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色織  作者: 千坂尚美
一章 緑森宮編
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追憶

おはなし25  


僕は師匠、さやなさんに連れられて緑森宮の秘密図書館、王宮図書室へと来ていた。

「では、いいですか?。」

師匠は一冊の本を手に持っている。

「はい。」

僕の「はい。」を聞いてさやなさんは手に持った本を僕に渡す。僕は受け取った本をゆっくりと開いた。


世界は(ひるがえ)り、僕の目の前には多くの人間が一つの机を囲んで座っていた。

「王様、ぜひ考案のご承諾を!。」

「王様!。」

彼らが言っているのは隣国や諸国に対抗するためにさらなる国の発展。それは分かる。がしかし、それを選べば失うものも出てくる。

「王よ……。」

肩にとまっている相棒が語りかける。我が優しき友はこの考案に否定の意見のはずだ。しかし、王として友一人の考えを優先するわけにはいかない。私には……私の答えは、

「時間をくれ……。」

愚かな私よ、決定の時間を先延ばしにすることしかできなかった。


考案の承諾を引き延ばしたまま時間だけが過ぎていく。いや、答えは分かっている。緑の国が…風の国と森の国が一つになったその時から、この国は前に進むしかない。たとへ…その発展に犠牲が伴なおうとも。この国はそうして発展してきたのだ……だが私も鳥族の友人を持つ身、住処を奪われる種族の痛みなど、痛いほどわかるのだ。分かるのだが、しかし……

私は友人リアンを宮殿のテラスへと呼ぶ。私は今から友を裏切ることになる。私は王として、国を守らなければならないから…

「リアン……我が友よ…皆を守るためだ…私は皆を守りたい……すまない。」

愚かな私を許せ。皆を守りたい、ゆえに必ずいつか、両方を救える手を……。次の言葉を発そうとするがリアンの余りにも落胆した表情に、私は何も言うことができなかった。すまない。だが、私にはどこか、親友ならば私の立場を理解してくれるという甘えがあった。私とコイツは一心同体、最も信頼できる……


心臓に突然激痛が走る。私は寝ていた所、何者かに襲撃を受けた。体が鉛のように重くなる。犯人は……私に気配を悟られぬもの、すなわち私のカラーと同調出来る者…

「ま……さ…か………リアン?。」

「ドリア……私を…我らを裏切った罪を悔いて散れ!。」

そうか、私は最も信頼していた友に……

目の前が真っ暗になった。


そこで記憶はおしまい。世界は再び反転する。で、何で僕がこの記憶を見せてもらったって……それは、合成鳥の襲撃、それに数日前に見たドリアのパートナーリアンの記憶…僕はいつも通り朝九時に修業をしに師匠の元を訪れた。

