教会
おはなし2-2(28)
森の中を逃げる標的を追いかけている。カラーが全身の細胞を活性化させ僕はより速度を増す。その僕をサトが翼を生やして追い越していく。標的を挟み撃ちすることに成功する。キツネは二人の男に挟まれて、悔しそうなうなり声をあげる。
「依頼人より託された使命、お前の狂気、滅します。」
肩から狛犬の顔が現れ左腕を白髪の体毛が覆う。
「ギィシャァァァァァァァァ!」
キツネの身体を薄黄、黄味の灰、オリーブ、濁り赤の色彩がちらつく。そしてその色彩の中から現れる大柄の猿の化け物。
「全身擬態。」
うなり声を上げる化け物に変化した体で切りつける。
ドピュアバァァァァァァァァ!
大量のヘドロ液が吹き出してサルは元の小狐に戻り、ぱったりと倒れる。
「う~っし、お仕事終了。」
ダルそうに腕を戻して言うサト。ツムグは無言で倒れた獲物を見下ろして。
たびたび村に降りてきては村人を食らっていたという化け猿(狐?)を退治し、村人から感謝と礼金をもらい再び赤の国の首都・紅灼城を目指して旅を始める。今日も一日歩いて、途中の山の山腹で野宿することに決定。木枝を集めて火をおこし、集めた木の実を焼いて食べる。それから、落ち葉を敷き詰めて布団を作り、途中の村で買ったマントを上布団にして薪を囲んで寝る。凶暴な野生動物に襲われないように一人ずつ代わりばんこに起きて見張りをして過ごすのだ。秋の夜は寒い。薪の火が暖かで心地よい。
「ねぇ、ツムグ達。毎回言うけど変な気起こさないでよ。何かしたらさやなさんに訴えるから。」
「うん、分かってるよ。」
「ちいちっるせーおんなだなてめぇ。」
サトがぼそりという。
「はぁ!?何つったお前!」
声を荒げる花。
「うるせぇ女だっつったんだよ!!」
「んだとこら゛ぁ!」
「ああ!?ブスは黙って寝てろ!」
「は?てめぇの頭薪に突っ込むぞクソおかっぱ!」
怒鳴りあう二人をツムグとマツボで「まぁまぁ。」といって落ち着ける。この二人はよくケンカする。おかげでツムグとマツボはしょっちゅう仲介に入らなくてはならない。
『§ΠΛΘΞζΦЖΨЦлφЪυλξ――Дωθ∮ΓζщΦφ€ю¢㍵Ωлδ』
白昼の下、赤の国の辺境にある教会の聖堂で讃美歌が歌われる。
『щΦЖΨЦлδлδΩ㍵ΔΛΘΞ――Дωθ∮ΓζΦЖΨЦΣηΛ』
(偉大なる三原神様よ、我々にcolorの御加護を―――。)
美しい歌声は、突如として破られた教会の扉の音と共にかき消える。一斉にそちらを振り返る教徒達。壊れた扉から獰猛な黒い毛皮を被った鋭い爪の巨大グマが乱入してくる。戦慄の雄叫びの猛獣。教会は信者たちの悲鳴で満たされる。必死に逃げようとする民衆に襲いかかる化け熊。鮮血が辺りに飛び散る。パニックに陥る信者たちを次々殺めていく。一つ、また一つと肉塊が割かれ、さらに死体が増えようとしたその時、ぶわっと黒熊の巨体が宙に浮く。せつな、すさまじい速度で教会のイスの上へと叩きつけられた。
ゴシャアアアアアアア!
砕けた椅子の木片が飛び交う。今まさに命を奪われるところだった信者の一人は、腰を抜かして壊れた扉の方を向く。暗い教会の中に光が差し込み逆光になったそこには大きな植物化した左足を構える少女とその後ろに数人の人影が見えた。
「うーん、でっかいクマね。あれ食べれるかなぁ?」
「おい、ココ、ヒト多くね?お、ヤベっヒト、お、おお、き、きききき…きももも…。」
「サト、落ち着いて。今はあの…。」
「わっ…かってらああああああああ!!」
バサァァ、と片翼を広げて敵に襲いかかるサト。クマはつぶれた姿勢のまま前足のツメを使ってサトの一撃を受け止める。そこへ、
「お腹ががら空き。」
ドン!!
無防備になった敵の腹部を花の植物化した蹴りが貫く。
「グバラッ。」
激しく嘔吐する黒熊。
「ツムグ!」
花の掛け声。ツムグは既に敵の頭上へと高くジャンプしており…白銀の左腕を振りかざす。
ズバアアアアアアアアアアアア!
