【短編版】 嫌われ半魔の娘に花冠を
約千年もの間、魔族と人族は、不毛な争いを続けていた。
そんな憎しみ合う両者の間に生まれた者は、半魔人(半魔)と呼ばれ、忌み嫌われる存在。
人里離れた森の奥に村があり、そこに身を寄せ合いながら、息を殺すように半魔たちは暮らしていた。
アルテナもその、嫌われ者の半魔だ。
ある夜、アルテナが住む村を野盗が襲い、村人を次々と惨殺していく事件が起こる。
窮地に立たされたアルテナだったが、それを救ったのが、世界一の魔法使いと謳われるロリエッタだった。
ロリエッタは、カルビナ王国の宮廷魔導師で魔王直属の近衛師団の師団長であったが、そこを去り、今は、村でただひとり生き残ったアルテナと共に魔獣が多く生息する、ペルムの森と呼ばれる深い森に、ふたりで住むことになった。
この、ペルム大森林は、魔獣が多く生息し、活性化が頻発することでも有名で、別名、『魔獣の森』と呼ばれている。
魔獣は、その名の通り魔法を使う獣のことで、活性化すると理由は、分からないが共闘し、群となって近くの集落を襲って来る。
ロリエッタは、アルテナと一緒に暮らす条件のひとつとして、この森で起こる活性化した魔獣の討伐を魔王から命じられていた。
魔族の血が半分流れるアルテナは、少しだが魔法が扱える。
そこで、ひとりでも生きていけるようにと、ロリエッタはアルテナに、この誰も来ないペルムの森で魔法を教えていたのだ。
ロリエッタの厳しい修行の中で時は過ぎ、アルテナは美しい少女へと成長していく―――。
ある日のこと、この国の第七王子であるブラントは、魔王グレンの許可を得ること無く、ロリエッタを訪ねて、この森に来ていた。
だが、ロリエッタは、ぺルムの森の異常を報告する為に、王都へと出かけ入れ違いとなる。
ちょうどその頃、アルテナは、晩飯にする食材を探しに、認識阻害の結界が張ってある外へと来ていた―――。
「どうして、日持ちする食べ物って、あんなにも美味しくないんだろう?先生もまだ数日は帰ってこないって言ってたし、日没も近いから、別に必死になって探す必要もないんだけどな‥‥あ~ぁ、今夜もひとりか~」
辺りの様子を窺っていたアルテナは、森に溶け込むように草むらの陰に身を潜めていた。
すると、見覚えのある小動物が警戒することなくアルテナの前を横切る。
「バニラット!!ふふっ、ついてる~ぅ。あれ、美味いんだよな」
アルテナは、バニラットの味を想像しただけで出てきたよだれを、じゅるりとすすると袖で拭いつつ息を殺して近づいていった。
「食べちゃうぞ~~~~~っ!」そう言って、潜んでいた草むらから出た瞬間だった。
まったく同じタイミングで、向かいにある草むらの陰から人影が飛び出してきた。
互いの存在に気がついたふたりは驚き、すぐさま距離を取る。
「だ、誰?!」
危険を感じ、咄嗟に身構えたアルテナは、声を荒らげた。
草むらから飛び出したのは、アルテナと同じくらいの年頃の少年でオドオドしながらも剣を抜き、その剣先をアルテナへと素早く向けた。
「お、お前こそ、何者だ?!ぶ、無礼だぞ!!オレは、この国の第七王子なんだぞ!!」
少年は、身分をひけらかしたが、こんな誰も来ない森の中では何の役にも立つはずもない。
「……、第七王子?」
