1.推しの配信をおかずにして食べる飯はうまい
「今日のプリトアも、ほんと最高だったよねー!!」
パソコンの中から、美しい少女のキャラクターが、日曜朝に放送されている女児向けアニメの感想を語りかけてくる。
(……わかる)
急な休日出勤を終えて帰宅した私は、録画してあったプリトアの最新話を見終え、美少女キャラクター、世間的にはVTuberと言われている少女の配信動画『今週のプリトア感想枠(∩。・ω・。)⊃━♡°.*・』を視聴していた。
毎回プリトアのアニメ直後に感想枠を開くため、アニメの後、彼女の配信を開くのが、私の日曜のルーティンとなっていた。
「まさかルル・ダークちゃんがプリトアの仲間になるとはねー。ミワちゃんビックリしちゃったよー」
(……光墜ち展開は予想通りではあるけど、あの厳しい過去描写をみたあとでは、ビックリしちゃうのも無理ないよね)
ルル・ダークは地球を乗っ取るために他の星からやってきた敵組織トップの娘で、地球を滅ぼすために育てられてきた存在だった。
現在は学園に潜入し、プリトア達と交流しながらプリトアの弱点を探しているという展開。
基本的に無表情で大人しいキャラクターとなっており、会話の中でも表情が全く変わらないことから、当初はルルちゃん人造人間説がまことしやかに囁かれていた。
「あのルルちゃんの笑顔と涙は一生忘れないよね。プリトアの
『なんの為に生まれたとか、どんな風に育ってきたとか関係ない。あなたの、あなた自身の、』
『『あなたの好きをきかせてよ!!』』
人生で一度は言ってみたいよねーこのセリフ。心に刺さりすぎて死ぬかと思ったよー」
宇宙からやってきたルルは、地球の美しさに一目惚れをしてしまう。
そして地球で過ごすうちに、そこで暮らす人々すらも好きになってしまい、地球を乗っ取るという使命と、自分の好きという感情で押しつぶされそうになってしまっていた。
そんなルルを救うというのが、今週のプリトアの話だ。
「今回のプリトアは神回だったね! ……ん?毎回言ってるって? そりゃ毎回神回だから仕方ないよ。プリトアが面白過ぎるのが悪いよねー」
(わかる。来週もルルちゃんが地球との共存を父親に伝えにいく話。神回に決まってるしね)
「じゃあ今回の配信はこんなところで終わろうかなー。もしかしたら夜にタテリスのゲーム配信やるかも。それじゃバイバーイ♪」
配信が終わった。
「終わっちゃった……」
配信の動画が終わった途端、それまで忘れていた空腹が顔を出し始め、休日出勤の疲れと共に襲いかかってくる。
「なんか食べるものあったかな……」
重い身体を動かして冷蔵庫の前に移動し、扉を開く。
何もない。
外に買いに行くのも面倒なので、カップラーメンを食べることにする。
ポットに水をセットし、ボタンを押す。
ボタン1つでお湯が沸くなんて便利すぎる。この機械を考えた人はノーベル便利賞を与えるべきだろう。
そんなくだらないことを考えつつ、お湯の湧く少しの時間でも体力を回復させようと、私は横になるのだった。
「…………ぅん?」
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
食欲と睡眠欲のバトルは、どうやら睡眠欲が勝つものらしい。勉強になった。
お湯を再度沸かし、カップラーメンにお湯をいれる。
スマホを開き時間を見ると、深夜の2時。
この時間のカップ麺は乙女的にはギルティだが、お腹の絶叫が収まらないので致し方ない。
3分を待つ間にyutubeを開くと、先程まで視聴していたミワちゃんのチャンネルにライブ中の文字がみえる。
「そういえば、夜にタテリスの配信するかもっていってたっけ」
『負けたら即終了☆タテリス連勝企画!!!!』
配信を開くと、試合も終盤。ミワちゃんが相手にトドメをさす場面だった。
「きたぁーーーー!!。これは最高連勝記録いけちゃうじゃないのコレーー!?」
普段もテンション高めの配信スタイルだが、今日は一段とテンションが高いようだ。
[うおおおおおおおおおおおお]
[45連勝!?]
[すげええええええ]
[明日仕事なので、そろそろ負けてください]
[最高連勝記録49。現在45連勝、ランク19位]
[いけぇぇぇぇぇぇ!!]
