9.君はどうして格ゲーをやっているの?
なんとか、精神を回復させ、再度女の子と話をしていく。
どうやら彼女は格ゲーをはじめて、とりあえずコンボを覚えてみたはいいものの、その後どうすれば良いか分からず、練習相手を探していたようだ。
今使っているコンボが実戦向きでないことを伝えると、口を尖らせて、不満を口にしていた。
「公式キャラ紹介で最高難易度って言ってたから、絶対強いと思って頑張ったのに」
「難しいコンボだから強いってわけではないんだよね」
チュートリアルで教えられるコンボに関しても、実戦で使うコンボは一部だけだったりする。
「それじゃ、このキャラはどんなコンボを使って戦っていくの?」
女の子すぐに気持ちを切り替えたのか、キャラについての質問をしてくる。
「そうだね、例えば強攻撃からならこのコンボが1番ダメージが出るんだよね。あと、カウンターからならこんなコンボ。画面端ならこんなコンボとかかな」
トレーニングモードに変更し、色んなコンボを披露する。
「へぇー、色んなパターンがあるのね。ちょっとやってみるから見ててね」
そう言って女の子は一心不乱にコンボの練習をしていく。
コンボ練習にアドバイスをしながら、この女の子のことについて考える。
どうして、彼女は格闘ゲームをやっているのだろうか?
練習相手を探しているということは、友達と一緒にやっているという訳ではないのだろう。
僕のクラスの女子で、格ゲーをやっている子なんていないだろうし、女の子の中で格ゲーが流行ってるなんて噂も聞いたことがない。
「ねぇ、君はどうして格ゲーをやってるの?」
背筋を真っ直ぐのばし、真剣な眼差しをゲーム画面に向ける女の子に、僕は気付けば、声をかけていた。
女の子は一旦ゲームを中断し、不思議そうにこちらを振り返り、口を開く。
「どうしてって、どういう意味?」
「だって、格ゲーを周りでやってる子なんて少ないし、上手くなるのも時間がかかるし、難しくてつまらないでしょ」
これは、残念なことだが事実だ。
僕が格ゲーを誘った友達も、難しくてつまらないと言って、すぐ辞めてしまった。
「つまらなくないわよ。本気でゲームに取り組んで上手くなる。成長を感じる。それだけでも楽しいじゃない」
そう言って女の子はまたゲームの画面に視線を戻す。そして、先程と変わらず、また黙々とコンボの練習を開始する。
本気で取り組んで上手くなる。成長を感じる。それは、僕だってそうだ。
ゲームを通して自分の成長を実感できる。少しずつ上手くなっていく。そんな瞬間がたまらなく楽しく、僕は好きだ。
でも、やっぱり、つい先程同級生の男の子に言われた言葉が、僕の頭にもたれかかってくる。
『なにゲームなんかで、ガチになってんだよ!!』
その言葉が頭から消えなくて、そのモヤモヤを、僕の口が、勝手に女の子にぶつけてしまう。
「でも、ゲームなんかがうまくたって将来何の役にも立たないし、本気で、ガチになったって、なんの意味もないじゃないか!」
頭が熱い。
柄にもなく熱くなってしまっているのがわかった。でも、自分ではもうとめられなかった。
女の子はコンボを繋ぐ手を止め、ゲーム画面を見つめたまま、小首をかしげる。
「そうかしら」
「そうだよ!」
僕の渾身の叫びは、ゲームセンターの喧騒に紛れ、消えていく。
しばしの時間がながれ、また彼女が口を開く。
「なんの意味もないなんて、そんなことないと思うけど。例えば……」
「例えば?」
女の子がふいにこちらを振り向き、僕の眼前に指を突きつける。
「君とか」
「ぼ、ぼく?」
女の子の言っている意味がわからず、熱くなった頭が冷え、今度は真っ白になる。
そんな僕に、女の子は僕の目を見つめたまま、言葉を紡ぐ。
「そうよ。私はこのゲームを本気で上手くなりたいと思ったから、君に声をかけたんだよ。先週も君、このゲーセンで、このゲームをやってたでしょ?」