王子が護衛も付けずに、こんな森の奥深くまでひとりで来るなんて、胡散臭いと思った半面、着ている服は汚れてヨレてはいるものの、明らかに良い物だとアルテナでも分かった。
「ここへ、何しに来た?」
「何しにって、この森に住むロリエッタ=フェレーラに会いに来た」
「先生に?!」
「!、先生だと?」
ふたりは、互いの言葉を聞き、身構えていた姿勢を少し緩めた。
少年は、剣を鞘に戻し名前を名乗った。
「オレは、ブラント。カルヴィナ王国の第七王子で、ここへは、おババ‥じゃなかった!ロリエッタに魔法を習いに来た」
「嘘よ!そんなの先生から聞いてない!!」
「お前こそ!!ぺルムの森は、おババ以外に住む者など居ないと、父上から聞いたのに、なぜ、ここに居る?……ん?!その目、右目と左目で違う色?!もしかして、お前!……」
「ち、違う!!」
ハッとなったアルテナは、首を振りブラントの言葉を遮ると、くるりと背を向け立ち去ろうとした。
「お前、半魔だな?!」
ブラントのその言葉にギクりとなり、アルテナの顔は、みるみる青ざめ唇を震わせ始めた。
『フハハハハッ、やはり、その色違いの目。お前―――、半魔だな?!』
まだ幼かったあの時、アルテナの頭の中に刻まれたその言葉が、まるで呪いの様に甦ってきた。
「違う!!」
大きくそう叫ぶと、彼女は頭の中で聞こえてくる声に、必死で否定しだした。
「―――、違う、違う!!違う、違う・・違ぁぁぁぁぁぁうっ!!!」
何かに怯え、耳を塞ぎ、歯はガチガチと音を立てるくらい震わせ、とうとうアルテナは、その場に座り込んでしまった。
「お、おい!どうしたんだ?大丈夫か?」
ただ事でない様子に心配になったブラントは、フラフラしながらも、その場から立ち去ろうしていたアルテナの背中を追いかけた。
だが、自分を追いかける彼のその姿が、アルテナにとって逆に、あの日の夜の事を余計に思い出させてしまうことに、
家の外から聞こえる悲鳴と叫び声、―――。
血が滴り落ちる鉈を持った男、―――。
血溜まりに横たわる目を閉じたままの母親、―――。
耳を塞いでいるはずなのに、ハッキリ聞こえてくる。
目を閉じているはずなのに、鮮明に見える。
「あっ・・・・。あっ、あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!お、お前が……」
頭を抱え、叫び声を上げたアルテナは、ブラントを肩越しに睨みつけた。
悲しみと、怒りと、恐怖でアルテナは―――、
正気を失た!
「おい!本当に大丈夫か?顔が真っ青だぞ?!」
尋常じゃないアルテナの様子に、手を差し伸べたブラントが、あの鉈を持った男と重なる。
「お前がぁぁぁっ!!お前が、お母さんをっ!!!!」
振り向いたアルテナは、憤怒の形相で今度は逆にブラントへと向かってきた。
ブラントの右頬を何かが、かすめ飛ぶ。
「!!っつっ!」
頬に痛みを感じたブラントは、アルテナに殺気の様なものを感じ、大きく間合いをとった。
「おい、待て!!オレに敵意はない!!」
咄嗟にそう叫んだが、怒りに囚われたアルテナに、その言葉は全く届かない。
まるで、髪を逆立てるかの如く、彼女の怒気を孕んだ、その表情にブラントは腹をくくるしかなかった。
このままでは、やられる!
