お使いを見守る………?
父さんの強制訓練から二日間が過ぎいつも通り朝起きては書の間で本を読むという引きこもり生活に戻っていた。とは言っても母さんにお使いを頼まれる。完璧に俺を外に出す口実でしかないな。
引きこもりでごめんよ。誠実に外に出たくないんだ
と言うわけでお使いと言う口実の元、時たま外には出ているがほんの15分で帰ってくる。店が近いとかじゃなくて走ってるんだけどね。前世のメニューはやっていてもランニングは出来ないからな。家でやったらプチ床ドンだ。母さんおこだお
さて、今日読んでいる本はこちら『よくわかるツボマッサージ その1の巻き』
正直何でこんな本が有るのかは別として人っていろいろツボがあるんだよね。旨くやれば使用用途が多岐に渡る。暇があれば誰かで試してみよう。
コンコン
「リズ居る?」
母さんか?恒例のお使いタイム?ごめんな。引きこもりの子を持つと大変だよな。今(身体年齢は)7歳だけど。
俺は本に自作の栞を挟んで机の上に置きドアを開ける。
「母さんどうしたの?と言うより何で毎回ノックするの?」
「何時もここに居るからここもリズの部屋って感じがしてつい手が動いちゃうのよね」
そう言うと左手を口に当て右手でコンコンとノックをする仕草をする。今にもテヘペロとか言いそう。まあ、母さんなら様になって萌え死ぬかも知れないけど。
「そうそう。ここに来たのはユンちゃんとラピスちゃんにお使いを頼んだからちょっと見守って欲しいのよ。初めてだから不安なのよ」
いやー。流石に過保護?……でも6歳だもんな。前世で言えば小学校1年生だから不安だもんな。
「見守るって後ろから着いてくの?」
「そう。少なくとも自分たちで買い物を終えるまでは出ないでね。」
てっきり帰るまでが遠足ならぬ帰るまでがお使いとでも言うのかと思ったが……
「ん?うん。てことは何か伝言でもあるの?」
「さっすがリズ君。多分ユンちゃんが広場で遊びたがると思うから夕方までには戻りなさいって言っておいて」
「分かったけど何でわざわざ俺が……」
「伝えるの忘れちゃった」
あはっと母さんが笑う。
くそ!かわいいなこんちくしょう!
「そう言えば3日前くらいからサーシャを見ていないんだけどどうかしたの?」
「ああ、サーシャちゃんね。どうやら季節の変わり目のせいで体調を崩しているみたいね。移すと悪いからって今は自宅療養中よ」
「そうなんだ」
ばかは何とやらと言うんだけどゴホンゴホン
俺がそう言うと母さんはいきなりニマニマと笑いながら
「サーシャちゃんのこと気になる?」
「サーシャが風邪をひくことに驚いたって痛い!」
痛いと言っても軽く頭をコツンと叩かれた程度だが物理的にじゃなく精神的に痛い。分かるかこの感情。何か申し訳なくなる感覚。
「全く。お母さんが言いたいのはそういう事じゃないのに……でもリズにはまだ早いね」
うふふと笑いながらドアを閉め出て行く
まあ、質問の意図を分かってわざとあの回答にしたのだけど。まあ、本音も半分ぐらい入っていたけど。
…………と言うかユンとラピスはどこで買い物してるの!?
