婆抜
おはなし18
「王…様って…。」
「マジ?。」
「マジ。」
答える老人。
『えええええええええええ!!!緑森王!!?。』
声をそろえて驚くツムグとマツボ。
「バカもん!声が大きいわい!外に気付かれたらどーする!。」
一喝入れる王様。
「え、え、え、本マなん、本マ緑森お…。」
「いかにも、ワシこそココの王を務める緑森王ぞ!。」
隣で花が「そーだよー。」と合いの手を入れる。
「…………。」
一瞬、というか、かなり、ウソだろ、と老人と花を見ていたが、二人の堂々たる態度を見る限り本当なのかもしれない。と、言う訳で、たとえウソでも本当だという体で話を進めよう。そう思うツムグ。
「で、王様が、こんな所で、何してるんですか?。」
「いやいや、お忍び散歩じゃよ。花がこの部屋におったのは予想外じゃったがのぅ~。おかげでバレてしまった。」
「まぁ、あの程度の変装じゃ私の目はごまかせないわよ、おじいちゃん。」
「ホッホッホッ。」
のんきに笑っているが、それでいいのか?
「いや~、王様とかマジビックリやわ~。ワイマツボいいますねん、よろしゅ~たのんますわ。」
ベッドから飛び降りて、うやうやしくお辞儀をするマツボ。
「フム、して、お主は?。」
「僕は___。」
「この人はツムグ。さやなさんのお弟子さんなの。」
花が先に説明してしまう。
「ああー、さやな嬢の。左様か。」
「最近知り合って友達になったの。」
「フム、それは良いことじゃ。友達は多いに越したことはない。」
「あの、今、特にふるまえるお菓子とか、お茶とかないんですけど…。」
「構わん構わん、水でよい。」
「は、はい。」
緊張気味に返事をして水をくみに行くツムグ。水道の前でコップを構えて蛇口を捻る。
――……………………そうかぁ。王様来ちゃったかー。
ボタボタと手に持ったコップからは水道からの水が溢れ出している。僕はキュッと蛇口を元に戻し、大きく深呼吸した。
王様に水を献上しにベッドのあるゾーンへ戻ると三人でトランプを始めていた。
「おじいちゃん、ツムグってば今王宮騎士のテスト受けてんだよ。コネで受からしてあげてよ。」
「ホッホッホッ、ムリ。」
そうかぁ、ちょっとがっかりする僕。いやいや、そんなチートで受かってもいれしくなんてない。三人はどうやらババ抜きをしているようだ。
「あの、王様、どうぞ。」
うやうやしく水の入ったコップを王に献上する。
「うむ、すまぬの。」
そう言ってコップを僕から受け取るとズジュルゥルという音と共に一瞬にしてコップは空になり、「ほい。」といってコップを返してくる。僕はそれを再び恭しい態度で受け取る。
「よし、彼も戻ってきたところじゃし、四人で仕切りなおすかの。」
そういう王様の手札がちらりと見え、僕ははっきりとjokerのカードを確認する。花もマツボも『はーい。』といって全部のカードをごっちゃにして花がそれを切る。カードは四人にそれぞれ配られ、僕は十二枚のカードを手に取る。ペアを三つ発見し六枚のカードをベッドの上に置く。ちなみに、マツボのベッドにマツボ、王様が座っていて、僕のベッドに花と僕が座っている。
僕の手札にjokerはない。ところで、このトランプ誰のだ?。この部屋にはなかったと思うが。
ジャンケンポンで順番を決める。花は僕と同じ六枚。マツボはもうワンペア多くそろい四枚。王様は一、二、三、四…きゅ、九枚(汗)。
「あははーおじいちゃん、多すぎ―。」
笑う花。そろそろ僕は気になることがある。
「なぁ、何でおじいちゃんって呼んでるんだ?。」
隣の少女にこっそり聞いてみる。
「フムそれはな…。」
王は耳ざとく聞き取りしゃべり出そうとするが、それを遮り花が答える。
「私は幼いころに引き取られたの。父親と母親の顔も覚えてないわ…。」
「え…。」
そんな、暗い話なの?
