きゅうわめ
おおっ!
この西東くん作の卵焼きもどき結構うまい!
ここ調子ならもうちょっとで完璧に作れるんじゃないだろうか。
今日の夕飯のメニューのキムチ鍋と西東くんの作った卵焼きもどきを食べながら話をする。内容は体育祭のことについてだ。
「くじで当たった子の代わり?」
「うん。当たった女の子で本気で泣いちゃって…」
西東くんも大変だけどその女の子も可哀想だな。あの障害物だもんね。
…まあ、見てるほうはすごく面白いから止めないけど。
「西東くんはよかったの?」
うー!なんか心配になってきた。そこまで皆が嫌がる競技に西東くんを出さすなんて…。こうなったら学院長をしめてきてやろうか。
そんなことも考えていたら思いにもよらない的外れな答えが返ってきた。
「金銭的にピンチなんだ」
「は?」
「あれ?もしかして聞いてない?」
あっけにとられたが何かありそうなので聞いてみると、この障害物競走。あまりにも立候補者がいないために今年から商品をつけるようになったみたいだ。
それも食券一年分とは結構豪勢。
「つい今月お金使いすぎてさ。母さんたちもいないし…」
「え。お母さんどうしたの!」
不吉な事が脳内を駆け巡る。
もしかしてお父さんに愛想つかして出て行っちゃったのかも。
けどこんな事本人に聞けないよ!
「いや、三宅さんが思ってるような事じゃないよ」
うお!また私の考えを読まれた。また顔に出てたのかな…。
「顔じゃなくて口から漏れてるんだよ…」
ふーん。…ってえええええ!!!
うそ?嘘だよね!今までずっと心の声漏れてたの⁉失礼な事言ってたかも…どっどこから、どこからなのよぉー!
「はははは!」
そんな私の様子を見て西東くんは笑が止まらないようだ。他人事だからって腹抱えて笑うのはどうかと思う。
「そ、そんな事よりお母さん方は?いつもここでご飯食べてるけど本当に家に帰らなくていいの?」
「今夫婦で旅行中なんだ。だからすごく三宅さんには助かってるよ」
西東くんがいうには夫婦のわだかまりが解けラブラブでいたたまれないそう。
「旅行に一緒にこないかって誘われたんだけどあの中には入っていけないよ」
うわー。すごくうんざりしてる。見てる方からしたら仲が良すぎるのも問題なのかな。
「けど家族は仲がいい方がいいって絶対!」
自分ならやっぱりいつまで経ってもいちゃいちゃらぶらぶが憧れだよね。
「そうなんだろうけど何事もやり過ぎはいけない…はやくご飯食べちゃおうか。折角作ってくれたのに冷めちゃうよ」
あ、箸が止まっている事に気付かなかった。ご飯は冷めたら美味しくないからね。西東くんの親のラブラブ話を聞いても私たちがラブラブになるわけでもないしな…。
西東くんとの距離は依然進まない。
はあ…こんなにうじうじしてたら自分自身を嫌いになりそうだ。
もっと自分をアピールして恋愛対象としてみてもらえるように頑張ろう。行動あるのみ!何もかも諦めるのはそれからだよね。
ってわけで西東くんが帰ったら四郎に相談しよう。いつも相談乗らせてわるいね☆
そしてついに私たちは体育祭の日を迎えた。
「かっこよかった!さすが佐奈江ちゃん!」
「んー」
「…聞いてるの?」
「うわっ!どうしたの?」
「今日なんかうわの空だよね。何かあるの?」
「あっいやーなんか緊張しちゃって」
「わかるよ!私も昨日眠れなかったの」
亜子ちゃんごめんね。実は緊張してるのは体育祭の事についてではない。今日は体育祭より頑張らないといけない事があるんだ。
その名も【吊り橋効果でどきゅん♥ブルースプリング大作戦】だ。(四郎命名)
この間四郎を呼び出し西東くんの恋愛対象になるように練りに練り上げた作戦だ。
何とはいわないがすごく恥ずかしい。が、これもどれも四郎に任せたので仕方ない。
内容は作戦名の通り、吊り橋効果を利用し西東くんを落とす!
作戦開始は障害物競走が終わったあと。タオルを持って西東くんにボディタッチ。その勢いで告白!みたいな!
うおおおおおおおおおおお!恥ずかしい!
「…あ。次は最後の競技だって」
「えっ!もう?」
今年の最終競技も西東くんの出る障害物競走だ。見てる方はすごく盛り上がるからね…。見てる方だけね。
「今年はどんなことするのかな。怪我しなかったらいいけど」
西東くん大丈夫かな。できれば出て欲しくないけど賞品のことがある。
仕方がない。私のクラスの人には悪いけど西東くんのために負けちゃってください。
私のクラスは今の順位は下から数えた方がはやいので勝った負けたどっちにしろ優勝は無理そうだ。
西東くんの勇姿の撮影は写真係の安達さんが撮っているだろうがやっぱり一位でゴールしたかっこいい写真が欲しいだろう。いや私が欲しい。こう…なんというか…腹チラとか…ふふふふふ。
「佐奈江ちゃん。よだれ出てるよ…」
うっ。亜子ちゃんが私のことを冷めた目で見つめてくる。
酷い!そんな子だったのね!どうしたの私たち親友じゃなかったの⁉
…あ、私がおかしかっただけなのか。
まあそんな事より作戦の準備だ。
スポーツドリンクとふかふかのタオルは持ってる。これで西東くんが疲れて倒れてきた時にそっと包み込んであげる。これが【吊り橋効果でどきゅん♥ブルースプリング大作戦】の概要だ。いつ胸の中にとんできてもらっても結構よ。
ん?けどこれってそんなに距離狭まらなくない?誰でもできる事なんじゃ…。何時もと同じ仲のいい友達どまり見たいな…。
…。
ああああ!!!
今更だけど友達でも普通にやることじゃない!同じ様な事安達さんがこの前体育の授業の時やってたの見た事ある。
ヤバイ。今からでも作戦変更しないと。
なんであの時こんな事しか思いつかなかったんだ!
四郎は近くにいない。いや近くにいても役に立たない。今度会ったら一発殴っておこう。
『それではいよいよ最後の競技です。プログラムNo.21障害物競走。今年は何が起きるのでしょうか!それでは選手入場』
もう時間がない!
こうなったら藁にも縋るしかないな。
「亜子ちゃん、頼みたいことがあるんだけど」
「ん。私にできることなら何でも言ってね」
ちゃんは私の切羽詰まった表情を見て何かを察したのか快く引き受けてくれた。
悪いけど亜子ちゃんには全部話して巻き込まれてもらう。作戦もその場のノリと雰囲気で変えていこう。
即興だけど仕方ない。やれるだけのことはやってやるんだから。
これが最後の悪足掻きになる。西東くんと気まずくなるのは嫌だけどこのまま立ち止まってるのはもっと嫌なんだ。
さあ西東くん。私の準備はいつでもオッケー。どどーんと惚れてくれたって構わないんだから!
今回はすごく遅れて申し訳ありませんでした。これから私用で更新出来なくなると思います。4月頃から再開しますのでよろしくお願いします。