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12.いや、なんでもないよ


「愛紗ちゃんって、どうしてゲーセン来てるの? 家にもゲームあるでしょ?」


 場所はいつものゲームセンター。


 そこで二人並んでゲームをしながら、前から思っていた疑問を隣の女の子にぶつけてみる。


 愛紗ちゃん。このゲームセンターで出会い、一緒に格闘ゲームをしている女の子。


 彼女は今、画面をじっと見つめながら、対戦前のウォーミングアップとして、コンボの練習をひたすらに行っている。


「なんだー? 私に来てほしくないのかー?」


「いや、そんなことはないんだけど……」


 別に来てほしくないなんて、そんなことは勿論ない。


 むしろ来てくれた方が嬉しいなんて、絶対に口にはしないけど。


「いや、僕はゲーセンの雰囲気とか、筐体で対戦するのが好きだからゲーセンにきてるけど、やっぱりお金もかかるし、家でやるほうが気楽でいいかなって思って」


 家庭用ゲームが普及してからは、ゲーセンでの対戦より、家庭用のオンラインでの対戦の方が主流だ。


 プレイヤー数も圧倒的に家庭用ゲームの方が多い。


 それに、態々お金を払ってゲーセンの筐体でオンライン対戦する人たちというのは、実力も高い人が多い。


 初心者がゲーセンの格ゲーをするというのは、お金をドブに捨てる行為と同じだと、ネットではそう言われていた。



「どうしてゲーセンに来ているのか」


 一通りコンボの練習が終了したのか、筐体から手を離し、僕の質問を繰り返す。


 そして、彼女はゆっくりと目を閉じ、腕を組みながら、少し時間をおいて口を開く。


「それはね、あなたと一緒にここで対戦するのが、楽しいからに決まっているじゃない」


「え」


 彼女の言葉がゆっくりと僕の中に入ってきて、じんわりと胸が温かくなってくるのを感じる。


 この、僕の好きな空間で、同じ場所、同じ時間、同じ体験を共有していることを、僕と同じように心地よく思っている人がいる。


 それはなんと嬉しいことだろうか。





「うん、ぼくもそ」


「ま、というのは冗談で、家にネット環境がないんだよねーー。うちの親、機械苦手でその辺疎いのよ。まぁ、工事もしないといけないし、お金もかかるから、あんまり強くもいえないし。どうせ1年くらい後には工事するから、それまで待とうかなってね。あれ? なんか言おうとしてた?」


 彼女がこちらに顔を向け、にこやかと笑いながら、そう告げる。


「……いや、なんでもないよ」


 こいつ、後の対戦の時間にボッコボコのギッタンギッタンのコテンパンにしてやろう。


 僕は心の中でそう誓い、この女の使用キャラの新しい攻略を、頭の中で組み立てていくのだった。



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