コメントも盛り上がっているようだ。
ミワちゃんこと、汐月ミワ(しおつきみわ)ちゃんは業界2番手の企業に所属するVtuberだ。デビュー当時は圧倒的な歌唱力の歌ってみた動画で話題を集め、最近ではゲームの生配信を行い、その多彩なリアクションから人気を集めている。
特にタテリスというパズルゲームに関してはVtuber界でも屈指の実力をもっている。
タテリスは所謂落ちゲーと言われるジャンルのゲームで、画面上部にランダムに出現し、落下してくるブロックを操作し、特定の形を作成するとブロックが消えるというゲームだ。
対戦モードではブロックを消すと、相手にお邪魔ブロックというものが出現し、ブロックが出現するスペースをなくすと勝ちになるというゲームとなっている。勝敗は2本先取で決定する形式だ。
[¥1000 対戦よろしくお願いします]
[お?]
[トトノエにきじゃん]
[だれ?]
[ランカーのスナイプ勢]
[前回のストッパーはトトノエさんだっけ?]
[12位ってまたランク上げてるね]
[トトノエさん。頼みます]
[社畜ニキは早く寝て]
「トトノエさんか。どっちが勝つかな」
トトノエさんの対戦は何度か見たことがある。序盤に高火力の攻撃を送りこみ、相手を崩したあと詰め切るのが得意なプレイヤーだ。
対してミワちゃんは積み込みの速さを武器に、断続的に中火力を送り込むスタイル。
トトノエさんが高火力を送り込む前に速攻で仕留めきるか、高火力を耐えきってカウンターを決めれるかが、ミワちゃんの勝ち筋になるだろう。
「頑張れミワちゃん」
ミワちゃんの応援をしつつ、カップラーメンに手を合わせる。
「いただきます」
配信ではミワちゃんVSトトノエさんの対戦が始まった。
一戦目は、ミワちゃんの速攻がうまく決まり、トトノエさんが高火力を送り込む前に仕留めきる展開となった。
「ズズズ…。ミワふぁん、またふまくなってるなー」
ミワちゃんは、幼い頃からタテリスをやってはいたが、長らくゲームから離れていたらしく、ランクマッチというガチ対戦を始めたのはここ2年くらいらしい。
ファンの贔屓目なしにして、ミワちゃん成長速度は驚異的だと思う。
そうこうしているうちに、2戦目が始まった。
行儀が悪いが、配信を見ながらラーメンをすする。
推しの配信をおかずにしながらの食事はうまいものなのだ。
2戦目は、トトノエさんが得意の積み込みをせず、ミワちゃんと同じ中火力を送り合う展開となった。相手の得意スタイルといえど、流石はランカー、互角の展開が続く長期戦となった。
[すげー積み合い]
[これは長引きそうね]
[ミワちゃんがんばえーー]
[あ]
[あ]
[ミスった]
[さすがに厳しいか]
2戦目はミワちゃんの置きミスをトトノエさんが咎めた形で、トトノエさんの勝利となった。
「あーーーー!!惜しい! でも、勝てる!! 今日の私なら絶対勝てる!!!」
ミワちゃんが己を鼓舞し、次の対戦に移る。2本先取なので、次の対戦で勝者が決まる。
3戦目は両者とも自身の得意スタイルでの打ち合いとなった。
相性では一気に高火力を送り込めるトトノエさんが有利ではあるが、ミワちゃんも自身の攻撃で相手の火力を削ぎ、自身の盤面を調整していく。
トトノエさんが高火力を送り込み、リソースの少なくなったところをミワちゃんが攻めこみ、次の攻め手をを送り込まれないように、断続的に攻め立てていく。
「うまい」
トトノエさんから火力が送り込まれるタイミングに合わせて火力を当てていき、自身の火力のリソース管理も進めていく。
そして、最後には自身の貯めきったリソースをまとめて放ち、トトノエさんを押し切ってのミワちゃんの勝利となった。
「おめでとう! ミワちゃん!」
パチパチパチ。
画面の前で拍手を送る。ランク上位相手を完全に手玉にとっての勝利。
序盤の高火力を耐えるためのダメージ調整から、中盤の相手にリソースを作らせない攻撃。終盤の火力の作り込みまで、完璧と行って良い立ち回りだった。
「やたーーーーーー!! 勝ったぞーーー!!」
ミワちゃんも喜んでて嬉しくなる。
[うおおおおおおおおおおお]
[ミワちゃんつよつよ!]
