8-風花剣舞〜序盤
濡れ落ちた花びらが、まだらな白の絨毯と化している。
日中の雨で空気が水を含み、辺りには濃霧が立ち込める。
晴れてもなお暗い、新月の闇。
稚児舞の子たちが全員舞い終わるのは、そんな夜も更けた頃。
休憩があり、観客は酔いしれながら雑談を交わすか、座りながら毛布にくるまり仮眠をとっている。小さな子たちは身を寄せ合い、一つの毛布に身をうずめている。
やがて、まどろみを揺り起こすように、ドン、ド、ドンと太鼓が鳴り始め、掛け声と共に御輿が出発する。
アー ナー
サーへ ヤーレ
…
アー ナー…
…
声はだんだんと遠ざかり、高台の神社からは闇の中を縫うように進む松明の列が見える。担ぎ手たちは交代しつつ、夜通し里を練り歩くらしい。
御輿を見送った余韻もつかの間、第三幕、風花剣舞が始まる。観客は慌ただしく座敷席に戻る。
シャン…
シャン…
鈴を鳴らしながら一歩一歩、足を忍ばせる。
女手が裏手からゆっくり舞庭に入ると、それまでの歓声が止み、辺りはしんとなる。
タン、トトン
タン、トトン
鈴音と共に女手が舞い始める。かたわらに燃える炎が幼い表情を艶やかに彩っていく。
観衆は声ひそかにささやいていたが、次第に辺りからは囃す声や手拍子が飛ぶようになった。
ボッ
火の粉を上げ、篝火が勢いを増す。突然〝異形〟が光の中に浮かんだ。
タン、トトン
タン、トトン
黒面を被る男手。木枝のような長い角を持ち、その鬼のような表情は炎の明るさに陰影が際立ち、いっそう不気味さを増していくようだ。
男手は納刀したままの御神刀を片手にゆっくりと足を運び、舞庭に入る。
女手の振る鈴音に合わせ、刀を持ち替えながら余す所なく舞うが、観客のいる方へ近づく度に子供の泣き声が上がる。
女手が後ろから囚われる。
にわかに太鼓が速くなる。
それとは逆に、悠々と耳元で奏でられるのは遠い古の唄。
×× ××× ×× ××× ×××…
女手は逃れるように男手の腕をすり抜け、脇を翻る。鈴を指で止め、息を吸い、空中に唄を解き放つ
×× ×××× ×××× ×× ××××××…
……と、ここまでが序盤。そして、
快晴は歯を食いしばる。
ーーここからが、勝負。