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色織  作者: 千坂尚美
一章 緑森宮編
14/144

銀杏

おはなし14  


 町から少し離れた人気のない林へと連れてこられた僕とマツボ。

「ささ、いくら私が可憐な美女だからって手加減不要よ。」

ちょうはつする花によけいなツッコミはいれない僕。花は緑色のジャージのパンツに白の体操着姿になっている。一方ツムグはいつものダボい白Tシャツにダボいグレーの長ズボン。

――しかしケンカなんてしたことないよ、どうしよう…。あ、でも小さいころはよくしたな~。

のん気な回想にふけるツムグ。その間に花は腕を伸ばして体をひねったりして準備運動中。ちゃんとヒザも伸ばしている。

――やる気満々じゃないか…。

ツムグも一応手首足首を回して地味に運動する。

「よーし、じゃ準備運動はこれくらいにして~…。」

そういって花は左足のジャージのすそを思いっきりまくり上げ、ふとももが見える高さまで持ち上げて折り込む。暗くてよく見えないが、キレイな生足を見せつけてお色気攻撃か?いや、今のは冗談。それならジャージに着替える必要ないし…言ってるそばから白いモケモケが彼女の生足から現れる。

「カラーか…。」

まいったな。左手、やっと治りかけてるのに…。

ウマカモの後ろ蹴りを食らって骨が逝ったツムグの左手はようやく治りかけているというのに、相手がカラーを使うということは、自分も左手を使わねば…=骨にまた亀裂が!?そういうわけで、僕は極力カラーを使いたくない。

ちなみにマツボはちょっと離れた切り株に腰かけどちらを応援するわけでもなくがんばれーと小さな旗をパタパタろふっている(どっからその旗もってきたんだ)。

花の左足から出るモヤは徐々に色彩を持ち始め浅黄、麦藁、檸檬、青黄、威光茶、アザレアピンクと黄味を基調に色彩のコントラストを生み出していく。彼女はふぅっと息を吐く、そしてその左目が中黄色に輝く。

ビキビキビキッ

音を出して彼女の左足はゴツゴツとした樹皮のような質感へと変貌する。

――植物系の擬態なのか。

ゆっくりと樹木化した左足を振り上げ、そして一気に蹴りのモーション。せつな、黄色色の光をい急成長する樹木。枝先がツムグを串刺しにせんとものすごい勢いで伸びてくる。とっさに左横に飛びのくツムグ。その横を葉をつけた樹枝が伸びていき、枝葉が右腕をかすり小さなかすり傷ができる。枝木は7,8メートルほど伸びて成長を止め、直後ボロボロと音を立てて木片と化し崩れていく。崩れた幹、枝葉は黄色い光の粉となって蒸発してしまう。消えゆく葉たちは見覚えのある扇形の特徴的な形をしている。これは、

「銀杏の木か…。」

ツムグは立ち上がり体勢を整える。その間に伸びた枝木は完全に崩れ去り、花の左足から樹皮は剥がれ落ち元の素足へと戻る。

――極端に擬態時間が短い。

彼女は元に戻った足を折り曲げ、身を低くし、大地を蹴る。

「はああああああああああ!!。」

ブン!

拳がとんでくる。かわすツムグ。右の回し蹴り、しゃがんでかわす、下段へ左の回し蹴り、とんでかわす、とんでくる拳、右手を使って受け流す。せつな顔面への左足、寸での距離でかわし、そして中段への右足!右手でブロックし、数メートル後ろへトバされる。

カッ!

彼女の左足が色光に包まれる。接近する相手、右足、左足、右拳、そして振り上げられる左足―――ボコボコと形成される樹皮―――一気に振り下ろす。

ズゥン!!

太い幹が大地をえぐる。

「ち、またかわされた。」

悔しそうに横にとんだツムグを睨む。枝をかわしたツムグはボロボロと崩れ落ちる木片を眺めながらふぅーと深く息を吐く。

――彼女、確かになかなかやるなぁ…。

このまま受け身一方ではいつかあの強力な左足にやられてしまう。それなら……いや、ここは…色彩(カラー)切れを狙おう。

再び色彩を足に纏いかかってくる少女。蹴りをかましながらツムグを挑発する。

「なんで…カラー…使わないの?。」

再び樹木へ変わりとんでくる左足、わずかに右肩をかすりダメージを負う。

――それは左手が可愛いからだよ。でも、幸いけりは拳よりもモーションが大きい。加えて、カラーで変化するのは左足のみ、よって左足にさへ注目していれば避けるのはさほど難しくはない。