[すげーわ]
[うますぎ]
[睡眠時間が……]
[さいきょーー!!]
[¥10000 良い試合でした。ししょーも鼻が高いです]
「みんなありがとー!…あっ、ししょーもありがとうございます!そんなスパチャまでいただいて。……次格上に勝てたら世界大会の賞金分、スパチャしてもいいですよ!!」
ミワちゃんが師匠と呼ぶのは世界大会3連覇中のプロプレイヤーだ。
何度かコラボを行い、タテリスの指導をしてもらう配信をしていた。この配信はとても参考になる配信で、私も何度か再生して参考にさせてもらっている。
しかし、こうも熱い試合を見せられると私もタテリスプレーヤーとして熱くなってくる。
「ごちそうさまでした」
カップ麺の容器を片付け、ミワちゃんの応援しながら、タテリスを起動する。
ウォーミングアップを終えて、自身もランクに潜り始める。
配信ではミワちゃんが2桁順位の強者とマッチングし、ギリギリのところでまたもや勝利を収めていた。
「……すごい。これが“ゾーン”ってやつか。今日の私は無敵だ。負ける気がしない!!」
[つっよ]
[ミワちゃんさいきょー!]
[調子のってきたな]
[実際今日のミワちゃん強すぎない?]
[最高連勝記録49。現在49連勝中、ランク12位]
[いけーーー!]
「今ならししょーにも勝てる気がする。次で初めての50連勝。誰でもかかってきなさい!!」
『対戦相手とマッチングしました』
「おっ?」
私のゲーム画面に現れる対戦相手『汐月ミワ』の文字。
ミワちゃんとのマッチングを狙ったわけではなかったが、丁度対戦が終わったタイミングが重なったのだろう。
ミワちゃんとの記念すべき、初めてのマッチングとなった。
数秒のラグのあと、ミワちゃんの画面でも私とのマッチングが表示される。
『対戦相手 プリトア♡ ランク1位』
[あ]
[あ]
[ランク1位www]
[名前草]
[誰でも良いとかいうから……]
[神よ。ありがとう]
[ミワちゃんまけるなーー!]
「ランク1位!? ほんとに!?……いや、いける。今日の私ならいける。50連勝に立ち塞がる壁として、ふさわしいじゃないの。吠え面かかせてやるわ!!!」
いや、負けても吠え面はかかないが。
ミワちゃんも深夜のランクマッチで、テンションがなんだか少し、いや、大分おかしくなっちゃってるみたいだ。
「この壁を超えて私はまだまだ先を行く! いくぞ! 目指せ100連勝!!」
[いけーーーーーー!]
[これは神回]
[切り抜き動画も楽しみや]
[ミワちゃんがんばれ!]
[がんばって!]
コメント欄も盛り上がってるようだ。
こんなタテリスが少し上手いだけの私が、1万人が見守る配信の盛り上がりに関わっているのをみて、心が満たされていくのを感じる。
「ありがとう。ミワちゃん」
配信はキャラ選択画面を終えて、対戦に移ろうとしている。
「私は負けない。皆見てて! 私が勝って真のプリトアLOVEになるところを!!」
[その称号いる??]
[俺の方がプリトア好きだが?]
[これが最高連勝のかかった戦いである]
[かてーーー!かてーーーー!]
[いけえええええ!!]
配信が盛り上がっている中、私は集中力を高めていく。
ミワちゃんのリスナーに恥ずかしい場面は見せられない。
「ミワちゃん頑張れ」
ミワちゃんのファンとして、画面に向かって応援の声を掛ける。
自分の対戦相手に言うのもおかしな話だが、ミワちゃんのファンとして、声をかけねばならなかった。
そして、ここでミワちゃんファンの自分とは一旦お別れ。
あとは、タテリスランカーとしての私。
「「対戦よろしくお願いします」」
対戦が始まった。
「ちょっ、はやっ!え?」
「まってまってタイム!!」
「くらえ!……あれ? 私の火力、どこ?」
「………ちくしょーーーーーーー!!」
配信が終わった。




