表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
色織  作者: 千坂尚美
一章 緑森宮編
22/144

律寸

おはなし22  


「倒さなきゃならなくなったって…。」

花は暴れる怪物の方を向く。

「あいつは元はいいやつなんだ。それがきっと合成鳥のやつにらに何かされて凶暴になってるだけなんだ。僕が救ってやらないと。」

「救うって…どうやって。」

「僕のカラーなら救える。ココの兵士に殺させてたまるか。」

ダッと木の陰から飛び出すツムグ。彼の左目は鮮やかなコバルトブルー。白いモケモケが左半身を覆いつくす。ボッと煙を引き裂いて白髪の狛犬の爪が現れる。

「おおおおおおおおおおお!!!。」

リッスンへ向けて爪を振り下ろす。

ガキィィィ!!

巨大な金貨と鋭利な爪がぶつかり合う。

「ポオオオオオオオオオオオオオオオオ!!。」

目の前の標的を潰さんとリッスンは縦横無尽に武器を振り回す。しかしその武器は本来ガードに使うに適したへらべったい形状、風の空気抵抗を受け易く動きが大降りになり、幸いかわすのはそれほど難しくはない。が、ランダムに荒れる敵の懐に入っていくのは難しい。ちょうど大繩の八の字をランダムスピード回しで縄に入っていくような難しさだ。

「リッスン……話を…おっと……聞け。」

ツムグはピョンピョンと金貨をかわしていく。着地時にとんで来た一撃を左手でガードする。

ガキイイッ

「ポォオ…オオ…ポオー、ポポポゥオ…ポゥオオ!!。」

リッスンは力でツムグを押し飛ばそうと鼻息を荒くする。それを必死に耐えるツムグ。

「ぐ、いいから、…落ち着け、…お前は本当はいいやつのはずだ。…合成鳥のやつらに何をされたか知らんが…でかくなっているが……狂気なんかで、自分を見失うな。」

「ポ…ゥォ?。」

首をかしげるリッスン。その一瞬敵の力みがとれる。せつな、

「ポオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!。」

とんでくる一撃。

「!!。」

ドガアアアアアッ!!

間一髪上からの攻撃をかわすが、衝撃ではじきとばされ数メートル後ろへと転がっていく。

「ぐうっ。」

倒れるツムグへ向けてリッスンは次の一撃を振りかぶる。しかも、五百円玉の平たい面での広範囲攻撃。かわせない技にツムグはとっさに左手で頭をかばう。その時、

「ポゥア!!。」

悲鳴を上げるリッスン。

「!?。」

見ると奴は武器ごと横へトバされゴロゴロと転がっていた。転がるリッスンの反対側には左足を銀杏の木に変えたファイティングポーズの花がいた。

「花…。」

「何やってんのよツムグ、あんなやつさっさとぶっとばすわよ。」

「……う、うん。」

思わぬ助っ人にすこし笑みがこぼれる。敵はゆっくりと立ちあがてくる。

「花、」

「分かってる。とどめはツムグがさすんでしょ。」

キラキラと黄色い粉となって彼女の左足が元に戻る。

「ポオオオオオオオオオオ!!。」

四翅を使いとんでくる怪物。それに負けぬ勢いで突っ込んでいく花。

「おい花!?。」

敵とぶつかる寸前でジャンプする花。その左足には黄色い色彩が煌いていて。

ブンッ!

一気に回し蹴りをくり出す花。

スボオオオオオオオオオオオオオ!!!

強力な植物の一撃が敵の翅の一枚を貫通する。

「ポオオオオオオオオゥオ!!。」

傷みに悶え、バランスを崩して斜め前方の地面へと突っ込むリッスン。攻撃を決めた花は左足を戻してタッと着地する。

「サポートくらい楽勝よ。」

おお、と感心するツムグ。そして花と目が合いリアクションをとっている場合でないと気付き急いで敵へと向かう。白い犬の手を倒れる大リスへ向けて振りかざす。

ズバアアアアアアアアアアアアアアア!!!

