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色織  作者: 千坂尚美
一章 緑森宮編
17/144

花椰

おはなし17  


「君は合成鳥と呼ばれる組織の一員だったんだな。」

「………。」

「組織のアジトはどこにある?。」

「………。」

「いいかげんにしろ!なんとか言え!!。」

バンッ!思いっきり机をたたくカリフ。すると

「るっせえええええ!テメェの顔がキモチワリィーンだよおおオオオオオ!!。」

バンッ!思いっきり机をたたき返すサト。


――ハァー、オレの顔がキモイから何も答えないのかー。彼、面食いなのかなー、美人だったらしゃべるのかなぁ、さやなさんに相談しよっかなぁ…。

夕食時、そんなことを考えていると自分の席に緑森宮のローブをはおった女の子がやってくる。

「ん、どうしたんだ花?おや、そこの二人はいったい…。」

花は青年一人と小熊一匹を連れていた。花は二人に自分を紹介する。つづいて二人を自分に紹介する。

「この人たちは私の友達で、ツムグとマツボです。ツムグは王宮騎士目指して今試験受けてるんだよねー。」

「はい、そうです。」

――花、だからこの人に紹介を、気が利くなぁ。

そう思うツムグ。

「ム~なるほど、受験生か。まぁまぁ花も、そこに座れ。一緒にディナーを楽しもう、ツムグくんマツボくん。」

「はぁ…はい。」

「いいよいいよ固くならなくて。」

席に着きながら何故か花が言う。ツムグとマツボもカリフの隣一列に並ぶ。テーブルは長い長いテーブルなのだ。カリフ、マツボ、ツムグ、花の順に座る。

「私はさっき花から説明あったが、ココの高等部の教師兼ココの騎士をしている。何か聞きたいことがあったらなんでも聞いてくれ。」

カリフは人当たりが良さそうなおじさんだ。花はさっそく皿に盛った食事にありついている。

「騎士の仕事って具体的にどんなことなんですか?。」

「フム、まぁ、あれだ。緑森宮が戦争をした時に戦ったり、あと緑の国にはびこる邪鬼達の退治とか、そんなもんだ。だがキホン今は戦争もないし平和だから仕事は特にないかなー。どっちかというと教師の方が本職みたいだ。」

「へぇ。」

ムシャムシャとマツボも食べ始める。ツムグは熱心に話を聞いている。

「なら、教師でない騎士たちはどうしているのですか?。」

カリフは皿の上に乗った野菜のムニエルをフォークで転がしながら答える。

「ああ、他にも教師をやっている奴は多いが、そうでない奴は、城の警備や都の見回り、それでもないやつは城下町で働いてたりする。あとはだなー、特に力のあるやからは兼業をせずに常に己の腕を磨いていたりするな。」

「なるほど。」

そういってストンとナイフでニンジンを切りフォークで刺して口に運ぶ。

「思ってたのと違うか?もっとカッコイイのをイメージしてたろ?。」

「はい、まぁ…。」

「でもな、オレらがカッコイイ活躍をしなけりゃいけない日がこないことこそが、平和の象徴なんだ。だが決して怠けているわけじゃない。オレたちは、いつだって…。」

カリフはムシャムシャと食にありつく花を眺める。

「大事なものを守る気持ちは絶やしてないのさ。」

花はサーモンのムニエルを口に運んでウマウマ言っている。

「あ、そうだ、カリフ―。」

「先生……をつけろって何度言っても聞かないんだよな~。」

参ったような表情を見せる先生。構わず花は続ける。

「ツムグってば、実はさやなさんのお弟子さんなのですー!。」

「何!?そうだったのか!!いやーそうは気付かず。そうか、キミがうわさにきくさやなさんの弟子だったのか。」

「はい。師匠のことさんづけなんですね。だいぶ年下なのに。」

「いやー一応上位だからね、彼女の方が。もちろん尊敬もしてるぞー、美人で強くてあの人がらだからなぁ。」

「ですよねぇ!マジリスペクト、パネェっすわ!。」

急に運動部の後輩(男子)みたいになる花。

「フムフム、さやなさんの弟……子…ん!。」

カリフはカリフラワーをモシャりながらぶつぶつ。

―ーサトという青年にくっつき虫をくっつけたのはさやなさん。で、その時確か彼と戦闘したのは…。

「あ…。」

大事なことに気付く緑森宮騎士。

「どうしたんですか?。」

「キミに会ってもらいたい人がいる。」


 夕食を終えたツムグ達。カリフはツムグ一人を連れ緑森宮の地下牢へと降りていく。真っ暗闇。太陽の落ちた時刻、地下は真っ暗だ。ポツリポツリと灯るの火だけが明るい。そして黒い地下道では、そこに閉じ込められた者達の音のない気配だけがひしひしと感じられる。カリフは一つの牢屋の前で止まり、壁に掛けられた松明を手に取り牢屋の中を照らす。中にいる人物は体を横にしてスヤスヤと眠っていた。

 ツムグはタンクトップの人間をぼんやりと眺める。

「…………こいつは。」

横たわる人物は光に照らされたことに違和感を覚え、不快そうに唸って目を覚ます。目だけを開けて起きた彼は自分を照らしている人物を見た後、隣に立っているツムグへと視線を向ける。

