三手
おはなし23
オレは暴れ回るべく地上へ放たれ塔の階段を駆け昇った。途中、避難途中の人の群れに出くわした。
「キ…キキキ……メエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!。」
オレの右目はカドミウムレッド。右肩右腕から大きな山鳥の羽が生えてくる。なんだか、人間がウジ虫の様で、様で、でででで、、、で、
「デッ消エロオオオ!!!。」
片翼の翼で上体は斜めになりそのままの体勢で群衆へと突っ込む。
「わああ!。」
「きゃあ!。」
「ひええっ!。」
ニンゲンは驚き道の脇にとびのいて一本の道を作っていく。オレは訳も分からず開けた通路を滑空していく。
「うッぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁ人がいっぱいだぁきぃんもちわりわり…こここええええええええええええええええええええええええええええええ!!!。」
人並みからとにかく逃れたい。逃げたい。こんなの嫌だ。キモチ、餅、ももも…はあっぱぁ、カイダンだ、そうだこれを昇ってさっさとこっからお皿ばいばい~。あ、なんだ?さっきちっせぇクマいたぞぞい?あれどっかでミタような゛
「ビド、イド、ヒド…コエエエエエエエエエエエエエエエエ!!。」
螺旋状のカイダン、ぐるぐるぐるぐる上っていく、するとなんだか通路に出たよ?おへへへへへへへへつ、つらいよぉぉぉぉぉぉぉぉ〰〰〰~
「ギャポエエエエエエエエエエエエエエエエ!?。」
目の前ではいくらかの巨鳥と兵士っぽいのが戦ってる。ニンゲンイヤダ、ツブス。ツブス。オロガポチュワワアワワアアワ、アギョギョギョぎょぱあああああああ????ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!
なんだっけ?苦しい!しんどい!あれ?嫌だ!おろろろ?辛い!わけわか、おれ、なにと戦ってる?鳥?人?どり?びと?どぢ?びどーどーどーなッッッッッつぅ〰~!!!
ぐるぐるする頭だよおおおおおおおおビド戻りも飛びの居出てでででおりゃぐワン具ワンですのだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ドシンッ!
!?
「ってぇ!!。」
「のわっ!。」
サトは何者かにぶつかって飛んでいた勢いもあり数メートルはじき返された。ぶつかった相手も変な声を上げて数メートルふっとばされる。十メートル弱の距離を開けて倒れる二人。二人は打った個所をさすりながらゆっくり起き上がる。
「ったいなもー、一体誰…!。」
起き上がったつむぐはぶつかってきた相手を見て目を丸くする。
「グッチラグッチライヤダイヤダンダ〰〰。」
相手は左手で苦しそうに頭を抱えている。
「お前、どうやって地下牢から…?。」
赤い綺麗な羽を生やした彼はずっとブツブツいている。
「タスケ…コワ……ドイッパイコワインダ…カラ…カラカラ…タス…タスケ…。」
ツムグは打ち付けた右肩を左手で掴み、彼の呟きをどこか悲しい面持ちで聞いている。
――ああ、僕…。
「………。」
無言のまま座っていると、ようやく彼は目の前のツムグの存在に気付く。
「お…おお、テメッ……あん時の…。」
彼の右目はそのカラーで真っ赤に染まり、左目は血走って赤黒くなっている。よろよろと立ち上がる黒い青年。
「潰す。潰す、ツブ―――ス!!。」
すさまじい形相でツムグへ向けて駆けてくる。ツムグは左目に青色を灯し立ち上がって狛犬の腕を纏う。
ズンッ!
互いの最初の一撃は激しくぶつかり合い衝撃で二人の足元のタイルが砕ける。交わる白と紅、砕けた石片が舞い美しい。
「俺様がテメェみてェな貧弱ヤローに負けるわけがねぇ!そうだ、今度こそテメェをぶっ飛バス!!。」
これ以上ないほど口を大きく開けて怒鳴り散らす黒い青年。とんでくる唾液にツムグは顔をしかめる。
「…こっちも、負けるわけにはいかない。」
「なんでぇ!?。」
また大きく開いた口で問う。ツムグは左の碧眼で彼を睨みつける。
「助けなきゃ、いけない人がいるんだ。」
赤翼に力を込め白目を引ん剝く青年。
「ほ、ほ、ほざけッ!。」
翼を振り切りツムグを押し払う。そして、二枚の赤翼の先端でツムグを襲う。ツムグは左手をガードに使いブロックし、白い体毛に赤色が突き刺さりそこから赤い液体がこぼれだす。痛みに顔をしかめるツムグの左肩からはモケモケ、もけもけと白いモヤが漏れ出している。
――…定まれ。
ズボォ!