そう思ったブラントは再び剣を抜き、その先をアルテナへと向け構えた。
そんな理由の無い戦いを続けていたふたりを、間一髪ロリエッタがペルムの森に戻って来て、それを止めた―――。
魔力切れを起こし倒れたアルテナが、目覚めると、ブラントを受け入れ、アルテナと共に魔法の鍛錬を、ここで一緒にすることになったと、ロリエッタから告げられる。
アルテナは拒んだものの、ロリエッタとアルテナが、ぺルムの森で一緒に暮らす条件のひとつが、ブラントへの魔法の享受だという事を知り、この暮らしを続ける為には魔王グレンとロリエッタが交わした約束を、受け入れるしかなかった。
そもそも、半魔のアルテナに拒否権など有るはずも無かったのだ。
いつまでもこんな生活が続くはずも無い。
そんなことは、アルテナだって分かっていた。
この国にとって宝と言える存在のロリエッタを、あの日から自分が独り占めしてきたのだ。
しかも、誰もが嫌う半魔の小娘に―――、
納得はいかないが受け入れる他、無いとアルテナは、そう思った。
食事もそこそこにアルテナは、いつもロリエッタと一緒に鍛錬をおこなっている場所で、ひとり黙々と魔法の練習をしていた―――。
ふ~っと、大きく息を吐き呼吸を整えるアルテナ。
「覗きなんて、あまりいい趣味じゃないわね!」
横目でチラリと草陰に隠れているブラントに声をかけた。
「何だ、気づいてたのか?!」
息を殺し、そっと身を潜めていたのに、あっさりアルテナに見破られたブラントは、少し苦笑いを浮かべ草むらから出てきた。
「―――鍛錬の邪魔をしちゃ悪いと思ってな。ひと息つくまでここに隠れているつもりだったんだけど。―――に、しても姿が見えないのによく分かったな!」
「探知魔法は、常に展開して呼吸と同じくら自然にならないと意味が無いって先生に言われてる。だから、一定の範囲なら目をつむっていたって周囲の状況はわかるわ!」
「ふ~ん、?!!ちょっと待て!ってことは、今、三つ同時に違う魔法を操っていたのか?!」
「正確には、四つ。でも、四つ目の魔法障壁は、まだ未熟で上手く展開できないから出来たとは言えないかしら」
「四つ?!す、凄いなお前!!オレと変わらない歳なのに」
「歳は関係ないわ!繰り出す魔法を理解し、イメージできていなければ、どれ程時間をかけたって無駄!上達なんて絶対にしない!」
アルテナは、鍛錬の手を止められ、少々イライラしてきた。
「そうなんだ。そんな事、全然知らなかった。けど、自分を更なる高みへと日々の鍛錬を怠らないその姿勢は、やはり凄いよ!おババに認められるだけはあるな。オレも見習わらないと」
「フン!私は、そんなんじゃ……」
そう言いかけたアルテナは、少し戸惑う。
そんな彼女にブラントは、屈託のない笑顔をむけると、
「いいや!努力を続けるって、頭では分かってはいても、そう簡単な話じゃない。それって、どんなことがあっても諦めずに、しっかり前を向き自分の信じる道を歩き続ける事だろ?そんな事、誰にだってできることじゃない。オレは、そういう泥臭いやつ、結構好きだな!オレは、それができなかった。尊敬するよ」
「は、はぁ?!!何、言ってんの?」
ブラントの言葉をアルテナは、全く理解できなかった。
生まれてこの方、他人から疎まれ、蔑まれてきたアルテナ。
そんな自分に笑顔をむける者なんて、母とロリエッタ以外に記憶がなかったからだ。
半魔だと、自分を忌み嫌う者はいても、認めてくれた人など、今の今まで母とロリエッタだけだったのに……。
ブラントは、魔族で、しかも、……王子だ。
好きだ?尊敬する?
言葉の意味は理解できるのに、ブラントがどうして、そう言ったのか?
