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13.僕はゲームが上手くない



 僕はゲームが上手い。


 事実、友達と対戦をしても本気でやれば負けることはほとんどないし、オンラインの対戦をしても負けることの方が少ない。


 だから、僕はゲームが上手い。そう思っていた。


 彼女に出会うまでは。




「あーー。また負けたーー」


 彼女は今日も、僕の目の前で対戦して、そして敗北している。



 場所はいつもの場所。


 古い建物で、大きさもそんなに大きくない、商店街の外れにあるゲームセンター。


 昔のゲーセンブーム?の頃は賑わっていたらしいが、今となってはお客さんも少なく、格闘ゲームの椅子がすべて埋まることはない。


 たっぷりと筐体での対戦が楽しめる、僕の秘密基地だ。




「ボロ負けだったね」


「うん。動画取ってくれた?」


「はい、どうぞ」


「ありがと」



 彼女は最近、この秘密基地にたどり着いた新人だ。


 出会った当初はクールな雰囲気を放っていたものだが、仲良くなると表情も声色もコロコロ変わる変な子だった。


 秘密基地には毎週土日に来店しており、僕と一緒に格闘ゲームをやっている。


 格闘ゲームが上手くなりたいらしく、最近では持参したカメラに対戦の様子を録画して、それを見ながら反省会をしている。


 本気で上手くなりたい気持ちは僕も同じだ。


 だから、僕も協力して、2人で強くなろうと頑張っている。


「さっきの対戦どうだった?」


 愛紗ちゃんは、対戦が終わったあと、僕によく質問をしてくる。


 僕は一応、師匠という立場になるのだろう。


 彼女の疑問に、先程の対戦を思い出しながら答える。


「愛紗ちゃんのキャラと相手のキャラでは、相性が悪いからね。最初のうちはボコボコにされるのもしょうがないかなって思ったかな」


 愛紗ちゃんは、カメラの画面からじっと目を離さず、黙っている。


 何か気になるものでも映っていたのだろうか?


「どうかしたの?」


 僕が質問しても返事がない。


 なんだよ。


 どうだった?って聞かれたから答えたのに、無視かよ。


 そんなことを考えていたら、少し時間をあけて、彼女が口を開く。



「相性が悪いっていうのは、どうしてそう思うの?」


「え? だって、」


『ネットに書いてあったから』


 とっさにそう答えようとして、僕は口を閉じる。


 その答えが、仮にも師匠という立場の人がする答えではないと、そう思ったから。


 必死に頭を回転させ、自分の頭の中を整理する。



「……愛紗ちゃんのキャラはスピードタイプで、体力も少なく、手数を武器に攻めるタイプのキャラクター。相手のキャラは、柔道を極めた投げが得意なパワータイプのキャラクター。一発のダメージが大きくて、一度捕まってしまうと、少ない体力をすぐに削られてしまう。だから相性が悪い」


 言葉にして気付く。


 普段、当たり前のように思っている知識でも、そこにはそう言われる理由があることに。



「私はそう思わない。確かに相手はパワータイプのキャラで一発が重い。でも、その分、他のキャラと比べて動きが遅い。スピードタイプの強みを活かせる、相性の良い組み合わせじゃない?」


「でも、一回捕まっちゃったら」


「一回捕まってしまってもまだ体力は残る。それにこちらの強みはスピード。相手に捕まらないように距離をしっかり取って強気に戦う。そして、仮に一回捕まってしまってもまだ体力は残るから戦える。これはかなり有利に戦えそうじゃない?」



 それから愛紗ちゃんは、先程の負けたばかりだというのに、楽しそうに次の対戦にむけてプランを組んでいっている。


 僕はその様子をただ、見つめているしかなかった。







 ゲームが上手いというのは、如何に多くの情報を手に入れ、相手を上回るか。


 僕はそう思っている。


 ネットを駆使して、色々なことをたくさん調べ、知識を得て、強くなる。


 このやり方で、僕は強くなり、段々と勝てるようになってきた。


 だが、これは本当に、ゲームが上手いと、自分は強いと、そう言えるのだろうか。


 目の前の女の子は真剣に先程の対戦を振り返り、自身の負けの原因を探している。




 勿論、ゲームを勝つうえで、知識や情報というのは、とても大切だ。


 知識が足らない状態での対戦というのは、とても対戦といえるようなものではなく、一方的な展開で終わってしまうことも少なくない。




 だが、僕は今まで、調べて得た知識というものに、疑問を持ったことはあっただろうか? 



 このキャラのこの動きが強い。



 そういった知識だけを使って戦い、『なぜ』その動きが強いのかということまで、考えたことは無かった。


 だって、そんなことを知らなくても、その動きをすれば勝てるのだから。


 でも、そんな答えだけを求めるやり方では、ある程度の強さまではいけても、もっと上。最上位まではいけないのではないだろうか。



 顔も知らない赤の他人が見つけた、なぜ強いかも分からない、強い武器を使って勝利する。


 それは、本当に僕の、自分自身の強さと、言えるのだろうか。



 僕が今のランクから上にいけないことには、そういったことに原因があるのかもしれない。


 他人の知識、武器だけで戦っていけるほど、この先の、この上のランクは甘くない。



 彼女はゆっくりと、しっかりと知識を得て、その知識を自分のものにして、強くなっていっている。


 そして、しっかりとした土台を築いて、少しずつ確実に上に登っていっているのだろう。


 現状僕はまだ、それを優雅に上から眺めている状態だ。


 だが、僕のいる場所の足場は酷く、脆い。


 これから先、彼女は立派な高く大きい、強さの塔を建てて登っていくのだろう。


 それを僕は、穴だらけのボロボロの塔から、これ以上、上にいけないと、彼女の背中を眺めるだけの存在になってしまうのではないか。


 そんな考えが頭をよぎった。








 それは、嫌だ。




「いや、確かに一回捕まるまでは強気に動けるだろうけど、逆に捕まった後、ほぼ瀕死の状態では、こちらは弱気にしか動けない」


 彼女がカメラから目を離し、僕の方へ向く。


 彼女がようやく、僕をみた。


「攻撃をされるまでは有利で、攻撃をくらった後は不利。有利状況の間に、どうやって相手の体力を削るか。これがこのキャラとの対戦で重要なことじゃない?」


 彼女はこちらを向いたまま、パチパチと瞬きをしている。


「確かに。そのことも考えておかないとね。協力してくれる?」


「もちろん」


 自分もゲームをするために彼女の横に座る。


 もう一度、一から勉強しなおそう。なぜこのキャラは強いのか。なぜこの技を選択したのか。なぜ負けたのか。この勝負の勝因はどこなのか。


 それを1つずつ考えていく。


 そうやって僕も、もっと、もーっと上手くなる。




 僕はゲームが上手くない。


 今は、まだ。







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