白手から赤翼を引き抜きサトは連続の突き攻撃をくり出す。素早い攻撃を必死にガードするツムグ。が、その体に次々に小さな穴が開きどくどくと血が溢れ出てくる。
「うぱ、おら、うで、あし、おなかぁ…いけいけいけいけ!。」
ジュボズボジョボズボォッ
「うおら!。」
突然の左フックに左側の壁にたたきつけられる。すぐさま翼がとんできて、ガードした体勢のまま数メートル後ろへと吹っ飛ばされてしまう。
「ぐふっ。」
「おおおおおおおおお!。」
体勢を傾けて低空飛行で突っ込んでくる青年。
「う、おおお。」
ガキイイイ!
爪で突進を受け流す。サトは叫んだまま通路の端まで行ってUターンし、再び迫り来る。ツムグはカウンターの要領でうまく攻撃をかわしつつ爪を放つ。わずかに彼の胸元をかすり、彼の黒いタンクトップの胸部は裂け、ヘドロ液が数滴垂れる。
「ちぃぃ…またぁ…またぁ…ああ゛あ゛…くそっ…クソッタレ…ああああ゛あ゛ぢぐじょおおおおおおおおおおおおおおおなんでおれがオレがあああぐぐ…ぐるしぃぐるしぃぃぃよぉあアアアアアイヤダ、コロシテやる頭ん中、グルグルスルカラッ…するからぁっ!!!。」
頭を抱えて体をくねらせひどく悶えまくる青年。いきなり彼の右半身、背中から白いモヤが溢れ出す。
――!。また色彩のレベルが上がるのか?それとも…。
「うぱら、うぱら、うぱらららららららなんで、なんでおれおやじどこなのおふくろたオレイヤゴメンナサイソんなのグチャグチャでタミ、タミィぃぃやメテヤメテEオネガイシマスグララララララララぐらいるごごぐらいよぉだズだズイギアガギエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエオオエエエ絵絵絵!!。」
青年の背中からさらにもう一枚の翼が飛び出し、右腹部から大きな鳥足が赤色の光を散らして出現する。
「ウオッパァ!。」
叫び声をあげ飛んでくる青年。左手で迎え撃つも、
「!。」
ズンッ!
桁違いのスピードと威力に遥か後ろまで吹っ飛ばされる。水きりの石の様に転がるツムグ。
「コッウエエエエエエエエエエエエエ!!。」
また叫んだかと思うともうすぐ目の前まで距離を詰められていて、最初の一枚の翼を受け流す、が、後の二枚の翼がツムグの足元の地面を砕き…。
ズズゥゥン!
「うああああ!!。」
ドドォと足場を無くしたツムグはさっきまで床だった岩のガレキごと一つ下の階へと落下する。あまりのダメージに息がつまるツムグ。
「ツムグ!!。」
「!?。」
急に自分の名前が呼ばれてハッとする。
――今の声は、まさか。
声の方を振り向くと自分を追ってここまでやって来た花がこちらへ駆け寄ろうとしていた。ツムグはとっさに立ち上がり走ってくる花に思いっきり体当たりし後ろへ突き飛ばす。せつな、さっきまでツムグのいた場所にサトの強力な一撃が突き刺さる。どび散る岩片を浴びながら間一髪かわせたツムグと花。
「花、逃げろ!。」
「うぱら、うぱららら!。」
ドシィィィ!
花をかばうようにしてサトの攻撃を受け止めるツムグ。強力な三枚羽の攻撃にひざまづく。
「うぱらら、うぱぱうぱうあぱ。」
口を開けたまま首を揺らす黒い青年。その狂気の姿に戦慄を覚える花。
「ひっ。」
「早く!。」
叫ぶツムグ。花はしりもちついた体勢から手をついて起き上がろうとするが、足が震えて動かなくなる。サトは再び叫んで三枚の赤い羽で襲ってくる。ツムグはそれらの羽を切り裂き、受け流し、かわし、かわし、敵のガードが開いた部分を狙って一撃を…が、先にサトがツムグに一撃を与え、花の後方へと吹っ飛ばされる。
「ぐあああああああああ!!。」
傷みに悶えるツムグ。
「ツムグ!…!!。」
トバされたツムグの方を向いた花はゾッと背筋に悪寒を感じる。
「う、ぱ、ら、う、ぱ、ら。」
恐怖でゆっくりと振り向くとすぐ目の前に狂気に狂う青年が立っていた。
「あ、あ、あ…。」
怯える花のほんの目と鼻の先に顔を近づけるサト。
「きみ、黄味。キミ、ミミミミ?。」
首を傾げゆっくりと翼を振り上げる。
「あ、ああ…。」
花の目はうるみ、恐怖で体は動かない。その様子を見て必死に起き上がるツムグ。彼女の元へ向けて走る彼の左肩からは白いモヤが溢れ出していて。無抵抗の少女へ向けて振り下ろされる狂気の一撃。
「頼む、定まれ!まにあええええええ!!!。」
ドン!!
