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沢木先生お題シリーズ

待ちぼうけ(千文字お題小説)

作者: 神村 律子

お借りしたお題は「「雨が降ってきた」から始まって「雨が降っている」で終わる作品を書く。意味が同じなら、~です、~ます等、言い回しは変えても構わない。1000~20000文字」です。

 雨が降ってきた。


 いつものコンビニであいつを待つ。


 只偶然を装い、くだらない話をしながら、駅までのわずか二百メートル弱の距離を一緒に歩くだけ。


 それでも、その「偶然」はあまりにも頻繁過ぎ、徐々にあいつに感づかれつつあるのも自覚している。


 だからそろそろ潮時だとも思っていた。


 


 あいつと出会ったのは、一ヶ月前。場所はそのコンビニ。


 まるで私を目の仇にでもしているようないきなりの雨。


 全身ずぶ濡れになりながら、目の前にあったコンビニに飛び込んだ。


 店内は同じように雨宿りに訪れた人達でごった返し、いつもなら埃を被って売れ残っているビニール傘がすでに一本もなくなっていた。


 その斜向かいにはデパートがある。


 そこになら、もっと大きくて確実に雨を凌げる傘があるだろう。


 だが、女子高生にはあまりにも高額。


 と言うより、手持ちの現金が千円しかないのだ。


 いずれにしても手が出ない。


 雨足が弱まったら、一気に駅まで駆け抜けるしかない。


 そう決断したら、更に雨が勢いを増したのは、神様が私の事を嫌いだからだと思った。


 悲し過ぎて笑いたくなってしまう。


 もうこうなったら破れかぶれだ。ここまで濡れネズミなのだから、もうどれほど濡れても同じ事。


 強行突破を決断し、店から出ようとした時だった。


「良かったら、使って」


 爽やかな声でビニール傘を差し出してくれた人がいた。


「え?」


 思わず目を見開いてその顔を見た。


 思い違いでも何でもなく、傘は私に差し出されており、夢でも何でもなく、そこに立っていたのは、全校女子憧れの的のあいつだった。


「僕の家はすぐ近くだから。君はいつもこの先の駅から電車に乗っているよね?」


 何故かあいつは私の事を知っているみたいだった。


「あ、ありがとうございます!」


 びしょ濡れの自分を見られたのが恥ずかしくて、傘を受け取ると開くのも忘れて猛然と駅までダッシュした。


 それ以来、私はそのコンビニであいつを待つようになった。


 声をかけられただけなのに舞い上がってしまったのだ。


 


 そして今日もあいつが歩いて来るのが見えた。


 立ち読みしていた雑誌をラックに戻し、入り口に近づく。


 いつもそうやって声をかけているのだ。


 しかし、その日はその作戦は失敗に終わった。


「待った?」


 あいつは私ではない女子に声をかけた。その子は私のクラスメート。


 席が隣同士でよく喋る子だ。


「私も今来たとこだよ」


 彼女はあいつと一緒にコンビニを出て行く。


 何やってるんだ、私?


 まだ雨が降っている。

ほんの思いつきです。

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