3.人生やり直せるなら、何がしたい?
……んん?
今、何時だろうか?
枕元にあるはずのスマホを手で探すが、なかなか見つからない。
そんなに寝相が悪いことはないはずだが、何処かに投げてしまったのだろうか。
そういう時は大抵、アラームを遠ざけようとして、時間がギリギリなことが多い。
遅刻の恐怖から急速に頭が覚醒し、飛び起きる。
「あれ? 実家だ。」
久しく帰っていない実家の自分の部屋の景色がそこにはあった。
寝るときは確かに自分の借りているアパートだったはずだが、いつの間に帰省していたのだろうか。
まさか、体調不良で意識を失って実家に運ばれたとか?
それにしても不思議な話だ。
それに、この実家の部屋はどこかおかしい気がする。
……そうだ。
実家を出るときに持っていったお気に入りのマンガや、その際に処分した物までそっくり昔のまま、そこにあるのだ。
「夢?」
とりあえず頬をつねってみる。夢の中で実際に頬をつねるのは初めてだ。
「痛い」
痛いんだ。
夢の中では痛くないってのは創作の中だけなんだ。また一つ賢くなった。今度友達に話してあげよ。友達いないけど。
内心冷や汗をかきつつ、立ち上がる。
「低い」
私は身長が高い方ではないが、それよりもずっと低い。まるで小学生のようだ。
「プリトアだ」
自分の姿を見下ろすと、小学生の頃に寝間着にしていた、お気に入りのプリトアのTシャツが目に入る。
「胸がない!?」
それは、もとからだった。
しかし、これは一体どういうことだろうか?
部屋の壁面に設置してある姿見の前で考える。
鏡の中では、小学生の時の私が腕を組んで立っている。
私が鏡の中の私に向かって、ピースや魅惑のポーズをキメると、そっくりそのまま私に返してくる。
どうやら、間違いなく私自身が映っているらしい。
「……わたし、若返ったってこと?」
最終的に、プリトアの変身ポーズをキメながら、しばしの間、思考の海に囚われていくのだった。
こういう状況のことをなんていうんだっけ?
「タイムリープ?」
以前読んだ小説を思い出す。
その小説では主人公が過去に戻って、死んでしまった幼馴染の女の子を助けるという話だった。
この手の話というのは、過去にあった大きな出来事を修正し、良い未来を掴むという話の筈だ。
ポーズをとき、混乱して熱を持つ額を鏡にあてる。
微かにヒンヤリしていて気持ちが良い。
少しクリアになった頭で、状況を整理し、そして疑問が浮かんでくる。
「どうして私が……?」
そう。
何故、私が過去に戻っているのかがわからない。
私の人生なんて、平々凡々のどこにでもある普通の人生だったと思う。
ふつーに生まれて、ふつーに学生して、ふつーの少し暗めな青春を送って、ふつーに大学に行き、ふつーに仕事をしている。
身近な人の死に対面したこともないし、特別大きな失敗をしたわけでもない。成功も少なければ、後悔も少ない。そんな人生。
『人生やり直せるなら、何がしたい?』
そんな問いを人生でかけられる事があれば、『別に今と同じ人生でいいよ』と答え、つまらないと言われる。
そんな私が何故、タイムリープという超常現象に見舞われているのだろうか?
「やっぱり、夢だな」
ウンウンと頷き、もう一度布団の中に入る。
目が冷めたらこの不思議な夢のことをSNSにでもあげよう。もしかしたら3グッドくらい貰えるかもしれない。
そうしてまた目を瞑り、薄々感じている現実からも目を背けて、再度眠りにつくのだった。




