門番
おはなし11
「ウソつけ。」
開口一番出てきた言葉はそれだった。サングラスとマスクを着用したモグラがココの門番?しかも白い布地のマスクには黒い線でバッテンが引かれている。彼は一体何をツッコンでほしいのだろう。しかし、出落ちのボケと思われた生き物は、
「何がウソだって。兄ちゃん、口のきき方には気ぃ付けな。」
とかなりのマジ顔(表情は分からないけど、ニュアンスで)ですごんでくる。
「あの、モグラさん、本当にココの門番なんですか?。」
「おうともよ。オレの名はロドリゲス。ロドリゲス様と呼べ。」
うさんくせぇ!
いや、この際本物だろうが偽物だろうが門を開けてくれれば問題ない。
「僕、緑森宮の幹部をされているさやなさんの弟子なんですが、彼女に伝えたいことがありまして、通してくれませんか?。」
「はぁ?伝えたい事ってどうせ愛の告白だろうが!てめぇみてぇな変質者五万と来るんだよぉ!あの姉ちゃん美人だからなぁ。はっ、変態の相手ばっかで本職を見失うぜ!!。」
そうなのか、やっぱ師匠モテるよなぁ…
「いや、本当に弟子でして…。」
「ウソはいけねぇよ兄ちゃん。第一てめぇ通行許可書持ってんのか?。」
通行許可…え、そんなのいるの?…
「いえ、…持ってないです。」
「くはっ!じゃーあ話になんねえな、とっとと帰んな。」
「え、でも。」
「でもでもでもでも許可書がなけりゃ入れねーんだよクソガキが。」
口が悪いモグラだ。僕はこれ以上うさんくさい動物に変質者扱いされるのはごめんなので、仕方なく引き返すことにした。去っていく僕たちに「おとといきやがれ!。」と罵声をはいてモグラは地面の中にもぐってしまった。
「はぁ。」
ため息が出る。
「ツムグはん、どーするん?。」
隣で歩くマツボが問う。
「ここまで来たけど、手紙書くよ。」
中に入れないんじゃ、それしかない。しょんぼり緑森宮から立ち去ろうとしたその時、
「おに~ぃさん。」
?。
どこからか声がする。
門へと続く道は周りを木々や茂みに囲まれている。ぱっと見だれもいないのだが、
「こっちこっち~。」
声のする方を向く。すると、ガサッと茂みを分けて一人の女の子が出てくる。うわっと驚くマツボ。女の子はショートの髪に葉っぱをたくさんくっつけている。髪は上の方が明るくて下の方は暗い。切りそろえられた前髪に横の髪を右耳にかけていて、大きなまるぶちのメガネをかけている。
「四つ葉さん?。」
ショートでメガネと似ているが、人違いだ。彼女がここにいるはずがない。
「アハハ、葉っぱいっぱいくっついちゃった。」
何がおかしいのか、笑いながらパンパンと肩にのっているのをはらいのけ、頭もポンポンと払う。緑の襟をした長い裾のローブ姿だ。
「ねぇねぇ、さっき、さやなさんがどうとかって、いってなかった?。」
突然質問してくる。その目は何かの期待に満ちている。
「う…ん、いやべ__。」
「ワイら、さやなはんに会いたいねん。」
期待を裏切ろうとしたツムグを遮りマツボが真実を言う。
「へぇ~何で?。」
「いや別に…。」
「そりゃあ何を隠そうさやなはんの弟子やでな、このツムグはんは。」
「あー。」
「え、そうなの!!ずーるーいー!私にかわってよー。」
女の子はツムグの胸ぐらを掴んでブンブン振り回す。ブンブン揺すられながらツムグは女の子を観察する。ローブの下はシャツにひざ丈のスカート、色はローブとスカートはアンバー色、シャツは薄いグリーン。明らかに何かの制服。ローブの襟は蝶々結びに結われている。女の子の見た目は自分より少し年下くらい、それらと今いる場所から察するに、この子は宮内高校の生徒と思われる。
「ちょっと、まった、揺するのやめ。」
「はい。」
おとなしく言うことをきく女の子。
「あ、そうだ、こんな道端で話してたら見つかっちゃう。こっちきて。」
ぐいっとツムグのシャツを引っぱり、木々の生える茂みの中へと引っぱって行った。
「さやなさん、弟子がいるとは聞いてたけど、お兄さん才いくつ?。」
「19.」
「ウソ―、さやなさんも確か19、同い歳なの?。」
頷く。
「せやで、ワイも最初はびっくりしたで。」
「へぇ~。」
女の子はツムグからマツボに視点をずらし、メガネのふちをおし上げて、二等身のクマを興味深げに観察する。
