晩餐
おはなし13
美人に美味な手料理をふるまわれてお腹も心もいっぱいのツムグとマツボ。その後の会話で何かわかったことと言えばさやなの部屋にある大量の本は前の幹部の前任者から譲り受けたものといったことぐらいか。部屋を出るときにツムグは適当に本を一冊手に取ってそれを貸してもらった。本の題名は「珍獣大百科」。この本にはカブトリやウマカモも出てくるのだろうか?さやなに別れを告げてからまず向かったのは2Fにある受付だ。そこで当分の宿を安価で借りることに成功。部屋の鍵をもらって東塔の502号室へと向かう。そこが彼らの借部屋だ。
部屋は畳7~8畳ほどあり、大人一人+小熊一匹でも十分なスペースだった。さすがは緑森宮。そこに荷物を置いて…そうそうさっき受付でコンクールの申し込みも行った。とりあえずやることは済ましたので、部屋のベッドにダイブ。(この部屋はツインベッドになっている。)
ああ、ほどよくふかふかでしっとりとした肌触り、気持ちいい。午後は旅の疲れもありそのままゴロゴロと過ごし、太陽が西に傾き、マツボは花との約束を思い出す。
「ツムグはん、ツムグはん。」
「ん、何?。」
ベッドに寝そべったままで答える。
「花はんが夕方の六時に「やおや」って店で会おうて言うてたで。」
「んん、そうなの?。」
部屋に置いてあるドングリ型の置時計は午後五時半を指している。
あと30分、もうすぐじゃないか。
「よし、マツボ、行こう。」
「ホイ来た。」
ガッツポーズのマツボ。ツムグもベッドから起きて靴を履き、部屋の出口へ向かう。
「で、やおや(それ)、どこ?。」
「知らん。」
緑森宮の門を抜け(ロドリゲスは見当たらず、人間が門衛をしていた。)、城下町へと出ると、そこは提灯の灯に灯されて、夕飯時の賑わいに満ちていた。あちこちからおいしそうなにおいが漂ってくる。じゅるりとヨダレを垂らすマツボ。
「ほんで、どこなんやろなぁーやおや。」
「うん、人に聞いてみよっか。」
僕たちは道行く人にひらがなのやおやという店を知らないかと聞いて回り、有名なのかみんなすぐに「あ~やおやね。」と場所を教えてくれ、2,3人中継してスムーズに目的地へとたどり着いた。
木製で柱を黒塗りにした建物で、店の上に大きな木の看板(これも黒く塗られている。)に白墨汁で大きくやおやと書かれている。店には朱色の暖簾がかかっていてそれをくぐって空いている引き戸の中へ入る。
「お客さん二名様~?。」
調子のいい店員さんに聞かれる。
「あの、イチョウハナって子、来てません?。」
「ああハナちゃんね、あそこの席、お客さんらの分とっといたから、上がって~。」
店員さんの指さす方向へ歩いていくと、一人の女の子が琥珀色の飲み物をぐびぐびと音をたてて飲んでいた。花だ。
「プハ~~、あ、ツムグにマツボ、待ってたよ~おそいおそい~。」
思いっきりジョッキをテーブルに乗せる。
「なんや酒豪かいな。」
「何言ってんの、ウーロン茶よウーロン茶。」
上唇に泡をくっつけてそう言う。泡付きウーロン茶なんてマズそうだが。
「さ、上がって上がって~。」
上がってと促された席は一つ段のある畳式の蓙席になっていて、高さの低い六人席のテーブルが置いてある。隣のテーブルとは障子紙一つで隔てられている。店内は普通のイスの席もカウンターも蓙席もなかなかの賑わいをみせている。僕とマツボは靴を脱いで(僕だけ)段の上へと上がる。(靴を置く石段が置いてある)花と向かい合って二人で座ろうとすると、「ま~ま~こっちきなよ~。」と酔っぱらいのようにマツボを引っぱって、僕一人に向かい合ってマツボとその右に花という座席になった。
「お客さん、ご注文は?。」
お茶とおしぼりを持ってきた店員さんに僕らの分まで適当に花が注文してしまう。店員はメモを取ってそそくさと行ってしまった。
「そ・れ・で~♪どうだった、さやな様?。」
鼻歌交じりに質問する花。
「ああ、君のおかげで無事会えたよ。」
ドン!