切り裂いた個所からヘドロ色の液体が吹き出る。

「ポオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ………オオオ……オ…ポ……ポゥ〰〰~。」

リッスンの叫びは徐々に力なくなり同時に吹き出る液体と共にどんどん体はしぼんでいき、最後には最初会ったのと同じ50cmくらいの小さなリスへと元通り。

「へぇ、魔除け(チャーム)の色彩(カラー)か…いいもんもってるねぇ。」

ナイスサポートを決めた花は腰に手をついてツムグのカラーを評価する。倒れたリッスンを見つめるツムグ、花に木の陰に隠れていたマツボが加わる。

「ポ…ポゥ……我は、一体なにしてたんだポゥ……ポ、お前は、確かツムグ!?。」

意識を取り戻し、ツムグの存在に気付くリッスン。

「悪いカラーに侵されてただけだ。」

ぽつりと言うツムグを花は横目で見る。

「そういえば、…ポゥ…緑森王が…。」

「?緑森王が…?。」

「危…あぶな……zzz、zzz…。」

「……寝ちゃったね。」

花はスヤスヤと眠っているリスを抱っこして抱える。羽の四枚の内一枚は破れたままだ。

「緑森王…。」

「おじいちゃんが危ないって言ってたよね。」

「……花、マツボ、とりあえずリッスンを持って城の中へ入ろう。」

頷く二人。三人は城の中へと入っていった。その際、何体かの黒い影が上空から城に入るのが見え、わずかな悲鳴のようなものが聞こえた。

「まずいな、逃げ遅れている人たちが襲われているのかも…花、こういう時の避難場所は?。」

「大食堂の大広間よ。」

走る三人。

「よし、マツボ、花はリッスンを連れたまま食堂へ。」

「!ツムグ、あんたまさか一人だけで行くつもりじゃ…。」

「うん。」

「うん…って、ダメよ。半人前のくせに、兵士たちの足手まといになるわ。」

「でも、今…聞こえている上の悲鳴は?兵士が足りないんじゃ…。」

「そんなはずない。だって緑森宮にはたくさんの兵士がいて…。」

「でも、もしほんとに人が足りないのだとしたら?。」

「それは…だけど、でもツムグ、怖くないの?死ぬかも…。」

花の小さな声に少しためらうツムグ。が、

「うん、だけど…僕は、助けたい。」

その一言に唇をかむ花。

「…なら、私も……!。」

食堂のある階までたどり着いた三人。そこでは大量の人たちが食堂内へと先導されていた。しばらくその光景に驚く花、そしてもう一度ツムグの方を向く。しかし、

「!。ツムグ!?。」

そこにいるはずの彼の姿は消えていて…。

「あれ、ツムグはんどこいったんや。まさかもう一人で上に。」

「ツムグ、つむ___!。」

彼を探そうと走り出す花のローブの裾をぐいとつかむマツボ。

「待つんや花はん。」

「何!?。」

「ここはツムグはんを信じて待つんや。ツムグはんに会えんかったら皆バラバラになってしまう。」

マツボの意見に顔をしかめる花。

「でも、自分の友達が戦ってるのに、私は、指をくわえて待ってるなんて、できない!。」

ポイっと抱いていたリッスンをマツボへ投げて、それをあわてて両手でキャッチするマツボ。ローブを掴んでいた彼の手は離れ、自由になった花は人込みを押しのけ走って行ってしまった。マツボは人込みに消えゆくわがままな花の後ろ姿を見て呟く。

「もう。」


 広い王の間で対峙する二人。

「………王はどこだ。」

問うドリア。さやなは口をつぐんで黙っている。

「王は…どこだ。」

先ほどよりも低い声色で問う銀髪。その問いにさやなはわずかに口角を上げる。

「あなたは王には会えませんよ。」

彼女の背後には円を描くようにして植物の球根が浮かんでいる。

「そのカラー、植物使いのさやなか…。」

「覚えていてもらい光栄です。」

ニコッと素敵な笑顔で微笑む。

「大きく、なったな。」

二人の間は糸が張った様な緊張感で張りつめている。

「王を差し出せ。そうすれば貴様を助けよう。」

「…ドリアさんは私を貴様とは呼びませんよ。」

笑みを崩さないさやな。

「仕方ない。」

うつむくドリア。同時に激しい灰緑の色彩と共に虹色の翼が彼の背中から生える。ドリアはさやなへ向け手をかざし、虹色の翼を一扇ぎ。直後、タッと左に飛びのくさやな。すると、さっきまでさやなの居た場所、その後ろにある大きな石の玉座と壁が真一文字に切り裂かれる。

「ふぅ。相変わらずの威力ですね。」

舞う砂ぼこりにパンパンと白いワンピースをはたきながら少し困ったように言うさやな。

「かわしたか…が、かつて神童と言われたその実力も王の前には無力ということを教えてやろう。」

グアッと広がる虹羽。その周囲にいくつもの空気の波が渦を巻き…。

「いいですね。なら私はかつての王は所詮神童の前には無力ということを教えてあげます。」

微笑むさやなはパッと両手を開く。同時に彼女のしたがえるいくつもの球根が一斉に芽を開き…。


 緑森宮地下牢。

 ズゥン、ズズゥン。

 何やら外が騒がしい。

「何が起こっている?。」

眠れないサト。そこへ忍び寄る一羽のカラス。ガチャリ、という音がし、キィィィィィィッという音と共にサトのいる牢が開いていく。

「お前、蚊羅酢。助けに来てくれたのか、外はどうなってる?。」

「サト、今こそ決戦の時。思いっきり暴れ回ってもらうぞ。」

地下牢の暗闇に怪しく光る蚊羅酢の眼光。サトはダルそうに頭の後ろを掻く。

「ちっ、上にはさぞ人が多いんだろうな。…想像しただけでも吐き気がするぜ。」




     


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