そう思った瞬間にバタバタという音が聞こえドアが開けられる。
「ユンちゃんとラピスちゃんは何時もの果物屋さんに居るわよ。出て行ったのは5分前くらいだからリズなら追いつけるでしょ」
「うん」
それだけいってドアを閉めるかと思ったら母さんは顔だけ出して
「明日サーシャちゃんのお見舞いに行ってきなさい。地図は渡すから」
そう言ってウインクをして部屋から出ていく
「ま、マジですかお母様」
マジだよ!そんな天の声が聞こえたような気がした。
★★★★★★
さて、そんなこんな現実逃避は後回しにして取りあえずお使いを見守ろう。そのためにはまず着替えないと。え?私服じゃないのかって?俺は寝巻きだぞ。だって家に居るのにわざわざ着替えるのなんて面倒だろ?と言うのが俺の持論なんだが………何時もはサーシャに急かされ渋々着替えるのだ。今はサーシャが居ないので完璧な堕落生活と言えるな。
服を適当に見繕って外に出る。外はそろそろ夏本場に向けて暑くなっているが夏の前に来るのはジメジメとした梅雨だ。今は梅雨の真っ只中で今日は貴重な晴天。買い物するのも当たり前だ。今日はどうやら果物と野菜を頼まれたようだな。それじゃおいかけよーうと
走りながら街を見渡せば人が溢れている。やはり食品の買いだめかな。誰も雨の日にわざわざ買い物なんて行きたく無いだろうし。
するすると人ごみをすり抜けて果物屋まで走る。これだけ人が多いと邪魔だけど尾行には最適だな。
でもすり抜けていると目に付くのがイチャイチャしているバカップルか。こやつら梅雨で全く会えないからって何時もの2倍ぐらいイチャついてるんじゃないか?何時もなんて知らないけど羨まじゃなくてけしからん。存分に爆発して下さい。となんて言えないのでせめての抵抗としてカップルの間を分かつようにとうろう。本当に分かれちまえ。
心の中で呪詛を振りまきながら走りやっと果物屋が見えてきた。ユンとラピスが冷却袋と言う袋を店員さんに渡して物を入れて貰っているのが見える。
冷却袋と言うのは文字通り物を冷却する陣が書かれている。そのため中の物を冷やし鮮度を保つ。まあ、クーラーボックスの袋版みたいなものだ。
俺はそれを遠目に見たのちに2人が見せから離れるのを確認してから店に近づく。
「親父さんこんにちわ」
そう俺が声をかけると1人の男が振り返り俺に気づくとズシズシという擬音が聞こえそうな男が近づいてきた。頭が綺麗に禿げ上がっており腹の恰幅の良い。ツルッとした頭には捻り鉢巻きを巻いており果物屋ではなく魚を連想させる。
「よう。リズ坊。久しぶりじゃねーか。何時ものお使い?じゃないよな?」
親父さんはさっき来たユンとラピスの方向を見て疑問形で聞く。
「ユンとラピスがちゃんとお使いを出来るか見守っているんですよ」
「リズ坊……それは過保護ってやつだぜぇ」
「それは俺の母さんに言って下さい。俺は頼まれただけです」
「あー……確かにお前んとこの母ちゃん過保護ぽそうだもんな。後抜けてそうだしなんかの弾みで気づかれて気まずくなるのが目に見て想像できるぜ」
俺も想像できる。ユンとラピスばっかに目がいって周囲が疎かになり転ける。それで見失って急いで追いかけたら2人にばったり。んで慌てる。流石に母さん。ずっとそのままでいてください。
「ていうかよくてこでも動かないリズ坊が家を出てきたな。俺はそこにびっくりだ」
「俺も出来るだけ外にでたくないんですけど妹のためですから」
「リズ坊を外に出すには妹か……おいそろそろ行かねーと見失うぞ」
親父さんに言われて指の指された方を見るとユンとラピスの影が小さくなっていた。
「あっやば。親父さんじゃあ。また来るよ」
「おうよ。次はあの嬢ちゃん達ときな。サービスするぜ」
俺は手を振りながら2人を追跡した。いや、こんな気前の良い人も居るんだよな。本当にここは良い人が多い。俺が見ても俺が前世の時ラブコールを受けた悪い人の感じはしないんだもん。
やっぱり子供を育てるには環境が大事だよね。それが悪いと俺みたいなひねくれた子供になるから。ユンとラピスにはそうなって欲しくないな。天使が悪魔に成っちゃったらお兄ちゃん泣いちゃう。小悪魔なら許しちゃうけど。
「野菜のおばあちゃん~」
「八百屋のおばさん」
おっと。知らぬ間に2人の声が聞こえる所まで来てたみたいだな。危ない危ない。
「おっ。かわいい子達だね。何が欲しいんだい?」
奥から出てきたのはそれこそザおばちゃん。茶色の巻き毛で少し小太り。柔らかい笑顔と声が特徴。初対面の子供でも警戒心を和らげさせるおばちゃんだ。俺もこのおばちゃんの人の良さに毒気を抜かれたのをいまでも覚えてる
「んーと。キャベツに白菜。ほうれん草。あとはきゅうり!」
指折りしながらラピスが持っているメモを読み上げるユンは可愛い。
今思ったんだけどこれ、2人だけで持てるのか?もしかして外に出すのが目的じゃなくて荷物持ちをさせるためか?