大体、週末になると僕はこのゲームセンターで練習をしている。勿論、先週もしていた。
僕が頷いたのを確認し、女の子は腕をおろした。そして横向きに座り直し、浮いている足を前後に揺らしながら、話し始める。
「私はさ、ずっと一人でゲームをしてきたの。薄暗い部屋の中で、一人で調べて、練習して、強くなっていく、それの繰り返し。私にはそれが当たり前だった」
同い年くらいの女の子の筈なのに、その言葉には僕にはない、重みがあるように感じた。
「そして先週、新しく格闘ゲームを始めようと思って、このゲームセンターにきたの。そしたら、君がいた。楽しそうに対戦して、対戦が終わるたびにじっと考え込んで、不意にメモ帳を取り出してメモを取って、トレーニングモードでひたすら練習を繰り返す、そんな、君がいた。」
自分のやっていることが、他の人からどう見えるのか、詳細に伝えられるのは、少し恥ずかしくもあったが、そんな事も気にならないくらい、女の子の言葉にのめり込んでいた。
「私、君と一緒にゲームがしたい、お友達になりたいって、そう思ったの。ゲームに本気で取り組んでいる、君とね」
ゲームセンターの喧騒が消え、女の子の言葉だけが、僕の体に入っていくように感じた。
「君がこのゲームをやっていなかったら、君とは出会えなかった。友達にはなれなかった。それだけで、ゲームをしていた意味があったと、そう言えるんじゃない?」
知ってる? ゲームってお友達を作る為にあるんだよ。チラッとこちらを見て、女の子はニヤリと笑った。
「それにさ、ゲームであれ何であれ、本気で取り組むってすごいことなんだよ。本気になることができない人間が、この世界には沢山いるの。本気になれることを見付けるって、それはそれは、とても、とーっても難しいことなんだから!」
女の子が椅子から飛び降りて僕に詰め寄り、目を合わせてくる。
「本気で頑張れる事を見つけた人が、将来役に立たないなんていう、そんなくだらない理由で、それをやめちゃうなんて、それはすごく、すごーくもったいないなって、私は思う訳ですよ」
ね?あなたもそう思わない?
そう言ってこちらを見つめてくる女の子を見ていたら、それまで重くのしかかっていた頭のモヤモヤが、晴れていくような、そんな気がした。
「……うん。僕も、そう思う」
「そうよね。それじゃ、もう一回対戦しましょう」
そういって彼女は僕の手を引き、対面の席に誘導する。
ついさっき、彼女と対戦する前まで、灰色に見えたゲームの画面が、今度は以前よりも鮮やかに彩られているように感じた。
「本気になってもいいのかな」
「いいわよ。かかってきなさい」
自分への問いかけに彼女が返事を返してくれる。
「ありがとう」
「? どういたしまして」
再び対戦を始めた僕は、本気で彼女と対戦し、彼女をボコボコにしていく。
『PERFECT KO!!』
何度か対戦して、僕が再びPKOを決めたあと、彼女がこちらによってくる。
「ちょっと!」
「うん? どうしたの?」
「こっちは初心者よ、手加減しなさいよ!」
「え? さっき本気できなさいって」
「限度があるでしょ! 限度が! さっきからなーんにもできないし、練習したコンボも出せないんだけど!」
「えぇ……」
さっきの言葉は何だったんだ。
声色と肩を怒らせた状態で怒っているアピールを全力でしている女の子が、そこにはいた。
「そもそも! 全然! 近づけないんだけど!!!!」
握った両の手の拳を上下に振りながら、女の子が不満をアピールしている。
「あぁ、それならね……」
そうして席を立ち、席についた女の子の後ろにつき、アドバイスの言葉を放っていく。
このお話が僕、水瀬大樹と、これから長い付き合いになる女の子、周桜愛紗との出会いだった。
今後は男の子の視点の話も入ってきます。 少しでも面白いと感じたら、高評価等もらえると嬉しいです!




