁんと食べていって。」

『ありがとうございます。』

サトママがスープを皿についで振る舞ってくれる。トマトと野菜、肉を煮込んだ綺麗な赤色のスープだ。食事をしながら旅の話をみんなでサトママにしてあげた。サトが合成鳥という組織に入っていたという話は一応ナイショに。サトママは「あらそう~。」といっておっとりと聞いてくれた。

「まぁ、じゃああなた達、あの大きなお祭りに出るのね。」

「ああ、だが出るだけじゃダメだ、ちゃんと勝たねぇとな。」

「そうそう、タミも友達と一緒にお祭り出るって言ってたわよ。」

「ゴブッ!」

サトがスープを飲みかけてむせる。隣のマツボが背中をさすってやる。

「何!あいつも出るのか。くっそ、あのガキィ〰〰。」

「あら、ライバル心むきだしね~サト。ちっさい時から勉強もスポーツも弟に負けて嫉妬してるとこがあるのよ。」

「おいお袋!」

ドン!とテーブルを叩くサト。まぁまぁとなだめるツムグとマツボ。

「ええ?だってそうでしょ?」

「……チッ、ああそうだよ。さっきも見たろ、あいつのカラー。あいつは優秀なんだよ。」

「へぇ~、確かにサトに劣らぬ憎らしさだったわね、へぇ~。」

花はサトの弱みを聞いて意地悪な笑みをみせる。

「なんだよキモチワリィこっち見んじゃねぇよ。」

「フフフ。」

「フフフじゃねーよ!」

「まぁまぁサト、落ち着きなさい。」

サトママは優雅にスープを飲んでいる。サトはぼーと天井を見て、

「そうかぁー、あいつも出んのかぁー。」

ブツブツとつぶやくサトであった。



 翌朝、サトママにお礼を言って旅を再開する。鈎村から北西に数キロ行ったところが赤の国の都だ。都までの道のりは、もくもくと煙を吐く大きな工場の立ち並んだ工業地帯だった。

「…でっかいな、どれも。」

「まぁな、でも、赤の国じゃそこらへんにでっけぇー工場建ってるからよ、別に珍しくもねぇよ。」

「ふーん。」

都に近づけば近づくほど空は薄紫色に染まっていく。環境面で健康を害さないか心配になってくる。それから数時間歩いて僕らはようやく赤の国の都へと到着した。

 空は不気味な薄ピンクで、町には相変わらずごうごうと煙を上げる工場があり、溶岩の流れる火山の頂上にそびえたつ大きな城は中世のヨーロッパの様だ。昼間からチカチカと街には炎の灯が灯っている。街は山肌に沿って斜めに傾斜している。街に入って第一番にサトが口を開く。

「いい雲が必要だな。」

……?雲?



 サトに導かれるまま街を練り歩く。街には多くの人がお店に群がっていたり、道を歩いていたりした。なんだか人酔いしそうだ。

「サト、大丈夫?」

「?何が。」

「いや、人がたくさん。」

「…ああ、なんか大丈夫だ。」

おお!これが故郷の力か?とにかく赤の国の中ではサトは人に強くなっているらしい。逆に僕の方がしんどい。そう思っていると、サトが一軒のお店の前で立ち止まる。お店には「雲屋」と看板がある。

「雲屋?…て、あの雲のこと?」

「ああ、そうだ。」

説明しよう。この世界では乗り物として雲が使用されることがある。が、乗りこなすのは難しく、まして荷物を乗っけるなんて尚更困難。さらに個体数も少ないため一般普及率は極めて少ない。主に王宮騎士の移動手段として用いられる。

「で、雲屋で何すんの?」

花の質問。

「は?雲借りるに決まってんだろが。」

そういって店に入る。

「いらっしゃい、いい雲そろってるよ。」

店にはやたら鼻の大きい店主がいる。30cmくらいはある。店主の鼻は無視して店に置かれたショーケースに目を向ける。ショーケースの中には小型の雲のサンプルがたくさん並んでいた。

「おじさん、一番速いのどれだ?」

「オウ?一番速ぇーのか、ちーと待ってな……おう、これだこれ。」

ショーケースを一瞥いちべつして品物の所をトントンと指で叩く。

「風太郎D-2型だ。こいつぁ速ぇぜ、どんな雲も敵わねぇ。」

風太郎?変な名前だな。

「うし、じゃあそれ一週間レンタルで。」

「へい、まいどあり、銀貨二枚ね。」

サトは金銭と引き換えに雲の入った小さな赤色のびんを手にして店を後にするのであった。



 五日後、紅灼祭開会式

 ワイワイとにぎわう城下町は赤の国中から集まった人々でいっぱいだ。城へと続く大きな坂も人でいっぱい。城の門は開け放たれ、城の入口へと続く中庭には貴族、ならびに移動式王座に座った紅灼王が。王は2メートルほどもある大柄に真紅のマントをはおっており、顔は真っ赤でギザギザとしたトゲの様なものが顔中から生えている。