「ウグッ。」
赤い羽に突き刺さる二本の白い腕。ギリギリで間に合ったツムグは走ってきた勢いのまま赤翼の青年をはるか後ろまで吹っ飛ばした。
「はぁはぁはぁ。」
息切れするツムグの肩には白いモヤから形態を帯びた二本目の白い腕が生えていた。その腕の周りに青色の光の粉が舞っている。ツムグは息を整え青年へ向けて走っていく。
「ピンコロピンコロアピピョロポーンピンコロピンコロアピアピアピピョロ…。」
頭を抱えて立ち上がるサト。ツムグの放った攻撃を頭を抱えたまま翼でガードする。そのまま押し切ろうと爪に力を込めるツムグ。
「ピンピョロピンピョロアピアピ、アピピョロポーン!。」
バサァ!
赤翼を広げてツムグを押し返すサト。三枚の赤羽と二本の白手との激しい攻防が始まる。ツムグの強力な突き攻撃を警戒され前回戦かった時の様に力で押し切る戦法が通じない。それどころか今は力ですら負けている。強力な羽の攻撃に体のダメージは増していく。相変わらず青年は叫んでいるがその攻撃は実に秀逸で隙が無い。
「ウピョー、コエ、コエ、コエコエコエーーー!ギゼンシャヤロー、何が助けなきゃいけない人がいるだ!俺相手に押されてるテメェがほざくんじゃねぇぇぇぇぇえええええええええええええええええ!!!。」
「…………お前だ。」
「え。」
ボコッ!
ツムグの一撃はガードされ、はじき返され数メートルの距離が開く。肩で息をするツムグ。一方サトは、
「え、え絵え、え?今何か言っ__。」
「お前だ。僕は、お前が助けたい。」
サトは天井を眺めたままぽっかり口を開けている。
「灰…?灰灰灰?。」
「お前、僕に言ったよな。助けてって……だから、僕は助けたい。」
「ピ…ピンピョロ…ピョロ……。」
直後、一瞬にして首を掴まれるツムグ。
「!!。」
サトはテラスから夜の空に高く飛び立ち、城へ向かって思いっきりツムグをぶん投げる。
「アガグゲゲゲ―――!!!。」
ズズゥン!!
立ち込める砂埃。降りしきる雨にサトの整ったおかっぱ頭はべったりとなる。
「アピヨョロ、アピヨロ。」
頭を抱える青年。
「負けられない。」
雨に流された砂埃の中からユラリと立ち上がる白い青年。彼の周りには蒼色、天色、白群、碧色、移色、岩群青と色とりどりの青い光の粉が舞っていて、その左肩からは三本の白手が生えそろっていた。
「僕は、救いたい。困っている人がいるなら。…それが、僕の選んだ職だから…。」
ツムグは黒色の中に浮かぶ赤と黒の青年を見上げる。
「マヨセン、狂気や悪魔、ちょっぴり怖いものから皆を救ってあげられる仕事…。」
黒の青年はびしょ濡れになり頭を抱え奇声を発している。ツムグは上を向いたままふっと笑みをこぼす。
「かっこよくない?。」
「うがぱああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!。」
急降下急突進する朱羽。三枚の紅翼と三本の白手が交錯する。力は互角。二人は通路沿いにお互いを弾き飛ばす。
「はぁ、はぁ…。」
「う、がぱ、こ、え、こええ、た、す、け……。」
「もう怖がらなくていい。」
「が………が?。」
紅い翼の青年は頭を抱えたまま赤い瞳で白い腕の青年を見つめる。ツムグは青い光を目に宿したまま息を切らして言う。
「大丈夫。もう、怖がらなくていいから。」