自分たちが使用するカラーとは文字通り絵の具のようなもの。それぞれに固有の特質を心のパレットにしぼって使用する。どんな色になるかは個体によって十人十色。さまざまな動植物、もしくは物質として個体に擬態するのだ。そんなカラーも絵の具のチューブと一緒で使用量に限界がある。決して個体の個性が消えるわけではないが、個性を実体化するには莫大なエネルギーが必要となり、エネルギー切れで色彩を使えなくなった状態を一般にカラー切れという。

――彼女の様な擬態と崩壊を繰り返すタイプは色彩の消耗が激しい…って師匠が言ってたような…。このまましのぎ切れば―――!?。

ボコッ!花の右足がツムグの顔面をしとめる。

――しまっ…右…。

油断していた右側の攻撃をモロに食らったツムグ。花は小さく「うしっ。」と呟いてさっそく左足を構える。瞳は中黄色となり、左足には浅黄、檸檬、青黄…黄色ベースの色彩が宿っていく。

「はぁあ!。」

よろめくツムグへ大樹化した足での回し蹴り。

――ヤバイ、かわせない。

「ああ、もう。」

カッ!

見開いたツムグの左目は鮮やかなコバルトブルー。左肩から白いモヤと共に花色、シアン、濃青、秘色、練色、薄色、青味を中心にが溢れ出す。

バガシイイイイイイ!!

「!。」

制止される樹木の棍棒、驚く花。銀杏の葉は散り、その幹を止めているのは白い毛並みに覆われた犬の手で…。

「…。」

受け止めた左手の前腕がひどく痛む。

「なんだ、カラー使えるんじゃん。」

ボロボロと幹を崩し、再び蹴りをくり出す花。痛みに耐えるツムグへ向けて猛スピードで飛んでくる枝の槍群。ツムグは左手を振りかざす。

「左手御免!。」

バギャラアアアアアアアアアア!!!

爽快な音と共に砕け飛び散る銀杏の木。パラパラと扇状の葉を散らして舞う無数の枝木。渾身の一撃を破られた花は驚きに目を丸くしている。地面にこぼれ落ちた枝葉は黄色い光の粒となって消えてゆく。まるで暗闇に蛍が飛んでいるかの様だ。光の粉は消え、そして二人の戦いは幕を閉じた。

「うっそ、私の一撃が負けるなんて…。」

素足へと戻った片足をゆっくりと地面につける。

「はぁ、はぁ……。」

――ああ…今のでまたやっちゃったな~。

ツムグの左手はまた三日間使い物にならない。マツボが二人の元へと駆け寄る。

「二人とも迫力あったでぇ。」

「ありがと…でも、あーもう悔しい!これは…これは…私の負けよ。さっすがさやなさんの弟子ね。」

あっさり開き直り、花はジャージの左足のを元に戻す。

「はぁー、いい汗かいたし、今日はもう帰ろ。あ、そだ、あなた達、緑森宮に泊まってるんだよね、部屋何番?。」

手の平をうちわにしてパタパタと扇ぐ花。

「ワイらは502号室やで。」

答えるマツボ。

「502ね、私は870号室に住んでるの。緑森宮のことで何か知りたければいつでも来てね。ま、授業中はいないけど。」

そう言ってポケットからメモ帳とペンを取り出し、870と記してベリっとはがしてマツボに渡す。

「502と。」

ツムグ達の部屋番もメモっている。

「よし、じゃあ我らが宿に帰りますか。」

「オウ。」

オウとマツボ、沈黙のツムグ。

「あれ?どないしたん?ツムグはん。」

花の一撃を粉砕したポーズのまま動いていないツムグ(左手は戻っている)。

「…………左手痛い。」

「なんだ、やっぱり効いていたのね、私の一撃!はっはっはっさっすが私!。」

「いや…これは。」

はっはっはっと笑う彼女に誤解を解くのもなんだか申し訳なく、ハイテンションに戻った花と共に緑森宮へと帰るツムグとマツボであった。


「キィエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!。」

夜の山に奇鳴が木霊する。山腹。ツタに覆われたボロい建物一つ。その中にいくつかの生き物が住みついている。その中の一匹がメンドクサそうにぼやく。

「たく、サトのやつ、あのキチヤロー今日も叫んでやがる。」

「いつものことじゃん。」

「頭ん中で人殺してんだとよ。」

「そのくせ一度もヒトを襲ったことがねーんだぜ。ヒヒ、オクビョウモノのコシヌケちゃん。」

「それよかさー、あのサクセンってどーなってんの?。」

「各地の鳥たちにってあれ?。」

「そうそう。」

「オレ知-らね。」

「オレも。お前は?。」

「ああ、順調に広まっているみたいだぜ?。」

「順調っていつになるんだよ。」

「さぁな、オレらが知るかよ。」

「ああ、全てはあのお方がっておられる。」

「あのお方にお任せってか。」

「そうだ、それがいい。」








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