「君は、ココの生徒なのか?。」
「うん、そうですよ。」
「ええでええで敬語なんか。」
「あ、そう、じゃフツ―に、私は宮内高校二年の銀杏花、よろしくっ!フフフ。」
「ワイはマツボいうねん。」
「僕はさやなさんの弟子の式彩紡です。」
「ツムグって呼んであげて。」
「わかった。よろしくツムグ。」
いきなり呼び捨てかよ、しかも年下。
「きみ、学校は?。」
「もちろんサボりよ。ヒマだから抜け出てきちゃった。」
「そうか。」
自分もよくサボってたし、お説教とかはできない。
「そんでこのあたりをプラプラしてたら、なななんと!愛しのさやな様の名が聞こえるんだもの、思わず立ち聞きしちゃったー。まぁロドリーはああいうやつだから、許してやってよ。」
「はぁ。」
「それより、そうよ、いいなぁ~弟子、私もなりたい~。」
茂みの中で会話は続く。
「きみは、」
「花ってよんで。」
「…花ちゃんは、」
「え、ウソ、ちゃんづけ、キモ、きいた?今のきいた?。」
マツボによる花。めんどくさい。
「花はさやなさんのファンなのか?。」
「そう!ずばり!そうなのよ。素敵よね~、あの年で幹部なんて、しかもとびっきりの美人!。」
なるほど、たしかに師匠なら女の子のファンも多いかも、そう思う。
「それで、さやな様に何様なの?。」
「ええと…。」
「緑森宮に歯向かう悪い連中がおるねん。そのことをさやなはんに伝えよ思てやなー。」
何でも言っちゃうマツボ。
「はぁ、そうなんだ。それで師匠に会いたいんだ。」
「ふーん、そりゃ大変ね。」
花は眼鏡をカチャリとかけ直し、ふふふと笑う。いったい何がおかしいのか。
「分かった。さやなさんの部屋まで案内してあげてもいいよ。」
「本マに!。」
喜ぶマツボ。しかし僕としてはこんな小娘に何ができるといった具合で、
「優しいんだな。気持ちだけ受け取っとくよ。」
「はぁ~信用されてない。言っとっけど、私、幼いころから京育ち、ここのことなら誰よりも知ってるんだから、まかせといてよ!。」
どんと胸を叩く花。
「そのかわり…。」
?
「さやなさんに弟子入りできるように二人とも頼んで!お願い!いや、お願いします!。」
両手を合わせて深々と頭を下げる。なんか、必死だ。僕はマツボと顔を見合わせる。さっき会ったばかりの子の言うことを信じられないが、一応、ここの生徒だし、裏道とか、知っているのかな。
「分かったよ。頭を上げてくれ。」
頭を下げられるのはなんか気まずい。仕方なくお願いしてしまう僕だった。
暗い、乾燥した空間をろうそくの灯を頼りにゆっくりと階段を下りていく。緑森宮の生徒、花につれられて僕たちは謎の空間に来ていた。正門を通らずとも宮内へ入れる隠し通路だという。真っ暗の中をただただ下っていく。
「どこまで下るんだ?。」
「もうすぐよ。」
本当に、もうすぐ、すると、何やら置物のような古い物品が山積みにされている空間へとたどり着いた。
周りはたぬきの置物や、ダルマ、狐の石像、ボロい木の箱や壊れた提灯なんかで埋め尽くされている。灯は花が持っている蝋燭が一つで、視界は悪いがどう見ても行き止まりにしか見えない。しかし花は突然笑いだす。
「フフフ、この道教えるのは二人が初めてよ。特別なんだから感謝してよね。」
「…。」
感謝するも何も、行き止まりじゃないか。頭イカれてるのかなこの子、と思う。するとゴミの山の中をかき分けて歩いていく花は、乱雑に置かれているゴミの中から何かを見つけたようで「あ、いたいた。」と独り言をつぶやく。灯に照らされているのはどう見ても捨てられたゴミにしか見えないのだが…。そう思っていると、彼女は蝋の立っている蝋立てをゴミの山に置き、おもむろにゴミの中から何かを持ち上げた。
「獅子舞?。」
彼女が持ち上げたのは獅子舞の獅子の顔だった。ところどころ朱塗りがげているが、ちゃんと胴体の風呂敷はくっついている。
「紹介します。この人はドモレルさん。私の友人です。」
………。
ああ、やっぱり頭おかしいのかなぁ。
「ドモレルさん、この人たちはツムグとマツボっていうんです。さっき知り合ったの。さやなさんの部屋に行きたいんだって。」
ボロい獅子舞に話しかける少女。そのシュールな光景を汗をたらりと垂らしながら見つめる僕とマツボ。すると、
カッ!
