4.タイムリープも悪くない
「知らない天井だ」
いや、勿論知ってる天井だ。幼い頃見続けた実家の天井。
ただ、次に目を開けたら何となく言おうと思っていただけ。
というか全然眠れなかった。心臓バクバクで、頭も冴えてる。
触覚の至る所が、これは夢じゃないと私に訴えかけてくる。
ほんとに私、若返ったんだ。
布団から上半身を起こし、手を前に出して握ったり、開いたりを繰り返す。
「小さい手」
こんな手で何ができるのだろうか。
こんな私に神様は一体何をしろと言うのだろうか。
過去に戻って何かを変えたい人は、それこそ星の数ほどいるだろう。
過去の失敗をやり直したい人、もう一度会いたい人がいる人。今の人生に満足していない人。
そんな人たちがいるなかで、どうして私みたいな特に大きな後悔もないような人間に限って、タイムリープなんてことが起こるのだろうか。
「現実は残酷だ」
「なーにが残酷だって?」
気付けば部屋のドアが開いており、お母さんがドアにもたれ掛かりながら、こちらを見ていた。
「お母さんが若い!」
「ハイハイ。お母さんは年取らないからね。いつまでも若いんだよ」
嘘だ。
未来のお母さんも若く見えたけど、今のお母さんの方が流石にもっと若い。
「まったく。珍しく自分で起きてるかと思ったら、物思いにふけったり、急に褒めてきたり、ほんとあんたは可愛い子だね」
お母さんが言う“可愛い”には色んな意味がある気がする。
「ほらほら、プリトア始まるよ。早く起きな」
「プリトア!? 今何時!?」
「もう10時になるよー」
「行かねば!!」
布団から飛び起きて部屋の出口に向かってダッシュする。
今の私を止めれるものは誰もいない!!
「こら。布団はちゃんとたたむ」
「グエッ」
とめられた。
すれ違い様に首ねっこを掴まれて持ち上げられる。足が宙に浮いて空を切る。
「お母さんお母さん! 早く降ろして! プリトアがいなくなっちゃう!」
「はいはい。プリトアはいなくなんないから、さっさと布団畳んじゃいなね」
足が地面についた瞬間、私は華麗にUターンをきめ、布団を高速で畳み、押入れにぶちこんだ。
完璧だ。
布団押入れぶちこみ競争という競技があれば、間違いなく優勝していただろう。
華麗な一連の動作の後、お母さんへ視線を投げかける。
お母さんが右手の親指を上に突き上げる。
「行ってよし」
「サーイエッサー!」
今度こそお母さんの横を駆け抜け、一階のテレビへ向かう。
「若いっていいわねー。元気があって」
お母さんはいつまでも若いんじゃなかったのか。
そう思ったが、プリトアが迫っていたため、無視してテレビに向かうのだった。
テレビの目の前まで移動し、すぐにチャンネルをプリトアに合わせ、正座をして待機する。
放送一分前。ギリギリ間に合った。
『良い子のみんなー! テレビを見る時は部屋を明るくして、離れて見てねー! プリトアとの約束だよ!』
「プリトアの頼みといえど、それだけはきけません。テレビ前30センチ。この大画面で見るプリトアこそ最高なのです。私は悪い子なのでOKです」
「私の子供は良い子しかいないから、ちゃんと離れて見ましょうねー。ママとの約束だよー」
「グエ」
首根っこを掴まれてテレビから引き剥がされる。
そのまま引きづられて、しっかりと距離を離された後、お母さんの膝の上に乗せられて後ろから抱かれる。
(そっか。昔はよくこうやってテレビ見てたっけ)
「タイムリープも悪くないかも」
「ん? なんだって?」
「お母さん、太ったかなって」
「なんだとコラ」
「キャーーーーーー」
お母さんが私を抱きしめる力を強くする。
お母さんと戯れていると、いつの間にかプリトアのOPが終了し、本編に入っていくところだった。
(このお話は、第2代プリトアの第5話かな。ということは、私は今、小学一年生ってことか)
タイムリープに動転して日付の確認をしていなかったが、ようやく確認することができた。
(とりあえず今は、プリトアを楽しむことに全力を注ごう)
そうして、時折お母さんと戯れながらプリトアを楽しむのだった。