全く理解できない。
けれど―――、
「お前……じゃない。アルテナ!私は、アルテナ!!」
アルテナは、初めてブラントの目を見て喋った。
半魔の特徴的な目を正面から彼に見せたのだ。
「……うん!そうだったな」
恥ずかし気に自分の名前を言ったアルテナを、少し間があったがブラントは、そう言ってフッと笑った。
「あの事だって、別にあんたのせいじゃない。自分の心の有りようで整理ができていない私の問題だから……」
少し言葉を詰まらせた彼女を見てブラントは、
「わかった。なら、これであの事は終いだ!オレもあんたじゃなくブラントだ!よろしくなアルテナ!」
と、言って今度は二ッと笑った。
「そっ、そうね……。分かったわ。とは言っても、よろしくするつもりなんて無いけどね!」
そう言い放ったアルテナだったが、彼女の口元が、ほんの少し緩んだことに、当の本人は気づいていなかった。
こうして、普通なら絶対に会うことも、まして、言葉を交わすことも無かったはずのふたりが、出会ってしまった……。
魔獣の森と呼ばれる、おおよそ誰もが立ち入ることのない場所に、元師団長で宮廷魔導師のロリエッタ、魔族と人族とのハーフであるアルテナ、そして、この国の第七王子のブラント。
そんな三人が、ひとつ屋根の下で暮らしているとは、誰も想像つかないであろう。
ロリエッタの指導の下、アルテナとブラントの修行の生活が始まって約半年。
ようやく三人での暮らしにも慣れてきた頃合いだった。
アルテナは、半魔人でありながら魔法の扱いがとても上手く、天性の才なのか一目見た魔法は、模倣できるくらいにセンスがあった。
だが、体内で生成できる魔力量が少なく、すぐに魔力切れをおこしてしまう。
けれど、そのおかげで発動に必要な最低限の魔力をコントロールでき、精度の高い魔法を操れる。
一方、ブラントは底なしと思えるほど魔力を体内にためることができるが、アルテナと逆に必要以上の魔力を術に込める為に精度の低い魔法が発動してしまう。それ故、魔法の上達が遅い。
この両極端なふたりの弟子に、ロリエッタも少々、頭を悩ませていた―――。
この問題を解決する為に、ロリエッタはふたりに儀式魔法である『刻印の儀』を、提案した。
刻印の儀は儀式を交わした者同士の契りを意味する。術者が受ける側に印を施し、互いを結ぶ。
術が成功すれば互いの魔力回路が繋がり、両者で魔力が行き来するようになるり、ふたりの問題は一気に解決するのでは、ないかとロリエッタは思っていた。
だが、極めて難しく、成功例も少ない。
一度結ばれた印は、どちらかが命尽きるその時まで決して切れることはないし、切ることができないし、刻印を受けた者、それから授けた者は、他者から再び受けたり授けたりは出来ないなどの成約も多い。
加えて、体の一部分に黒い模様が浮かび上がり、これはけっして消えることが無いのだ。
そう、ロリエッタから説明され、アルテナは黙ってうなづいた。
「刻印の儀をするにしても確認と許可は必要となってくる。早速、今夜にでもブラントには、打ち明けようと思うのじゃが良いか?」
「う、うん。……私が、その場に居てもいいの?」
「当たり前じゃ!むしろ、おらんでどうする?!自分から思いを伝え場合によっては、お前から頼まんといかんからな」
「……わかった」
アルテナは、小さくこたえコクリとうなずいた。
『ブラントは、何て言うのかな?私のこと、どう思ってるんだろ?……。ってか、私は、ブラントのこと、どう思ってるの?……。自分の気持ちなのに、こんなにも……わかんないなんて』
これまで他者と接したことなど、数える程しかいなかったアルテナ。
半魔であるいじょう、他人から好かれるなんて皆無だ。
偏見の目で見ないのは、ロリエッタだけだった、と言っていい。
では、ブラントは、どうだろう?
この半年の間、一緒に生活をしてきた彼をアルテナは、目を逸らさずに話せる相手となったのは間違いない。
だが自分が、どう思われているか?
そんなの考えた事も無かった。
じゃあ、反対に自分はブラントのことを、どう思っているのだろう?
