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いちごの砂糖漬け   作者: 霧霧
10/12

はちわめ

気づいた時には私の前には西東くんがいました。

なんで!!

びっくりして、周りを見渡せば何処を見ても桜色。

しかも頭がぼーっとしている。そして独特の倦怠感が。


「三宅さん。俺、君のことが好きなんだ」


ああ、理解した。

これは夢なんだ。

こんなに幸せなのは初めてなのに。なんで夢は夢だって一瞬で、一発でわかってしまうんだろう。気づかなければもう少しこの感覚に浸っていられるのに。


「私も、西東くんが好き」


けど現実では絶対に言えない言葉が言える。望みがない告白だ。


「愛してるよ」


すごく嬉しい…

え?西東くんの顔が近づいてってなんでっ!!!これはあれだ!キス?きす?Kiss?まうすとぅーまうすと呼ばれるやつですか?

夢ってのはなんでもありなの⁉

って!そ、そんな私の初めてが夢の中なんて淋しすぎる!どどどどうしよう!

けど、

いや!やめないでえええええええ!


「……えちゃん……きて」


ちっ!だれだ!この私の幸せな夢を妨げるやつは!


「どうしたの?三宅さん」

「いえ、なんでもないの。続けて…」


ごめんなさい。現実で呼んでくれている人。

けど、今この瞬間でしか感じられないの!西東くんの唇の感触。邪魔されてたまるもんですか!

けど目覚めが近いのか西東くんが見えなくなっていく。薄く、遠く。


「佐奈江ちゃん、おきてってば!」

「ちきしょう‼‼……亜子ちゃん?」


目が覚めるとそこには王子様…じゃなくて可愛い友人がいました。

西東くん夢から覚めて気分が落ちたけど亜子ちゃんの顔見たら吹っ飛んじゃった。


…あれ?そういえば何か大事なことを忘れてる気がするんだけど…


「三宅さん?授業中だってこと忘れてない?」


後ろから鬼のような形相をした先生が顔を覗かせた。先生、美人なのに勿体無い。そんなんだから彼氏できないんだよ。


「廊下に立ってくる?」

「すみません…」

クラスのみんなにクスクス笑われてしまった。亜子ちゃんには笑われてなかったことがせめてもの救いだけど恥ずかしいよ…。


先生が古文を読み上げていく。そういや古典の授業だったっけ。

先生が読むと子守唄のようでまた眠くなってきてしまう。


この頃夜あまり眠れていない。

それはあの時西東くんの言葉のせい。

デート(仮)の帰りでのあの言葉。どういうふうに捉えたらいいのだろう。

もしかして私のこと好きとか?いや、前にあんなにはっきり友達だって言ってたし…。

何かよからぬことでも考えてるのかな…?


ダメだ。

このままだと疑心暗鬼になりそう。




色々考えているうちに授業は終わっており、亜子ちゃんが心配そうに声をかけてきた。


「この頃調子悪そうだよ?熱とかない?」

「大丈夫。ちょっと寝不足なだけ」

「ほんとに?お医者さんに見てもらった方がいいんじゃ」

「大丈夫だって。今日は体育あったし、早く眠れそう」


亜子ちゃんは一応納得したみたいで麗しい笑顔をみせた。

可愛い!癒されるよ。いろいろ全部ふっとんじゃった。ほんとに今日は早く眠れそう。


「そういえば佐奈江ちゃんは体育祭なんの種目に出るか決めた?」

「ああ今日決めるって言ってたね」


そういえばもうすこしで体育祭か…。

この学校の体育祭は結構変わってる。この前はクラス別仮装リレーに出場して散々な結果になった。いや、私には被害はなかったのだが同じチームの男子が女装で走った。あのときスカートから覗いたトランクスが今も忘れられない。忘れたくてもだ。


「私はパン食い競争に出たいかな。亜子ちゃんは?」


もう仮装リレーには出たくないので一応無難なのを選んでおく。このパン食い競争、去年は激辛唐辛子入りあんぱんを食べた走者が卒倒したな。

あれ?無難かな?


他には毎度朝一番の競技の借り物競争は学校外まで借りに行き戻ってくるのが夕方になる。あとかごが逃げ出す玉入れなど。


「玉入れがましかな。できれば出たくないよ…」

「ははは…。でも、たしか優勝したら打ち上げ代タダなんだよね」


私立だし金だけはあるのに打ち上げくらい全員タダで行かせてくれたらいいのに。

どれだけケチなんだよ学院長。


そんなこんなで下校前のホームルームで私たちは希望通りの種目に出ることになった。

やるからには本気を出す!どんな手を使ってでも勝つ!


「それは女の子の顔じゃないよ、佐奈江ちゃん」


おっとまた顔に出ていた様だ。












「三宅さんは体育祭何に出るの?」


うお!すんごいタイムリーな話題だ。

変わってここはわたしの家。いつもの佐奈江ちゃんの料理教室だ。今日は卵焼きの焼き方を教えている。


「パン食い競争に出るよ。西東くんは?」


何も考えずに聞く。そんなに戸惑う話題でもないはずなのに西東くんは口に出すことを躊躇っていた。

なにかヤバイ競技に当たったようだね。


「それが、障害物競走なんだ…」


うん。ご愁傷様です。

障害物競走は毎年ひどいに尽きる。前年は火の輪をくぐらせれ、その前は腰に肉を巻きつけてのライオンさんと追いかけっこだ。

私のクラスでもみんながみんな押し付けあっていた。


「命運を祈る」

「ひどっ!」


これしか言えないよね。あんな死人が出そうな競技私だって出たくないし。

よし。西東くんが危険になったら助けに行こう。そして学院長を潰そうか。


「…卵焼き焦げる!巻いて!」

「うわっ!」


西東くんの料理の腕は未だに上がらない。けど焦がさないしましにはなってきているかな。


「で、盛り付けて完成。としたいところだけど。これは…」


なんとも形容しがくなった卵焼き?

見た目は違うもののようだけど焦げてなく食べれそうだ。


「よかった。ちゃんと食べ物になったね」

「やっと……。ここまですごく長かったよ…」


私たちに妙な感動が芽生えた。

だめだわ、私!

感動するのは味見してからにしよう!


一組の箸を西東くんに渡す。私が何を言いたいかわかったようだ。

箸で卵を挟む。こういうときになんだが西東くんの箸の持ち方は完璧だ。食べようとする姿までもが素晴らしい。

西東くんの口へ卵が運ばれた。私の顔は緊張で強張っているはずだ。

あああああ!なんで私が緊張しているのよ!

よし。

落ち着つけ、私。


西東くんの表情は食べる前も後も変わらない。


「出汁の味がするスクランブルエッグだね」


充分な時間を得て西東くんが言った言葉はこれだけだった。


…そうだろうね。私特製砂糖入りだし巻き卵の作り方を教えたんだもの。


色々話もあるけど、せっかく出来たのでとりあえず。


「ご飯にしますか」




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