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色織  作者: 千坂尚美
一章 緑森宮編
3/144

彩菜

おはなし3  


 朝の陽ざしが藁の屋根と入口の簾から差し込み眩しい。そして、

「う~ん。」

今日はうだるように暑い。

「……。」

横で寝っ転がっているマツボを見ると、その毛むくじゃらで余計暑く感じる。はぁ、と一つため息をつく。

「起きるか。」


 チリンチリン。誰かが季節外れの風鈴をかけている。もう九月というのに、今日は朝っぱらから非常に暑い。風鈴の音はとても涼やかで快よい。僕は簾をあけて、マツボと一緒に今日も〝マヨセン”の旗を掲げる。相変わらずの客のいなさで、ただ座っているだけが続き汗が体中から汗がふき出てきてタラタラと流れ落ちる。僕でもこんなに暑いのだから、マツボはさぞ暑いことだろう。

「せやけどな、ツムグはん。」

「何?。」

辛抱強くだんまりを決め込んでいたが、この暑さで無言は辛すぎる。僕たちは適当に世間話を始める。内容は…そうだな、やっぱり今日の雲の形がたい焼きに似ているとか…昨日食べた魚がたい焼きに似ていたとか…そもそもたい焼きは魚を模してあるのでそれはあたり前なのだが、こうも暑いと頭も働かなくなってくる。話はたい焼きの話を逸れ昨日戦った(?)、出会ったカブトっぽい角の生えたトリ、カブトリの話に移る。

「あの変な鳥、おかしなこと言うとたなぁ。」

「…えっと…あー…うん。」

「緑森宮潰すとか、何考えとんねんて話やな。」

「そうだね。」

緑森宮とは緑の国の都のことで、その権力ならびに武力は他国にも大きな影響を及ぼすほどだ。そのへんのチンピラがいくら束になったところで、ごみ屑のように払われて終わりだろう。緑の国の(みかど)緑森王(りょくしんおう)を筆頭に、正一位から従八位下までの位階30段階からなる。古き風習を重んじ未来へと発展していく温故知新の都である。今の緑森王はたしか…えと…思い出せないが(紡目線)…確か、すごいおじいちゃんだったはずだ。

「ホンマやったらやで、仮に、どんくらい勢力いるんやろな。」

「……そうだなぁ、赤の国とか、国一国分くらい力がないと無理じゃない?。」

「せやろなぁ。」

「……。」

話題なんて簡単に底をついてしまう。まただんまりが続く。

「水、汲んでこようか、地下水だし、冷たいはずだ。店、いてね。」

「おう。」

大きなタライを担いで200mほど離れた水汲み場へと歩いていく。しばらく歩いて、井戸に着くと、5.6人ほどで小さな列が出来ていた。普段は時間帯にもよるがほとんどならばなくていい。やはり今日は暑い、皆冷たい水が欲しいのだ。並んでいると、僕の後ろからも、また人がぽつりぽつりと桶をもってやってきた。

「兄ちゃん、暑いねー今日。」

後ろのおじさんに声をかけられる。

「はい、とても。」

「兄ちゃん、確かマヨセンの…。」

「はい、そうです。」

「あー畑に来るカラスがなー、悪いことするんやー、どーにか追っ払ってくれんかなー?。」

「え…いや…。」

それは専門外なのだが、前にやったゴキブリ退治を思い出すと、意外とできるかも、なんて思ったり…。

「光るわっか吊り下げとけば_。」

「アカンアカン!あいつら賢こーてよー知っとんやー。」

「はぁ。」

そうこう言ってると自分の番が来る。タライ一杯の水を汲むとかなりの重さになる。修行のようにしてそれを担ぎ、農家のおじさんに一礼してその場を離れ、自分の家へと向かった。タライに満たされた水はもはやぬるかった。


「あ”-づーい”―。」

「………。」

「ぬ”―る”-い"-。」

「あ”っづぅい!こんなんつかっとったらゆでダルマになってしまうわ!。」

バシャアと大きく水しぶきを上げてタライの中からマツボが出てくる。ツムグの顔や体にも水しぶきが降り注ぐ。頬についたそれは驚くほどにぬるかった。

「さっきよりぬるい。」

「せやで!最初はいやギリ入れるかな…ぬるいけどギリOK?思たけどこれごっついすぐ熱なってんで!ごっついすぐやったんやで!おっどろきやわ!ゆだってまうゆだってまう。」

