5.VTuberに私はなる
「うーん! 最高だった!」
お母さんから離れ、大きく伸びをしながら言う。
「そりゃよかったわね」
お母さんも立ち上がり、伸びをしながら答える。
「ママ椅子くんも大儀であった!」
「はいはい。ご飯ついじゃうね」
「うん! あっ、私がつぐ!」
「あら、珍しいわね」
「私はもう、大人なのでね」
「はいはい」
台所に向かうお母さんの後を追い、ご飯を一緒に器によそい、朝食の用意をする。
「それじゃ、お兄ちゃん起こしてきてくれる?」
「はーい」
2階にあるお兄ちゃんの部屋に向かう。
私には2つ上の兄がいる。
兄は大人しく、あまり喋らない。
家ではゲームをしたり、本を読んだり、アニメを見たりしてることが多かった。
所謂、広く浅く色んなものをかじるタイプのオタクというやつだ。
「お兄ちゃん、おきてー」
ノックをしつつ、ドアを開ける。
兄はベットに腰掛けてゲームをしていた。
「朝ご飯できてるよー」
「ん」
簡素な返事をして、兄が立ち上がり、ゲームをベットに置き、こちらに向かってくる。
「何のゲームしてたの?」
「ん?」
お兄ちゃんが階段を降りながらこちらをみる。
「パケモン」
パケモン。パッケージモンスターの略称。
未来でも続編が出ている名作RPGだ。
パケモンと呼ばれるモンスターを育成して、チャンピオンを目指すゲーム。
「面白い?」
兄が階段を入りきり、リビングの扉に手をかける。
扉を開く直前にこちらを振り返り答える。
「最高」
こちらをみる兄の顔はいつもと同じ無表情だが、何故か最高に輝いて見えた。
朝食を終えて部屋に戻ってきた私は、勉強机に座り、これからのことを考える。
「さて、これからどうしようか」
現状、タイムリープした理由もよくわからない。
タイムリープというのは過去を変えたい人間のもとにだけ、起こるものだと思っていた。
「私の変えたい過去……か」
私の黒歴史といえば、学校の自己紹介で毎度プリトアの素晴らしさを語り、友達があまりできなかったことか。
それとも、貴重な青春時代をタテリスにのめり込み、思い出があまりないことだろうか。
どちらも変えたい過去ではあるが、そんなに後悔はしていない。私がその時に一番したかったことをした結果だからだ。
「う~~~ん」
家具屋でゴネて買ってもらった、回る椅子の上で体育座りをし、クルクルと回りながら考え続ける。
いや、過去の失敗から考えるのはやめよう。
人生に後悔があまりない以上、そこから考えても良い結果にはならないだろう。
それよりも、私が今後どのような人生を歩みたいかを考えるのだ。
「私がなりたいもの、なりたかったもの」
プリトアだ。
だが、プリトアにはなれないということを、私はもう知ってしまっている。
「あ」
そうだ。
私にもあるじゃないか。なりたいものが。
最近出会えた。私に元気を与えてくれるもの。私の心を豊かにしてくれる存在。
汐月ミワちゃん。
私と同じくらいプリトアが好きで、私と同じくタテリスが好き。そして、私と違って見ている皆を元気にしてくれる存在。
私、ミワちゃんみたいになりたかったんだ。
「きめた!!」
クルクルと回っていた椅子をとめ、立ち上がる。
ミワちゃんのような、皆を元気にするそんな存在に、
VTuberに私はなる!!
そう自分自身に誓い、拳を天に突き上げるのだった。




