16.初心者狩り
一回戦、勝てたみたいだな。
筐体の前に座る愛紗ちゃんの口元が、ニヤリと笑うのをみて、肩の力を抜く。
これで、大会初勝利だ。
いつもあれだけ頑張って練習しているんだ。
一勝もできないというのは、とても悲しいことだ。そんなことにならなくて良かった。
(本当によかった)
僕が初めて参加した大会を思い出す。
初心者大会と言うことで、兄に連れられてやってきた僕は、1回戦で何も出来ずに負けた。
あの時の無力感と言ったらない。
愛紗ちゃんは、そのまま対戦相手と握手を交わし、こちらへ戻って来る。
めちゃめちゃご機嫌で、スキップまでしている。
「お疲れ様」
「ありがとう! 私の栄えある1回戦の結果、聞きたい? 聞きたいよね??」
「顔に大勝利って書いてあるよ」
「……むぅ。そこは私の口から言わせて欲しいんですけど」
全身からウキウキ気分が漂ってる愛紗ちゃんを軽くいなしつつ、目線を上部のモニターへ向ける。
そこには、愛紗ちゃんの試合ではない、先程終えたばかりの1回戦のリプレイ映像が流れていた。
愛紗ちゃんもそちらへ目を向ける。
「あれはさっきの1回戦の映像?」
「うん。このお店には配信卓というのがあって、あそこの大きな対戦テーブルで行われた対戦を、モニターと配信サイトにのせてるんだ」
画面の中では、僕のメインキャラクターと同じカンフー少女と、この格闘ゲームの主人公である、空手家のキャラクターとの対戦が流れている。
「やっぱり、うまいな。この人」
カンフー少女が空手家の男をどんどん追い詰めていく。
「強いって、あなたの持ちキャラのほうよね?」
「うん。コンボも最大コンボだし、間合い管理も上手い。キャラクターを使いこなしている動きだ。あきらかに初心者の動きじゃない」
「あれ? この大会って初心者大会じゃなかったっけ?」
愛紗ちゃんは不思議そうにこちらをみやる。
「……もしかしたら、他の格闘ゲームを長くやっていて、最近このゲームを買って、まだゴールドランクとかなのかもしれないね」
「ふーん。なるほどねー」
愛紗ちゃんにはそう言ったが、そんなことは無いだろうと、心の中ではそう思っていた。
『初心者狩り』
“自分が勝つこと”ただそれだけ考え、ゲームをしている人達。
勿論、勝利を求めることは勝負の世界では当然のことだ。
ただ、その勝利を求める姿勢が一般のプレーヤーとは違う。
奴らは、自分が強くなることではなく、自分よりも弱い相手を探すことによって、勝利を得ようとするプレーヤーだ。
同じレベル同士の対等な対戦を楽しもうとせず、自分より強いプレイヤーから学ぶこと、成長することからも逃げ、自分より弱い、確実に勝てるプレイヤーだけを狩る。
それが『初心者狩り』だ。
恐らく、あのカンフー少女を扱っているプレイヤーの実際のランクは、初心者大会の規定である、ゴールドランクの、2つ上ぐらいだろう。
初心者狩りは、新規プレイヤーの離脱に繋がり、ゲーム自体の衰退にも繋がりかねない危険な、よくない行為だ。
しかし、そんな初心者狩りを無くすというのは、とても難しい。
今回の大会のように、ランクで制限をしても、複数のゲームアカウントを使い分けたりするプレイヤーなどもいる。
明らかに実力が掛け離れていても、最近上手くなっただけだと言われれば、それを否定することは、中々できない。
「楽しくなってきたわね」
隣で愛紗ちゃんが楽しそうに呟く。
彼女は持っている。
自分よりランクの高い人、強い人と戦う意思を。
強くなろうという思いを。
「うん。頑張ってね」
モニターを見つめる彼女に向かって、そう告げた。