さっき水を汲んできてから数分とたっていない。

「もっぺんや!もっぺん水汲んでくるんや!。」

「えー、自分で行ってよ。」

「……わい小さいで持てへん。」


 ということで再び僕が水を汲みに行くはめになった。もう一度小さな列に並んで水を汲む。しかし、もう井戸の水もゆだってしまっていた。


「えーんえーんえーん暑い~暑い~どないしょおどないしょお。」

「マツボ…黙っててよ。」

「せやけど、暑いねん!水も熱いねん!。」

「分かってる。」

これが残暑というやつか。真夏日に暑さが続いていた頃よりも不思議と暑く感じてしまう。それと、夏には隣にうるさいクマはいなかった。

「なんかお話しょお、しよおで、もう気分紛らわすしかないわ。」

「……。」

「あ、せや、自分どこ出身なん?。」

「…ドングリ村。」

「あー、しいの実村の隣の。」

頷く。

「自分えらいなぁ、一人で起業して一人でがんばってるんやもんなぁ…ま、今はワイもおるけど。」

「……うん…えーと…一応、社長がいます。」

「分かっとるわかっとる、社長兼社員兼雑用兼雑草的な?おっと植物入ってしもたわ!。」

わははとツムグの背中を叩いて笑うマツボ。

「じゃなくて、いるんだ社長。」

「?。」

チリンチリン

爽やかな風が一つ吹き、風鈴の音と共にいい臭いがする。

「アラアカン、ワイあまりの暑さで幻嗅してきてもた。ええ香りがするねん。」

幻聴幻覚数あれど、幻嗅なんて聞いたこともない。確かにいい香りがして…。

「こんにちは、相変わらずお客さん来てないのね。」

一人の女性がツムグたちの前に現れる。せつな、彼女のあまりの爽やかさに脳内の〝暑い″の二文字が一瞬にしてふき飛んだ。長く綺麗な黒髪に、白い肌、大きな瞳、その全てが爽やかさを放っている。フリフリのついた首元に緩い長そで、丈の短いワンピースのスカートから伸びる長い二肢ほ見るだけで下半身が痺れてしまいそうだ(ツムグ目線)。

「だ、だ、だ…誰なん!この美人誰なん!ツムグはん!。」

「あれ?お友達?。」

「は、はい!ワイマツボ言いますねん!。」

「はじめまして、私、ツムグくんの師匠をしているさやなといいます。」

ニコっと笑いかける笑顔が素敵だ。

「社長…。」

「え?へ?師匠?社長?。」

「はい。師匠兼社長です。はいコレ、二人で飲むつもりだったけど。」

そう言ってツムグとマツボに一本ずつ持ってきたサイダーを渡す。

「僕はいいです。師匠飲んでください。」

「?いいの、じゃあお言葉に甘えて…。」

プシュ。缶を切る。彼女はゴクッゴクッとのどを鳴らしておいしそうに炭酸を飲んでいく。

「ふわ~。」

その姿はさながら(作者らの世界でいう)CMの様だ。思わずふわ~と声がこぼれるマツボである。

「ぷはぁ!うーん夏はやっぱり炭酸ね。」

「もう秋ですよ師匠。」

それにしては暑すぎる。

「??…師匠いうてもなんなん?自分ら歳の差全然あらへんのちゃう!?。」

マツボはさやなとツムグを交互に見比べる。確かに大人ではあるがツムグの師匠…という割にさやなは少し幼すぎる。

「はい、そうです。私とツムグくん、同い年なんですよ!。」

当たり前のように言う美人。

「いやいや、えー?ほー?あー…。」

「同い年じゃダメなんですか?。」

ダメではない。

「へー、てことはアンさんもカラーを使えるん?。」

「もちろんです。」

「なんせ僕の…。」

「師匠ですから。」

どんと胸を張るさやな。表情は自信に溢れている。自信満々の笑顔も素敵だ。

「へぇー、ええなー、ワイもキラキラシャキーンてのしたいな~。」

「大丈夫ですよ。」

「?。」

さやなは背をかがめてマツボに笑いかける。

「この世に生まれた以上、生き物は皆自分のを持っているんです。」

笑うさやなに見とれるマツボの横で、ツムグは彼のサイダーをつかんで一口すする。

「…うまいな。…で、師匠、今日は何の用なんですか?。」

いきなり本題に入ろうとする弟子に眉をしかめながらもその問の返事を返す。

「今日も持ってきましたよ。し・ご・と!。」

一枚のビラを差し出す師匠。ツムグはそれを手に取る。ビラにはこう書いてある。

「森に潜む謎のキセイジュウを追え!……賞金銀貨6枚。」

……。

「パクリか?。」

「パクリやな。」

「パクリですね。」

次なる案件は某作品のパクリ…!?。


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