こっくりさん。5
火曜日。
この日も朝から松田先生と美穂の熾烈な赤ペン争いがあった。
そしてまた、夕夏はお昼ごろまで登校してこなかった。
「おっはよー、梓。」
「夕夏!」
私は椅子からがたんと立ち上がって夕夏を見る。
怪我はさらに増えていた。
「足、どしたの・・・?」
昨日は左腕。
今日は右足に包帯を巻いて松葉杖をついていた。
「いやあ、朝起きたらなんか折れてて。」
どういうこと!?
「折れてって・・・!」
そこに美穂たちも集まってきた。
「え、夕夏ちゃん大丈夫!?」
夕夏は無理する風もなく、へらっと笑って答えた。
「うん。全然痛くないんだよね。」
え?折れてるのに!?
「痛くないって・・・。」
「朝起きて足下ろして歩き出そうとしたら、あれ?変だなって。」
そんな、風邪か貧血みたいに・・・。
みんなが心配する中、本当に何でもないように笑っている夕夏が怖かった。
「夕夏、ちょっとこっち。」
「はーい。」
あたしは夕夏をなるべく平らなところを歩かせながら、廊下の隅へ招いた。
「・・・夕夏、ほんとのこと言って。」
私は夕夏を真っ直ぐ見ながら尋ねた。
夕夏は変なとこで強がったり、嘘をつくような人ではない。
でもだからこそ、私にも打ち明けられないようなことがあったら・・・?
けれど夕夏はいい加減にしてくれと言わんばかりに否定した。
「だから、ほんとにわかんないんだって。」
「いくらなんでも、折れてたら痛いでしょう!」
夕夏は「うん・・・。」と言いながらも、やっぱり痛くないという。
「でも・・・!」
「でもね。」
夕夏は言葉を切る。
「・・・実を言うとね、本当に痛くなくて、だから逆に怖いの。」
不安そうな顔で夕夏は下を見つめていた。
本当に痛くない・・・?
折れているのにそれは信じられない。
でも。
でも、本当に痛くないんだとしたら・・・?
それは本当に怖いことだった。
「・・・わかった。ありがとう。一番怖いのは夕夏なのにごめんね。」
夕夏はまだ不安そうだったけど、わかってくれた人ができてうれしそうに首を横に振った。
私はやっぱり不安ばかりで、その日はこれ以上この話はできなかった。
水曜日。
美穂はこの日間に合った。
お母さんに叩き起こされたらしい。
そして夕夏はこの日、お昼になっても放課後になっても来なかった。