こっくりさん。3
月曜日。
遅刻ギリギリ常連の美穂が「セーッフ!」と言いながら教室に入ってきた所で、HRのチャイムが鳴った。
松田先生は腰に手を当てて、
「大谷さん?」
と随分御立腹だ。
「はい!」
直立不動の美穂に向かって、先生は続けた。
「HRのチャイムが鳴るまでに席に着いていないのに、どこが『セーフ』ですか。」
「いえ、でも松田先生、チャイムが鳴る前にきちんと教室に居たわけで、」
「言い訳はよろしい。今日という今日こそは遅刻扱いですからね。」
『遅刻』の文字に、美穂は体を飛び上がらせて、必死に釈明した。
「先生!どうか、どうか、それだけはお許しくださいぃいい。ぜひとも、ぜひとも、正規出席のほうに一票を・・・!どうか・・・!」
どこの選挙活動家だ。
教室全体が朝から笑いに包まれた。
「大体、遅刻寸前で来て転んだりしたらどうするんですか。最悪、電車に轢かれることも有りうるんですからね!」
先生の心優しいお言葉に美穂は終始頭を垂れてしがみつく。
「ははーっ!先生の海より深い御慈悲は、この大谷、よく理解いたしました。ですからどうか、今一度お情けを・・・!」
「わかってない。」
松田先生は、美穂の芝居がかった請願を非常にも(?)切って、赤ペンでチェックした。
(正規出席は青ペン)
「ひーーーーっ!」
その場に崩れた美穂を放って、松田先生は出席を取り始めた。
みんなが笑っている中、私は一人少し不安を覚えた。
「長谷川・・・さんは、そうそう、病院に行ってから来るそうです。」
何人かが、え、と声を上げた。
私は手を挙げて「松田先生」と呼んだ。
「はい。どうしました、笹森さん。」
「ゆ、・・・長谷川さんは、風邪とかですか?」
私の質問に、先生も首をひねって、
「それがですねえ、お電話なさったご両親も状況が掴めていないらしくて。」
なんだそれは。
「なんでも、腕に痣らしきものができたみたいだけれど、痛くもなければ、いつつけたのかもわからない、と。念のため、お医者様に診せるそうですよ。」
さっぱりわからない。
「それ以上のことは先生もわかりませんから、登校してきたら長谷川さんに尋ねてみなさい。」
「はい・・・。」
・・・聞いてみたけどなんだかよくわからない。
不安が募るばかりだ。
稲川さんの真似をすると軽口を叩いていた夕夏は、結局四限にも間に合わなかった。
四限の体育が終わって教室に移動する頃、下駄箱から片腕ブレザーから出した夕夏に会った。
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