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色織  作者: 千坂尚美
一章 緑森宮編
1/144

白手

登場人物


式彩 紡 (しきさいつむぐ)…十九歳。一流のマヨセンを目指して修行中。青いカラーを使い左腕を狛犬に擬態させる。


マツボ…二頭身のクマで目の下のクマがひどい。クマと言われると巨大化する。


銀杏 (いちょうはな)…十七歳。緑森宮の生徒で明るい性格。黄色いカラーで左足を銀杏の木に擬態させて戦う。


紅 里 (くれないさと)…十九歳。極度に対人に難あり。赤いカラーで右腕を山鳥の羽に擬態させる。


果重 彩菜(かじゅうさやな)…十九歳。緑森宮幹部で紡の師匠。緑のカラーで体を植物に擬態。


四つ葉…若草村のパン屋で働くボブメガネの女の子。紡に依頼を申し込む。


リッスン…蝶の羽を生やしたリス。お腹に五百円玉を大事に持っている。憎めない性格。


緑森王…緑森宮のトップで緑の国を治める王。小さな白髭老人の姿をしているが本当は…。

おはなし1  


はじめに、

 

 この世界は今私達のいる世界とよく似ている。人がたくさんいて、犬も猫も鳥も魚だってたくさんいる。大地があって海があって青空が広がっていたりする。だけどちょっとだけ違うところも。犬や猫がしゃべったりします。人間社会に混じっていたりもします。ちょっと不思議で楽しい世界、そんな世界で一生懸命生きる生き物たちの生活を覗いてみましょう。


 若草村。緑の国の一角で人口は少ない田舎町だが、豊かな自然と住人の活気あふれる素晴らしい町なのです。田んぼが多く、稲がこの町のシンボルだったりなかったり。周囲に点在する集落から出稼ぎにきた人や町へ出てきた若者なんかでちょっぴりとした賑わいがあります。

 そんな若草の一角にひょろひょろと風になびかせ旗をかかえる青年一人。彼は腰に旗をさしたまま町を適当に周ったり立ち止まったりしたあと、傾いた太陽にため息をつき、町から少し離れて田んぼ道へと歩くのでした。

「キレイだなぁ、稲穂、金色になって~♪今年も豊さ…豊~作~♪っかな。」

なんて自分で自分の歌に笑いながらボロい運動靴で悠々と生える芝を踏みしめていく。はるか右…100m先には大きな山のすそがドーンと構えている。秋の夕暮れは赤と青の他に無駄に色味を感じて感傷的な気持ちになってしまうのは仕方のないことだ。

「今日もお客さんいなかった。…さや…いや、社長に怒られちゃうな~。いいや、稽古しよ!稽古。」

腰につけた旗を引っこ抜いて、森の中へ田んぼ道を駆けていく。空はもう滲んだようなバイオレットカラーになりヒグラシの音色が儚く響く。そよ風とともに小さな赤と黒のテントウ虫が飛んできて稲の一つにそっととまった。

「せや!せい!ふん!はっ!はっ!。」

ブンッブンッブンッブンッブンッ!。森の中から木刀を振る音が聞こえてくる。

「やぁツムグくん、今日もよい振りっぷりさね~。」

森の中からクマさんがやってきて言います。

「腰だ、腰を使え。クワワワ。」

カラスが飛んできてアドバイスをくれます。

「アハ、ありがとう。」

「コンコンコン、今日の収入は?。」

「え、キツネさん…明日の天気…分かる?。」

「0(ゼロ)だ!。」「0だ。」「0。」「ゼーロ。」『ゼロォ!!。』

「……ううぅ…。」

足元からアリさんたちが大きな声で数字を連呼する。図星らしく凹むつむぐ

「そんなんじゃべっぴんに嫌われちまうぞ。」

ワンちゃんがそう言います。いつの間にか僕の周りにはたくさんの動物たちが集まってきていました。

「だ…だだだ大丈夫だよ。…社長は…大きな器に、」

「大きなおっぱい。」

「……帰るよ。」

そうして僕は、点々と灯り始めた町の灯のもとへ戻っていくのでした。


 秋の夜風が昼の熱を冷まして快い。だんだんネイビー色に変わっていく世界。僕は一人家路につく。

 いくらか民家を通り過ぎ自宅に着く。自宅といってもここは借り家だ。畳4畳程度の寝るだけの藁作りの空間。洗濯や洗面はその都度、歩いて2,3分の所にある井戸から汲んで暮らしている。体は毎日手拭いを水に濡らしてこすっている。綺麗好きなのだ。家の中も大した置物はなく、刀を磨く砥石や木刀など商売道具の他はたいして何もない…藁作りの布団も幾分ゴワゴワしているが、慣れれば快眠へといざなってくれる。