そんなふうに、自分を俯瞰的に見た事も無かった。
大きくため息をついたアルテナは、考えがまとまらないでいた。
互いの魔力を一度結べば決して切ることのできない相手が、半魔の自分。
ましてやブラントは王族、断られて当然だ。
そんな不安を抱えたままブラントに、刻印の儀の事を相談した。
だが、アルテナの心許ない彼女の気持ちを取り払うように、ブラントは快諾してくれた。
それは、ブラントが、今まで周りから期待されていながら何ひとつ、それにこたえることができていなかったからだ。
誰かに頼りにさる喜びと、これまで、ひたむきに魔法に向き合うアルテナを心から尊敬しているのは事実で、自分を変えてくれたアルテナと共にアルテナが目指す高みを一緒に目指したいと思っていた。
意思の固まったふたりにロリエッタは、王都へ出かけ、知人に会いにも行くから半月ほど家を空けると告げる。
それは、アルテナとブラントの刻印の儀の準備と、許可をもらう為と、魔獣の活性化について調べる為だったからだ。
「よいか、ふたりとも!後戻りの出来ない刻印の儀を本当にするのか?わしが帰るまでの間、ふたりでしっかりと話をしておけ!」
そう言って、ロリエッタは先ず王都へと出かけて行った―――。
ロリエッタが王都へ向かってから約半月が過ぎ、そろそろ、ロリエッタが用事を済ませ、今日か明日にでも帰ってくる頃だった。
アルテナとブラントは、ロリエッタがいつ帰ってきてもいいように、多くの食材を求め、いつもより少し遠出をしていた―――。
「結構、獲れたなアルテナ!」
「うん、寒いのにごめんね。腰まで濡れちゃったんじゃない?」
「大丈夫!今日は暖かいし、結構歩いた後だったから逆に気持ちいいくらいだ」
魚を入れた籠を抱えブラントは、湖から岸に上がってきた。
「―――ほら、こんなに大きのが!」
「ホントだ!ここ穴場かも!」
大きな魚を得意げに見せるブラントに、アルテナも笑顔をこぼした。
「そうだな!けど、水に瞬間的な強い振動を与えて魚を気絶させて獲るなんて、思いもつかなかったよ」
「実は、これも先生に教えてもらったんだけどね」
「ふ~ん、しかし、おババは何でもよく知ってるよな」
「そうね。これって魚を獲る道具もいらないし簡単なんだけど、川だと流されていちゃうし、湖は浅瀬に大きいの、あまりいないから今までこの方法で獲ったこと無くって」
思わぬ大漁に、ふたりは満足して湖畔を歩く足取りも軽く、楽し気に話しをしながら帰路に就いた。
途中、沈みゆく太陽の光に静かな湖面がキラキラ反射しているのを見つけ、ふたりは、その美しい風景に足を止め腰を下ろした―――。
「決めた!」
突然ブラントが、立ち上がった。
「何?!どうしたの突然」
「刻印の儀、絶対にやってやる!たとえ、父上が許可しなかったとしても」
「嬉しいけどそれは、ダメよ」
「いいや、堅物な父上が許してくれるとも思えない。それに、いずれだなんて言いたくない!オレは、アルテナと……、君と、もっと一緒に互いを高め合う存在になりたい!!」
「何言ってんのよ?!私、嫌われ者の半魔よ。魔王様がダメと言ったら、諦めるしかないわ」
「そんなの関係ない!」
ブラントは、強く言い放った。
「いいの?本当に私でいいの?」
「あぁ、他の誰かに言われたからじゃない。オレが決めた!」
夕日を見つめるブラントの真剣な眼差しに、アルテナはそれ以上何も言えなくなってしまった。
黙ったまま、抱えた膝に顔を載せアルテナも夕日を見つめた。
そんな夕日に照らされ、オレンジがかったアルテナの横顔に、いつの間にかブラントは目が離せなくなっていた。
「でも……、本当にそうかしら?」
アルテナはオレンジ色に染まる顔を、いたずらっぽく笑ってみせると、その表情にブラントは一瞬、息をのんだ。
「ど、どう言うことだ?」
「とある半魔の娘が魔王子に言いました!あなたが私を選んだのではなく、あなたは自分では気付かないうちに、魔法にかかっていて私を選んだ……。そう言うことよ!」
互いに視線を交わすと、どちらからともなく小さく吹き出した。
「ハハッ、何だよそれ?!」
「フフフ」
アルテナの色の違う瞳を見つめたままブラントは、「じゃ、‥‥‥」と言って、
突然アルテナに顔を近づけ、唇を重ねてきた。
「!!!?」
思いもしなかったブラントの行動に、アルテナは、わけがわからず色んな感情が一気に彼女の頭をめぐりはじめ、ぐるぐると回りだす。