またも飲んでいたジョッキを叩きつける花。
「じゃなくて~、私を弟子にリコメ――ンドしてくれたの?。」
英語の所だけ無駄にのばして発音する。僕は軽く目をそむけ、代わりにマツボが口を開く。
「そのことなんやけどな、さやなはん、ツムグはん以外に弟子はとらへんて__。」
「ええ~~何よそれぇ~~、ズールーイー。」
ドンドンとジョッキで机をたたいていらだつ少女。
「僕に言われても。」
「ング~~~~。」
のどをならして睨みつけられる。かんべんしてほしい。
そうこうしていると品が運ばれてきた。チャンポンのような麺料理だ。花はパキンと割り箸を割って、麺をすくい上げた後思いっきりフ――とふいて(この時隣のマツボの体毛まで風でなびいた。)ズゾゾォ〰~と豪快に汁をとばして口の中に吸い込んだ。思わず見とれる食べっぷり。僕は呆然としてながめている、すると
「ない?はえないの?。」
と聞かれる。「無い?生えないの?。」ではなく、口にたくさんものが入っているのでおそらく「何?食べないの?。」と聞かれたのだ。
「う、うん。」
僕も割り箸を割って麺をすする。マツボはあいかわらず猫舌でフー、フー、と懸命に汁を冷ましている。
「ほえで、はやなはんとはなんのはなひをひたの?…モグモグ。」
「うん、ええと…。」
合成鳥のことはむやみに言いふらすのは止めたほうがよさそうだ(朝マツボが言っちゃったけど。)
「うん、今度ある王宮騎士選抜コンクールのこととか。」
そっちへ話題をそらす。すると
「んぐ!ツムグ、コンクール出るんだ!スゴいスゴーい!。」
何だか喜びだす17才…か16才。
「いいなー、私も高校でたらコンクール出ようと思ってるの。じゃあツムグ、強いの?て、あたりまえか、さやなさんの弟子だし。」
「うーん。」
数ある珍獣倒してきたがそれが緑森宮で通用するかは分からない。それに師匠の弟子とはいってもまだまだ…というか全く師匠には敵わないし。
「多分。」
「多分って何よ。どうなのマツボ?。」
マツボに話を振る。
「フーフー…え?ツムグはん?そりゃどえらい強いでぇ!自分ツムグはんのキラキラシャキーン見たらびっくりするでぇー!。」
キラキラシャキーンとは左手のカラーのことだ。
「えへ、何そのキラキラシャキーンて、あ、もしかしてカラーのこと?。」
よく分かったな。
「アタシだってカラーくらい使えるわよ。私のカラーすごいんだから。」
グッと力拳をかかげる。そしてまた思い出したかのように麺をすすりスープを一飲み。よく食べる子だなぁ。モグモグモグとかんでいる花。ちゃんと噛んではいるようだ。丸呑みするのは健康に良くない。
そして僕らのテーブルに大きな皿に載った魚の肉と野菜の炒め物が大盛りで運ばれてくる。小皿にそれをとりわけ、口に運ぶ。
うん、魚の旨味と野菜の甘みが混ざりっていてウマイ。
花はそこから大量に自分の皿に盛ってガツガツと食べ始める。マツボは皿にとった魚の身をフーフーとふいてパクリと一口。ポッと頬が赤らんで幸せフェイスに変わる。それから花に出身とかさやな師匠との出会いとか、あと故郷の村の雰囲気とかいろいろ根掘り葉掘り聞かれて食事は進んだ。
ゴクゴクゴク
「プハ~~。」
チャンポンのスープを完全にたいらげた花はぷは~と幸せそうなため息をもらす。僕もあと残りわずかで、マツボはまだ大量に残っている。花は面白がってフーフーと一緒にスープを冷まし始めた。二人で一つの皿を冷ましているその光景がおかしくってふっと鼻から笑いがこぼれた。しばらくして僕も食べ終わり、マツボが食べ終わるまでの数十分、また花の質問攻めで会話は続いた。内容はどんな食べ物が好き?とかどんな形の食べ物が好き?とかどんな色の食べ物が……ああ、この子食べるの好きなんだな~、そう思った。いや、だけどけっして太ってはいない。中肉中背といった普通の女の子だ。成長期で食べ盛りなのだろう。そしてプハ―というマツボのため息とともに今日の食事は終わりをむかえる。
「よーし、食べた食べた~。二人とも満足?。」
「おう。」
腹をさするマツボ。僕も頷く。花は一つ深呼吸して僕の方を見る。
「それじゃあ食後の運動といきますか?。」
「?。」
「何するん?。」
花はフフン~と笑みを浮かべる。そしてビシィと一直線に僕を指差す。
「ツムグ、勝負よ!。」
………え?
「ツムグ、勝負よ!!。」
リアクションのない僕により声を大きくして指をさす。
「えっと…何の?。」
「何の?って決まってるじゃない。」
呆れた顔で拳を体の前に構えてシッシッとファイティングポーズ。
「リアルファイトよ。」
…………。
「つまり、ケンカってこと?。」
「うーん、平たく言うとそうなるわねー。」
「なんで?。」
とんだスケバンなのか?だが理由はかんたんだった。
「だってーさやな様の弟子がいかほどの者か試しておきたいじゃない!。」
ああ、そういうことか。
「ごめんだけど…。」
すると隣にいたマツボを二の腕でぐっと首絞め、手をピストルにして彼のこめかみにあてる。
「こいつがどうなってもいいの?。」
なんだよそれ。困るマツボ。一瞬の静寂の後に頷いてしまう僕。やったーと花は大喜び。ああ、断るスペックほしいなぁ~。そう思う僕であった。