 紡は家の外に例の旗を刺して、暖簾式になっている戸から中へ入り「ふい~」とため息をついて寝床に横になる。かなり不用心な家だが、盗られるものなど別に無いのだ。しばし休みについてからマッチで蝋に火をつけ、暇つぶしの書物を読む。お腹は…減っているが、働かざる者食うべからず。特に仕事のなかった1日を思うと、腹の中は遠慮で満たされ一杯になってしまう。しばらく書物を楽しんでからフッと一息で蝋の火を消し、藁製の布団に入って瞼を閉じた。

 翌朝、今日も家の入口に座り、旗を掲げてお客を待つ。お客なんて1日に一人いるかいないか、しかも仕事内容も、旗に掲げているマヨセンにそぐわず地味なもめ事処理程度なのだ。しかも今に至っては昨日も一昨日も客が来ていない。この分では首をきられるかもなぁ、とか思いつつもやはり暇なので書物をペラペラとめくりながら時間を過ごしていた。


 その日の午後、マヨセンの旗を見つけたお客がようやく紡の元へやってくる。

「じぶん、なんかずいぶんヒョロっちいけど、本まマヨセンなん?。」

えらい関西弁のお客だ。ヒョロっちいとこけにされたがお客さん、年は自分と同じくらいに見える。眼鏡をかけた、ボサボサなおかっぱヘアーの女の子だった。

「はい、お客さん、何かお困りごとでも?。」

「いやいや困っとんはワタシちゃうねんけど、頼まれてん、トモダチに、用件聞いてくれるかぁ?。」

「もちろん……あ、用件にもよりますが…。」

過去にあったゴキブリ退治を思い出し言葉につまる。

「なんやそれ、まぁええわ。ええとな、こっから山ちぃ~と登ったとこにあるダルマ村て分かる?。」

「……はい。」

「そなんや、ダルマばっか住んどんねん。でな、そこの村長、ワタシのマブなんやけど、そいつがどーしても困っとる言うねん。」

「……?。」

「これ見てやぁ。」

「?。」

これ見てやぁ、で見せられたのは葉っぱをちぎって貼り付けた下手くそな怪文書だった。おそらく下手な怪文書は、その下手さゆえに余計に不気味になるかそれとも単に幼稚臭くなってアホらしく見えるかどちらかだろうが、今回は後者だった。

「今晩、夜7時、お前らの村のキュウリを金て頂く。河童より。」

「せやねん。全てのとこが金に見えるけど、まっすぐちぎれんかったんやなぁ、葉っぱ。」

「……うん。」

「うんちゃうやろ!。なんかツッコんでや、いやいやそれより、用件は分かったな?、カッパからキュウリを守ってほしいねん。もう秋やし次ができるわけでもない。よろしゅーたのむで。」

「え、だけど…それってマヨセンの仕事なの?。」…と、聞きそうになったが、金欠の今、そんなことを言ってられない。ドロボー退治ならまぁ……ギリありかなぁ…。

「分かった。早速ダルマ村へ行ってみるよ。報酬は銀貨3枚ね。」

「ええけど、そりゃあワイのツレに言うてや。あとおもろそうやしついてってもええか?。」

「……うーん…うん。」

「よし決まりや、ホナ行くで!。」

関西弁のノリのいい彼女に断れない紡であった。


 ダルマ村は森の中にある集落。ダルマはダルマを2個くっつけた二等身で頭と体からなっていて、体からはかなり短い手足が生えている。身長は皆5,60㎝ほどだ。ダルマは丸い、ゆえに家も丸い、家の入口も丸い。土を固めたかまくらが家だ。なんだか秘密基地(リアルな方でなく子供の遊びの)みたいでかっこいい。村の中心部に一つの寺があり、そこに住む坊主ダルマ(ダルマは皆髪がなくツルいが、)と村長によって何体かダルマが集められ集会が行われていた。

「こんにちは、若草から来ました紡といいます。」

「おっすまっちゃん、つれてきたでー。」

おそらく今“まっちゃん”と呼ばれたのは彼女―四つ葉の友達だろう。

「おっす四つ葉はん、まっとったでぇ、て、なんやそのガキ。」

おそらく四つ葉にあいさつをして僕をガキと罵ったのがこの村の村長…体はダルマ同様二等身だが、一匹だけ異様に茶色の体毛が伸びていて、耳なんかクマのそれだし鼻もクマだし目の下に極度に濃いクマがある。(あ、このクマは目の下にできる黒いやつのことで…ダジャレではない、事実を言ったまでである。)

