8.PERFECT KO
(まずは様子見から!)
そうして僕は、遠距離攻撃をタイミングをずらしながら放っていく。
相手はガードをして動かない。
しばらく硬直状態が続いた後、こちらの遠距離攻撃が、前に出ようとした相手にヒットし、相手のキャラがダウンする。
(当たった!)
それを合図に僕は一気に距離を詰め、連続攻撃を仕掛けに行く。
それに対して、相手の起き上がり際に放った攻撃がこちらにヒットし、相手のコンボがきまる。
(くそっ。少し距離が遠すぎたか!)
相手のコンボ中に小さな反省をしつつ、こちらの起き上がり際での、相手の攻めに対してガードを行い、その後距離を空ける。
(それにしても、あのコンボは……)
あのコンボは、超高難易度コンボとして、このキャラの公式キャラ紹介に載っていたものだ。
僕はこのキャラを触り始めたばかりの頃、挑戦してみたが、難しすぎて断念した記憶がある。
(コンボ上手いな。実戦で始めてみた)
遠距離攻撃を放ち、テンポを取りつつ、攻撃のチャンスを伺う。
相手はガードを固めて中々動かない。
(誘っているのか?)
体力ゲージはこちらが負けている状況。こちらも攻めなければならない。
(絶対倒す!!)
そうしてまた、距離を詰めていくのだった。
1ラウンドが終了し、次のラウンドに入る。
(この子まさか……。いや、そんな筈は)
対戦前の彼女の様子を思い出し、ふと湧き出た考えに首を振る。
その彼女はというと、第一ラウンドとは打って変わり、攻撃的なスタイルでぐんぐんと距離を詰めてくる。
(様子見は終わりってことかな)
攻めてくる相手の攻撃をガードしつつ、反撃の機会を待つ。
『PERFECT KO!!』
ゲームセンターの喧騒の中に、筐体から放たれた音声が響く。
画面の中では、同じキャラクターが対象的な様子で映し出されている。
片方は拳を突き上げた勝利ポーズで、もう片方は床に突っ伏すように倒れていた。
そして、勝者側の体力ゲージは、スタート時点から全く減っていない状態となっていた。
気付けば対戦が終わっていた。
「まさか、そんな」
呆然と画面を眺める。
「そんなことって……」
未だに信じられず、画面を見つめる。
対面に座っていた女の子が、こちらの方へやってくる。
女の子が小首を傾げながら、僕に問いかけてくる。
「どうだった?」
「えっ、どう、とは?」
僕の曖昧な返答がお気に召さなかったのか、僅かに眉をひそめ、女の子は答える。
「どうって、感想よ、感想。私と対戦してどう思ったかをきいているのだけど!」
なんか、この子。表情は固いのに、声色は結構豊かなんだなと、そんな現実逃避の思考をしつつ、女の子がどんな返答を求めているのかを考える。
僕が言葉に迷っているのを、女の子は僕の目をみて、じっと待っている。
いや、この子、少しずつこちらに近付いてきてないか?
ジリジリとにじり寄る女の子に対して、僕は、どう答えるか少しの間迷い、結局、率直な感想を答えることにした。
「正直……」
「正直?」
目前に迫った女の子が小首をかしげ、答えを待っている。
「とんでもなく弱かった、です」
言った。言ってしまった。
女の子はそれに対してニヤリと笑い、僕から半歩ほど離れ「そうよね。 私もそう思う!」などと言って、コクコクと頷き、一人で納得している。
そうなのだ、彼女のプレイはお世辞にも上手いとは言えなかった。
こちらの遠距離攻撃に対してはガードするばかりで、近付いて来ない。
攻めに関してもバリエーションが少なく、圧力を全く感じなかった。
コンボに関しても、あのコンボは超高難易度コンボとして公式サイトで紹介されてはいるが、実際は難しいわりにダメージが少なく、もっと簡単でダメージの取れるコンボがあるため、実戦で使われることはないものだ。
「あの」
「なぁに?」
背中に薄っすらと汗をかいていくのを感じる。
何故か口角を上げたまま、嬉しそうにしている女の子に対し、対戦中から気になっていた事を確認する。
「えっと、格ゲー始めたのっていつ頃から?」
「うーん、先週の土曜からだから、1週間ぐらいかな?」
それを聞いて崩れ落ちる僕。
え!? 大丈夫!?
女の子の慌てる声を聞きながら、対戦前の自分を思い出す。
初心者のまだ、始めて一週間の女の子にむかって、イキる自分。
『この子、強い』
『強いよ、僕は』
『同年代に負ける筈がない』
顔を手のひらで覆い、うずくまる。
その日僕は、羞恥心というものを学んだのだった。




