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色織  作者: 千坂尚美
一章 緑森宮編
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上京

おはなし10  


 死にかけの思いをした二人は、二日連続のツムグの戦いの疲れとダメージもあり、落っこちた山の山腹で一休みしていた。

「ツムグはん、大丈夫なん?。」

心配げなマツボ。ツムグは木を背もたれにぐったりしている。

「うん、かなり痛むけど、大丈夫。こっちの腕は傷の治りも早いんだ。三日もあればくっつく(骨)と思う。」

「前も折れたことあるん?。」

「ない。」

勘らしい。

「あ。」

「?。」

「あのリス、どうなったんやろ?。」

「ああ…。」

あのリスとはもちろん蝶の羽を生やしたリス、リッスンのことだ。ウマカモとの戦闘中奴の嘴に捕らえられてしまったのだ。おかげでその後ウマカモが何言ってるのか全然分からなかった。

「どないしょ、助けにいこ思ても、こっからじゃ日が暮れるやろし、第一ここがどこかも分からへん。」

「死んでないことを祈ろう。」

「……せやな。」

それしかない。

「ホナとりあえず休んだらまた緑森宮目指す?。」

「…うん、その前に。」

「…。」

ツムグの視点はどこを見るとなくどこかをぼーっと見ている。しばらくして口を開く。

「気になることがある。」

わずかに声に緊張感を帯びている。ツムグの気になることのあてはマツボにもある。

「それて、やっぱ二日連続で出会ったリッスンの仲間いうナゾの連中のこと?。」

ツムグはマツボを見て軽く頷く。

「そう、だけど、それだけじゃない。」

「?。」

眉にしわをよせていつになくツムグは真剣な顔になっている。

「それだけやないって、他に…。」

「鳥。」

一言だけツムグは呟いた。

「?、トリ?……ああ確かに、今日の馬も、昨日のヤモリも、羽生えとったなぁ。」

ヤモドリとウマカモを思い出す。

「それだけじゃない。鳥に出会いすぎている。」

「?。」

そんな鳥の大群に出会った覚えはないマツボ。ツムグの言っているのは普通の鳥のことではないのかもしれない。

「鳥なぁ……あ!。」

やっとマツボもツムグの考えに気づく。

「せやせや、ワイが見てきたツムグはんの仕事、アスパラ村の角生やした奴も、小豆村の悲鳴の男も、みんな鳥関係やん!。」

アスパラ村で出会ったカブトリはカブトと鳥の合体、そして小豆村の男はカラーを使って赤い鳥の羽を生やしていた。

「そう、それとずっと気になっていたカブトリの言葉。」

「?…えっと、確か、緑森宮をぶっ潰すとか、なんとか。」

「そう、それを企む組織に入っていると言っていた。そして奴は殺された。今度も同じだ。僕らの仲間になったリッスンを口封じするために現れた刺客…。」

「まさか、みんなつながっとるいうん!?。」

「…もしかしたら。」

リッスンは鳥ではないが羽は生えていて飛べるということでは論外ではない。ツムグはカブトリと叫びの男が言っていたセリフを思い出す。

「へぇ…へぇぇ…我々ってのは…ごうせいチョグエ!。」

「だからオレは___に入った。」

?ゴーセーチョ…何だって?

