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異世界転生したら魔王軍の通訳官に転職しました 〜スキルなしおじさん、言葉で世界を変える〜  作者: 四郎


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第2話 魔王軍採用面接。語学おじさん、通訳スキルで命を拾う。

――あっさり捕まった。


(交渉の余地なく……。まぁ、いきなり殺されなかっただけましか)


森で出会った灰色肌の兵士たちは、俺を“侵入者”と断定したらしい。

問答無用で背中に棒のような武器を突きつけられ、そのまま縄で縛られた。

荒っぽい連中だが、不思議なことに彼らの言葉は理解できる。


(やっぱり女神の加護だ……。どうやら“翻訳”系の効果みたいだな)


連行された先は、巨大な黒い城。

門の上には不気味な旗が翻っている。中央に描かれた紋章――牙を剥いた狼のような紋様。

どう見ても、人間側じゃない。


(……これ、もしかして“魔王の城”とか、そういうやつ?)


黒い石造りの廊下を歩かされる。

壁には松明が並び、薄暗い炎が揺れていた。

鎧を着た魔族たちが通るたび、冷たい視線を向けてくる。

怖い。だが、ここでビビったらサラリーマンの名折れだ。


(交渉は冷静さと笑顔だ。相手がどんな相手でも、会話の糸口は必ずある)


そんな自分への暗示を繰り返していると、

奥の大広間に通された。


玉座のような椅子。その前に、長い銀髪を結んだ青年が立っていた。

肌は白く、瞳は深い赤。人間離れした美貌――おそらくこの城の幹部か、上司的存在だろう。


「こいつが例の“人間”か」

「はっ、森で発見し、捕縛しました」

「この辺りに人間が一人でいるとは怪しい。……密輸者かもしれんな」


兵士たちがひざまずく。

青年は静かに俺を見つめた。


「名を名乗れ、人間」


(高槻誠司って、難しいかな?

“ツキ”とか“シ”の発音、たぶんこの人たち苦手そうだし……)


「……セージです。商社勤めの……まあ、会社員です」


「セージか。呼びやすい名だな。ただその“しょうしゃ”とは? 貴族の称号か?」



「いえ、一般市民です。輸出入とか、契約交渉とか……あ、つまり物を売る仕事です」


青年は眉をひそめた。だが、すぐに小さく笑った。

その笑みはどこか興味深そうで、敵意よりも観察者のそれだった。


「貴様、我らの言葉が分かるのか?」


「はい。なぜか自然に理解できるんです」


「……ほう」


青年は顎に手を当て、俺をじっと見た。

その視線は鋭いが、分析的でもあった。


「ならば試してやろう。――通訳をしろ」


「通訳?」


青年が指を鳴らすと、左右の扉が開いた。

そこから、鎖に繋がれた人間の商人風の男が連れてこられた。

男は恐怖に震えながら叫ぶ。


「た、助けてくれ! 誤解だ! 俺はただ――!」


俺にはすぐ分かった。彼は人間語で話している。

そして青年――魔族側の言葉も同時に聞き取れる。

自然と、口が動いた。


「彼は『誤解だ、俺は密輸なんてしていない』と言っています」


「ふむ。ではこう伝えろ。『ここで嘘を吐けば、舌を抜く』と」


俺は一瞬、ためらった。だが通訳の仕事だ。

言葉は刃にもなる。だが、誠実さこそ信頼を生む。


「“ここで嘘を吐けば、舌を抜く”……だそうです」


男は青ざめた。

その様子を見て、青年は薄く笑う。


「……いい通訳だな。抑揚も正確だ。発音も癖がない」


「お褒めいただき光栄です。――えっと、処刑はやめてあげられませんか?

事情を聞いてからでも遅くないと思いますよ」


「ほう。人間の身で我に意見か?」


「交渉の基本です。話し合えば、誤解が解けることもあります」


青年の目がわずかに細まる。

そして、くく、と喉の奥で笑った。


「……面白い。貴様、恐怖を感じていないのか?」


「感じてますよ。ただ、恐怖を感じるのは人間として正常です。

それでも話すのが、俺の仕事ですから」


その言葉に、広間が静まり返る。

青年はゆっくりと椅子に腰を下ろし、口元に微笑を浮かべた。


「なるほど。貴様の“仕事”……悪くない」


そして――予想外の一言が放たれた。


「人間、セージ。貴様を我が軍の“通訳官”として雇う」


「……はい?」


「我らは今、人間界との停戦交渉を控えている。

双方の言葉を理解できる者は極めて希少だ。

貴様にはその役目を任せる」


「ちょ、ちょっと待ってください! 俺、異世界の就職面接受けてませんけど!?」


「採用だ。異議は認めん」


青年が手を振ると、兵士たちは縄を解いた。

さっきまで敵だった連中が、急に“同僚”のような顔をしている。

状況が飲み込めない。

でも――心のどこかで、“ワクワク”している自分がいた。


(通訳官か……。まさか、転生初日で再就職するとはな)


青年は俺に向かって名乗った。


「我が名はヴェルド・ラグレス。魔王軍第四軍将軍だ。

今後は我の直属となる。失敗すれば命はない。だが成果を出せば……人間であっても昇進は認めよう」


「昇進……? ボーナスあります?」


ヴェルドの眉がぴくりと動いた。

だが、すぐに小さく吹き出した。


「……貴様、面白いな。よかろう。まずは働いてみせろ、“通訳官殿”」


こうして俺は――魔王軍の一員となった。


通訳官おじさん、異世界初日からブラック企業に就職。

残業代? そんなもの、あるわけがない。


けれど、どこか懐かしかった。

混沌の中で、言葉を交わす。文化も思想も違う相手と、理解を探す。

それが俺の生き方だ。


――数日後。

俺は魔王軍の通訳官として、最初の任務に就いていた。

人間の捕虜との取り調べ。戦争の火種をくすぶらせる危うい現場。

だが、そのやり取りの中で俺は気づいた。


(この世界、思ってたより“言葉”が足りてない)


種族の違い、文化の壁、憎しみ。

翻訳は通じても、“想い”までは届かない。

だが俺には――あの女神の言葉がある。


『あなたが“言葉”を信じる限り、必ず力になる』


(……なら、やるしかない。通訳官として、そして一人の人間として)


異世界の空に、鐘の音が響いた。

魔王軍と人間の交渉の日が、近づいていた。

少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。

次も頑張って書きます。

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