「グルゥアアアアアアアアアアアアアア!!」
首筋を一文字に切り裂かれ悲鳴を上げる黒熊。傷口からは醜いヘドロ色の液体が吹き出し、熊はブクブクと口から泡をふいて気絶する。ドクドクとあふれ出るヘドロ液はシューシューと音を立てて気化している。
ふぅと息を吐くツムグ。光に照らされた逆光の中で、戦いを終えた三人の瞳は赤青黄、鮮やかな三色に輝いていて…。
「おお、おおおお。」
物陰から変な声がする。
「?」
声の方を向くツムグ。
「おおおおおお!」
一人の老人が両手を広げて物陰から出てくる。老人は感嘆の声を上げたままツムグ達の方へと近づいてくる。
「助かりました!あなた方、その目の輝き、三原神様のお使いか!?」
「??、サンゲンシン?」
ボムッと腕を元に戻す。同時に左目の青が元のブラックに戻る。
「いいえ、たまたま通りかかったマヨセンです。あー、旗外に放り投げてきたから…。」
「いいや!きっと神が我々を救ってくださったのだ!」
「はぁ…。」
熱心な瞳の老人、黒い服に胸元に赤青黄、三色の玉のついたネックレスをぶら下げている。
「神の使いの方々よ、私はここの教会の神父をしております。ぜひ今日はここで一泊していって下さい。もちろん無料で!」
「えーと…ん、ん?はい。」
神に使わされた覚えはないが今日の宿が決まったようだ。
「おーい、ツムグ何やってんだ。このでかいの(黒熊)外へ出すぞ。」
「うん、分かった。」
サトに呼ばれて三人で後片付けを始めた。
ツムグ達は今日ようやく赤の国の最初の町に着いた。道にはレンガが敷かれ、白壁の家が多い。東洋…いや和風の緑の国の民家に比べて西洋風の町並みなのが赤の国の特徴だ。その後、ツムグ達は教会の奥の部屋で食事をふるまってもらった。
「さぁ、たんと食べて下され、飲んで下され。」
赤ワインを勧める神父。
「いえ、僕達未成年なので…。」
きっちりお断りするツムグ。
「にしてもここが教会っちゅうとこかぁ~、初めて来たわ~。」
マツボがキョロキョロしながつぶやく。
「うん、僕も。」
ツムグも初のようだ。
「ん?そうなのか、オレはガキの頃しょっちゅう行ってたけどな。」
「しょうがないよ、緑の国にはまだ教会は普及してな…て、あれ?なんでしょっちゅう行ったことがあるの?」
花がサトに尋ねる。
「ん、そりゃ赤の国出身だからな。」
「え、そうなの!」
「マジかいな!」
「マジだぜ。」
サトは赤の国出身らしい。
「もうちょっと南に行った鈎村の出身なんだよ。」
「ほう、鈎村から、あそこは良い町ですなぁ。」
クイッとワインを飲みながら言う神父。
「まぁな。」
「なんで緑の国に来たの?」
ツムグが問う。
「お前、大きな建物が建ち並ぶ都会に暮らしたくねぇか?」
「うんう。」
「そ、そうか。いや、高校の時の連中はみんな赤の国内に行くからよ、オレはちがうことしたかったっつーか、緑の国は自然豊かだし、都会育ちの俺にはいいとこに思えたのよ。」
もぐっとパンをほうばるサト。
「てゆーか、何で今まで言わなかったのよ?」
「あ?聞かなかったろ?」
「聞かれなくても言えよ。」
「うるせぇーメガネ。」
「はあ?メガネですけど?超絶可愛いメガネなんですけど!?」
「ブスは黙ってろ。」
「んだとてめぇー!今すぐ死にてぇーか!?」
ガン!
食卓の上に足を乗っける花。
「やれるもんならやってみろ!」
ドン!
サトも負けじと足を乗っける。
「よぉーし、ぶっ殺して…。」
「まあまあまあまあ二人とも、ここ人ん家、ここ人ん家だよ、どうどうどうどう。」
「せやで、いったん座ろ、な、白いご飯が泣いてるで。」
ツムグとマツボがいつも通り仲介に入りサトと花はちっと舌打ちして席に着く。…ちなみに今日はパン食なので白いご飯は置いてない。
「すみません、お騒がせして。」
「いえいえ、実に仲がよろしいですなぁ。」
ホッホッと笑う神父。
『よくない!』
ハモるサトと花、再び睨みあいぷいっと顔を背ける。
「ところで、何の話だっけか?」
サトが若干イラつきぎみに話題を変える。
「はい。我々があがめる三原神様のお話をしていました。」
「ああ、三原神って神話に出てくる三人の神のことだよな。」
「左様でございます。昔々、この世界が何もない無だったころの話。無は三つの命を孕みました。一つの命は炎となり世界に洸を灯し、一つの命は大地となり世界の基盤を作り、一つの命は海となり新たな命を生み出しました。炎の神は女性の姿をされたキナクリドニア様、大地の神は男性の姿をされたイミダゾル様、海の神はこれもまた男性の姿をされたフタロシアム様、そう各々後に命名されました。キナクリドニア様はマゼンタ、イミダゾル様はイエロー、フタロシアム様はシアンのカラーをそれぞれ持ってあられたとか。あなた方のカラーもちょうど神々と同様に赤青黄色をしておられる。」
「うーん確かに、サトが赤で。」
「ツムグが青。」
「花が黄色…か。」
「ワイは何色やろ?」
マツボのカラーはおいといて、確かに赤青黄色だが赤青黄色のカラーを持っている人なんて五万といるはずでは?
「して神の使いよ。」
「え?は、はい。」
「もうじき王宮で開かれる祭りのことはご存知で?」
「祭り?」
知らない。
「祭りって、紅灼祭のことか?アレ、そうか、もうそんな季節か。」
サトは知っているらしい。
「はい、私も一神父として祭りに呼ばれているのですが、あなた方、それに出場してみてはいかがか?」
「出場?」
「ん―確かにおもしろそうだな。」
「え、何のこと?」
花とマツボも首を振る。
「では、もし大会に優勝すればその賞金の一部だけでも、わたく…いやこの教会に寄付していただけませんか?」
賞金?一体何の話を…。神父は急にフフフといやらしくニヤけはじめる。
「いいぜ、乗った。よしツムグ、マツボ、花、オレ達で一旗揚げてやろうぜ!」
???
よく分からないが、僕たちは赤の国の祭りとやらに参加することとなった。