___ゴーセーチョ…トリ…ゴーセー…合成?そうだ、今まで出会った鳥の特徴…合体したトリ…つまり、

合成鳥(ごうせいちょう)か!。」

思わずアイデアが口からこぼれた。

「ゴーセーチョウ?。」

「そう、合成鳥。今までに出会ったやつら、みんな鳥の混ざりものだった。おそらく、そういう名の組織が、緑の国に暗躍している……と思う。」

と思うと言葉は控えめだが、ツムグの中ではそれは確信となっていた。

「マツボ、やっぱり緑森宮に向かおう。まさか本当に緑森宮をつぶせるほどの連中だとは思わないけど、危険な思想の不特定多数の集団、師匠の耳に入れておくべきだ。」

「せやな!ツムグはん、何か元気やで。」

いつになくよくしゃべったツムグはいつのまにか立ち上がっていた。

「……なんか、ひっかかってたシコリがとれた気分で…つい。」

「ええがなええがな!テンション上げてこ!。」

「う、うん。」

いつものテンションにもどるツムグ。

「あ、せやけど、ワイら、どこにきてもぉたんやろなぁ。まさか逆戻りしてもたなんてこと…。」

ウマカモにふきとバされて見知らぬ山についた二人、このまま迷子になって遭難なんてこともありえなくはない。しかし、ツムグの表情は穏やかだ。

「ああ、それなら大丈夫。トバされてる途中、トんでいく方向に大きな建物が遠くにみえてた。それほどの大きな建物、この国に一つしかない。」

「緑森宮やな。」

「そう、つまり僕らは南へ向けてトバされたんだ。」

「ホナ、緑森宮の近くにワープしてきたっちゅうことやな。」

頷くツムグ。

「一応、方位磁石も持ってるし、南へ向かえば死ぬまでに町に出られると思う。」

「えらいぶっそうな言い方やけど、まぁ、それなら安心やな。」

ツムグとマツボは方位磁石のS極を頼りに山を越えるべく再び歩み始めた。


 その日の夜は、かなり面積のある山なのか、結局山を抜けることはできずに、山の中で野宿することになった。寝るには丁度いい、ポッカリあいた石の洞窟を見つけた二人は、中に獣がいないことを確かめ、葉っぱをたくさんしきつめ布団代わりにして眠りについた。その日の晩、ツムグは夢を見ていた。


 たくさんの人がいる。大人、子供、男性、女性、いや、人だけじゃない。犬も猫も、鳥も、多くの動物たちも人に混じって何かを見ている。そう、皆何かを見ている。だけど、よく見えない。人がたくさん目の前にいてその先の何かが全然見えない。人々はわいわいと賑わい、しだいにおおお!という歓声と拍手が巻き起こる。自分も見たい。そう思っていると、自分の体がふわりと浮いて視点が高くなる。これでようやく何に拍手がおこなわれているかのかが見えた。

 たくさんの人が行列をつくって、人だかりの間を貫く一本の道を歩いている。そして鎧を着飾った二頭の馬にひかれる大きな馬車、馬車には天井が無く、一人の人間がそこに立って一心に皆の注目を浴びている。その人間は皆に手を振って微笑んでいる。すると、一羽の鳥が飛んできて彼の肩にとまる。その人はうれしそうに鳥の嘴を指先でくすぐる。かなり親密な態度。しだいに行列は進んでいき彼の後ろ姿しか見えなくなる。だけど、前からだろうが横からだろうが後ろからだろうが顔がぼやけていてどうもどんな顔か分からない。紅色の曲がり具合で表情だけはよみとれた。それ以外の印象としてはオールバックにした腰の高さまで伸びた長い白髪だ。髪は長いが自分は男だと思った。胸のふくらみはないし、華奢(きゃしゃ)だが、(かも)し出す雰囲気でなんとなくそう思った。それ以外で印象深いのは、背景だ。背景にそびえる大きな…。


 ユメは冷め目が覚めた。洞窟の穴からは黄色い光が差し込んでいた。その光で朝が来たのだと悟る。横で寝っ転がっている小さなクマの相棒の寝顔を確認してそっと暗闇の外へと出る。のびをして体一杯に朝日を浴びる。それから、森へ朝食を探しに出かけた。


 木の実を食べ終わり、相棒と共に旅を再開する。しかし、何かが足りない。ああ、旗だ。ウマカモとの戦闘の時、邪魔になったそれを腰から引き抜き放り投げたっきり、もうマヨセンの宣伝はできないな と思う。それでも別に構わない。今の目標は早く目的の都へとたどり着くこと。その日は夕方まで歩きつづけてようやく山を抜け小さな町に出た。この町には宿や借り家がたくさんあり、しんみりと静かな京のベッドタウンなのだという。ここで一泊し、次の朝、約一時間ほど小さな森の道を歩くとそこにはたくさんの民家が立ち並ぶ緑の国最大のマチが広がっていた。そしてはるか遠く、雲を突き抜けてえる巨大な城塔。それを目の当たりにしてため息の出る二人。

「ホゎ~~。」

「うわ~~。」

建ち並ぶ家々を眺め回し開いた口の塞がらない二人。目の前の景色に長旅の疲れはふき飛んだ。

「やっとついたなぁ。」

「ああ、ここが…緑森宮。」


 二人は合成鳥のことを真っ先にさやなに伝えようと一時間ほどかけて城下町をぬけ、緑森宮の大きな門へとたどり着く。門は十メートルはあろうかという高さをほこり、さまざまな植物のレリーフが彫られている。厳かな見た目で二人も身が引き締まる。が、しかし不思議、というか困ったことに門番が誰も見当たらない。試しに門を押すがびくともしない。これでは中に入れない、と困る二人。

「おおーい、誰かぁ―、聞こえへんかぁー?。」

「開けてくださーーい!。」

「…。」

「…。」

反応なし。すると、門の中からでなく後ろから、というか、下の方から誰かの声がした。

「何だ?お前ら。」

後ろを振り向く二人………誰もいない。

「ココだよココ、下を見てみ。」

ゆっくりと目線を下げていく。すると、一メートルほど後ろの地面から、一匹のモグラがひょっこりと頭を出していた……モグラ……といってもグラサンとマスクを着用していて本当にモグラか真偽は分からない。

「誰ですか?。」

「オレは緑森宮(ココ)の門番さ。」



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