「まぁまぁたしかにガキやけど腕はまぁあるみたいやでぇ。見たことあらへんけど、ハハハ~。」

『ワハハ~。』

笑う四つ葉、笑うダルマ、こちらとしてはいいのだけど…いいのか?そんな適当でいいのか!?。

村長の外見がクマだったり、疑う要素は多い。

 僕らのあいさつが終わり、寺の境内に上げてもらう。

「しかし河童って本当にいるんですか?。」

僕が問う。

「何言うとんねん、川行ったら何ぼでもおるがな、なぁ?。」

「せやでせやで。」

『ワハハ~。』

そうなのか!?。謎の新情報に驚く僕。

「しかし敵さんもpm7時とは、どストレートに晩飯時にきはるんやなぁ。」

「確かに、うちのキュウリ食べる前提ってことですよね。」

「なんてやつらだ!。」

勝手に話を始めるダルマ達。僕は話が勝手に進もうがどうでもいいのだが、どうでもよくないことが一つ。やはり、無視し続けるには無理がある。

「あの、もしかして……というか確実に、そこに置いてあるのが例のこの村のキュウリですよね。」

僕は境内の少し奥、山盛りになっている緑色を指さす。

「せやで。」

「うん。」

「そやけど。」

そうらしい。周りに檻や柵があるわけでもなく露わになっているキュウリの山。

「………不用心にもほどが…。」

「何言うとんねん!いつでも見える所に置いとくんがベストやん?ベストやん?ベストやん?ベス_。」

「ベストですね。」

「せやろ!!。」

ビシィィィィと僕を指さすポージングの村長。

「わいらがキュウリ守っとくさかいに、やってきたカッパどもをあんさんがけちらす。これで完璧やん!。」

わぁぁぁぁぁ!!盛り上がるダルマ達。そうして話に一談落がつき夜になるまで皆家に帰って行った。僕はこの人たちにとってのキュウリの大切さっていかほどかと疑問に思ってしまうが…そうとう大切なものに違いない。でなければこんな仕事やってられない。

 境内に残ったのは僕、四つ葉、村長の三人だけになった。(坊さんは昼寝しに居間へ去っていった。)