「って、言うのはウソで、私のお父さんもお母さんもちゃーんと生きてるわ。宮近くのイチジク村の出身で親は共働きだから幼いころからここに預けられてたの。」
何だよそれ…。
「そうそう、この子は何かと好奇心旺盛で緑森宮のあらゆるところに忍び込み、今やこの城の多くの秘密を握る問題児となり果てたのじゃ。」
「問題児じゃないし。でも、そう、おじいちゃんとは昔からの仲だし、親しみを込めて、おじいちゃんって。」
「そうそう、そういうことじゃ。」
「ふーん。」
暗い話じゃなくてよかった。
「花はんのご両親は何してはるん?。」
「えとね、お父さんとお母さん二人で散髪屋してるの。結構人気なんだよ。京からくるお客さんも多くて…んで、私の本当のおじいちゃんは外国にいるの。外国の工場で職人さんやってて、何か、小っさな部品造ってるの。私はよく分かんないけど、すごい腕なんだって。」
「ほぉ、それで花はんのナイスな髪型もご両親が?。」
花は上が金髪、下がブラックのツートンボブヘアー。
「そ、ここ校則で金髪ダメだから、黒く染めてるの。」
「地毛金髪なん!?。」
「そ、隔世遺伝したの。外国にいるおじいちゃんの。」
「てことはハーフ…じゃなくて。」
「クォーターよ。」
四分の一という意味だ。
僕は花の手札から一枚引く。スペードの六。僕の手札はダイヤの五、ダイヤの七、ハートのK、クローバーのJ。さっきワンペアが出て手札は四(次に王様が僕の手札を引くと)になった。王様が僕のダイヤの七を引く。手札九枚の王様はさすがにペアがあったみたいで十→八枚となる。マツボは四枚。花はまだ六枚だ。マツボが王様から一枚引き、ペアあり、五→三枚。
くそ、追いついたらまた離された。
その三枚から花が一枚引き花もペアありで七→五枚へ。そして僕が引………!!
Joker!!
いかん!表情に出しては。僕は花から引いたカードがjokerとバレないように必死にポーカーフェイスを決め込む。手札越しに花は意地悪そうにややニンマリとしている。
くそ、さっきまで全然jokerをもってるそぶりを見せなかったのに。落ち着け、今はただポーカーフェイスを決め込むんだ。
自分に言い聞かせる僕。そして僕から一枚引く王様………!!引いたのはそのjoker!!
王様の顔が一瞬にしてものすごく嫌そうな顔になる。皆「あ、joker引いたな。」と、目がセリフを物語る。僕はお茶を濁そうと話題を探す。
「そういや、王様は、よくこういったお散歩をされるのですか?。」
「ウム、たまにな。」
会話終了。
残念に思っていると王様から話を始める。
「時に、皆、近頃各地の村で怪鳥に村人が襲われるという事件が起こっとるのは知っておるかの?。」
「知ってる知ってる。物騒だよねー。」
以外にも最初に知ってる発言をしたのは花だった。おそらくそれは合成鳥の起こした事件。奴らのことはもうそんなに噂になっているのか、はたまた花が特別情報に聡いのか。
「こないだ情報屋のキクラ君から聞いたよー。」
後者の方らしい。
「ホッホッホッ、さすがに情報に聡いの。宮の警備は固い故、皆は大丈夫じゃろうが怪しい人やケモノには気を付けるんじゃぞ。」
『はーい。』
言ってる間にマツボの手札が0になり一抜けする。わーいと喜ぶマツボ。悔しがる花と王様。しかし次に上がったのは王様からカードを引いた花。これまたわーいと喜ぶ。かなり悔しそうな王様。接待プレーはしない僕らである。そもそもババ抜きでどう接待すれば良いのか。次は僕が王様からカードを引く番か…。そしてカードを引き合いお互い手札は最後の一枚(もう一人は二枚)となるデッドヒート。僕の手札は残るハートのKのみ。王様のカードはjokerとハートのkの二枚というわけだ。その二枚から一枚引こうとする僕。すると、王様はおもむろに二枚の内一枚をひょいと上げてみせた。
…………と、古典的手法!!
そうはいくかと僕は上げられていなもう一枚の方を引き抜…………!Joker!?
こ、これは…は、高等奥義!!
高等技術の技を決めた王はもんのすごくうれしそうにニンマリする。僕はとっさに二枚のカードを背中にしまいシャッフルし、王の前につき出す。小細工なしの真っ向勝負!!相手が王様だろうが手加減無用!そして手を伸ばす王様。……引いたのは……!
ハートのK!!
「よっしゃ―――――!!。」
二枚のカードを天に散らしガッツポーズの王様。
「くそぅくそぅ~。」
僕は悔しさいっぱいにベッドをボカスカと叩く。
「よ~し、勝利して気分も良いし、そろそろおいとましようかの。」
「あ、じゃあ私も一緒に帰る。」
そう言って立ち上がる二人の客人。花は53枚のトランプをまとめてローブのポッケにしまう。二人は部屋の扉の前まで歩いていき僕とマツボはそれを見送る。
「おじいちゃんは私が見送るから、二人はここまででいいよ。」
そう言って扉のドアノブを回す花。
「ではお主ら中々に楽しかったぞ。失礼したな。」
そう言って去っていく王様。手を振る花。お辞儀をする僕とマツボ。玄関で二人を見送り扉を閉める。その時、「あ、王様!やっと見つけましたよ!。」と男の声がする。王は無事保護されたらしい。
僕とマツボはベッドへ戻って「ふぃ~。」と寝っころぶ。
「ツムグはんツムグはん。」
「何?マツボ。」
「ワイ、緊張したけど、ゴッツ楽しかったで。」
「………うん、僕も。」