「はいよ。ちょっと待っておくれ。新鮮でおいしいやつを持って来るからね」
そう言っておばちゃんは店の中に消えていく。
「ふう。やっとお使いもここで終わりだね」
「うん。そうだ!ラピスちゃん帰りに広場で遊んでいこうよ!」
ユンがそう言うとラピスはちょっと困惑顔になった。
「でも……早く帰らないとお母さん心配するよ?」
「むう。お母さんが心配するのはやだ。でも行きたい」
そう言ってる間におばあちゃんが中から出てきた。
「はい。お待たせ。朝どれの新鮮お野菜だよ。でもこの量2人で持てるかい?」
すでに小さな小袋を2人で1つずつ持っている。手は空いてるにしてもやはり重いだろう
「さて。一応買い物自体は終わったから出てもいいかな」
するすると人ごみを抜けて八百屋の前にくる
「おばちゃん。こんにちわ」
「あら。リズちゃん。ひさしぶりね」
「ひさしぶりです。リズちゃんじゃなくてせめてのリズくんにしてくれません?」
「いいじゃないー。可愛くて。それにリズちゃん髪伸ばせば女の子よ」
「そうだけどね。でも、ほら。俺男の子」
初対面の頃から恒例と成っている会話をする。このおばちゃんはどうにも俺を女の子に仕立てるつもりなのか毎回くる度に娘のお古の服をくれる。勿論ユンやラピスにではない。男の俺にやるのだ。いくら俺でも泣くぞ
ユンとラピスは突然出てきた俺に困惑顔である。
「あれ?お兄ちゃん何で居るの?」
「母さんに伝言を頼まれてね。後ついでに荷物持ち。ほれ。ユンもラピスも」
「ありがとー」
そう言ってユンは両手で持っていた袋を俺に渡すが
「私は大丈夫です。持てます」
といって袋を渡さない。それなら
「ラピス。渡さないと宿題教えないぞ」
「そ、それは困ります。わかりました。渡します」
ラピスは母さんから勉強を教えて貰っている。母さんは毎時間お手製の問題とテキストを使いを教えてるのだ。
まあ、俺とユン見たく家庭教師じゃないのはまあ、お金の面で面倒があるのだろう。そのかわりに母さんが教えているのだ。
それを毎回分からない所を教えてるのだけど良くできてるんだよね。驚き。と言うわけでそこを餌にラピスから荷物を受け取る
「おばちゃん。2つのうち重い方を俺に頂戴」
「はいよ。何時もお家の子なのに持てるのかい?」
「大丈夫」
そう言って俺は荷物を受け取りもう1つの袋はラピスが右手でユンは左手で持っていた。
「よし。んじゃおばちゃんじゃあね。また来るよ。ほら、ユンとラピスも挨拶」
「ばいばい。おばあちゃん」
「さよなら」
「ばいばい。嬢ちゃん達。また来ておくれ」
さりげなく俺を嬢ちゃん扱いしたあのおばちゃんにはかなわないと思ってきた今日この頃
「そういえばリズ兄さんの言っていた伝言って?」
「忘れてたな。広場で遊んで行ってもいいってよ」
「え!いいの!やったー」
無邪気に飛び回りたいんだろうか荷物を持っているので飛び跳ねるだけだ。それでもかわいいが
「え?いいんですか?」
「母さんが言っていたからな。ラピス。友達と遊ぶのは大事だぞ」
「その……リズ兄さんがいえないような気が……」
さらっと俺の心をえぐるラピス。俺は少し涙目(演技)になった。
「え?ちょっとリズ兄さん泣かないでくださいよ。大丈夫です。友達なら私達が居ますから」
その言葉で涙目(本気)になった。
「なんでさらに泣きそうになってるんですかー」
「お兄ちゃん。どこか痛いの?」
「ごめんごめん。お兄ちゃんちょっと感動しちゃってね。もう大丈夫。」
そう言うと2人はほっとしたように肩を落とす
「それとお兄ちゃん帰りたいんだけど」
「え!?お兄ちゃん帰っちゃダメ!一緒に行こうよ!」
「ラピス「リズ兄さんも行きましょう」ラピスもですか。分かった。行くか……」
そうして広場に行くことになったのだった
★★★★★
八百屋さんから徒歩15分ほどにある広場。街の子供がよく来て遊んでいるし遊具も大いいことで有名で広いと聞いている。なお、全て聞いていると言うのは俺が言ったことがなくて全部ユンとラピス、それにサーシャに聞いたのだ。来るのは初めてである。引きこもり根性だけは強いのだ。
公園の中を見てみると男二人女二人の綺麗なバランス。これは俺達お邪魔なんじゃないか?そんな考えはユンにもラピスにも無いのか四人に一直線に駆けていく。
「おーい。レオン、カーブル、ミリア、マリア!」
そう大声で声をかけると四人が振り返り笑顔を向けるが俺を見てだれ?と言う顔をした。
「ラピスにユン。久しぶりだな!」
「レオン。久しぶり!遊ぼうよ!今日はお兄ちゃんを呼んできたんだ!」
「兄貴?」
そう呟くと俺の方を見る。と言うより見下している。身長が軽く一五センチくらい差があるのだ。俺の身長は伸び悩み、七歳として考えると低い。なぜならレオンと呼ばれた少年より俺は身長が低い。と言うより下から数えて三番目に身長が低い。一番小さいのがユン。次がラピスだがラピスと俺は完璧なドングリの背比べだ。
「この小さいのが?」
俺はキレていいよな?精神年齢は五倍くらい差があるけどキレていいよな?今は体は子供だからおかしくないよな?