『うわ!。』
突然獅子舞の両目が発行し思わず目をそむける。そしておそるおそる獅子舞の方を振り向く。せつな、獅子舞は勝手にアゴを動かしてしゃべりはじめたではないか。
「ふぁーあ、よお寝たー。なーんじゃまたお前かハナよ。んで、さやなの部屋に行きたいゆー二人はそこのガキと動物かぁ?。」
マツボをクマと言わなかったのはナイスだ。いやしかし、この獅子舞、花の腹話術なんてレベルをはるかに超えている。これは、確実に獅子舞自体がしゃべっている!。
「我が名はドモレル。我の存在を知る者のみ使える緑森宮のポート。さぁ、移動を望む者たちよ、我が歯にかぷっと噛まれよ!。」
獅子舞は大きく口を開けて待つ。…そうか、僕らは今から噛まれるらしい…大神楽さんか。
「ささ、早くしなよ~。」
花に促される。
「…君は行かないの?。」
「ええ!私!?。」
急にもじもじしだす女の子。
「いや~、なんというか、その、恥ずかし……あ、そうそう、どっちにしろ今サボりだし顔出せないわ。」
開き直ってアハハ、とまた笑う。
「そうか、ここまで案内ありがとう。」
礼を言って獅子舞の口に頭をつっこむ。その頭を獅子舞はボロくなった金の歯でアングと言ってくわえる。
カプリ。
すると獅子舞の歯からしゅうしゅうと漏れる白いモヤ。モヤはツムグの体を覆い、ピンク、黄緑、金色とド派手な色彩の光を放つ。せつな、ツムグの体はシュポン!という音をたてて一瞬にして獅子舞の口の中に吸い込まれてしまった。
「ふわ~。」
目の前の光景に驚くマツボ。花は満足そうににやついている。何の疑いもなく頭を突っ込んだツムグのスペックの高さに感心してマツボも獅子舞の方へ歩み寄る。
「あ、ちょっと待って。」
「何や?。」
「私のこと、さやな様にお願いするの、忘れないでね。」
「ええけど、自分でも言うてみたん?。」
「もちろん!。」
「さようか~でも断られたんやな。」
「う~ん、そうなのよ~。」
凹む花。
「あ、そだ。さやなさんなんて言ってたかも知りたいし、今日pm6:00に「やおや」っていう店にきてよ。」
「八百屋?。」
「うんう、ひらがなでやおや、飲食店なの。ツムグにも言っといて。」
「了解や、ホナな~。」
「うん、ばいば~い。」
極彩色のカラーに包まれて消えゆくマツボに笑顔で手を振る花であった。
緑森宮内、幹部塔。緑森宮は主に円柱型のデザインになっており、東西南北の四つの塔からなっている。それらの塔は上にいくにしたがい、キノコのふさが増えるようにして円柱の塔が増えていき、その分かれた塔、および渡り通路によって四つの塔は一つにつながっている。南塔が主体の塔となり四つの中で一番大きい。上にはより小さな円筒がのっかっていて段々になっている。西塔は塔の数は少なく、細長い造りになっていて、東塔は反対にたくさんの塔が合体している。北塔は南塔の高さゆえに少し離れた位置にあり、闘技場などがあり横に広い。塔に囲われた中央は、大きな中庭となり、たくさんの植物が植えられており、それ自体が大きな植物園となっている。主要四塔が枝分かれした小さな塔にはそれぞれ名前があり、幹部塔はその一つだ。幹部塔は東西南北それぞれ一つづつ分け与えられている。緑森宮の幹部が生活や仕事に使用するスペースなのだ。
その南の幹部塔の廊下に突如として現れる大きな金歯。金の歯は大きく口を開き、そこから人間が飛び出してきた。人間は思いっきり頭から廊下に放り出される。
「っ。」
ドサァ!
なんとか受け身をとり痛みを最小限におさえた。すると、今度は宙に浮かぶ金の歯から毛むくじゃらの物体が出てくる。毛むくじゃらは思いっきりツムグの上へ放り出された。
「ぐぇ。」
マツボの重みに思わず変な声が出る。
「マツボ、思い。」
僕は右手でマツボを体の上から押しのける。
「えろうすんまへん。」
僕はマツボをどかしてようやく自分も立ち上がる。廊下の片側にはよほど高い位置なのか、下の町は見えず山と空が広がっている。もう反対側には一枚の扉があって…。
扉には木で作った文字板にさやな、と書かれていた。僕はふぅと息を吐いて扉をノックしようとする、すると…。
ガチャ
扉が開いた。
「あれ?ツムグくん!?。」
少し不思議そうな声。中から現れた彼女に、ツムグは一つお辞儀をして応えた。




