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色織  作者: 千坂尚美
二章 紅灼城編
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花家

二章登場人物


式彩 (しきさいつむぐ)…十九歳。一流のマヨセンを目指して修行中。青いカラーを使い左腕を狛犬に擬態させる。


マツボ…二頭身のクマで目の下のクマがひどい。クマと言われると巨大化する。


銀杏 (いちょうはな)…十七歳。上半分が金で下半分が黒髪のボブヘアーメガネ女子。明るい性格で左足を銀杏の木に擬態させる。


(くれないさと)…十九歳。合成鳥の一員だったが、紡との戦いで改心。共にマヨセンの旅をすることに。


果重 彩菜(かじゅうさやな)…十九歳。緑森宮幹部で紡の師匠。圧倒的美貌と実力をあわせ持つ。


神父…赤の国の教会の神父。紡達に紅灼祭に出場するよう勧める。お酒が大好き。


(くれないたみ)…サトの弟。花と同い年で兄を見下している。

おはなし2-1(27)  


 三人と一匹は、都に一番近い町、無花果いちじく村に来ていた。イチジク村は花の家のある村、花が自分の家族に会っていってよと誘ったからだ。村一番の人気理髪店をしているという花の両親。いったいどんな人たちなのだろうか。

 自然豊かな道を超え、昔ながらの民家が立ち並ぶ町、そこの一角に赤白青がくるくると回っている。

「着いたわ、ここが家よ。」

瓦屋根の二階建てハウス。壁には中が見えるように大きなガラス窓がついている。四人は家の前で足を止め、花が玄関の扉を押して開ける。

カランカラン

鐘の音が鳴る。

「へいいらっしゃーい。」

中では三人のお客さんを従業員さんたちが散髪中。その中の一人、金髪のおじさんが元気よく挨拶する。

「お、なんだ、花じゃねーか、お友達も一緒かー?。」

チョキチョキチョキ

おじさんの手は軽やかなリズムを刻んでいる。入口の横にある椅子には、二人のお客さんが雑誌を読んで順番待ちしている。

「うんそうなの、上がるねー。」

家の外にいる僕たちを手招きして店の中へ入れると、花は奥にある階段に向かって歩いていく。

「花、おかえりなさい。」

「ただいまお母さん。」

入って一番奥の席で散髪している黒髪のおばさんが花の母親らしい、黒い髪を後ろでくるりと巻いており、少しふっくらとした優しそうな女性だ。真ん中の席で切っている金髪のおじさんはおそらく…というか絶対花の父親、散髪屋さんらしく白色のユニフォームで両腕をまくり上げている。入口側の席で切っているお姉さんは雇われている人かな?結構若い。僕らは花の後に続いて二階へと階段を上がっていった。



「ヤベェ、…恐ぇ、なんて人が多い場所なんだ…。」

ガタガタと震えるサト。なんて多いか…十人もいなかったはずだが…。

僕たちは二階の花の部屋に腰を下ろしている。花の部屋には勉強机が一つにみんなで囲める丸テーブル一つ、それに二段ベッドがあり…。ん?何で二段?

「花、姉妹いるの?」

「うん、いるよ。さっき入口側で髪切ってたの、アレ、お姉ちゃん。」

ああ、あの若い女の人…確か黒髪ロングで、メガネもなかった、ちらっと見ただけでしまいと気付くのは難しい。

「お姉ちゃん、結構無口だから、あ、でも散髪の腕はスッゴくうまいよ!」

おしゃべりな花とは反対らしい。

「しかしアレやん?家族のみんなお仕事しとったら、あいさつどころやあらへんやん?」

「あー大丈夫大丈夫、もうすぐお昼休みだから、もう少し待っててよ。」

部屋から見える空は心地よい空色をしていた。



 午後12時半、ツムグ達は花の家族と共に食事の席についていた。

「ヒェ~、そうか花、お前、旅に出るのか!」

食卓には野菜炒めと漬物と白米が並んでいる。

「うん、さっきからそう言ってるじゃん。」

「おうよ、そりゃあいいこった。それでそこのお友達、名前何て言ったっけ?」

花パパに訊かれる。

「ツムグです。」

「マツボ言いますねん。」

「……サトだ。」

「おおそうか、ふつつかな娘だがよろしく頼む!」

「ふつつかじゃないしぃー。」

ふくれる花。僕は「は、はい。」と一応返事をする。それにしてもこのおじさん、娘が今日初めて会った(パパ目線)知り合いと旅に出ると聞いて、なんだか反応がラフすぎないか?ヘタすりゃスゴく怒られるかと内心ビビってた僕である。