「誰がクソチビだ。ぶっ飛ばすぞ」
「そこまでは言ってないぞ。それとぶっ飛ばすぞていうのは無理だと思うぜ?俺はケンカ強いからな」
やっぱり?風貌と口調がガキ大将ぽいもんな。
「レオンくん。喧嘩はだめだよ」
そういってきた女の子。着てる服は軽装だがなかなか良いものを着ている。
「分かってる。ミリア。弱いものイジメなんてくだらないことしない」
あれ?この人ちょっとかっこいいわ。セリフが主人公ぽい。しかもヒロインがもういる。水色の髪はセミロングで右の方を三つ編みにしている。目は黄色で優しい感じ。
「そう言えばお前名前は?」
おっと。すっかり言い忘れていた。チビって言われていたことでその課程を忘れていた
「リズティーだ」
「なら。リズ……か?でも女みたいな名前になるし」
「と言うよりむしろ女の子にしか見えないよね!髪伸ばしたら!」
さっきの八百屋のおばあちゃんと全く同じことを言ったのはピンクと赤の中間色の髪色の女の子
「こら!マリア。確かにそう見えるけどいきなりそんなこと言っちゃダメだよ」
この台詞は眼鏡をかけた真面目そうな印象を持つ男の子。フォローをしているようだがむしろトドメを指してる。またしてもヒロイン確定済みか。凄いな。マリアって言うのね俺を女の子呼ばわりしたのは
「兄さん。大丈夫ですか?」
ラピスは俺がダメージを受けたのを心配したのだろう。これはもうどっちが上か分からない
「大丈夫だ問題ない」
違う。問題しかない
「ごめん。リズくん」
そう声をかけたのはマリアと言う女の子。さっきの眼鏡くんに怒られて反省したのだろう。俺から言えば眼鏡くんも反省して欲しいが
「いいさ。八百屋のおばあちゃんにもよく言われたからなれてるし」
「そうか!ならいいよね!」
「よくないよ!」
またもや眼鏡くん登場。頭をスパンと叩く。もうこれはコントだ。ヒロインのヒの字が消えようとしている。
「マリアがさっきからごめんな」
「さっきのコントでチャラになった」
「「……コント?」」
本人達は自覚がないようだ。ハモるところを見るとこの二人は幼なじみ的な関係か?前途多難そうだな
「もうこいつが女の子みたいはどうでもいいから遊ぼうぜ!」
「いや。レオン。俺にとってはだいぶ重要……」
「そんなもん性格が男らしくなればいいだろ!みんな行くぞ!」
「おおー」
俺以外の全員が声を上げ遊び場へ直行する。俺はその勢いについていけず棒立ちになっていた。
「なにしてんだよ!置いていくぞ!」
「ん?ああ。悪い!」
我に返ってそう答える。
普通の子供ならついていけるノリ。しかし俺は今振り返ると普通ではなかったのだろう。前世は酷く歪み今は一人本を読む。
今まで友達と言う者は居なくユンやラピスのような妹や友達は居なかった。ラピスはもう身内のようなもんだから家族。外で見つけた友達は居なかった。今も昔も。
しかし今はどうやら違うようだ。
そう思いみんなを追いかけた