「いやぁ、昨日は突然の出来事でびっくりしたでしょう。」

師匠はいつもと変わらない笑顔だ。あれだけの戦闘の後、少し不気味なくらいだ。

「あの、師匠。師匠は前から気付いていたんですか。緑森宮が合成鳥に襲われること。」

「うーん、…可能性…くらいかな。」

……。

「あの、僕、数日前、図書館の奥の不思議な部屋で、先代の王のパートナーのキオクを見ました。」

それを聞いて少しピクっとする師匠。

「花はあの部屋で見るキオクは何か意味があると言いました。キオクの中のリアンの怒り、今回の事件に何か関係があるんじゃないですか?。」

「……なるほど……真実を知る権利があるというわけですか。」

そして一つフフと笑ったあと師匠は僕を例の部屋まで案内した。


記憶は終わり本をたたむ僕。

「合成鳥なる集団を率いていたのはドリアの死体に擬態したリアンでした。」

「!!。」

「互いに思いあっていたからこその、わずかな思い違いから生まれた今回の事件、許されるべきではありません。」

「首謀者は殺されたんですよね。」

「ええ。」

「………。」

「どうしました。」

「殺す必要、あったんですかね。捕まえて罪を悔いさせるべきだったのでは…?。」

それを聞いてフフっと笑う師匠。

「ツムグくんは、優しいですから。」

「いや……。」

やさしさとか、そんなんで言った訳ではないのだが…。

「ツムグくん、サトと呼ばれる青年とやりあったみたいですね。」

「!、そんなことまで…。」

「フフ、師匠ですから。一応、ね。それで、カラーはどうでした?。」

「白い犬の手が、三本出ました。」

「三本!やりましたね。練習では二本が精いっぱいだったのに。」

一応、今回の戦いで、ずっと師匠に特訓してもらっていた成果はでたようだ。

「この調子でコンクールに向けて頑張りましょう!。」

「……は…はい。」


十時になりひとまず自室へ帰るツムグ。そこではリッスンが一匹で待っていた。

「あれ、マツボは…仕事?。」

「そうらしいポゥ。ツムグよ。」

「…何?。」

「我はそろそろおいとまするポゥ。」

「…そうか、どこか、行く当てはあるの?。」

「それが…仲間は皆捕まってしまったし…ポォゥ、我はこの町で何か仕事を見つけるポゥ。」

「そうか、じゃあまた近々会うかもね。」

「そうだポウ。我も頑張るからツムグも頑張るポゥ。それじゃあポゥ!。」

「うん、またね。」

リッスンは大事な五百円玉をもったままパタパタと飛んで行ってしまった。

「ふぅ…。」

ツムグは一つ溜息をついた。


 それから一週間後、王宮騎士選抜コンクールの最終試験が開催された。三日にわたる志願者たちの激闘。ツムグは初戦、第二戦と勝利するも三回戦では敗北。あとは審査員たちの合否を待つのみ。やれるだけ精いっぱい戦った、あとは天に祈るのみ。が、表情の優れないツムグであった。彼は一人裏山で竹の枠で縁どられた青い空を眺めていた。

……………寒くなってきたなぁ。

はぁ、とため息をつく。まだ白くはならない息。手に持っている木刀をクルクル回してもてあそんでみる。ポイッと回転をつけて上に投げてキャッチしようとするも、頭にボンと当たって葉のしきつまった地面に落ちる。

……………痛……。

木刀がぶつかった所がじんじんと痛む。竹藪のフレームからは空の下に広がる都の街並みが見てとれる。

「僕が、守りたい…もの。」

考えると頭の中がぐちゃぐちゃしてきて、また一つ溜息をつく。

「ん?。」

「お若いの、悩みごとかな!?。」

天から声が鳴り響く。しだいに辺りは深い霧に包まれる。

「あなたは、天狗さん?。」

声の主を探すとなく前を向いたまま尋ねる。

「フン、可愛げのないガキじゃ。少しは驚いたりキョロキョロせい。」

フワリとツムグの後ろに天狗が舞い降りる。

「あなたはどっち?。」

後ろを振り向いて尋ねる。

「フン、ワシの姿をもう忘れたか(わっぱ)。ワシこそユメの求道者TEN☆GOOだ!。」

「……子供ではありません。」

「ワシから見れば皆子供ぞ、何百年生きてると思う。お前などほんの赤子ぞ!。」

「うーん。」

「して、悩みごととはいかほどか?。」

「うん、僕は、一流のマヨセンになるのがユメなんだけど…。」

霧の中に淡い風が吹き黒い髪が揺れる。

「ココの兵士になってしまったら、本末転倒な気がするんだ。」

「……なるほど、この間の様な大きな争い、確かにその様な出来事でなければ出番はそうなかろう。」

「そんなの、滅多にない。」

「それで、」

「僕は………旅に出ようかと思って…。」

「ホぅ。」

またふわりと秋の風が舞い足元の落ち葉を舞い上げる。

「天狗さん……どう思う?。」

「フム、ワシには一つだけ言えることがある。」

「?。」

「我は確かにユメの求道者、じゃがユメを叶えるのはお主自身。お主には、その考えを話すべき者が他におるのではないかな…?。」

「話すべき人…か。」

しばらく頭を回すツムグ。

「うん、そうだね。ありがとう、天狗さん。」

霧は既に無くなり、辺りの視界は紅葉色に戻っていた。




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