「………お前…。」

そしてダルそうに上体を起こしてポキポキと首をならす。

「テメ……ココのコマだったのか。」

ツムグは首を振る。

「うんう、…まだ駒にもなれていない…半端者なんだ。」

「……………あ゛?。」

サトはダルそうに首をそむける。カリフはそんな二人の様子を黙ってみている。

「カリフさん、どうして彼が、ココに?。」

「ああ、やはり、面識があるようだな。いや何、事件を起こした訳ではない。とある事件で重要参考人として捕らえているだけだ。」

………おそらく合成鳥のことだろう。緑森宮へ来て一週間が経ち、そんなことすっかり忘れていた。ツムグはダルそうに腕を伸ばしている牢屋の中の青年を眺める。前戦った時と比べて、

「随分楽そうだな。」

「あ゛?。」

ツムグの声に反応する。

「彼、私が担当して面接をしているんだが全く会話をしてくれないんだ。」

「おうい゛、オレをさっさとここから出せよぉ~。ヒマすぎてヒマ死にしちまうだろぉがよぉ。」

ユラユラと上体をゆらす。と、思ったらいきなり牢屋の檻に掴みかかる。

ガン!

「出せ!さっさと、こっから!。」

がるるるとうなる青年。

「それで、僕に何をしろというんですか?。」

少し困った様子でカリフに問うツムグ。

「いやぁ、君からも、こちらの質問に答えるようお願いしてもらいたいんだよ。なんかオレ、彼に嫌われてるみたいで___。」

「たりめぇだロ!おッサん!キモチワリィッツッテンだろガアアアアアアアアア!!!。」

「…そういうことなんだ。」

残念そうに言うカリフ。ツムグは少し困った顔をしてから了承する。

「分かりました。」

ツムグはたった今まで檻に掴みかかって吠えていたのに急に横になって寝ようとしている情緒不安定な青年に向かう。

「……あの…カリフさんの質問に答えた方がいいんじゃないかな…そしたら、こっから出れるかもしれないし……。」

そういってカリフの方をチラ見するツムグ。青年は少し沈黙した後ツムグに答える。

「バカが、仲間を売れるかよ。」

それだけ言って黙り込む。ツムグはしばらくそれ以上言葉を発さないのを確認してからまた困ったように眉をひそめて、

「ごめんなさい、ダメみたいです。」

「そうか、いや、いいんだ。ダメで元々。つき合わせて悪かったな。」

カリフは手に持った松明をもとの場所に戻して、ツムグを連れて地上へと向かった。


 カリフと別れた後、自室へと帰るツムグ。すっかり暗くなった廊下を歩いているとキョロキョロと辺りを執拗(しつよう)に見回す白いローブの二人組を発見する。そして二人組もツムグを発見し、ツムグの元へと駆けてくる。

「キミ、ここいらでこんのくらいの身長の老人を見なかったか?。」

こんのくらい、と手で1mくらいの高さのバーを作る。

「いえ、見てませんけど…。」

「そうか、ありがとう。」

二人組の白ローブは礼を言ってツムグの元から去っていく。去り際に「くっそどこいったあのジジィ。」と二人の内一人がぼやくのが聞こえる。ツムグは何のことやらと自分の部屋の前まで歩いて行って扉のドアノブに手をかけようとする。すると、

「またれよ!。」

………………?

ツムグは言葉通りドアノブに伸ばした手を止める。

「おお、お主、丁度良いところに…。」

そう言って声の主は暗闇からふいに姿を現す。頭に頭巾をかぶっていてグラサンをかけた盗人のようなスタイルの身長1mくらいの老人。白いマントに身を包んでいる。

――さっきの人たちが探していた老人…かな?

老人はスルリと床を滑るようにしてツムグの隣へとやってくる。

「青年よ、ワシ、人から追われとるんじゃ。しばしお主の部屋でかくまってはくれんか?。」

「……………。」

頭巾にグラサンの怪しい老人にしばし硬直するツムグ。そして

「いいですよ、どうぞ。」

ガチャリ、ツムグはドアノブを回した。

「わー、やったなー!そりゃー!。」

「お~う、危ない、いくでー!。」

「うおっとぉ、やるなー、そりゃー!。」

「なんの、これしき、えいや~!。」

「……………。」

自室に老人を入れて目の前の光景にそのまま硬まるツムグ。部屋ではツムグとマツボのベッドの上で枕を投げ合いはしゃぐ女の子とクマ一匹。

「マツボ…それに、花…何やってるの?。」

「そりゃー!。」

「ゴブゥ!。」

花の一投がマツボを押し倒す。

「やったー!っ……て、あ、ツムグ、おかえりなさーい!。」

「おう、ツムグはん、おそかったなぁー。」

ようやくツムグに気付く一人と一匹。

「ホッホッホッ、にぎやかな部屋ですなー。」

笑う怪しい老人。

「あれ、どないしたん?その人、お客さんかいな?。」

老人に気付くマツボ。

「ああ、ええっと……。」

事情を説明しようと口ごもるツムグ。すると花が「ああー!」といって身長1mの老人の元へ駆け寄り、おもむろに頭巾とグラサンを奪い取る。すると、キレイなクセのかかった白髪に、白い長い眉毛のたっぷりと白をたくわえた老人の顔があらわになる。なんだか髭と眉毛で、変装しなくても元の顔が分かりにくい。そんな老人の肩を花は笑ってバンバンと叩く。

「あっはー、やっぱりおじいちゃん!こんな所でどーしたのー!?。」

そんな花の対応に老人は「ホッホッホッ。」と笑うだけ。

「はな、知り合いなの?。」

尋ねるツムグ。そして

「あれ?ツムグ、分かんないの?この人、緑森宮(ココ)の王様だよ!。」



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