 街の所々にあるモニターテレビに王、ならびに司会が映っている。司会は男女二人で男は赤スーツ、女は銀ピカのドレスに身を包んでいる。

「さぁ、今年もいよいよ始まります、紅灼祭。祭りの開会セレモニーは毎年恒例紅くれないレース!ルールは簡単、赤の国の決められたルートを選手たちが一チーム四人で四周するレースとなっております。選手一同、イタガネ通りに集ってスタンバイOKです。」

イタガネ通りとは都の幹となる一番広い大通りだ。総勢200を超えるレース参加者がゴミのようにうじゃうじゃと密集している。レーサーは皆それぞれに自分たちが乗るマシンや雲に乗ってスタンバイ。中にはマシンも雲も何にも乗っていない選手もいる……自力で走った方が速いというのか!?いや、ありえぬ話しではない。チーターのように足の速い動物の足に擬態するカラーを持っていれば、かなりの速度で走れるからだ。

 ツムグ達の一番手はサト。サトは風太郎D-2と呼ばれる雲に乗ってスタンバっている。

「それではとうとう祭りの開幕です!50を超えるチームの中で勝ち上がれるのはたった20組。選手たちよ、皆位置についてぇ――、Let‘s Go!!」

わああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!

一斉に湧き上がる歓声と共にスタートを切る選手たち。あっという間に街を過ぎ去り、西にある鉱山へとルートに沿って走っていく。サトも雲をこなれた感じに乗りこなし、トップ層当たりのいい位置につけている。

「さぁ一斉にスタートを切った選手達。トップを走るのは自身作の自信作のメカを乗りこなすノロシ選手、名前とは裏腹に速い速い!!」

サトの帰りを待つツムグ達は、都にあるモニターでレースの様子をチェックできる。

 サト達はでこぼことに岩が突き出した凸凹でこぼこ山道へと突入する。雲を巧みに操り突き出た岩々をかわしていく。後ろの方でどんくさいレーサーが岩にぶつかってマシンが大破し失格となる。しかしサト達上位層は難なく岩をかわしきり普通のコースへと戻る。

「おおっと、第一グループが最初の試練を突破しました!!」

おおおお!!と歓声が沸く。

「さぁて、つづいての試練は?…。」

ビュンビュンビュン!

「ちっ、来やがったか。」

そう言ってとんでくる小石をかわすサト。

「キーキーキー!」

岩陰から小さな小人族が3cmほどの小石をレーサーへ向けて投げまくってくるではないか!メカに乗っている選手は、ポチっとボタンを押して屋根を作って小石をブロックするというハイテク技術を見せる。

「ちっ、ズリィーなぁ。」

ボヤくサト。そんな彼の頭に一粒の小石が直撃する!

ガン!

「っぇ―――!!!」

真剣に頭をおさえるサト。ジンジン痛む頭はしだいに腫れて大きなたんこぶとなる。頭部にダメージを負いながらも、後の小石は全てかわしきり何とか第二の関門を突破する。

「トップ層が第二の試練を突破!最後の関門に入ります!」

わああああああああああ!!!

城前の大きなモニターでは選手たちが洞窟の様な穴にビュンビュンと入っていく。それを待機場所で見つめるツムグとマツボ。二番手の花はレーンに入ってスタンバイ。

―――にしてもでっかいテレビだなぁ…緑の国じゃ見たこともない。さすが赤の国、工業発展してるなぁ~。

そんなことを思うツムグ。一方レース中のサトは、最後の試練の洞窟へと入っていく。洞窟内部は所々にライトが設置されていてわずかな明るさはあるものの、非常に狭くレーサーは通れて二人分くらいだろうか、ここでレーサー同士の一騎打ちが行われる。

カッ!

サトの後方が光る。

「!」

とっさに右目を赤く変え、翼を生やしガードを作る。直後、サトの翼にいく弾もの弾丸が突き刺さる。

「ちっ、ってーなぁ。」

後ろの選手が乗っているマシンから弾丸を飛ばしている様だ。サトはわざとスピードをダウンさせる。するとすぐに追いついてくる後ろのマシン。それへ向けて右手を振りかざす!

「ラアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

ズバァアアン!!

