7.僕はゲームが上手い
僕はゲームが上手い。
友達と対戦をしても負けることがほとんどないし、オンラインの対戦をしても負けることの方が少ない。
しかし、ゲームが上手いということと、ゲームが楽しいということは、必ずしも一緒ではないということを僕は今、感じているのだった。
「なにゲームなんかで、ガチになってんだよ!!」
「え?」
対面に座っていた同じ小学校の男子が、拳を振り上げ、対戦していた格闘ゲームの筐体を殴りつけるのを、僕は呆然と見ているしかなかった。
色んなキャラを使って対戦していた僕に対して「最強キャラでこいよ」なんて言ってきたのは君じゃないか。
それでおいて、いざ自分が負けたら怒り出すというのは、どうなんだろうか。
「帰ろうぜ!」
僕が反応しなかったのが面白くなかったのだろう。同級生の男の子は周囲の友達に声をかけ帰っていった。
騒がしいゲームセンターに一人残された僕は、先程の対戦について考える。
僕は一体どうすればよかったのだろうか?
わざと、負ければよかったのだろうか?
目の前にはゲーム画面に表示された『You win!!』という文字と、僕の操るキャラが勝利のポーズを決めて、ゆらゆらと揺れている。
今まで嬉しかった色鮮やかな勝利画面が、徐々に色を失っていくのを感じる。
「……帰ろう」
勝利画面とコンテニューの画面をスキップし、ゲームを終了させ、帰る準備をする。
ゲームをするのが好きだった。
ゲームで強くなるのが楽しかった。
『なにゲームなんかで、ガチになってんだよ!!』
でも、ゲームで強くなったところで、何の意味もないのかもしれない。
お母さんやお父さんも、僕がいくらゲームで強くなったって、褒めてくれることは無い。
ゲームなんて、子供がやるもの。ゲームする時間があったら勉強をしろ。大人は皆そう言う。
どれだけ僕が頑張って、上手く、強くなろうがそれは僕が嬉しいだけ。
何の意味も、価値もないものなんだろうか。
もう、ゲームなんてやめようかな。
昨日まで考えたこともなかった考えが、頭に浮かぶ。
(ん?)
そこで僕は、同級生の男の子が去った場所、対面に誰かが座っていることに気付いた。
(女の子だ)
そこには、ゲームセンター特有のやけに大きな椅子に、ちょこんと座り、無表情でゲームの画面を見つめる、同い年くらいの女の子がいた。
背筋はピンと伸び、画面を見つめる真剣な目線は大人っぽい印象をあたえるが、前髪をとめるクリップには、何かのアニメの可愛らしい動物のキャラクターがついており、大人っぽさを破壊している。
(こんなところまで女の子がくるなんて、珍しいな)
女の子がゲーセンに来ても、入口近くのプリクラやUFOキャッチャーをしてるのを見たことがあるくらいで、こんな奥地の格闘ゲームコーナーへ来ているのは、あまり見たことが無かった。
「ねぇ」
「えっ。あっ、ごめん」
女の子をしげしげと観察していたら、話かけられてしまった。
女の子が表情を動かさないまま、ゆっくりとこちらを向いて、言葉を発する。
「あなた、つよいの?」
彼女の瞳が、僕を貫いたように感じた。
不思議な感覚だった。
こちらを見ているだけなのに、自分の全てを見透かされているような、そんな不思議な感覚。
(この子、強い)
直感的にそう感じた。先程の同級生の男とは、比べ物にならないプレッシャーを感じる。
「強いよ。僕は」
気付けば、口に出していた。
強いと言っても、僕程度の強さの人間、ネットで少し探せば見つかる程度だ。
ただ今は、彼女と戦ってみたい。
その一心だけで、気付けばその言葉を口にしていた。
そこで、それまで全く動かなかった彼女の表情が僅かに変わり、口角を少し上げ、ニヤリと笑った。
「いいわね。では、やりましょう」
僕は肩に背負っていたバッグを再び筐体下のカゴに戻す。
筐体の前の椅子に座り、目を閉じ深呼吸をする。
今まで味わったことのない緊張感があった。
目を開きコインを投入し、ゲームを起動させ、キャラ選択の場面に移動する。
選択するのは僕のメインのキャラクター。足技の得意なカンフー少女だ。
彼女もキャラ選択を終えたようで、画面には服の色だけが変わった、同じキャラのカンフー少女が表示される。
(同キャラ対決か)
同キャラ対決はキャラの性能に差がない、完全な実力勝負。
故に、そのキャラクターの性能面での理解力や純粋な格ゲー力が試される。
僕は年の離れた兄の影響で、小さい頃から格ゲーをやってきた。
同年代の子に負けるはずがない。
そう気合いをいれ、集中力を高めていく。
画面が切り替わり、対戦画面に移行される。
『READY……FIGHT!!』
そして、対戦が始まった




