こっくりさん。2
「え、こっくりさん?」
配られた「ほけんだより」を後ろの親友ーーー長谷川 夕夏に渡しながら、
私は訊きかえした。
夕夏は頷きながら「うん」と言って、話を続けた。
「なんか、さっき着替えてる時に聞こえたんだけどね。今日の放課後、真美たちやるみたい。」
「へええ。」
夕夏の席に寄りかかっていた椅子をかたんと戻して、私は「こっくりさんかあ。」と呟いた。
こっくりさんと言えば流行ったのは小学校高学年か、中学生くらいの頃だよなあ。
「高2にもなってこっくりさんかねえ。」
ちらっと後ろを見ると、夕夏も長い髪を手で払いながら「ねえ?」という顔だ。
「ちょっとなんか、幼いっていうか、流行んのが遅いって言うかさあ。」
うんうんと頷きながら私も夕夏に同調する。
「やっぱ小学校から女子だけ、同じメンバーで過ごすと、疎くなるのかなあ。」
「ねえー。」
私も夕夏も少し呆れ気味だ。
ここ、水濱女子高等学校は、小学校から続くお嬢様校だ。
挨拶も「ごきげんよう。」、年齢関係なく必ず敬語、クラスメイトであろうと「○○さん」。
規則を挙げればキリがない。
うるさい先生も数人はいる。
規則をきちんと守っている子も多い。
でもそれは、先生がうるさいから、とかではないと思う。
うちの学校はなんというか、雰囲気がとても穏やかだ。
時間がゆっくり流れている。
いじめもほとんどないし、グループの派閥も曖昧で、みんなそれぞれ仲が良い。
だから特に見栄を張る必要も、意地を張る必要もないのだと思う。
私は高校から入学した組なので、もしかしたらそう感じるだけかもしれないけど・・・。
女子だけの閉鎖された空間。
だからだろうか。
こっくりさんなんて子供じみた遊びが流行るのは。
「ごきげんよう。」
さよならの挨拶を済ませ、私はそそくさと鞄に荷物を詰める。
「あれ?梓、今日残らないの?」
「うんーーー」
体育館履きを手にロッカーに進みながら夕夏に返事をする。
「今日、あれだから。」
「ん?あれってーーー」
夕夏は目をぱちくりさせながら私を見つめた。
振り向いた私は、口をタコにしてそっぽを向く。
「ーーーああ、あれか。」
そう、あれ。
夕夏も苦笑交じりに納得してくれた。
タコチューに意味はない。
親友の勘というやつだ。
「夕夏は残るんでしょう?」
鞄を肩にかけて夕夏に寄りかかる。
「うーん、実はあたしも帰ろうかと思ってたんだけど・・・。」
そう言いながら夕夏は教室を見渡した。
教室には帰り支度をしながら喋っている何人かの女の子たちと、こっくりさんをやるらしい子たちが残っていた。
「だけど?こっくりさんが見たいと。」
「そ。」
一拍おいて、二人で吹き出した。
結局、野次馬性はまだまだお子ちゃまという事だ。
「月曜日報告待ってる。」
私は教室の入り口まで歩きながら、教室のほぼ真ん中に座っている夕夏と喋った。
「うん。梓も頑張って。」
「夕夏は何を頑張るのよ。」
「んー、稲川さんっぽく?話せる練習をさあ。」
「順二さんいらない。」
また二人で吹き出して、私は今度こそ手を振った。
「じゃ。」
「ん。」
廊下に出ると、笑いながら話している女の子ーーー大谷 美穂たちがこっちへ向かってきていた。
「あ、梓帰るの?」
「うん。」
「今日こっくりさんやるんだけどさー、梓もやる?」
右手にひらりと返して見せた白い紙にはなにやらいろいろ書いてあった。
「今日用事あるからいいー。え、てか美穂たちも?」
「え?」
「確か真美たちもやるって・・・。」
美穂と数人の女の子が驚いたように顔を見合わせて、吹き出した。
「そうなの?やば、もろかぶりじゃん!」
「気を付けて。なんか、出るかもよ?」
私がからかうと、美穂は笑いながら「やめろよー!」と言った。
美穂たちとも別れ、そのあと顔見知りの数人に手を振ってようやく校門を出るころには、時計は16:30を示していた。
やば、バイト遅れちゃう。
筆者も女子高出身なので、経験を元に書きました。