わなわなと体を震わせると、とうとうアルテナの思考回路は完全に停止してしまった。
「今のは、オレが選んだ事‥‥‥。それとも、今のもオレが気付かないうちに、アルテナの魔法にかかっていたのか?」
恥ずかし気に、指で頬をポリポリかきながら、今度はブラントが、いたずらっぽく笑った。
「そ、そんなわけ‥‥‥」
と、言いかけたアルテナだったが、黙ったまま優しく見つめるブラントに、
「―――、そんな魔法、知らないわよ!……バカ」
そう言って、視線を泳がせながら、くすぐったそうに笑ったアルテナは、今度は彼女からブラントに顔を近づけ、
ふたりは、もう一度、唇を重ねた―――。
湖から戻ったふたりが家に着くと、ロリエッタの方が先に家へ戻っていた。
久しぶりに三人が揃い積もる話しもあったが、ブラントは開口一番に、刻印の儀をすることをロリエッタ告げた。
ロリエッタもまた、 ブラントの予想に反して、ふたりの間で刻印の儀をする許可を、魔王グレンに取り付けてきたところだった。
「―――、ほぉ〜!あの湖か?!」
「うん、少し奥に山の方から川が流れ込む所があるじゃん、あそこ!結構かたまって大きいのがいるよ」
テーブルの上にずらりと並ぶ魚料理。
三人は、それらを思い思いに頬張った。
「それは、知らんかった。そう、そう!湖と言えば、わしは、あまり夢を見んのじゃが、昔、美しく広がる湖面に立つ夢を見てな。あれは実に幻想的な夢じゃった!じゃが、朝起きると足元近くに、こ奴がおっての。わしの寝床で寝しょう––––「わーーーーーーーーっ!!ちょっと!先生っ!!」––––台無しじゃ」
アルテナは、ロリエッタがこの先何を言い出すのかを悟り、大声で言葉を被せた。
「ん?何じゃ、アルテナ。ここから話が面白くなるところじゃったのに」
「先生、その話は、もういいから!話さなくていいから!!」
「?何だよ!よく聞き取れなかった。面白いなら、オレも聞きたいんだが」
「面白さなんて、これっぽちも無いから!聞かなくていい!!」
アルテナは、顔を真っ赤にしてブラントに詰め寄った。
「え~っ、何だったか、気になるじゃないか!聞きたい!!」
面白い!という前振りがあった分、ブラントは、食い下がった。
しかし––––、
「い・い・わ・ね?!」
アルテナは、更にブラントへと詰め寄った。
「あ、あぁ、……はい」
アルテナの迫力に押され、ブラントは、渋々頷いた。
ロリエッタは、片手で頬杖をつくと、戯れるふたりを視界の端で意識しつつ、町で買った酒をちびちびと飲んだ―――。
ロリエッタとアルテナのふたりだった時より、ブラントが加わって一緒に生活をするようになってからの方が、食事の時間が長くなり、少し騒がしくなったのは間違いない。
幸せの形に、正解なんてない。
そんなことは、ロリエッタも知っている。
だが、ロリエッタがアルテナことを思い返す時、いつも想う。
この時のアルテナが、彼女にとって最も幸せだったに違いないと―――、
それは、彼女の母が残した最後の言葉を、アルテナが、あの幼い時の胸に、しっかり刻んでいたのだと知ったからだ。
心の葛藤と試練を乗り越え、ふたりは、『刻印の儀』を成功させた。
そして、アルテナの左手にその証の黒い印が刻まれたのだ―――。
刻印で魔力回路が繋がり、互いの欠点だったものを解消できたアルテナとブラントは、さらなる研鑽を積み、やがて、ふたりだけで魔獣討伐をも成し遂げたのだった。
順風満帆だと思えたふたりの歩み、この先も続くと思えた。
だが、運命は、そんなふたりに残酷な舞台を用意していたのである―――。
ブラントへ忍び寄る、黒い影。
ブラントがもっている膨大な魔力に惹かれ、邪神ガブドルがブラントに目をつけ、その体と意思を狙っている。
全文読んでいただき、ありがとうございます!!
作者の励みになりますので、
下にある☆☆☆☆☆から作品の評価、
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面白かったなら★★★★★5つ
つまらなかったなら★1つで評価してください。
正直に感じた気持ちで、もちろんかまいません!
もっとこの作品をしっかり読みたくなった方や、
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【連載版】嫌われ半魔の娘に花冠を
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。