「いやぁ~旅はいいもんだ。お父さんも床屋として腕を磨きにここ緑の国まで一人旅をしてたんだ。そんな時母さんと出会ってだなぁ~バリンボリン。」

漬物を噛みながらの花パパ。

「もう、お父さんその話何百回目?」

奥さんとの出会いの話はしょっちゅうするらしい。

「ツムグくん達、いそいで作ったけど、ご飯、お口に合うかしら?」

「あ、はい、とってもおいしいです。」

「あんら~、そりゃよかったわ~。」

ホホホと笑う花ママ。笑った顔が花そっくりだ。

「花、学校は休むの?」

黙々と食べていた花姉が尋ねる。

「うん、ゴメンね、お父さん、お母さん。」

「いいや構わん。17才、青春真っただ中だ。自分のしたいことをしなさい。な、母さん!」

「そうよー花、自分のやりたいことが見つかるなんて偉いわ。」

「ええ?そんなことないよぉ。」

アハハと笑いあう家族。皆、仲いいなぁモシャモシャ。ご飯を味わいながらそう思う。

「おばさん、この漬物うめーな、どうやって作った?」

「アラ、市販よ市販。」

「マジか。」

ホホホ~と笑う花ママ。サトも花家の雰囲気になじんでいるようだ。花パパが「母さん、お茶くれ。」と奥さんにお茶を要求する。

「ねぇ、あなた達、マヨセンなんでしょ?色彩カラー見せてよ。」

花姉の要求。

「お、いいな~。」

「アラ、私も見たいわ!」

ヒューヒューとあおる花。仕方がない。「見せ物じゃないです。」なんてこの場のテンションではとても言えない。隣のサトと目配せして頷く。僕とサトはその場で立ち上がり、僕は左目をコバルトブルーに、サトは右目をクリムソンカラーに染める。僕の左腕から、サトの右腕からモケモケと白いモヤが出始める。そして僕の腕を金春色こんぱるいろ藍柴色らんししょく淡青たんせい花紺青はなこんじょうが、サトの腕を深緋こきひ、猩々しょうじょうひ臙脂色えんじいろ、真朱色がそれぞれ覆い、サトの右腕が二枚の赤羽に、僕の左腕が白い犬の手になり紅白が交差する。

パチパチパチパチ

拍手する花家一同。

「おおう、かっこいい~。」

「ヒュウ、やっるぅ~。」

「すごいです。」

パチパチパチと感想を各々述べる。僕らは変化した腕を白い煙と共に元の腕に戻し再び席に着く。

「いや~、うちでカラーが使えるのは花だけだからなぁ~。うちの子天才かと思ってたが、お二人さんとも見事なカラーだったぞ!これなら旅も安心だ。」

「お父さん、お母さん、そろそろ時間は?」

花に言われ時計を見る夫婦。

「おっと!いかんいかん、そろそろいかねば。」

「うん、私達も、もう行くね。」

席を立つ花。

「アラそう?じゃあ気を付けてね。ツムグくん、サトくん、マツボちゃん、花をよろしくね。」

「はい、ごちそうさまでした。」

「まかせときぃ~。」

「メシうまかったぜ、おばさん。」

「よし、じゃあ行こう!」

意気込む花。すると、

「花。」

「?何、お姉ちゃん。」

花の姉が呼び止める。彼女は花の目を見つめる。

「元気で。」

「………うん。お姉ちゃんも。」

そこでポンっと花パパがガッテンジェスチャー。

「そうだ花、まずは赤の国に行ってはどうだ?おじいちゃんに会ってくればいい。」

花の父親は赤の国出身だ。

「うーん、そうね……どーするツムグ?」

「うーんと……うん、そうしよっか。どう?マツボ、サト。」

「ええんちゃう?」

「文句ねぇな。」

「よぅし、じゃあ赤の国に向けて、出発――!」

 僕たちの最初の目的地は赤の国へと決定した。と、その前に…。



 僕たちは山を三つほど超えてワカクサ村へと帰って来た。本当は緑の国の南端にある緑森宮からまっすぐ西へ行けば赤の国なのだが、花のおじいちゃんが働いている赤の国の首都、紅灼城へは一旦北のワカクサに上ってから西に向かった方が近い。ゆえに僕の借り家のあるこの村へと来たのだ。家に帰ると、師匠の名義で借りられているその事務所兼自宅はこの一か月の間で随分ほこりをかぶっていた。

「ふぃ~、疲れたけどここで寝る前にまずは掃除よねー。」

腰に手をついてため息をつく。

「いや、その前にやることがあるんじゃねぇか?」

サトが言う。

「せやな、やる事あるな。」

「?何……。」

答えはかんたん。

『飯だ(や)!』

「ああ…。」

僕らはマツボに連れられてワカクサのパン屋まで歩いて行った。

「いらっしゃいませー、っておわ!まっちゃん!それに…えーと、誰やっけ。」

パン屋の店員はツムグの顔を見て困った顔をする。

「どうも、式彩紡です。久しぶり、四つ葉さん。」

おかっぱメガネの彼女は白のエプロンに三角巾をしている。僕たちはそれぞれにパンを購入して、店の奥にあるテーブルについて食べることにした。席に着くと、そこへ四つ葉がやってくる。

「ええん?店番。」

マツボが問う。四つ葉は笑って返す。

「ああ大丈夫やちょっとぐらい。で、どうやったん!?試験。というかその二人は?」

四つ葉は眼鏡をカチャリと花とサトを見る。

「銀杏花でーす。」

元気よく手を挙げる花。一方サトは「紅里くれないさとだ。」ぼそりとつぶやく。

「緑森宮で知り合ったねん。ツムグはん試験に落ちたんやけど、旅する!ていきなり言い出してやなぁー。」

「ほーへー。」

相槌あいづちを打つ四つ葉。揺れるメガネのボブっ娘を眺めるツムグ。

――四つ葉さん、メガネにおかっぱってやっぱ花と似てるなぁ~。

そう思うツムグ。それはどうやら本人達も同じようで…、

「なあなあ花ちゃん!なんかキミ、シンパシィー感じるわぁ。」

「ええ!奇遇ですね!わたしもです~、アハハハ。」

楽しそうに笑う二人。

カランコロン

ベルが鳴りお客さんがやってくる。四つ葉は「あ、行かんと。ほなな~。」そう言って手を振り客の方へと行ってしまった。


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