一文字に切り裂かれるマシン。

「うわああああああああああああ!!!」

乗っていた選手はマシンからふっとばされて地に落ちていく。これで一人脱落。

「よし、飛ばすか。」

ドン!

再びスピードを上げて上(順位)を目指すサトであった。

 しばらく進むと前を飛んでいるレーサーのマシンが見えてくる。サトはギリギリまで体勢を低くし、空気抵抗を無くしてそれに追いついていく。そしてマシンとサトの雲とが横一列に並ぶ。追いつかれたレーサーはハッチを開けて薄オレンジ色のカラーを片肩にまとわせる。それを見て眉をしかめるサト。

「カラーでオレとやりあうつもりか?」

相手の肩からは爬虫類の尾っぽが生える。

「ふっとべ!!」

ドン!

尾っぽは勢いよくサトへと伸びる…が、

「ラァァァァァァ!!!」

ズバァァァァァァ!!

右翼で見事に尾っぽを切断する。

「何!?」

網場世アバヨ!!」

スパァン!

マシンの片翼を切り裂くサト。マシンはバランスを崩しクルクルと回ってサトの後ろでドカン!爆発する。乗っていたレーサーはパラシュートで脱出するが、思いっきり上の岩壁に頭をぶつけて気絶……これでまた一人脱落だ。



 わいわいわい…。

 モニターでは洞窟内部は映らず、ドキドキして選手の帰りを待つギャラリー。すると今、一台のマシンが洞窟を抜けて赤の都へと帰って来た!

わああああああああああああ!!

歓声が上がる。

「帰ってきました!一番に帰って来たのは順位変わってエントリー№4組のトモル選手!都へと着いて今、二番手のサク選手と運転を交替します!」

それから二番、三番と順に穴から選手が出てくる。

「もぅ~サトのやつおっそいなぁ~。」

スタンバイしている花はイライラとぼやいている。すると、八番目にようやく雲に乗ったタンクトップの青年が穴から出てくる。

「お!サトはん来よったで!」

モニターを見てマツボが言う。

 ビュンっと赤の都を疾走し、レーンで待っている花の元へと到着する。タッと雲から降りるサト。

「頼んだぜメガネ。」

「ふん、うるさいおかっぱ!」

悪態つきながら雲に乗る花。ビュン!あっという間に赤の都を駆け抜けていってしまった。

「花はんファイトー!」

「花がんばれー!」

マツボとツムグも応援する。それから十分ほどして、頭にたんこぶを5,6個作って花がレーンへと帰ってくる。レーンで待っているのはマツボだ。

「花はんダイジョブかいな?」

「ダイジョブよ!!それより早く雲に乗って!」

「お、おう!よっこら……!!」

ドスン!

雲に乗ろうとして落っこちるマツボ。

「!マツボ!」

「アレ、おかしいな、もっかい……!ああ〰~。」

ドスン!

再び落っこちるマツボ。それを遠巻きから見ているサトとツムグ。

「!あのクマ、何やってんだ!」

「いったた~アレ、何でやろ?乗れへん。」

「そんな、マツボ、練習では乗れてたじゃない!!」

「よっこら…。」

ドスン!

また失敗。

「うーん、練習で出来ても、本番で出来ないことってあるからなぁ~。」

「おい!のんき言ってるバアイかツムグ、オレらピンチだぞ!」

マツボが苦戦している間にビュンビュンと抜かされていく。

「あ~と、どういうことでしょうか!エントリー№42組、マツボ選手、全く雲に乗れません!あっと、また抜かされました。ああ、また!どんどん順位が落ちていきます。現在23位!」

ナレーションの声が響き渡る。

「ヤっべぇぞ!このままじゃ初戦敗退だ!」

「マツボ、がんばれ!」

「マツボ、がんばって!」

隣の花もエールを送る。

「うーん…。」

雲にしがみつくことは成功するもほとんど落ちそうなマツボ。いや、ドスン!…落ちてしまった。その後もどんどんレーサーに抜かされていく。

「現在マツボ選手、今生き残っている41組中39位!べべから三番目です、どうする!!」

「がんばれー。」

「そうだーがんばれー!」

ギャラリーからも応援の声が響いてくる。

『がんばれクマさん。がんばれクマさん!』

「うーん…。」

ドシン!

『がんばれクマさん。がんばれクマさん!!』

「はっ!ヤバイ!」

「ん?どーしたツムグ。」

「皆さん、それは言っちゃダメ――――――――!!!」

カッ!!

突如、マツボの体が輝きを放つ。

「ワッシはクマじゃねぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」

『!!!』


マツボ、覚醒!?


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