「いやーあらためまして、わいマツボ言うねん、よろしゅう。」

「私はさっきも言ったけど四つ葉。若草のパン屋で働いてんの、よろしく!。」

「よろしくお願いします。」

「へぇ、なに敬語使っとんねん、もっと柔らかぁ~いこうや~。」

「せやせや、わいみたくふニャーンてならんとモテへんで。」

「……よろしく。」

「せやせや、それでええ!!。」

関西弁二人を相手にやや疲れる僕。そんな僕たちの元へ忍び寄る足音三つ。


「クエーケッケッ。あいつらまんまとだまされやがって、だ~れが7時ピッタリいくもんか~。」

「しかもキュウリを丸出しにしてやがる。今が攻めどきだぁ、いくぜブラザー!。」

『あいやいさー!』


 ザっ。

僕たちの前に三匹の河童が現れた。

「やいやいやい、そこのキュウリ、ワタクシたちによこしてもらおう!。」

!。いきなりそんな分かり切ったセリフをはくとは。

「へん、悪いけど、そうわいかへんでぇ、紡はん!。」

僕はゆっくりと境内の少ない階段を下りていく。

「市場で、お金で買うか、自分たちで育てるか。」

「ハッ!何をバカなことを言っている。ワタクシたちはこの村のキュウリが欲しいのさぁ!。」

「その通り。」

別の河童が言う。

「この村のキュウリを食べると、三つのことができるようになると我らカッパ一族には言い伝えがある。」

「三つのこと?。」

「その一、かトゥ舌が良くなる(泣)。」

「ななな、なんやて!。」

「その二、美男子になる。」

『ななな、なんやて!』

「その三、………。」

オドロオドロしい間合いに一同ツバを飲み込む。

「セカイセイフク。」

『…………。』

「よし分かった。君たちにキュウリを渡すわけにはいかない。」

そうなった。

「世界は誰のものでもない。」

思いっきりかっこつけてみる。

「なんや紡はん、ヒーローっぽくなってきよったなぁ。」

「ええ、茶番ね。」

四つ葉とマツボはやりとりを楽しく(?)見守る。

「ええい、こざかしい、かかれブラザー。」

『えいやー。』

二匹の河童がとんでくる。僕は腰の木刀を引き抜く。

ボコッ。

僕の木刀が一匹の河童をしとめる…が、

「…固っ…。」

ガードした河童の右腕は予想以上に固かった。僕はもう一匹の河童に拳を入れられ、その拳のあまりの重さに倒れこんでしまう。

『弱っ。』

「今や、行くでぇーー!!。」

『しまった!。』

と、声を上げる四つ葉たちだが既に時遅し、猛スピードで河童達はキュウリの山に飛び込むと、ムシャラムシャラと思う存分キュウリを飲み込んでいく。すると__。

カッ!。

突然河童たちの体が眩い光に包まれる。

「ナマムギナマゴメナマタマゴ、ナマムギナマゴメナマタマゴ、トナリノキャクハヨクカキクウキャクダ、トナリノキャクハヨクカキクウキャクダ、赤パジャマ青パジャマ黄パジャマ、赤パジャマ青パジャマ黄パジャマ!!。トウキョウトッキョキョカキョク、トウキョウトッキョキョカキョク…。」

『おお、すごい滑舌だぁ!。』

そして光の中、頭頂部から徐々に光を解除していく河童たち。確かに美男子になっていた……頭の皿が、

「ハーイ!。」

顔のついた皿にあいさつされる。

「こんにちは!す、すごいで四つ葉はん、今まで二個もホンマになっとる!。」

「こ、こんにちは!え、二個目はあれでええの?ちゅーか三つめは流石に無理やろ。」

コォォォォォォ

徐々に光は失われ、そして……、目の前の光景にただただ絶句する二人。目の前には〝世界”と大きくプリントされた学ランをはおった河童達がいた。

「世界……制服……?。」

自らの服装にただただ満足気な河童達。

「フハハハハハハ!どうだこの格好!これぞまさに世界制服ゥゥゥゥウ!!!。」

社会の窓全開!!。

『フハハハハハハハハ!。』

笑いながら残ったキュウリをたいらげていく。

「やばいな。」

「せやな。」

「奴ら、完全に狂気に取り付かれてしもた。どないしよ。このままじゃキュウリが…。」

「それなら…僕に…任せて…。」

『!。』

紡の声に振り返る二人、彼は殴られた脇腹をかかえて苦しそうに立ち上がる。

「その狂気…僕が滅します。」

「えええ!?あんた、拳一発でKOなのにどないして…!。」

突然紡の左半身から白い半透明のフワフワした霊魂のようなものが湧き出てくる。白い魂は爽やかな青色に彩られ、形を形成していく。青を主体にしてシアン、イエロー、黄味のオレンジ、濃いピンクなど色鮮やかだ。

「これは……カラー(色彩)?。」

流動的に蠢く青い色彩の光は、かれの左肩に狛犬の顔のような顔面を形造る。

「ふぅーーーー。」

ため息とともに彼の左腕は青白くペイントされていく。

フワッ

ペイントされた所から白銀色の毛並みが現れる。彼の手は、人の手より一回り大きな犬の手に変わった。

「色彩はその人が持つ本能を引き出してくれる。」

白色の左腕を露わに彼の左の瞳は透き通ったコバルトブルーで、周りには散った白いモヤが浮かんで消えている。タッと地面を蹴ると、数メートル高くジャンプし一気に河童達の元へ飛び降り鋭い爪を振りかざす。

『グエエエエエエエエエ!!!。』

飛び散る鮮血、響く叫び声、爪を振り回した紡はスタッと軽々と着地する。「ひっ。」と目をそらす四つ葉、しかし出てきたのは鮮血と思っていたが違っていた。溝にたまったヘドロの様な醜い物質。それらは傷口共にシュウシュウと音を立ててどんどん色が澄んでいき、最後には緑っぽいような色になって蒸発した。一瞬気絶していた河童たちは目を覚ます。

「アレ、オラたち何しとっただぁ?。」

「んだ、よく分からんべ。」

「何、道に迷っていた所拾っただけです。」

「ん、そうだったべか。んじゃあ失礼しましただぁ。」

三人に礼を言って去っていく河童達。

「へぇ、すっごい!何やったの?。」

まだ半分以上残っているキュウリの山の傍にいる紡に駆け寄る四つ葉とマツボ。

「僕たちは狂気を狩る。魔除け専門屋、略してマヨセン。」


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